犯人と取調室で頭脳戦って本当にある?──映画『爆弾』を観た元刑事に聞いてみた

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fugakura

元刑事が「リアル」と感じた刑事ドラマとは?

──それでは、映画『爆弾』以外で、今まで観た警察・刑事もののフィクションで印象的だったものはありますか?

 正直に言うと、あんまり観ないんですよね(笑)。もちろん我々も、フィクションだと理解した上で観ているつもりなんだけど、現実と離れすぎた描写を観ていると、申し訳ないんだけど、ちょっと冷めちゃうところもある。

ただ、『踊る大捜査線』は面白かったですね。劇中で交通死亡事故が起きるシーンがあるんだけど、事故発生時から24時間以内に亡くなると、交通死亡事故1件としてカウントされちゃうんですよ。でも、警察署長としては自署管内の交通死亡事故数はなるべく少なくしたい。

だからスリーアミーゴス(※湾岸警察署幹部の三人組)が、「死亡事故が起きた?……それ、24時間以上経過したことにできないのか」などと会話をしている場面がありましたが、そういうリアルな“警察あるある”が多くて、よく研究してると思いました。

個性豊かな刑事が登場するのもフィクションならでは

西見 自分も『踊る大捜査線』は面白かったですね。署内の政治的なしがらみの中で、織田裕二さん演じる青島が活躍する。青島は警察になる前は営業のサラリーマンなんですけど、ああいう中途採用の警察官は現実にもたくさん増えているんですよ。

それから、『踊る大捜査線』は拳銃を無闇に使いません。ほとんど言葉で説得して悟らせて、犯人を逮捕するじゃないですか。ちょっと地味な設定が多いけれど、そういうのがリアルなんですね。

 逆にまったくリアルではないけれど、昔の『太陽にほえろ』は毎週殉職者が出るのが面白かった。「そんなんあるかいな!」みたいな。

西見 あんなに毎回殉職者が出ちゃったら、署長の首が何個あっても足りないですね(笑)。似たような作品で、非常に面白かったけど絶対ありえないのが『西部警察』。あれだけ爆発したりショットガンを撃ちまくったりしてたら、毎日トップニュースですよ。

あと『あぶない刑事』は、拳銃を撃ちすぎなことを除けばなかなかリアルだし、マル暴の刑事としては「おお! いいぞ!」と思うシーンがありました。

劇中に「銀星会」っていう暴力団が出てくるんですけど、事件に彼らが絡んでくるとわかると、舘ひろしさん演じる鷹山敏樹(タカ)の目が光るんですよ。そういうシーンを観るたびに、「あの人、刑事課じゃなくてマル暴に行けばよかったのに」と思っていました。

たとえリアリティがなくても、刑事モノのドラマや映画にはフィクションならではの面白さがあるというのは二人の共通見解

 最近は警察も採用難なので、ドラマを観て憧れた人が志望してくれると良いなと思います。あともう一つ言うと、やっぱり警視庁とか、捜査一課はドラマになりやすい。

反対に、自分が所属していた捜査二課は、知能犯罪だからどうしても地味で、ほとんどドラマの題材にならない。それから、神奈川県警はよくドラマで観るんですけど、自分が居た千葉県警はほとんど出てこない(笑)。

西見 ただ、『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』というドラマは埼玉県警が舞台でしたよね。だから探せば千葉県警も出てくるんじゃないですか?

 どちらにせよ、ちょろっと出てくるぐらいで、別に主役にはならないですよ(笑)。そういう、ドラマになりやすい課や警視庁は羨ましいですね。

若年層が加担しがちなトクリュウ「絶対救出できるから相談してほしい」

──最後に、KAI-YOU読者に多い10代後半〜20代に向けて、元警察官として伝えたいメッセージはありますか?

西見 今の若い人たちは、どうしてもバーチャルな関係性に慣れてしまって、現実の人間同士のコミュニケーションを覚える機会が少ない。そのせいで、安易に暴力に走ったり、凶悪事件を起こしてしまうことが多いと感じます。

最近、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)事件とかに若い人が加担して問題になっていますよね。好条件につられて応募してしまい、弱みを握られて抜けられなくなってしまう。それでも、抜け出したい、助けてほしいと思ったら、警察でも私の会社でもいいですから、相談してほしいと思います。絶対救出できますし、間に合いますから。

一度犯罪を犯してしまうと、怖くなって二度目、三度目と重ねてしまう。そうならないうちに、早く声を上げてほしいと思います。

映画『爆弾』ポスター

 凶悪な事件を起こす犯人たちに共通する点があって、決まって「社会的に孤立していること」なんです。世の中から相手にされずに、「自分の存在価値はどこにあるんだ」と絶望している。そんな時に、自分の存在を世間に明らかにしたい承認欲求から、大きな事件を起こすパターンが多いんです。だからこそ、人と人同士のコミュニケーションは本当に重要だと思います。

今は便利な時代だから、SNSやネットですぐに答えを求めてしまいがちですが、そう簡単に結論へ飛びつかないことが大事だと思います。もし悩んでいる若い人たちがいたら、自分が信頼できる人に相談してほしい。そして答えがなかなか見つからない中でも、一緒に悩んで、じっくり問題に向き合ってみることが大切だと思います。

©︎呉勝浩/講談社 ©︎2025映画『爆弾』製作委員会

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作品情報

映画『爆弾』大ヒット上映中

出演
山田裕貴 伊藤沙莉 染谷将太 坂東龍汰 寛一郎 片岡千之助 中田青渚 
加藤雅也 正名僕蔵 夏川結衣  渡部篤郎 佐藤二朗
原作
呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)
監督
永井聡
脚本
八津弘幸 山浦雅大
主題歌
宮本浩次「I AM HERO」(UNIVERSAL SIGMA)
配給
ワーナー・ブラザース映画

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