ヒップホップユニット・Creepy Nutsの新曲「オトノケ」を、一言で評するなら“奇々怪々”である。
「少年ジャンプ+」で連載中の怪奇バトル漫画を原作としたTVアニメ『ダンダダン』(原作・龍幸伸さん、アニメーション制作:サイエンスSARU)のオープニングテーマとして制作された本楽曲。
まず一聴してもらいたい。
DJ松永さん作編曲によるジャージー・クラブ(※)のビートに乗せて放たれるR-指定さんのラップは、走っているのではと錯覚してしまうほどにリズムを食っている。
(※)ジャージー・クラブ:2020年代より世界的に流行する4/4拍子のダンスビート。キックドラムを四分音符・四分音符・付点八分音符・付点八分音符・八分音符の5つ打つリズム・パターンや、「Bed Squeak」と呼ばれるベットが軋むようなサンプリング音源が使われていることなどが特徴。
本稿では「オトノケ」のリズムデザインの観点から分析。その異質さの正体を探る。
リフレインする<ダンダダン>を軸に──キーワードは“付点”
「オトノケ」のラップ(および歌)は、イントロの<ダンダダンダンダダンダンダダンダンダダン…>というリズムパターンをベースに、ライミング(=韻を踏むこと)が組まれている。
(余談ではあるが、メロディを構成する最小単位のフレーズを、音楽理論では“モチーフ”あるいは“動機”と呼ぶ)
この<ダンダダン>のリズムのキーワードとなるのは“付点”だ。
付点音符(あるいは付点休符)は、元の音符(休符)の長さを1.5倍にしたもの。ジャージー・クラブもキックドラムのリズムパターンの後半が、付点八分音符/付点八分音符/八分音符になっているため、“付点”をリズムの軸にしていると言えるかもしれない。
なお、Creepy Nutsと言えば、2024年最大のヒットソングにして、TVアニメ『マッシュル-MASHLE-』2期OP主題歌「Bling-Bang-Bang-Born」もジャージー・クラブである。この曲のサビは、ジャージー・クラブのキックドラムのリズムパターンを軸につくられている。
「オトノケ」の奇抜なビートとラップのポリリズム
閑話休題。では、中心となる<ダンダダンダンダダンダンダダンダンダダン…>のリズムパターンを見ていこう。
リズムの軸は付点32分音符(休符)。2小節(4/4拍子、BPM170)の間に、小節の頭から「ダ(付点32分音符1つ)・ン(付点32分休符3つ)・ダ(付点32分音符1つ)・ダ(付点32分音符1つ)・ン(付点32分休符2つ)」を5回繰り返す。
図解するとわかりやすいが、1小節目の頭からこのパターンを機械的に繰り返すと、2小節目の頭とリズムが重ならない。
4/4拍子を基準に考えてみると、1小節目の1拍目・4拍目と2小節目の2拍目しかリズムが重ならない。つまり「オトノケ」のジャージー・クラブ調のビートとラップや歌はポリリズムになっている──これが異質さの正体だ。
オカルト×SF×青春物語『ダンダダン』OP主題歌として抜群の出来
とはいえ、本楽曲のような付点32分音符を軸にしたリズムパターンが、過去のヒップホップで使われてなかったわけではない。
有名どころから例を挙げるなら、Eminemさんの高速ラップで知られる「Godzilla ft. Juice WRLD」でも、冒頭から似たリズムパターンのライミングが行われている(SNS上では、本楽曲を聴いたリスナーの間で「Godzilla」を彷彿とさせるという反応も見受けられる)
ただ、「Godzilla」の場合、あくまでもリズムを変化させることによる強調(=アクセント)的な側面が強かった。
しかし「オトノケ」では、連続してこのパターンが反復されていることで、もはやそのリズムでグルーヴが形成されてしまっている。
等間隔な8ビートや16ビート、あるいは三連符を軸にしたリズムに親しみのあるリスナーには、良くも悪くも奇抜で斬新に映るだろう(実際、筆者もその口であることは否めない)。
しかし、だからこそ『ダンダダン』のオープニング主題歌としては、抜群のクオリティに仕上がっている。
オカルトとSFと青春物語を融合させた『ダンダダン』も、「オトノケ」に負けじと劣らない、奇抜で斬新な物語なのだから。
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