BL漫画家VTuber×編集対談 業界の構造を変えうる“配信“の可能性

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「読む」以外の漫画への接点を増やす企画たち

──お話を伺っているだけでもワクワクしますね。そんな素晴らしい作品の、タイトルは何になるのでしょうか?

女渦 実は、タイトルはまだ決まっておらぬ。わしとK殿で候補をいくつか出して、リスナーに投票してもらうという企画を行う予定となっておる。

──作品の顔であるタイトルを読み手に委ねるというのは、珍しい試みですね。

K 目的としては、作品に親近感を持ってほしい、ということなんです。

──それはもしや、VTuber活動からヒントを得て、というアイデアでしょうか?

女渦 そうじゃ。個人VTuberたちが積極的に行っておる参加型の企画を参考にさせていただいておる。読者が気軽に関われるような形を漫画連載にも取り込めないかと思ったのじゃ

──なるほど、自分たちで選んだタイトルだと思うと、もっと応援したくなっちゃいますよね。

女渦 漫画というのはほぼ一方通行のコンテンツなんじゃな。多くの漫画家は基本的に、読み手のフィードバックが非常に少ない状態で、孤独に描き続けておる。

その作品をつくる過程ごと、リスナーや読者と共有できれば、ファンの愛着も深くなるし漫画家や編集者が何をしているかも知ってもらえる。

漫画家にとっても、ポジティブなリアクションを得られる機会の増加が望めるため、作品に対するモチベーション維持にも繋がるのではないかと考えておる

さらには、報告を定期的にすることで、締切近くなってからアワアワする現象も改善できるのではないかという計画じゃ。

連載の裏側は定期配信や連載過程をまとめた電子冊子で行われる

──定期報告というのは、配信でなさるんですか?

女渦 週に1回、生配信で進捗報告会をやるつもりじゃ。今のところ毎週金曜日の夜9時からを予定しておる。

目標をクリアできたかできなかったか、届かなかったとしたら原因は何か、その原因を取り除くための対策は……と、そのあたりをリスナーと共有していきたい。

──すごい! PDCAサイクルですね。

女渦 漫画は、読んでいるその瞬間しか触れ合えないもの。では他の部分で関わりを増やしていったらどうなるか、その検証実験も兼ねておる

漫画業界の構造を変えうる「過程」の収益化

──これぞVTuberならでは! といった企画ですね。新しい企画だと感じます。

K 編集者は作家さんと一緒に漫画をつくって世に届ける仕事ですが、時代はどんどん変化していくので、いろんな情報を取り入れていかないと置いていかれてしまうんですよね。

一番難しいのがプロモーションで、どんなにいい作品をつくっても読者に見つけてもらえなければファンを増やしようがない

面白いことをやっているレーベルだと認知拡大していくステップとして、VTuberさんに漫画を描いてもらっている出版社は他にない、じゃあうちがやってみよう、ということになりました。

──前代未聞の企画、という話題性は大きいですよね。

K (出版社としても)漫画とVTuber、どこか親和性がありつつもこれまで交わらなかった、違う畑の人たちに訴求できるという魅力がありました

──潜在顧客の掘り起こしですね。

女渦 そしてもう1つ。漫画を描くには、資料集めや、場合によっては取材、キャラクター作成、ストーリー作成、漫画の設計図と呼ばれているネームの作成、作画等々膨大な作業が発生するのじゃが、現実問題、その大部分は無償労働になっておる。そこをどうにか収益化できないかという思いもあった。

──漫画家さんの原稿料を時給換算すると、すごく安くなってしまうという話は聞いたことがあります。

女渦 副業をしないと生活できない、かと言って働きながらでは漫画作成に十分な時間が取れない、そのせいで好きな漫画家さんが筆を折ってしまったりする例などを見ていると悔しくてのう。

K 出版社として作家さんにお支払いしているのは「完成した漫画原稿」という、成果物に対する対価、あるいは単行本になったときの印税が主になっています。会社さんによっては資料代などをお支払いしている場合もあるようですが、ネームが通るまでに生まれる制作物に対価が支払われることは、ほぼないと思います

編集者としては作家さんに生活面で苦労してほしくない、とは言えビジネスである以上は考慮すべきことも多く、葛藤する日々です。

女渦 これは版元側が悪いという話ではなく、原稿ができてからでないと報酬が出ない、というシステム自体を業界全体で見直す必要があるのではないかと思う。完成原稿に対する報酬だけでは、漫画家が生活するためのリソースが足りない。

ならば、そこに至るまでに漫画家が生み出す作業を共有して、「つくる過程」にも価値を見出してもらおう、と考えたのじゃ。

漫画をつくるにはその「過程」が必ず生まれる。必ず生まれるものから収益を得られれば、漫画家の経済面への新たな安心材料にもなってくれるじゃろう

──新たな価値創造の形ですね。

「つくる過程」にも価値を見出してもらおうと考えるツクルノ女渦氏

作品とリアル『バ●マン。』2つの世界を楽しんでほしい

K 女渦様のご提案は、願ったり叶ったりでした。

作家さんのセルフプロモーションによって通常では原稿料としてお支払いができない部分で収益を得られる可能性が生まれ、レーベルは認知度があがり集客につながる。

双方にとって大きなデメリットはなく、Win-Winとなる可能性が高い新しい試みですよ、ということで企画を通すことができました。ただ、今回企画が通ったのは、あくまで女渦様がVTuberという立ち位置であったからこそテストケースとしては理想的であった、という部分も大きいです

女渦 その企画を通すスピードもすごかったのう。企画書をまとめて持っていったら、その週のうちにお返事が来たという。

K エンタメ業界はスピードが命ですから。

今回は検証実験的な意味合いが強いので、これが軌道に乗ってうまくいけば今後色々な可能性が生まれてくると思います。

イーブックイニシアティブジャパンは積極的に新しいことを取り入れていく会社です。

「読者と作品の出会いの場を提供する」というモットーがあるので、その理念にもかなっていました。

──なるほど、VTuberさんがVTuberの名前で連載するという、この企画の意義が見えてきました。とは言え、作品のクオリティは当然必要になってきますよね。

K 絵が上手いVTuberさんはたくさんいらっしゃいますが、イラストと漫画はつくり方が異なりますので商業ベースに乗せるには〝経験〟が重要になってくると思います。

誰よりも自分のキャラクターやストーリーへの愛情をもって、彼らの住まう世界と人生を生み出せる力を持ち、なおかつ画面の向こうにいる読者を意識した作品づくりができる。

漫画を描きたいという気持ちはあっても、「どういう層に届けたいか」など広い視野をもってつくれるか…となると、簡単にはいかないんです。(これは編集者にもいえることですが)

その意味で、女渦様との出会いは奇跡的でしたね。

女渦 ……。

──どうかなさいましたか?

女渦 いや、K殿から作品を褒められることはあっても、わし自身をこのように具体的に褒めてくれることはなかったからのう。

K こういう機会でもないとなかなか言えないですからね。せっかくなので。

女渦 うう、感極まって涙が出てきた。こういう編集者さんがもっともっと増えてくれたら、作家さんたちの活躍の場も広がるじゃろうな。

照れるツクルノ女渦氏

──では最後に一言ずつ、リスナー・読者の方々にメッセージをお願いします。

女渦 作品はもちろんなのじゃが、その裏側にあるリアル『バ●マン。』の世界まで楽しんでいただけたら幸いじゃ。

K VTuberさんに漫画を描いていただくという全く新しい企画なので、読者の方にも女渦様のリスナーさんにも楽しんでもらえるよう頑張ります。

──お2人とも、本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
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