今のきららで特撮漫画『ニチ以』を描く意味
──『ニチ以』のキャラクターの苗字は、特撮作品の登場人物から取っているそうですね。主人公・あかねの「海城」は『秘密戦隊ゴレンジャー』の海城剛が由来だと思いますが、仮面ライダーでなく戦隊シリーズなのには理由があるんでしょうか?猫にゃん 作中でネタにすることが多いのは仮面ライダーですけど、物語の構造はむしろ戦隊シリーズを意識しているんです。見た目も性格もバラバラの4人が、それぞれの得意分野を活かして映像作品を撮るという。
そのため、主人公のあかねにはスーパー戦隊シリーズの初代レッドの名前を背負ってもらい、部員たちの髪の色も戦隊ものにあやかってカラフルにしました。 ──ピンク(赤)・青・黄・黒と、まさに戦隊ヒーローのカラーリングですね。
猫にゃん ただ、最初から戦隊ものベースの話だったわけではありませんでした。初期の案では、陰キャの女の子と陽キャの女の子のダブル主人公形式で、2人が周囲の人たちを巻き込んで新しく特撮研を設立するというストーリーだったんですけど……今はそういう時代じゃないかなって。
──「そういう時代」とは?
猫にゃん ニチアサでも、過去のシリーズと一切関連がない作品は少なくなってきていて。先代のヒーローたちが残してくれたものを受け継いで、そこに自分たちなりのオリジナリティを付加した上で次の世代に託していく、という流れが今のトレンドだと思うんです。
先日最終回を迎えた『機界戦隊ゼンカイジャー』も、スーパー戦隊シリーズ45年の総決算として作られた作品ですし。
なので、今のきららで特撮漫画を描かせてもらう意味を考えたとき、ゼロから部活を立ち上げる話でなく、すでに何年も受け継がれてきた部活に、主人公が入部するところから始まる話になったのは必然だったのかなと思います。
──きららでも『けいおん!』が連載されていた頃は自分たちで部活を立ち上げる話が主流だった気がします。だけど徐々に時代は変化していると。
猫にゃん もちろん過去の作品を否定しているわけではなく、偉大な先生方のこれまでの軌跡が「きらら系」というジャンルとして確立されてきたおかげで、私みたいな新参者がそれを分析して新しい作品を生み出せるんだと考えています。
だからこそあえて、「女の子4人の部活もの」という物語の骨子はオーソドックスなきらら作品のイメージに寄せた側面がありますね。 ──初期設定のイラストを見せていただきましたが、左側のキャラクターは『ニチ以』のタチバナ先生と同一人物ですか?
猫にゃん はい。初期案は担当さんにも見せる前にセルフボツにしたものの、タチバナさんのデザインは個人的にかなり気に入っていたので、何らかの形で今の作品にも登場させたいなと。 ──顧問であるにもかかわらず廃部をちらつかせるなど、明確に部員たちの敵として描かれている印象があります。
猫にゃん 仮面ライダーでも、過去シリーズの主人公が今の主人公の前に現れて、「お前のようなひよっこをライダーと認めるわけにはいかん!」と敵対するシーンがあるんです。その点もある意味ニチアサリスペクトですね。
──特撮研の1期生で、部活と特撮への思い入れが強すぎるあまり、特撮の知識がまだ足りないあかねが許せず敵意を向けてしまう。
猫にゃん 昔は日常系漫画の主人公のような青春を送っていたのに、特撮愛が暴走して怪人になってしまった悲しきモンスターです(笑)。
創刊20年、きらら読者の子どもがきらら作家になる時代
──担当編集さんにうかがいますが、他の作家さんと比べたときの猫にゃんさんの特徴は何だと思いますか?担当編集 一番の違いは、学生時代から読者としてきららの雑誌を読まれていたところだと思います。個人的にこれまで担当した作家さんは、連載するまできらら作品をほとんど知らないか、知っていてもアニメ化された一部の作品だけという方が多かったので。
猫にゃん先生だけじゃなく、最近は子どもの頃からきららを読んでいた世代が持ち込みに来たり、ゲストとして雑誌に載るようになってきていて、ニュージェネレーションの台頭を感じますね。
──きららも2002年に創刊されてもうすぐ20周年ですし、猫にゃんさんのような方が出てきても不思議ではありませんね。2000年に新シリーズとしてスタートし、いまや息の長いコンテンツになった平成ライダーとも似ているように感じます。
猫にゃん いや本当に、きららは歴史ある偉大な雑誌ですよ。私なんかが末席を汚しているのが恐れ多い……。
担当編集 猫にゃん先生、打ち合わせのときも好きなきらら作品の話ばかりしていて面白いです(笑)。でも、それだけ読み込んでくださっているからこそ、従来のきらら作品の良さを受け継ぎつつ、新規性もある『ニチ以』のような漫画が描けるのだと思います。
──猫にゃん先生がきららを知ったきっかけは何でしたか?
猫にゃん 『ご注文はうさぎですか?』のアニメ1期ですね。単に癒やされるなあと軽い気持ちで観ていたんですけど、原作の単行本も買って繰り返し読んでいくうちに、この作品の根底にあるのは「苦味」だと気づいたんです。
──苦味?
猫にゃん 例えば、チノちゃんみたいにお母さんが亡くなっていたり、生きていても親と離れて暮らしていたりする子がほとんどなんですよね。最初は表面のかわいい部分しか見えていなかったけれど、実はどのキャラクターも何かしらの孤独や悩みを抱えている。その奥深さに気づいてからさらに『ごちうさ』が好きになり、雑誌の購読もはじめて他のきらら作品も読むようになりました。
──『ごちうさ』のアニメも『仮面ライダー鎧武』も2014年の放送ですから、この年は猫にゃんさんの人生におけるターニングポイントだったかもしれません。
猫にゃん 当時はチノちゃんと同い年でした(笑)。あの頃ごちうさと鎧武にドハマリしていた自分が、今きららで特撮漫画を描いているのは本当に運命を感じますし、たくさんの大切なことを教えてくれたきららに少しでも恩返しできたらと思っています。
──『ニチ以』の単行本1巻も発売されましたが、今後の展開についてお聞かせください。
猫にゃん 1巻は文化祭で発表する特撮映像の予告編をつくったところで終わって、2巻ではいよいよ本編の撮影に入っていきます。その過程で新しい出会いがあったり、様々なトラブルが起きたりするかもしれないけれど、4人で力を合わせて困難を乗り越えていく物語をこれからも描いていきたいですね。
担当編集 単行本1巻には、その予告編のエピソードが劇中漫画として収録されているのですが、原稿を読んだとき「4コマでこんな表現ができるのか!」と驚きました。予告編であのクオリティなら本編ではどんなものを見せてくれるのか、一読者としても期待しています。 猫にゃん 『グレーゾーン』というきららMAXの昔の読み切りをリスペクトさせていただいたんですけど、本編の劇中漫画であれ以上のものが描けるだろうか……と頭を抱えています(笑)。予告編だからと力を温存したわけではなく、瞬間瞬間を必死に生きているだけなので。
──応援しています。“過去の猫にゃんさんを超えられるのはただ一人、猫にゃんさん!”だけですから。
猫にゃん 最後にゼロワンネタを(笑)。ありがとうございます! 読者の皆さんに「成長したな」と思ってもらえるよう頑張ります。
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