WILYWNKAが語る “チル”の真髄 「好きにやる」ことの困難を越えて

WILYWNKAが語る “チル”の真髄 「好きにやる」ことの困難を越えて
WILYWNKAが語る “チル”の真髄 「好きにやる」ことの困難を越えて
2021年末、辞典などの出版で知られる三省堂が選ぶ『今年の新語2021』で「チルい」が大賞を獲得した。世間では目新しいものと受け止められている「CHILL(=チル)」というワードだが、ヒップホップ、テクノ〜ハウス、スケートボードなどのシーン内部では、90年代からごく当たり前に使われてきた。

ではなぜ、日本社会のメインストリーム層は今「チル」に注目するようになったのか。コロナ禍や不況による閉塞感など様々な要因があるだろうが、この言葉を使い続けてきたストリート発のユース・カルチャー、とりわけヒップホップカルチャーが市民権を獲得したことが強く影響しているのは間違いない

そんなことをコロナ禍の暇に任せて考えていたところ、ラッパーのWILYWNKAウィリー・ウォンカ)がリラクゼーションドリンク・CHILL OUT(チルアウト)の名を冠したコラボソングをリリースしたとのニュースが飛び込んできた。
WILYWNKA「Chill Out」
WILYWNKAは1997年生まれの25歳。ラフ&タフな大阪ストリートを出自とするリアルなラッパーとして活躍する一方、地元の盟友VIGORMANGeGとのジャンルレスな音楽ユニット・変態紳士クラブとして「YOKAZE」「好きにやる」など“CHILL”な楽曲でヒットを連発してきた。

幅広い層からの支持を背景に、2021年には『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)、『シブヤノオト』(NHK総合)といった人気TV番組に出演し、さらに2022年には日本武道館公演も果たしている。

ソロワークでヒップホップシーンでのプロップスを確かにしつつも日本におけるヒップホップの大衆化も牽引し、なおかつ「CHILL」なラッパーとして日本社会にも受け入れられつつあるWILYWNKA。マスとコアを自在に行き来する彼を起用したCHILL OUTは中々わかっているという他ない。 とはいえ当の本人は、今にわかに注目を集める「CHILL」というワードを、そして自身の特殊なポジションを、一体どのように捉えているのだろうか。新曲「Chill Out」のMV撮影現場で話を聞いた。

取材・執筆:吉田大 撮影:横山マサト 動画:古見湖 編集:新見直

目次

変態紳士クラブは"良いところ"だけを集めてる

インタビュー中のWILYWNKAが、ギャグやジョークを連発して取材現場を「CHILL」させていたことを書き添えておきたい。ライターをやっていると、ごくたまに天性のものとしか思えない「愛嬌」を備えた人物と出くわすことがある。WILYWNKAも間違いなくその一人だ

──まずは近況からうかがいたいです。変態紳士クラブとして、2月に日本武道館公演を行いました。いかがでしたか?

WILYWNKA 僕らって武道館の前に(大阪)城ホールでもライブをやっているんです。あそこのキャパも、武道館とほぼ変わらない。だから規模に対する驚きというのはなかったですね。
変態紳士クラブ / HERO (Live at 大阪城ホール)
──緊張はしなかった?

WILYWNKA いやいや、僕はどんなライブでもメチャクチャ緊張してますよ! それはお客さんが100人でも1000人でも2〜3000人でも一緒で。毎回「これ以上緊張したらどうなっちゃうかわかんない」ってぐらい緊張してます(笑)

──「いつもと違った」と感じたポイントはありますか?

WILYWNKA リハーサルの時に客席からステージを見ていて、ふと見上げたら……日の丸があるんですよね。やっぱり「おお〜! そういえば武道館って皇居の隣りにあるんだよな...」って思って、あらためて「俺、これからすごい場所でライブをやるんだよな」と実感しましたね。だから「緊張した」というよりは「光栄だな」って感覚が強かったですね。

──「他の会場とは格が違うぞ」みたいな。

WILYWNKA まあ僕ら大阪の人間からすると、城ホールだって「あの豊臣秀吉がつくった城の隣」って感覚なんですよ。あそこでやれたのも、それはそれですごく嬉しくて誇らしいことでした。

──2020年には変態紳士クラブの「YOKAZE」がバズったことを機に、身の回りで様々な変化が起きたのでは?

WILYWNKA 一番大きかったのはTVに出られたことかも。あれこそ「YOKAZE」があって、ヒップホップの外側にいる皆さんにも聴いてもらえるようになったから実現したことだろうと思います。正直言って、収録中もずっと「俺達みたいなもんが出ても良いのかな」って思ってました(笑)。
変態紳士クラブ / YOKAZE
──ちなみに、ソロと変態紳士クラブのスタイルの違いをどう捉えていますか?

WILYWNKA 変態紳士クラブに関しては、僕もVIGORMANも良いところだけを集めてやってると言うか。だから(バズったのも)「そりゃそうか」というところはありますね。

──自分の中にある、受け入れられやすい部分を集めて出している?

WILYWNKA そういうことでもなくて、一番違うのはトラックでしょうね。僕のソロには、ビートメイカーがパソコンを使ってサンプリングでつくった「ハードなヒップホップ」という感じのトラックが多かったりする。

でも変態紳士クラブでGeGがプロデュースする時は、生バンドが多いんです。夕方に聴いたら気持ち良さそうなギターの音を入れたり──ジャンルで言ったら「グッドミュージック」って感じ。僕自身はそういう音楽もめちゃ好きなんですよね。

コロナ下で「本当にやりたいこと」

──先日WILYWNKAとしてリリースしたEP『NOT FOR RADIO』は、まさに「ハードなヒップホップ」でした。

WILYWNKA 自分が好きな「ほんまもんのラッパー」をフィーチャリングしてます。変態紳士クラブをきっかけに僕を知った人は「WILYWNKAって“濃い”ヒップホップもやってるんだ」って思うかも。けど昔から僕のこと知ってる人からすれば、むしろ元々は“こっち”なんですよね ──リード曲「Pepperoni」をのぞいた全ての曲にフィーチャリング・ラッパーが参加しています。しかも、関西のラッパー2人に対して関東のラッパーが4人。いつもはローカル色を重視しているので、意外でした。

WILYWNKA 基本的に地元の奴らとつくってますからね。地元が違っていたとしても、ちゃんと繋がりがあれば(一緒に)やるくらいの感覚で、ゲストが1人か2人いるのが、いつものパターン。1stやったら唾奇、2ndやったらBADSAIKUSH(舐達麻)ですね。

──でも『NOT FOR RADIO』では多彩なゲストを迎えた。

WILYWNKA EPをつくり始めた時に、“ヘッズ”(ヒップホップファンのこと)だった頃の自分が出てきてたんですよ。だから中高生の頃から好きだったBESさん、ISSUGIさんはじめ、「この人のラップは良い」と思ってた人たちに声をかけることにしました。

──人選に基準はありました?

WILYWNKA 僕が「ラップマスター」だと思ってる人。ルックス、キャラクター、背景を抜きにして、ラップだけを聴いた時に絶対に「ヤバい」ってなるラッパーですね。

──大阪からは、アップカマーのKID PENSEUR、そして何かと話題が尽きないREAL-Tが参加しています。

WILYWNKA 二人に関しても、まず大阪のラッパーを入れたいというのはありつつも、やっぱり他のラッパーと同じく「好きだから」というのが最大の理由です。今、僕の中で大阪で熱いラッパーと言ったらこの2人なんで。

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