彼女は『涼宮ハルヒの憂鬱』などで知られるいとうのいぢデザインという個性を武器に、4月末、鳴り物入りでデビューした。
現在までにチャンネル登録者数は2万人にまで及ぶが、それでも簡単に先頭に立てるとはいかないのが現在のVTuberシーンの苛烈さであり、魅力でもある。
そんな中彼女の次なる一手として放たれたのが、満を持してのオリジナルソング「フーアーユーなんて言わないで」。
tmiyachiは会社経営者として、ビジネスの面からもVR事情を見つめてきた。そして和田たけあきはボカロシーンの最前線で活躍するクリエイターであり、ポップかつ鋭く現代社会を批評する楽曲を制作してきた。
そんな両者が今回の楽曲に込めた熱い想いとそれぞれの目線から見た現在のVTuberについて。そして関連して語られることも多いボーカロイドとVTuberの明確な差異まで、ネット文化を紐解きつつ語っていただいた。
取材・文:オグマフミヤ 編集:ふじきりょうすけ
リアルで勝てなくてもバーチャルで勝てばいい
──お二人がVTuberを知ったのはいつ頃でしたか?和田たけあき(以下和田) 僕はTwitterでキズナアイさんの話題を見たのが最初だったんですが、正確に認識し始めた時期っていうと去年の12月あたりになると思います。
輝夜月さんを見て「なにこの人!?」って衝撃を受けて大分ハマっちゃって。今は月ノ美兎さんがめっちゃ好きでよく見ています。
tmiyachi 僕はずっとインターネットビジネスをやっていたので、事業としてVTuberという動きがあるのは知っていました。去年の秋ごろにキズナアイちゃんを見たのが最初ですね。
それ以降も追っていたんですが今年に入って僕も月ノ美兎さんにハマっています(笑)。
──似た変遷をたどられていますね(笑)。楽曲制作はどのように進んでいったのでしょうか。
tmiyachi 子兎音ちゃんの活動がスタートしてから少し経った時期でした。和田さんには弊社からお願いした形になります。
僕はVTuberとボカロの相性はいいと考えていたので──ボカロPで今勢いのある方を探していたところ、去年のナタリーでのインタビュー(外部リンク)を拝見して、ものすごい語れる方だなと思ったんです。
天神子兎音と楽曲との相性を考えた時に、文化や文脈を語れる方に曲をつくってほしいとも考えていたので、和田さんにお願いすることにしました。
──和田さんは楽曲を製作するにあたってどのようなイメージで始められましたか。
和田 子兎音ちゃんを最初に見た時にあまりにしっかり喋るので、ものすごくちゃんとしたキャラクターだな! と感じたんです。
でもその後の動画や特に生放送を見ていると、壊すなんて言うまでもなく子兎音ちゃんの人間的魅力がどんどん出てきていて。これを楽曲として表現しようと考えるようになりました。
──子兎音ちゃんの魅力というと歌詞にも「この先生きのこれない」(※)のような、子兎音ちゃんならではのフレーズが盛り込まれていますよね。
※一種のネットミームでもあるが、生放送にて”このせんせいきのこれない”と言って以来定番のネタになっている。
tmiyachi 子兎音ちゃんのキャラやこれまでの活動っていう魅力を表現していきたいというのは歌詞においてもそうだったんですが、軸としてもっと大きなテーマを置きたいとも考えたんですよね。
そこでVTuberの本質とか、世界展開できるポテンシャルというテーマを組み合わせていったんですが、作詞の行程ではそのバランスの調整が苦労した部分でした。 和田 歌詞は最初に見せていただいた状態から随分変わりましたよね。
tmiyachi 大きな修正もして第4稿くらいにまでなってたと思います。
和田 というのも僕が結構口を出したからでもあるんです(笑)。作曲者という立場を超えた行為ではあったんですけども。
最初は子兎音ちゃんの生放送や動画で出たネタがもっと入った詞だったんですけど、それだと喜ぶのはファンの人だけになってしまうので、その濃度をどう調整するかはかなりせめぎあいがありました。どうしてもキャラソンぽくなってしまうのを避けたかったんですよね。
もちろん子兎音ちゃんの歌なので、"ならでは"の歌にしていきたいんですけども、必ずしも子兎音ちゃんにしか当てはまらないという内容にはしたくなかったんです。
──その熱意はどこからきたのでしょうか?
和田 それはVTuberが好きだからです! 依頼をいただく前からハマっていたこともあって、かなり気合が入っていたんですよ。
この曲で子兎音ちゃんがもっと有名になってほしいと想いを込めてつくりましたし、いいものをつくるために納得がいくまで口を出して。
その結果、tmiyachiさんと今後付き合いがなくなって、仕事が来なくなってしまってもかまわない! くらいの覚悟でした(笑)。
tmiyachi 本当に和田さんの熱量はものすごかったですよね。締め切りの6時間前にキャッチコピーやパンチラインを変えるレベルの大きな変更を提案されたことが一番印象に残ってます……。
和田 その節は大分追い詰めてしまったと反省しております(笑)。それくらい本当に子兎音ちゃんに売れてほしいという想いがあったんですよ。 ──そんなお二人の熱いやりとりで生まれた、タイトルでありサビでもある「フーアーユーなんて言わないで」というフレーズにはどんな意味が込められているのでしょうか
tmiyachi VTuberにおけるアイデンティティというのをメインテーマの1つとしているんです。
このフレーズには、「アイデンティティの在処がバーチャルなのかリアルなのかを問うのは無意味なことだ」という意味を込めています。
境目なんてものは存在しなくて、リアルで勝てなくてもバーチャルで勝てばそれでいい。そういうメッセージを込めています。
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初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、インターネットでオリジナル曲を歩みを止めることなく新曲を発表。活動6年目を迎える2016年2月に公開した「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」が大ヒット。同曲のYouTubeでの再生数は、2018年7月時点で940万回を超える。この曲の他ニコニコ動画ミリオン再生を4曲叩きだしている。新時代ボカロ作家トップランナーの一人。
またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。
tmiyachi
株式会社ティーンスピリット 代表取締役社長
作詞家/作曲家/女性ダンスボーカルグループプロデューサー。学生時代から音楽活動や放送作家活動を始め、大学卒業後、公認会計士試験合格。金融業界、ITベンチャーCFOを経て、2011年オンライン教育企業を創業。2016年に売却後、2018年に芸能プロダクション・作家事務所・音楽出版社・レコード会社が一体となった新世代型の総合エンターテインメント企業であるティーンスピリットを創業。主な個人投資先にYouTuberマネジメントのVAZ、誰でもVTuberになれる「トピア」のアンビリアル。
1件のコメント
CKS
かつてのボカロみたいに、VTuber発信だけど別にVTuberが主題じゃないみたいなのがどんどこ出てくるのかな〜