連載 | #66 ポップなまとめ記事をつくってみた

【2024年下半期】国内ヒップホップ名曲まとめ 日本を超え、世界に羽ばたく11曲

WOKE UP REMIXX [PROD BY JAKOPS] (FEAT. Jay Park, OZworld, AKLO, Paloalto, VERBAL, Awich, Tak, Dok2)/XG

日本人でありながら韓国に拠点を置き、K-POPシーンで活躍するXG。彼女たちが2024年にリリースした中でも随一のヒットとなった「WOKE UP」に、日韓から8人のラッパーが集結しています。

「WOKE」といえば、反差別の文脈でよく使われる言葉。近年では、ポリティカル・コレクトネスを称揚するリベラルを揶揄する文脈でも使われています。

曲中での「WOKE UP」の使われ方は上記の文脈とは異なるものですが、同時代に世界で広がる2つのWOKEに、一人の視聴者として、勝手に共時性を見出してしまったのも事実。

アジアから世界へと羽ばたく自分たちを誇示し、不躾な視線を送る連中を一蹴してみせるXGの姿には、まとわりつく時代のしがらみを振りほどいていくような爽快感があります。

リミックス版では、そんなXGに共鳴するように、8人それぞれが自身のルーツ・キャリアを誇りながらマイクをリレーしています。

個人的に喰らったのが、原曲の<don't get under my skin(これ以上イライラさせるな)>というリリックを活かしながら自身に刻まれたタトゥーを誇示して見せたOZworldさんの<Dragons all over my skin>というリリック。めちゃくちゃ素直に<カッコよ!>と思いました。あまりにも『鬼滅の刃』が好きすぎるTakさんのバースも必聴です。(小林優介)

Sagging My Jeans feat. Lil Ash 懺悔 & Tohji (Prod. Chaki Zulu)/kZm

静かめの立ち上がりから突如、大声でシャウトされる<六本木で吸ってた短けぇタバコ>というフレーズに面食らうと同時に、一気に引き込まれました。

個人的にこういった、聞いたことがないはずなのに、ラッパーの生活感が籠っていてどこか共感できてしまうようなラインが大好きなのでかなり喰らいました。

「そこの水、流石に汚くないか……?」と心配になると心配になる渋谷の排水溝で3人がはしゃぐMV、動きとリリックにバイブスが溢れたLil Ash 懺悔さんのバースなど見どころ満載。

2020年の「TEENAGE VIBE」「プロペラ」から引き続き、Tohjiさんの股間の話も登場。いい匂いがするらしい。さらにこの曲ではずっとマッコリを飲んでいます。カオスすぎる……!(小林優介)

DNA feat. Kohjiya, PUNPEE/BIM

SUMMIT所属のPUNPEEさん、BIMさんに加え、『ラップスタア誕生!』2024年シーズンの王者となったKohjiyaさんによる一曲。

Rascalさんが手掛けるSUMMITらしいゆったりとしながら多幸感のあるビートにPUNPEEさん・BIMさんの肩の力の抜けたバースがハマりつつ、最若手であるKohjiyaさんの静かに熱の籠ったフックが組み合わさり、何度でも聞きたい曲になっています。

ヒップホップの歴史をポップに記したコミック『ヒップホップ家系図』の作者であり、4月に急逝したエド・ピスコーさんへの愛を含め、表現者の視点から文化への愛を歌うPUNPEEさんのバースには、Kohjiyaさんのフックで歌われる<俺らカルチャーに愛のあるナード>という姿勢が存分に現れています。

カルチャーに愛のあるナード、良い表現ですよね。そうありたいと思っています。(小林優介)

byun G ft. JUMADIBA & LIL SOFT TENNIS/PAS TASTA

プロデューサー集団・PAS TASTAJUMADIBAさん、LIL SOFT TENNISさんによる疾走感ある一曲。

あまりにも加速しすぎて重力がかかるということを「byun G」と表現するあたりから、既にセンスを感じずにはいられません。

PAS TASTAのテンポの速い四つ打ちにギターを乗せたビートに韻の踏み方を合わせ、短いフレーズの連続で言葉を紡いでいく2人の乗りこなし方によって、楽曲全体がさらに加速している印象があります。

合間に挟まれるyuigotさんのギター・スラップも相まって最高の1曲に仕上がっています。(小林優介)

GIRI /Charlu

MCバトルでも活躍してきたCharluさんが『ラップスタア誕生!』で披露した楽曲。

子育てのための活動休止を経て、2人の子供を育てるシングルマザーとして、1人のラッパーとして、その生活とキャリアが詰め込まれています。

JIGGさんのビートに乗せ、イケイケのフロウで歌われながらも、自身の味わった苦境、そしてその中でも失わなかった希望を歌う前半。そしてその想いそのままに勢いを増しながら「夢に見た毎日/バリバリのキャリア/ピカピカのキックスで踏み締めるステージ」と徐々に成功へと転じていく後半。

その全てがヒップホップ界のスターを発掘するという『ラップスタア誕生!』のコンセプトに合致しており、応援したくなる一曲です。

その後の彼女の活躍は「THE HOPE」への出演などでも知られるところ。今まさにスターダムを駆け上がっているCharluさんの来年の活躍も楽しみです。(小林優介)

Mamushi (feat. Yuki Chiba)/Megan Thee Stallion

米ラッパーのミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)さんが、“元KOHH”こと千葉雄喜さんをフィーチャーした「Mamushi」。

厳密には、日本のヒップホップという定義からはそれるものの、リリックのおよそ半分が日本語(!)のこの楽曲に触れずして、2024年の日本語ラップは語れない。

「Mamushi」の存在やCreepy Nutsの世界的ヒットが示すのは、“希望”である。

アメリカからの輸入文化という背景もあり、(筆者は全くそうは思わないが)かつて「ダサい」「日本語はラップに不向き」と一蹴されていた時代もある日本語ラップ。

それが、先人たちの努力の積み重ねを経てカルチャーが成熟し、情報技術も発展したことにより、ついに海外にも響き渡る──世界に届きうるようになった、という“希望”だ。(都築陵佑)

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