押井守の放つ『ぶらどらぶ』という劇薬「じじいを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる」

女の人に求めるものがすべて入っている

こだわりの強さはキャラクターデザインにも表れていたようで、随所に押井さんの女性の好みを入れ込んだと暴露する新垣さん。押井監督とやり取りしながらデザインを完成させていく行程で独特なフェティッシュを理解していったそうだ。

新垣一成さん

ネタが古いからキャラクターはせめて今風にしようという意図もあったと言うものの、98%は好みが出てしまっていると押井総監督は笑いながら語る。 最もこだわったのは「血祭 血比呂」先生であり、毎回お約束のごとく貢を叩きのめす暴力性も含めて、「私が女の人に求めるものがすべて入っている」と押井総監督が前のめりに語る様子を見るに、こればかりは冗談ではないようであった。

実写や映画ではありえない演出もシリーズアニメならできる

作中での特徴的な表現として、まるでゲーム画面のように、引きの画面の上に小さなウィンドウを重ねて複数の人物の表情を映し出すというものがある。

その方法によって作品全体のカット数が大幅に少なくなり、現代のアニメではお目にかかれない特殊な雰囲気を表現することに成功しているが、その特殊な制作に対応できる凄腕のスタッフを集めるのに苦労したと宮腰さん。

結果的に関わるスタッフの数が従来の3分の1と少数精鋭で臨んだ形で、前例のない挑戦でありながらも良いつくり方ができたと出来栄えに太鼓判を押す。

この特殊な演出は今回の作品における一つの目玉であり、ゲーム制作にも携わっていたほどの筋金入りのゲーマー・押井守総監督が発案したアイデア。既存のアニメや映画では見られない表現だが、まさにそこを狙っての挑戦で、「どうしても実現させたかった」と実写やアニメ映画ではありえないシリーズによるドラマならではのなんでもありなやり方を試してみたかったのだという。

映画じゃないから、シリーズアニメには正しい文法はない」(押井守総監督)

従来のやり方を踏襲するのではなく、それぞれの作品にあった演出を模索する。全体を映すのではなくキャラのやりとりだけで成立する『ぶらどらぶ』ならではの表現は、撮影した写真を加工して制作したという実写背景の手法も含め、作画工程の短縮などの実益も生み出していた。

撮影は大変だったろうと押井総監督が目線を送ると、西村監督は苦笑。いまだなお先鋭的であり続ける押井守イズムを画面に落とし込む作業は今も昔も変わらずに大変なことであるようだ。

そもそもアニメのコンテを描くことすら5、6年ぶりという押井総監督だが、作業自体はあっという間に終わって、もっとできると思えたほどに楽しく進めることができたそう。

制作費を一手に担いながらも「作品について一切の口出しをしない」という、これまでにない形での最良の環境を用意してくれたといういちごアニメーションへの感謝を声を大にして述べた。

ただ大馬鹿をやってるわけじゃない

最後に作品の見どころとファンへのコメントに。

西村監督は自分の基本理念として掲げている、仕事終わりのサラリーマンが深夜になんとなくTVをつけたら流れていて、面白いとは思いつつも次の日には忘れているような日常に根差す作品づくりを今作でも貫いており、そこに押井守独自のエッセンスを加えてさらに面白くなった『ぶらどらぶ』を楽しんでほしいと語った。

作画ではシリーズ後半にも目玉となるシーンがあるようで、新垣さんとしてはそういった視点でも楽しんでもらいつつ、「シリーズ後半になるにつれてシリアスになっていくということもないので、なにより雑に楽しんでいただける」とコメント。

宮腰さんはネタの大半は理解できないとしても、それを通じて押井守総監督が触れてきたものを学べるはずと、『ぶらどらぶ』が持つ別の意義についても触れた。 大量に盛り込まれたギャグの数々は元ネタを理解できない人が大多数だろうと心配しつつも、「ただ大馬鹿をやってるだけじゃない」と押井総監督。

どんでん返しで世界観が一気にシリアスになるようなこともないが、かといってただただハイテンションにギャグを詰め込んでいるだけでもない。

「ガール・ミーツ・ガール」という主題に真面目に取り組んだ成果は確実に作品に表れていると、静かな笑みに作品の出来への絶対の自信を感じさせ、イベントを締めくくった。

押井監督の歩み

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