ボーカロイドが孤独な僕らをつないだ 八王子P×TNSK×わかむらP座談会

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VOCALOIDを選んだのはボーカルができる友達がいなかったから

わかむら 八王子Pの「エレクトリック・ラブ」「Sweet Devil」へのMV投稿は、実は1週間ぐらいしか期間が開いていないんですよ。当時の僕って、辞表を出して有給消化中だったんで時間があって。その2曲が対照的な曲だったので、続けてつくってもイメージがかぶらなかったし八王子Pの棚ぼたじゃないですけど、幸運が重なった。

八王子 確かに早かったですね。

わかむら 学生時代の僕はゲーム「ファイナルファンタジー」のCG黎明期を見てきて、CG制作を志していたんですけど、当時はマシンパワーが追い付かないからCGは分業体制でやるのが主流だということを知って。「僕は映像はつくりたいけど、50人のプロジェクトの一人になるのはいやだ」と思って、全部一人でできる紙ベースの平面的な視覚デザインの仕事に就いたんですね。

でも、映像など動きモノも好きなので諦めきれなかった。個人制作の趣味のところから少しずつ「手伝ってみないか」みたいなことも増えてきて、それこそ八王子Pの動画を投稿したことも大きなきっかけで、どんどんお仕事をいただけるようになったんですよ。

TNSK 僕は、大学を卒業する頃なんて、死ぬ気で働きたくなかったですよ。

八王子 わかります(笑)。

TNSKさんお馴染みの「高木さん」

TNSK 働く力があるぐらいなら、その力を死ぬ気で働かないほうに使おうと思って、お絵かき掲示板で自分のキャラクター(高木さん)を描いていましたね。僕の中には小学生の頃から「オタク」はいたんですけど、ずっとずっと抑えこんでいて。

大学を卒業して家にいると、自分のまわりに人がいないわけですから、思う存分ネットでオタクを解放していました。ひたすら描いているうちに、自分で「一日何枚」というノルマを課しだしたりもして。

八王子 TNSKさんの気持ちがすごくわかるのは、僕の音楽づくりって一人でやったほうがラクだというネガティブなところから始まってるんですよ。

TNSK イヤっていうのが原動力だったりする。

八王子 そう、毎日満員電車に絶対乗りたくないとか。音楽自体は高校時代にバンドマンの友達ができて、バンドサウンドやロキノン系を聞くようになったんですけど、いわゆるバンドマンならではの人間関係・金・女といった愚痴を聞いて大変そうだなと思って。大学入った頃には一人でできる打ち込みを始めたものの、いざ自分がつくったクラブミュージックを人前で披露したくなったら、バンドやユニットを組む選択もあったはずですけど、めんどうだと思ってまた一人でできるDJに落ち着いた。

わかむら クリエイティブを誰かとやるっていうのは大変だもんね。

八王子 VOCALOIDを選んだのも、ボーカル曲をつくりたくてもボーカルができる友達がいなかったから、ニコニコ動画見てやってみようかなって。

わかむら 僕も一人でやりたくてCG制作を諦めた過去があるけど、いまはいろんな人と組んで制作をすることが多くなって刺激を受けることが増えましたね。コンテンツを手にとって影響を受けるといったこともありますけど、クリエイター同士だと作業中のデータだったりもうちょっと深い部分も見れたりして、気付かされることもたくさんある。

八王子 そうなんです。自分は天才じゃないのでいろんな人から刺激を受けてインプットしないと、どこかで尽きてしまう。自分が形にしたいものを人に伝えるのが苦手なので、そういうのを避けて一人でやったほうがラクだっていう気持ちで始めたんです。でも、メジャーデビューしてからは、いろんな人とつくっていくことは楽しいし重要なんだとわかって、最近は向き合わなきゃって思えるようになりました。

あと最近、身近で学んだことでいえばTNSKさんはガッチリ締め切りを守るタイプなので、僕と真逆っていう……。

TNSK 裏話、しますか(笑)

八王子Pへ、花束を。

TNSKさんによる2ndアルバム『ViViD WAVE』ジャケットイラスト

八王子 今回、僕の曲がとにかく遅れまくってたんですよ。

TNSK 曲がすべて完成していない段階でイラストを制作するのは、今回が初めてでした(笑)。ラフのラフみたいな楽曲が届いた時に、大丈夫かなとちょっとだけ心配しましたね。

八王子P

八王子 今回、かなり悩んでしまって。僕たちに求められているものってだいぶ固定化されてきていると思うんです。

わかむら プロとしてやっていくと、制作物を見て依頼をしてくださるのでどうしても「あれのイメージで」「あの路線」でって言われてしまうんですよ。まんまのイメージで出しても通るとは思うんですけど、見続けてくれている人には面白くないだろうし自分もマンネリを感じてしまうと思う。

八王子 そうです。似たようなものをつくっても「また同じか」という意見が出てくると思うし、ガラッと変えてしまっても期待を裏切ってしまうんですよね。そのバランス感を昇華していくというのが、今回のアルバムの出発点でした。でも、新しい自分を見せようと思ってもVOCALOIDではある程度やりきってしまったところがあって……。制作で苦悩している時に届いたジャケットやMVを見て、2人に出会った頃を思い出すぐらい支えられましたね。あれがなかったら、完成しなかったかもしれないです。

TNSK よかったです、お役に立てて。

わかむら 今回のアルバムに収録されている「Carry Me Off」もアレンジがずいぶん変わりましたよね。

【ニコニコ動画】【初音ミク】Carry Me Off【オリジナル曲+PV】


八王子 僕は、特にリード曲に関してはリスナーが一番聞く「歌詞」と「メロディ」の部分を徹底的に決めてからアレンジしていくんです。僕にとってアレンジはあくまで、自然に歌詞とメロディが入ってくるためのモノと考えているので、ここが決まらないとなかなか完成まで持っていけない。なので、MVを制作するわかむらさんには特に迷惑をかけたと思います。

わかむら しかたないですよ、一次創作者ですから。映像って二次創作なんですよね、音とイラストがある前提でそれを動かしたり演出したりするので。実写のMVでもそうですよね、音楽があって、衣装さんが選んだ服飾ありきでつくっていきますから。僕は一次創作者を尊敬すべきだと思っているので、今回は最初に完成したTNSKさんのイラスト含め、2人の雰囲気を踏まえて逸脱しないように僕の感性を入れていくことを気をつけました。

TNSK わかむらさんの話はすごくよくわかります。僕が八王子Pにイラストを描くときは「花を持たせる」という感覚でやっていて。八王子Pが僕のファンで、僕もファンになったという関係なので、デビューアルバムのジャケットを描くとなった時には「一番いい花を贈らないといけない」と思ってすごい頑張って描いたんですよ。毎回依頼があるたびに、自分が表現したいものはあるんですけど、そこよりも八王子Pに合わせてというか、綺麗な花で飾って送りだしてあげようと思うんです。

八王子 ……めっちゃ嬉しいですッ。ほんッッとうに嬉しいですね……!

わかむら (笑)。

TNSK ……お酒が欲しい(笑)。

八王子 嬉しいけど改めてこういうこと言われると恥ずかしい、深夜の3時ぐらいにする話ですもんね。

わかむら あー、朝起きた時に恥ずかしくなる感じの(笑)。

TNSK もう今日の夜、恥ずかしくなる気がします。
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関連キーフレーズ

八王子P

コンポーザー、アレンジャー、リミキサー、DJ

ボカロ界の貴公子。 これまで動画サイトにアップされた関連動画総再生数は700万回を超えている。
2009年末に「エレクトリック・ラブ」を、2010年に「Sweet Devil」を投稿。MMDのプロデューサー・わかむらPによる動画も話題となり、瞬く間に殿堂入りを果たす。
DJ活動を通して培ったダンスミュージックをベースにした唯一無二のサウンドが広く支持されている。2011年にメジャーデビューを果たし、『electric love』、『ViViD WAVE』をリリース。
そして2014年8月、いよいよ3rdアルバム『Twikle World』が発売。

TNSK

イラストレーター / 漫画家

リアルとアンリアルが交錯した魅力的なイラストで、同人商業問わず、様々な作品を生み出している。
八王子Pのメジャーデビューアルバム『electric love』以降、全アルバムのジャケットイラストを手がけている。
現在、『月刊コミックガム』(ワニブックス)にて、ゲーム・アニメが展開されているメディアプロジェクトとして「カラスマ0条探題 -魔法少女大戦-」を連載中。

わかむらP

アートディレクター・デザイナー

フリーランスのアートディレクター・デザイナー。映像制作・DTP・DVJ等、多方面で活動。
MMDのプロデューサーとして、ニコニコ動画の黎明期から活動し、数多くのPの中で最も早くマイリスト総数10万を突破したPとしても知られている。
八王子Pの映像制作をはじめ、ボーカロイド関連の様々なCM・MVなどの映像を手がけている。

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