「絶対に良い!」と言い切れるものが、人にはちゃんとわかっている
──『Hippies E.P.』1曲目の「ヒッピーズ」の冒頭からブラスやストリングスが溢れだしてきて。これは今まで盛り込んでこなかったサウンドですよね?志磨 ドレスコーズでは初めてですね。僕たちはそれぞれが今までロックバンドとしてずっとキャリアを積んできた4人なので、お互いにインスピレーションを受け合えるドレスコーズではさらに新しいものを生み出すことが可能で。それは僕がすべてを決める今までの方法では絶対にたどり着けないフェーズですね。
以前のアルバム2作も、もちろんメンバー皆気に入っていますけど、あれだけが僕らのポテンシャルではない。取材なんかで「やっぱりロックンロールみたいなものを大切に守ろうとされているんですね」と言われると、、ちょっと違和感を感じて、いつも一生懸命説明していたんですね。「いや、僕らはたまたま選択肢の中からロックを選んだだけで……」と。
僕らには本当に大きなポテンシャルがそれぞれのメンバーにあるんだ、これだけじゃないんだ、まだ氷山の一角なんだと言ってきましたので、いよいよそれを実行に移したというような感じでしょうか。
でも僕の中にノウハウがないから、今回お三方に手を借りたわけなんですけど。
──ゲストミュージシャンとして、□□□(クチロロ)の三浦康嗣さん、アレンジャーの長谷川智樹さん、エンジニアの渡部高士さんが参加されていますね。
志磨 僕がいつも持っている視点ですけど、自分の音楽に期待しているリスナーとしての自分がいて、例えばニュースサイトで「□□□の三浦さんと、ドレスコーズが共同制作をする」という見出しが出たら確実にクリックするだろうなと。僕が音楽ファンで、ドレスコーズに期待している人だったら間違いなく「そうきたか!」とテンション上がるなという組み合わせだなと思って。
僕は□□□がすごく好きなので連絡をとっていただいたところ、三浦さんもシンガーの方やラッパーの方とやったことはあるんですけどロックバンドと何かをつくるのは初めてということで「面白そう」と言っていただいて。それは長谷川さんも渡部さんも同じで、僕が好きな音楽に携わっていた方々で、今回の制作に相応しい方々と自負しております。 ──先ほどポテンシャルについて語られたように、M-3の「Ghost」では鉄琴の音を盛り込まれたり、M-4「メロディ」では日本語ラップなど、いろんなことに挑戦されたE.P.で、シングル数枚分の密度を感じました。このバラエティの豊かさは、志磨さんのポップ観にもつながっていくのでしょうか?
ドレスコーズ - Ghost
志磨 それはまさしく僕らが選んだ選択肢の中の1つ1つなんです。この時代誰でもそうですけど、「今こういうものが流行っているから」という感じではもはや聞かないですよね。音楽はもうたしなみの1つとして聞くというか。「時代に取り残されるな」という感じではなく、「自分はこういうものが肌に合うんだ」ということで、YouTubeの関連動画から探していくような。それは「みんなが聞くから聞く」という強迫観念的な刷り込みよりは健全で、あるべき形だと僕は思っています。
そうやって僕らは十分すぎるほどに選択肢を与えられていて、その中で自分の琴線に触れるものを、便宜上“ポップ”と呼ぶというか……それは多くの人の最大公約数的な、むしろ「正義」というような感じに近いですね。
「絶対に正しい」、「だって良いに決まってるじゃん!」と言い切れるものとしてあって。「これ僕は好きだけど、たぶん皆は好きじゃないんだよな……」というものではなく、「こういうものは絶対に人を感動させる!」と思えるものが、人にはちゃんとわかっていると思うんですよ。雨よりは晴れのほうが良いし、病気よりはやっぱり健康な方が良い。そういうのと同じですよね。
ポップであるというのは、誰も傷つけない。そういうものを、無数にある自分のライブラリーの中から選ぶことができるすごく幸福な時代ですからね。この5曲も、そういうものだと思います。いろんな選択肢の中から、自分たちが正しいと思うスタイルの異なるものを、なるべく重ならない形で選んだ。それはポップであり、踊るためのものというテーマで選ばれた5曲です。
消費されてしまわない、かつ即効性のあるもの
──志磨さんはポップカルチャーの中ではマンガもお好きですよね? 今回改めて、志磨さんのお好きなマンガ家リストを見せていただくと、新井英樹さんのお名前がありまして。志磨 新井さんはタブーというか、人間が呼び覚ましたくないような感情を、誰よりも上手に描かれる方ですよね。『ザ・ワールド・イズ・マイン』や『キーチ!!』もそうですけど、誰もそれをマンガにしようとしなかった。やっぱり文学のようなマンガが好きなんですね。それは小難しいという意味でなく、テーマと台詞、それから言葉が大きいかもしれない。
──新井さんの作品を読んでいると、「これは絶対にすごいぞ!」と言いたくなってしまいます。 志磨 やっぱり痛快なものが見たいですよね。なんとなく常識の範囲内に収まるものではなく、起こりえないことが起こるとか、過剰な描写であるとか。トゥーマッチに音が大きいとか、トゥーマッチな暴力描写であるとか。それはすごくマンガ的だし、音楽的でもある。
──普通ではないものを求める一方で、トゥーマッチになりすぎるとポップから離れてしまわないですか?
志磨 僕はあまり離れるとは思っていなくて。それはやっぱり、人はトゥーマッチなものを見たがっているから。人は意外と鈍感ですから、見過ごしがちなんですよね。だからプレイヤーはアンプの音量を上げて、他の音が聞こえないように、自分の音だけが聞こえるようにする。そしてマンガ家は自分だけの表現を探す。
これは僕の処世術みたいなものかもしれないですけど、30年と少し生きてきた中で、変わらず好きなものであったり、ずっと着られる服であったり……何回も読み返せる本とか、ずっと付き合えるやつとか、そういうものにずっと通底している品の良さがあって。残るものは残ったあとのことを考えてつくられている。
そこで面白いのが、残ることを考えずにつくられたもの、消費されてしまうために生まれるものもまたポップなんですよね。そこで問われるのが、優秀なアーティストの技量ですよね。消費されてしまわないように、かつ即効性のあるポップなものを作品にする。そういうのが名作ですよね。
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ドレスコーズ
バンド
志磨遼平さん(Vo)、丸山康太さん(G)、菅大智さん(Dr)、山中治雄さん(B)による4人組ロックバンド。2012年7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」を発売。2013年8月、フジテレビ系アニメ「トリコ」エンディング主題歌となる2ndシングル「トートロジー」リリース。11月には2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。
なお、志磨遼平さんは2009年からテレビ情報誌「TV Bros.」で連載しているコラム「デッド・イン・ザ・ブックス」をまとめた単行本「少年ジャンク 志磨遼平コラム集2009-2014」を発売する等、音楽に関わらず様々な分野で活動中。
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