トレカの魅力は「面倒である」こと? きららMAXの新星『TCGirls』もみのさと先生インタビュー

トレカの魅力は「面倒である」こと? きららMAXの新星『TCGirls』もみのさと先生インタビュー
トレカの魅力は「面倒である」こと? きららMAXの新星『TCGirls』もみのさと先生インタビュー

“相手がいるからこそ味わえる興奮や感動”を、たくさんのデュエルの中で経験してきたから、“一人じゃ絶対にできない”っていう部分も含めて、TCGの魅力なのかなぁって私は思う! ──もみのさと『TCGirls』(第1巻,p117,芳文社)

日本においてトレーディングカードゲーム(以下、TCG)は、マンガやアニメとの結びつきが強いものが多い。『遊☆戯☆王』のように原作がマンガのこともあれば、『デュエル・マスターズ』『カードファイト!!ヴァンガード』などメディアミックス戦略でファンを増やしていくのも王道だ。

一方で、TCGで遊ぶプレイヤーそのものを描いた作品は、想像よりずっと少ない。

しかし、たとえばサッカー漫画の金字塔『キャプテン翼』が世界のプロ選手たちの夢を後押ししたように、ストーリーやキャラクターによって題材が身近になる体験が、その普及や浸透に一役買うことは過去の名作が実証してきた。

いま、TCGを題材に、その魅力を伝えて読者を楽しませるだけでなく、プレイヤーの裾野をさらに広げる可能性を持つ漫画がある。芳文社が刊行する『まんがタイムきららMAX』で連載中の『TCGirls』だ。

TCGプレイヤーに刺さる「あるある」を散りばめた、きららMAXの新星

『TCGirls』第1巻より。キャラクター設定は『Magic: The Gathering』でいう「マナ」のような性質やカラーを持たせ、モチーフにしている。

もみのさと先生による『TCGirls』は、とある電気街の片隅にあるカードショップ「Aster」を舞台に、店員や常連客の女の子たちの日常を描く作品。

TCGを愛する小柴アンを中心に、TCGは素人ながら店長を務める葉波シオン、腕利きのプレイヤーであり常連の御厨メイなどが登場し、TCGで遊んでいる人なら感じがちな「あるある」要素も取り入れながら展開される。

Koi『ご注文はうさぎですか?』、原悠衣『きんいろモザイク』、くろば・U『ステラのまほう』など、アニメ化された作品を例に挙げてもわかるように、『まんがタイムきららMAX』の作品群はその中毒性と安定性に定評がある。

『TCGirls』もその文脈を活かしながら、TCGのユニークな部分だけでなく、ときには共通の課題意識をネタ化することで、TCGプレイヤーをはじめとしたファンを増やしている。読むだけで専門用語にも触れられ、まさにTCGへの入り口となってくれそうだ。

5月27日にコミックス第1巻が発売されるタイミングで、もみのさと先生にお話をうかがえるターンがやってきた。

「自分たちの漫画だ!」と思えるように「痛い思い出」も込める

──『TCGirls』を着想されたきっかけを教えてください。

もみのさと 以前から秋葉原やサブカルチャーを扱う作品を描きたいと思っていました。当初は異なるカルチャーに親しむキャラクターたちを登場させるつもりでしたが、担当編集の宮崎さんからのアドバイスもあってTCGだけを扱う方向にシフトしたんです。

TCGをモチーフにする作品はありそうでまだ少なく、これまでに『まんがタイムきららMAX』としても同ジャンルは扱われていませんでした。私もプレイヤーですから、自分が過去に体験した「痛い思い出」も入れ込めるかも……と感じました。 ──自身の体験も活かせて、類似作品もないエアポケットだったのですね。

もみのさと タイミングも良かったです。担当編集の宮崎さんに伺ったのですが、この数年はいわゆる「マイナーメジャーな趣味モノ」をテーマにする漫画が支持をより集めてきているそうです。

言い換えると、読者から「自分は面白いけれど、これってみんなは面白いんだろうか?」と言われるくらいのテーマです。

あまねく全員をワクワクさせる冒険譚だけでなく、「これは自分のための漫画じゃないか!?」と読者に特別感を持ってもらえる作品になれればと思っています。

「課金沼を美しく描く」ターニングポイントになった第3話

──先生もプレイヤーとのことですが、キャラクターやセリフにご自身を投影されることも多いですか。

もみのさと 主人公の小柴アンにはよく投影していますね。アンが話す痛い経験は、まったくウソではないからこそ、読者のみなさんにも共感してもらえるのかもしれません。

何より、作者は痛い思いをしていないのに、キャラが不幸になっている姿を見るのは、私はちょっと好みではなくて。自分の過去からその痛さがわかるからこそ、描き出せると思っています。 ──随所に散りばめられた「あるある」ネタも過去の体験が生きているのでしょうか。カードショップ勤務の経験もありますか?

もみのさと TCGは昔から好きです。どちらかといえば、テレビゲームよりもカードゲーム派だったくらいです。遊戯王、Magic: The Gathering、ヴァンガード、ポケモンカード……それから、いつの間にか終わってしまって寂しいのですが、少しだけディメンション・ゼロも。

ネタには、たしかに失敗談や経験談が生きています。私の周りには、仕送りのお金をTCGにつぎ込んでしまうような友達もいたので、そんなエピソードも借りています(笑)。

私自身はカードショップで働いた経験はありませんが、友人が働き始めたのもあって、仕事の内容を聞き出したりしています。たとえば、シングルカードの在庫をいかに確保するか……といった苦労話は、今後どこかで使えるかな、とか。 ──コミックス1巻が発売されますが、あえて「お気に入りの話数」を挙げるとすれば?

もみのさと 第3話はひとつのターニングポイントになったかな、と思います。書店に置いていただいてる試し読みも第3話なんです。

編集の宮崎さんからも「読者からの支持がグンと上がった回。『金銭感覚の狂い』という痛みのある体験を、いかに面白くきれいに描くかに挑戦していた」とのお話をもらいましたね。

アンが海底に沈んでいきながら、「カードとの出会いの奇跡に価値なんてつけられない!」と表現するカットで……要は課金沼の話なんですけれど(笑)。

TCGは人の輪をつくる手段であり、架け橋になってくれる存在

──小柴アンが作中で「TCGの魅力」を語るシーンもありますが、先生が思う最大の魅力は何だと感じますか?

もみのさと やはりアンが言うように、「相手がいないと遊べない」部分だと思います。

私はコンシューマーゲームなどの一人プレイやオンライン対戦も好き好きですが、やはり顔を突き合わせて戦い、時にげらげら笑ったりもしながら楽しみを共有できることには、それらはちょっと叶わないのかな、と常日頃から感じています。

もちろん仕事などが忙しくて時間が取れないこともあるけれど、そんなときにも心を満たしてくれるのは、そういうカード仲間との時間なんですよね。

──ショップの対戦スペースも、その機能を果たしているといえそうですね。

もみのさと 対戦スペースは他人同士が集いますから、いきなり無礼講というわけにもいかず、最低限のリテラシーが保障されていますよね。それはある種の安心感として働く面もあるかなと思います。

特に都心部だけかもしれませんが、やっぱり人が孤立化してきていると感じるんです。ひとりで時間を過ごすことが多くなってきたけれど、TCGは「対戦相手が必要である面倒なシステム」をあえて取り続けることで、それを防ぐコンテンツにもなっていると思います。 もみのさと たとえば、自分がまだプレイしたことのないカードゲームに挑戦すると、出会いの発見や、新鮮な気持ちで大会に参加できる喜びがある。TCGは人の輪がつくられていく手段であり、架け橋になってくれる存在なんですね。

それに、ルールを知っていてデッキを持っていれば、世界中のプレイヤーとも対戦できる。Magic: The Gatheringをはじめ、世界大会の動画を観ると、言葉の壁を超えていくすごさを感じます。

編集の宮崎さんに、「TCGもe-Sportsのような種目になってくれたら面白いね」と話していただいたこともあります。

──片や、カードショップ「Aster」が、電気街の片隅で「ひっそりと」営業する設定にもあるように、TCGはまだまだ「路面店」に出るカルチャーではないのかもしれません。今後、TCGがより流行したり認知されたりするために必要なことは何だとお考えですか?

もみのさと やはり壁を感じている人は、そのイメージが固まってしまって拭い去れないのだと思います。

ルールの複雑さに加え、すでに固まったグループが多く、新しい人が入って来にくいイメージを払拭するためにも、子どもや女性がとっつきやすいカジュアルなやり方も発表できるといいのかなと。 もみのさと あとは金銭面の配慮も大きいと思います。TCGプレイヤーにとってはシングルカードが高いのも「当たり前」の感覚はあるかもしれませんが、いわば「紙1枚」にたくさんのお金を出すのは一般的には信じられないでしょう。

金銭的にはじめて触れる人も導入しやすく、お金をかけなくても対等に戦いやすい手段があるといいですね。それはスマホゲームが普及した理由でもあると思います。1人1台手にしているスマホで、基本は無料ですから。

Magic: The Gatheringですと「お試しデッキ」をもらえる講習会もありますし、無料配布キャンペーンなどがもっとあってもいいでしょうか。そこで十分だと感じる人もいるかもしれないけれど、思うだけで行動に移さないよりも「ショップや大会に行ってみようかな」というきっかけがある方がずっといいですよね。

──以前、ポケモンカードのデッキが『コロコロコミック』の付録になっていて、編集部みんなでワイワイと遊んだのを思い出しました。私もそれをきっかけにポケモンカードを再開しましたから。

もみのさと みんなが同じ条件下という意味では、将棋も駒の種類はずっと変わっていまんよね。お互いにフェアな環境だと、はじめの一歩の抵抗がなくなりやすいのかなと思います。

ウェブカメラの遠隔対戦なども描いていきたい

──今後、『TCGirls』を通じて表現したいシーンや展開をお聞かせください。

もみのさと 今、Skypeとウェブカメラを使い、お互いの場を映して、遠隔で対戦するのも多くなってきているので、それはどこかで描いてみたいです。

『シャドウバース』をはじめとしたDCGも、やはり触れざるを得ないのかなと。TCGには「現物に触れる」「データと違って消えない」といった良さもあるので、アンがそれをどうやってDCG派の人に主張するかは私も楽しみです。

ただ、個人的には、「突然不幸が襲う」とか、「誰かが理由もなく悲しい目にあう」とか、理不尽なシチュエーションが訪れるのが苦手なので、『TCGirls』のキャラクターたちにはそうさせないようにと思っています。

いつも笑って、幸せにゲームを遊んでいてほしいですね。

特集「人生を変えるカードゲームの魔力」

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