第3章『ハハノシキュウ、“子育てスポット”へ行く』
最初に言っておくが、僕は子育てが得意な方ではない。毎日、気の利かないダメな父親として奮闘している。だから、このような場所でイクメン振ることは万死に値すると言ってもいい。子育ては店員が二人しかいないコンビニ経営みたいなものだと思う。店長(父親)が無能だと店が回らない。
そんな状況下で家庭をおざなりにして北九州に旅行に来ているのだから、偉そうなことは言えない。ヤンキーが子猫を助けるみたいな感動は要らないのだ。
もちろん子育てに興味が無いわけではない。むしろ、大アリだ。
旅行前の打ち合わせで「北九州は子育て環境が特段充実してるらしいです」という話を聞いて、ある意味お勉強みたいな気持ちで臨むことにしたのだ。 「子育て交流ふれあいプラザ」では、父親だけの子連れも非常に多かった。
普通に公園に遊びに行くと、どうも一つの遊具の前でボーッとしてしまったりするのだが(僕の場合)この施設では全方位に遊び場が広がっていてそんな暇など無いくらい刺激で溢れている。
一日で全ての遊具を制覇出来ないほどの広さに、KAI-YOU編集部の和田さんは思わずこう言った。
「自分が子どもの頃にここに来て遊びたかったなぁ!」 僕の経験則だが、東京にある似たような施設の遊具を7、8施設分くらい1箇所に集めたような大きな規模だった。「子育て交流ふれあいプラザ」ではここを「プレイゾーン」と呼んでいる。
このプレイゾーン、入場料は1日、大人200円、子ども100円という「タダみたい」な値段である。もし子連れの家族が北九州市を訪れるなら、観光とは少し違うかもしれないがここをお勧めしたい。 理由は、プレイゾーンの入り口から少し離れた場所に位置するマッサージチェアルームにあった。こういう時だけ格好つけて「僕が子どもを見てるから君(お母さん)は、ここで休んでなよ!」とドヤ顔できるからだ。
たった15分でもこういう形で一人きりになれる場所はそんなに多くないと思う。
第4章『ハハノシキュウ、北九州をディグる』
北九州市に滞在中、僕は4杯のコーヒーを飲み、7本のタバコを吸った。普段は全くタバコを吸わないのだが、「いま禁煙してるんすよ」と言いながら、コンビニにアメリカンスピリットを買いに走ったカメラマンの雄太郎さんと僕も同じ気持ちだった。この旅行中は例外だった。
スチャダラパーが夏のせいにするように、僕は全部この街のせいにして煙を吐いた。毎度雄太郎さんからタバコを拝借して。東京に比べて遥かに狭苦しくない環境が、チルアウトには最適だった。 タバコと同様、コーヒーも4杯のうち3杯はタダでいただいた。最初の一杯は飛行機で、もう一杯はホテルからのサービスで。
最後の1杯は「古書センター珍竹林」に導かれ入店した際、「いらっしゃい!」と同時に店主から手渡されたホットコーヒーだった。 変な店だ。この変な感じが堪らなかった。まず、この乱雑な店内をホットコーヒーを片手に歩かせるってことが狂っている。「頭文字D」の如く、紙コップの中身が溢れないよう僕は徘徊する。 古書センター珍竹林の店内で僕は写真撮影と取材を放っぽり出して発掘作業に身を入れた。
KAI-YOUのスタッフが店主に経歴や経緯を教えてもらっているのを片耳に携えながら、この古本と雑貨の山から心震える一品を探し続けた。 そもそも、値段がよくわからない。シールが貼ってある商品は100円らしいが、それ以外は店主に尋ねる必要があった。
どこぞの誰のものだったのかもまるで判然としない、50年以上前の逮捕状や通信簿、戦後の納税書なども売っていたりして、俄然テンションは上がる。 旅行とは、友達ん家の本棚にある漫画を全て読破できないようなものだ。
時間の許す限り、膨大な量の商品をごった返して満足感を買おうとしたが、そのあまりの量と底の見えない乱雑さに、最後まで穴を掘ることができないままタイムリミットを迎えてしまった。
僕は退店ギリギリで見つけた1冊の文庫本を、レジに差し出した。 山際淳司の『スローカーブをもう一球』というベストセラーだ。
「おいくらですか?」
僕は珍竹林の店主に訪ねた。いっそ定価より高かったとしても買おうと思っていた。しかし、店主の言葉は想像の上をいく。
「これ?あげるよ!」
まさかのタダである。
僕はこの本を過去に3回買って3冊とも人にあげているが、それがキャッチャーから返球されてきたような感覚すらあった。
僕は「ありがとうございます!」と、頭を下げた。 実は今回、地方ならではの旅にも関わらず、僕は小倉のブックオフへと連れて行ってもらった。旅先でチェーン店に行くなんて変な人だなぁと思われていたかもしれないが、僕は旅行をすると必ずブックオフに立ち寄っていた。ときどき突拍子のないものが売ってたりするからだ。
そして、今回は『HUNTER×HUNTER』0巻(映画館でしか貰えない非売品)を、100円という「タダみたいな」値段で見つけた。それを、0巻だけ持っていないという和田さんに差し出し、彼はすぐにレジへと向かった。
すごく地味だけど、僕にとってはこういう温度感の楽しみ方が観光だと言いたい。安く手に入れたってことよりも、旅先でたまたま出会えて、それを人と直に共有できたってことの方が重要なのだ。
***使い古しの、すっかり薄く丸くなってしまった石鹸を見て、ちょっと待ってくれという気分になってみたりすることが、多分、だれにでもあるはずだ。 『たった一人のオリンピック』/山際淳司
僕はサブカルチャーが好きだ。サブカルチャーなんて言葉ほど曖昧なものはないのだが。
1度だけ博多を出発点に新婚旅行で九州を回ったことがあるのだけど、スタートに博多を選んだ動機も、あくまでサブカルチャー的な発想からだった。
ヒップホップクルー「TOJIN BATTLE ROYAL」のリリックに登場する聖地の巡礼、漫画『めだかボックス』の登場人物の苗字がすべて九州の地名なのにあやかって苗字探し。僕が旅行先で楽しみにしているものも、観光より古書店やリサイクルショップ巡りだ。
旅行なんて軽薄で適当なものだ。僕は今でもそう思っている。一番大事なのは、いかに自分に嘘をつかずに、琴線を引っ掛けるための釘を探すかに懸かっている。
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