連載 | #22 漫画百景 いま読むべき漫画たち

傑作アニメ『オッドタクシー』の裏側を描く漫画 『RoOT』は藪の中の真実を暴くか

ビジュアライズの違いで浮かび上がる生々しさ

上記の通り、練馬区女子高生行方不明事件からはじまる騒動を描く点は共通しているのですが、決定的に違うのが登場キャラクターのビジュアルです。『RoOT』では人間、『オッドタクシー』では擬人化した動物として描写しています。

『オッドタクシー』を最後までご覧になった方はなんとなくわかるでしょう。これは同作の主人公・小戸川が患う、高次脳機能障害による視覚失認が関係しています。

『オッドタクシー』の登場人物が全員擬人化した動物なのは、人間が動物に見えている小戸川の視界を表現しているからです。

コミカライズ版『オッドタクシー』1巻の書影。前作の主人公・小戸川は擬人化したセイウチとして描写される/画像はAmazonから

一方の『RoOT』は、主人公が変わっていることもあり、皆人間の姿をしています。キャラクターのビジュアライズからも、『RoOT』が別視点の物語であることを強調しているわけです。

そしてこの影響で、『オッドタクシー』では多少マイルドになっていた田中の狂気や、パパ活の罠にハマっていく柿花の様子がより生々しく感じられます。前作とは異なる特徴の一つです。

小戸川が誰かと会話する時に発する「あの子 三毛猫じゃん」などといった表現(小戸川には人間がそう見えている)も、意図不明であることが強調されています。

こういう細かいところの差異も、ミステリーらしさを別角度で演出する『RoOT』の醍醐味です。

大門兄、ドブなど前作の主要キャラも続々登場

玲奈と佐藤が『オッドタクシー』の主要キャラクターと絡んでいくのも、『RoOT』の醍醐味の一つです。

2人は1話から悪徳警官の大門兄に職質を受け、前述したようにタエ子から小戸川の素行調査を依頼され、佐藤はドブに脅されています。

その他にも、キャバクラで働く今井、妄執の田中、アイドルグループ・ミステリーキッスの市村とユキ(になり代わっているさくら)などと接触し、『オッドタクシー』では描かれていなかった場面や取引に関与していたことがわかります。

『RoOT/ルート オブ オッドタクシー』3巻の書影。左から花音と玲奈(変装している)。花音は玲奈の旧友。物語にも大きく絡む/画像はAmazonから

『オッドタクシー』のこの場面に2人が絡んでいたのか! というサプライズや、まさかの場面に居合わせていたことがわかるため、もう一度前作を見直したくなること間違いなし。

『オッドタクシー』でモブとして登場していた時は何ら気にかけていなかった彼らの姿を見つけた時には、「ここから『RoOT』が始まっていたんだな……!」と、ちょっとした感動さえ覚えるはずです。

玲奈と佐藤の探偵コンビに期待したい、たった一つのこと

ちなみに、玲奈と佐藤が明確に本編に関わったのは『RoOT』が初めてではありません。2022年4月公開の劇場版アニメ『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が最初です。

とはいっても同作ではほんの少しだけの登場で、彼らがなぜフィーチャーされたのかを知るためには情報が少なすぎたため、公開当時はあまり話題になっていませんでした。

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』本予告

また、同作では前作『オッドタクシー』の不穏すぎるラストのその後が描かれているのですが、どうにも不完全燃焼な内容であったため、真の意味で完結したとは言えず、座りの悪さが拭えませんでした。

『RoOT』に期待したいのは、前作のラストの詳細であり、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』では不明瞭だった部分の補完です。

いまだ藪の中(イン・ザ・ウッズ)に隠れたままの真実を暴いてほしい

それが玲奈と佐藤の探偵コンビへの、たった一つの依頼です。TVドラマ版の展開と共に、しかと見守っていきたいと思います。

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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

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