7月7日に発売された音声合成ソフトウェアは、音声創作ソフトウェア「CeVIO AI」とのコラボレーションによって実現。2020年10月に実施した可不の歌声アンケートでは5500件近くの回答が寄せられた。
花譜から生まれる新たな歌声・可不──前述のアンケートで賛否両論を巻き起こした結果、デビュータイミングを2021年へ延期。その後、多数のボカロPが楽曲を投稿するなど発売前から大きな注目を集めてきた。 そして新たに「エイリアンエイリアン」や「惑星ループ」などの楽曲で知られるボカロP・ナユタン星人さんが、「可不(KAFU)」を使って楽曲を制作する。
今回、屈指のボカロオタクであり、自身の活動を「侵略計画」と称して、宇宙をテーマに楽曲を制作するナユタン星人さんへインタビューを敢行。
話題はボカロPとしての活動にはじまり、それ以前にMAD職人として得たニコニコ動画での成功、さらには「クリエイティブを刺激される」という「可不(KAFU)」が、シーンに与えるインパクトにまで及んだ。
取材・文:ゆがみん 編集:恩田雄多
目次
真似してほしかった「アンドロメダアンドロメダ」
──改めてにはなりますが、ナユタン星人さんがボカロ曲を投稿しはじめたきっかけを教えてください。ナユタン星人 今まではちょっとボカして「新しいパソコン買ったからはじめてみました」って答えてたんですけど、活動をはじめてもう5年も経つので、今回は踏み込んで答えてみようかなって思います。実は当時、自分にとっての供給が足りてなくて投稿をはじめたんです。
──“供給”というとボカロシーンのですか?
ナユタン星人 そうです。有名な話ですけど、僕がはじめた2015年は、過去に例がないくらいボカロシーンが落ち込んでいた時期でした。それこそ“焼け野原”とか“ボカロ衰退期”とか言われてました。
流行りが固定化して、みんなが同じような曲をつくろうとする。新人さんも「こうやらないと伸びないんだな」と真似をするんですけど、当時人気のMVと曲は複雑性が高いので、無理して変な形になってしまう。僕も一リスナーとして「最近面白くないな」というリスナー側の空気を感じていました。
「もっと別のやり方があるんじゃないか?」「ボカロの可能性はこんなもんじゃない!」って。
長年ボカロを見てきた自分の中には、当時の流行とは違うけど「このやり方でも楽しんでもらえるんじゃないか?」「この曲調でこの見せ方だったらいけるんじゃないか?」というアイデアが5〜6個くらいありました。そのうちの1個がナユタン星人だったんです。
あの……僕めちゃくちゃ1人で喋ってますけど大丈夫ですかね?
──大丈夫です(笑)。
ナユタン星人 じゃあもっと言っちゃいますね!
ボカロPとしてのデビュー曲である「アンドロメダアンドロメダ」を投稿した時に考えていたのが、聴いている人はもちろん、ボカロ曲をつくっている人に向けた狙いもありました。できるだけ真似してほしくて。
ナユタン星人 10年以上ボカロシーンを追ってきて、自分なりの「中毒性の出し方」や「印象に残りやすい動画のつくり方」などの考察が頭の中にありました。それを発表してみたくなったんです。
基本的に上手い人はテクニックを巧妙に隠すんですよ。でも、僕はできるだけむき出しで、音楽を少しでもやっている人が見たら「ナユタンこういうテクニックを使っているな」ってわかるようにしたかった。
ナユタン星人 新しい人が「こんなの俺でもできるじゃん!」って真似したり「最近どうしたら良いかわからないな」と悩んでいる人の刺激になったらなと。そしたら僕の好きな音楽が蔓延って、ナユタン星人の侵略計画としては成功ですから。ナユタン星に引きこもってるから気づかなかったけど、チューリングラブめっちゃ地球でバズってるんですね。。
— ナユタン星人 (@NayutalieN) July 3, 2020
こ、これも侵略の計画通り(震え声)(想定以上)
こんなこと言うと、僕がすごい技術を持っているのにあえて単純にしているように聞こえるかもしれないですけど、僕も学びながらなんとかやっているところです。
ニコ動でMAD職人として獲得した成功、そして失敗
──そういったテクニックを広めることを意識したきっかけは何だったのでしょうか?ナユタン星人 これも初めて言うことですけど、実は昔MADをつくってたんですよ。
黎明期のニコニコ動画は視聴者と作品を投稿する人の境目がない純粋な遊び場でした。そこで僕もMADをつくっていて……MAD職人としてめちゃくちゃ成功していたんです。ミリオン再生とか。
僕が投稿していた題材・ジャンルでは、自分が第一人者のような状態だったんですけど、ジャンルが注目されれば、当然新しい人も参入してくるじゃないですか。
それに対して、当時の僕はすごい調子に乗っていて「入ってくるな、負けねぇぞ」「俺がこのジャンルの王者だ」と、自分だけがトップでいようとする意識が強かった。
結果として何が起きたかというと、僕が息切れしてあまり作品をつくらなくなったら、そのジャンルが一気に廃れてしまったんです。自分のMADもそんなに話題にならなくなってしまいました。
──1人が牽引していたジャンルゆえに、廃れるのもその人次第だったと。2次創作の活用例にMADが抜けてたから追記しました(大事)
— ナユタン星人 (@NayutalieN) February 2, 2020
ニコニコヘビーユーザー星人だったので当然MAD動画も大好きで、よくMADに使われる曲とかはいつも楽しんでました。いま自分の曲がそうなってるのほんと嬉しい。https://t.co/W3OEZ3bHXC pic.twitter.com/THvHVm20iu
ナユタン星人 そうなんです。逆にずっと続いているジャンルもあるんですよ。そこの第一人者は「こういう素材を使うと良いよ」とか「こういうつくり方するんだよ」って、技術や素材を周りに提供している。それで新しい人も入ってきて盛り上がりが続くんです。
その経験もあって、できるだけ真似しやすい曲、新しい人が注目されるようなシステムを目指したんです。MAD職人時代の学びですね。
──ボカロP以前の経験が活きたということですね。今のナユタン星人以外に妄想されていたアイデアで言えるものはありますか?
ナユタン星人 これから使うかもしれないですから、秘密にしておきたいところですけど(笑)。
実はその時に「これはいけるかも!」と考えていたジャンルが今流行っていたりします。たとえばエレクトロスウィング。ダンスビートとジャズを混ぜたようなジャンルで、昔から聴いていて、ボカロとの親和性もあるとずっと思っていたんです。今で言うと、柊キライさんがそのジャンルですね。
ナユタン星人 作曲で一番目指しているのはフジファブリックの「銀河」です。
いろいろなジャンルを聴いた上で、ギターサウンドも好きなんです。その中でもフジファブリックの「銀河」みたいな曲をつくりたくてはじめました。
だから、日本人が好きな和風の旋律みたいなものは、そこで染み込んでいるのかなと思いますね。
今はこれまでないくらいのボカロ超絶全盛期
──以前のインタビューでもボカロが音楽シーンのスタンダードになってきていると語られていましたが、今のボカロシーンはナユタン星人さんの目にはどう映りますか?ナユタン星人 もう今までにないくらいの超絶全盛期だと思ってます。
以前のインタビューでは「ボカロの音楽が聴かれてる」って言い方じゃなく、あえて「ボカロのDNAを持つ曲が聴かれてる」って言い方をしました。当時のリスナーさんはまだボカロまでたどり着いていない印象があったからです。
ボカロ曲をつくっていた人の曲は人気だけど、その人がボカロを使って活動していたところまでは知らないというか。
──ハチ名義の時代の米津玄師さんを知らないみたいな。
ナユタン星人 ボカロの畑で採れたものを、みんなが食べやすいように加工して届けていたようなイメージです。
でも、それを食べて「美味い!」って思った人が「よく調べると全部ボカロ発だな」って気づいた雰囲気があります。むしろ向こうからボカロの畑、産地まで来てくれている。ボカロPが前と比べ物にならないくらい受け入れられていますね。
2〜3年前は、「ボカロPとしての活動は隠すのが正解」みたいな空気がありました。逆にここ1年くらいから、ボカロPをやってたことがブランドになっている。真逆じゃないですか。
お店でUSENを聴いても、昔はヒット曲の中にボカロ曲が1曲あるかないかくらいだったのが、今はずっとボカロPがつくった曲が流れている。昔からのファンからすると、信じられないところまで来ていて嬉しいですね。
匿名ハッコウくん(ID:6869)
ナユタン星人さんの思考理念を知れてよかったです。ボカロを作る時はナユタン星人さんの曲を参考にしようと思いました
匿名ハッコウくん(ID:4706)
なゆたんかっこよすぎなんよ
匿名ハッコウくん(ID:4667)
ナユタンほんとにだいすき