歴戦の同人イベント代表が切望した“奇跡“とは コミケ、COMIC1、BS祭 座談会

「単純に延期すればいいというものじゃない」

──イベント開催に向けた具体的なお話もうかがればと思います。実際にはどのような働きかけがあったんでしょうか?

北條孝宏 まずは緊急事態宣言の要請があった翌日に、市川さんと池上さんと私で東京ビッグサイトに向かいました。

そこで担当の方に「このイベントは単純に延期すればいいものじゃないし、延期するにしても短い間隔で開催しないと意味がないんです」と精一杯説明しました。

元々間隔をあけていたのもあるが、延期の影響か空席も

北條孝宏 直接お話させていただいた結果、なんとか候補日を出していただけたんです。

ただし、その日程ではまだ緊急事態宣言が明けてない可能性もあった。それでも「とにかく賭けてみよう」と交渉させていただきました。

──結果的には、緊急事態宣言が延長しつつも、イベント開催へ制限が緩和され、元の収容数の50%以下か5000人以下のどちらか少ない方というルールの下、開催できました。延期後の日程が決まった段階では、まだどう転ぶかわからなかったのでしょうか?

市川孝一 全然どうなるかわからなかったですね(笑)。ただ、もしまた延期せざるを得なくなっても、とにかく一度開催しないと次につながらないので、再々延期はしたと思います。

とはいえ、日程がずれるほど参加者の熱は冷めていきますし、延期をすると他の即売会や会場とスケジュールの兼ね合いもある。本当に針の穴を通すような形ではありました。

──もし中止になっていた場合、会場費というのはイベント側が完全に負担する形になるのでしょうか?

池上巌 今の枠組みでは、東京ビッグサイトはコロナ禍で延期したイベントに関しては全額返金という契約になっています。

ただ、現状だと会場費が返ってきても、次の開催日分に充当することが多いので、一度払い出されたお金が手元に返ってきているかというと、決してそういうわけではありません。

北條孝宏 そうですね。会場費が戻って来るのはすごくありがたい話ではあるんですが、会場費以外の事務所の維持費やスタッフの準備にかかるお金っていうのは、結構重い負担にはなるわけですよね

そういった裏側で発生する費用はイメージしにくいと思います。最低限の経費に抑えながら、なんとかイベントを継続できるように頑張っている状態です。

即売会は政治に対する訴えをよしとしない風潮あった

──会場である東京ビッグサイトはもちろん、開催にあたっては東京都からの理解も必要だったのではないでしょうか?

北條孝宏 そこに関しては、僕は大きく2つの流れがあると思っています。

1つは、「DOUJIN JAPAN 2020」という団体として、「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(略称:MANGA議連)」の山田太郎議員や藤末健三議員と連携して、政府へ要望書を提出したこと。 もう1つは、弊社(ASH)やケイ・コーポレーションさんが、栗下善行都議や荻野稔大田区議と連携しての東京都への要望。鈴木あきまさ都議にもお世話になりました。どちらが欠けていても開催は難しかったと思っています。

今回のイベントに関しては、山田議員が政府に「同人イベントはこういう状況下でやっても大丈夫なはずだから、緊急事態宣言が延長したとしてもやらせるべきだろう」と言ってくださったと聞いています。
コロナ禍から同人誌即売会を守るために動きますwith赤松健
──2つのルートからのアプローチがあったから開催できたと?

北條孝宏 とはいえ、最終的には東京都の方針次第、小池都知事がどのような判断を下すのか、かなりドキドキしていました。

市川孝一 緊急事態宣言が延長決定した場合、都としては独自にどんな制限を設けるのかは気になりましたが、都には都の事情があるとは思うので、それはきちんと汲んで開催しようとは考えていました。

緊急事態宣言は今後も続くだろうし、ルールを守れば開催できるということを示さないといけない。参加者のみなさんには飲食をせずまっすぐ家に帰ってもらうこともお願いしています。また、マスクやウェットティッシュを配ったりと感染対策もしています。 市川孝一 今日のこの会場も、普段の即売会と比べて相当静かです。参加してくれた人も、マスクをして大声を出さないようにしようと、かなり気にしてくれていると実感しています。

決められたことを、しっかりと守る。あとは参加者のみなさんがこの状態に慣れてくれれば、次の即売会にもつながりやすいと思います。

──今後もコロナ禍での開催になるということを見越しているというこですね。

北條孝宏 緊急事態宣言そのものが3度目ですが、このあとに4度目、5度目がないとは限らない。

そうすると、また数ヶ月、あるいは半年かけてイベントを準備していたとしても、開催のタイミングで宣言の発令や他の制限がかかる可能性もある。今回の「COMIC1 BS祭 スペシャル」は、そういった場合のモデルケースになるようにしたかったという意図もあります。

市川孝一 今後の感染が第4波、第5波と続くこともあるだろうし、ワクチン接種についてもいつまでかかるかわからない。コロナの収束を待っていたらたぶんずっと開催できないので、とにかくできることをしたかったんです。一度開催できれば、それをモデルケースとして、今後の制限にも対応できると思います。

池上巌 かつて即売会には、社会や政治に対しての訴えかけをあまりよしとしない風潮があったように思っています。でも、今回はわれわれ主催者だけでなく、参加者も声を上げてくれています

今回われわれがイベントを開催できているのには、今まで以上の働きかけが実を結んできているのかなという実感はありますね。

「本当に今日はよく晴れた」

──今後もこういった形での開催があるかないかは別として、今回の開催は1つの試金石になっていると思います。

北條孝宏 たぶん、実際に開催ができたという事実は、スタッフや参加者の皆さんの自信にもつながっていくんじゃないかと思います

だからといって、またすぐに同じような形式でやりたいかって言われると、なるべく避けたいですね(笑)。

市川孝一 まずはスケジュールが決まっている即売会が、問題なく開催されていくことが一番重要です。その中で、参加者の方々にも慣れてもらって、ブランクを埋め、最終的には昔のように戻ってもらえるのが理想です

今日の参加者の皆さんも「マスクを配ってたよ」とか、「アルコール消毒が徹底されてたよ」とか、いろいろと話をしてくれると思うんですよね。

会場入り口ではマスクや除菌ティッシュの配布も

市川孝一 対策をした上で開催している事実が広まっていけば、みんなどんどん参加しやすくなる。そうすると、他の即売会もやりやすくなると思います。

まず今日は、以前に戻るための1手目を打った。この先どんどん2手目、3手目を打っていけば、変わっていくのかなと。

──KAI-YOUとしても即売会への取材はおよそ2年ぶりで、非常に感慨深いものがありました。天気もよくてよかったですね。

市川孝一 本当に今日はよく晴れましたよね。

北條孝宏 そうですねぇ……。

池上巌 雨を想定して待機列をどうしようか相談もしていたので。まさかこんなに晴れるとは……。

市川孝一 これだけ晴れてくれるっていうのは本当にすごい。やっぱり“ハレの日”なんだな。 なお、イベントには合計4000人が参加するも、開催から2週間が経過してなお、参加者、会場、保健所等行政機関から新型コロナウイルス感染症のクラスター発生は報告されていないという。

即売会の声

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