「∞プチプチ」の生みの親が教える 面白いボードゲームのルールづくり

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面白いボードゲームとは?

POPなポイントを3行で

  • 「∞プチプチ」生みの親・高橋晋平がボドゲのつくり方をレクチャー
  • ゲームづくりは「起承転結」で考える
  • バランス調整における勝率へのこだわりに納得
突然ですが、最近アナログゲームが人気です。

ボードゲームカフェや、ボードゲームを置くバーがどんどん増えたり、アナログゲームの祭典であるイベント「ゲームマーケット」も、回を重ねるごとに動員数が増えているとのこと。いま、日本では空前のアナログゲームブームが起きています。

そんな中で、「自分でもアナログゲームをつくってみたい!」と思う人も多いのではないでしょうか。

今回は、これまで『∞(むげん)プチプチ』に携わり、民芸品とカードゲームを掛け合わせた『民芸スタジアム』などを開発してきた僕が、最近開発したゲームを例に出しつつ、面白いアナログゲームのつくり方の基本をご紹介していきます。

文:高橋晋平

「起承転結」で考えるゲームづくりのステップ

前提として、ゲームづくりでは、グラフィックデザインや生産などの実作業がもちろん重要です。

ただこの記事では、ゲームのコンセプトやルールのつくり方に焦点を当てて説明していきます。

まずゲームのつくり方は「起承転結」の4ステップで考えると良いでしょう。

【1. 起 ~テーマを考える】
【2. 承 ~テーマを表現するルールを考える】
【3. 転 ~どんでん返し(逆転)が起こるルールを作る】
【4. 結 ~実力と運のバランスが7:3になるよう徹底的に調整する】ゲームづくりのステップ

それでは、各ステップを順番に説明していきます。

【1. 起 ~テーマを考える】

最初に「そのゲームはどんなことを疑似体験するのか」「何を目的としたゲームなのか」を考えます。

一番簡単なのは、現実に存在する行動や事象を、ゲームで再現するというパターンです。例えば、サッカーをボードゲームで表現してもいいでしょうし、会社の仕事の中身をゲームにしてもいいでしょう。

ただ、日常的な体験の疑似体験になってしまうと、別にそれは「疑似」ではないわけで、自由に表現できるゲームの醍醐味はあまりなくなってしまうかもしれません。

有名なゲームを例に出すと、流行病の感染を防いで世界を守る『パンデミック』は、普段体験できない「世界を守る」という疑似体験ができるから面白いわけです。

『THE仮想通貨』

僕が開発に携わっている『THE仮想通貨』というゲームは、仮想通貨の売買を疑似体験できるゲーム(外部リンク)。ポイントは「実際に損をするリスクなしで、仮想通貨売買を思い切り楽しみ、学ぶことができる」という点です。

できるだけ「何それ、やってみたい!」と思われるような「新しい疑似体験」を提供することが、面白いゲームをつくるコツと言えるでしょう。

そして今回、僕が新たに考えたゲーム『グーチョキパーダラピン』のテーマは「単なる3すくみではない超心理戦ジャンケン」です。

ジャンケンは非常によくできた伝統的なゲームで、もちろん誰もが体験したことがあります。とはいえ、勝敗はほぼ運で決まるので「何度も遊びたい」とは感じにくく、いわゆる「ハマる」ゲームではありません。

実は3年程前から、ジャンケンを「相手の心を読み合って裏をかき、究極にドキドキするゲームに改変できないか?」と考えていました。

新たなジャンケンとして、構想初期に考えていたイメージ

ジャンケンという日常的な遊びを用いて、日常にはない新しい世界をアナログゲームで表現しようと考えたのです。

【2. 承 ~テーマを表現するルールを考える】

次のステップでは「テーマをどんなルール設定で表現できるか」を考えます。その疑似体験における「ゴール」は何か、そして、それをどのような形で表現するかを考えていくわけです。

例えば、会社で出世するボードゲームをつくりたいなら、ゴールである「出世」に向けて「現実では何が起こるかな?」と考えます。

「仕事で業績を上げる」「ライバルを蹴落とす」「上司にゴマすりをする」──それらを表現するにあたって、得点を積み重ねていくのか、カードの効果で相手を攻撃していくのか、あるいはすごろくのようにマスを進んでいくのかなど、プログラミングのように条件を考えていきます。

はじめてゲームをつくる場合は、まず既存のボードゲームに触れて「こういう仕組みでポイントや効果を表現するのか」という事例を体験することをオススメします。

まずは模倣から。もちろんマネしすぎるのはNGですが、いろいろなゲームの要素を参考にアレンジすることから、オリジナルのゲームづくりはスタートすると言えます。

『グーチョキパーダラピン』の場合は、「グー・チョキ・パーだけではない読み合いが発生するジャンケン」というテーマを表現するために、下記のようなことを考えてルールをつくっていきました。

・どんな手を何種類用意するか
・手の出し方のルールは?
・勝利条件の設定は?

ルールの骨子をつくるには、画用紙などを切って手書きしたり、Excelなど適当なソフトでつくったカードをプリントしたりして、ゲームの流れをシミュレーションしていくのが一番です。

まずは試作してみる

僕は画用紙にプリントしたもので試してみました。

「手の種類は、火・水・雷・風・土・神がいいかな?」「いや、わかりやすいようにグー・チョキ・パーは残して、子どもの頃に“最強の手”と言って使っていた『ドリル』を入れてもいいな」など、自由に試しながら考えていくわけです。

試行錯誤しているうちに「成立する手の種類は5種類」「心理的読み合いを発生させるために、勝ったときのポイントを出した手によって変える」と、方針が出来上がっていきます。

デザインとしても、できるだけ多くの人がなじみやすく、かつわかりやすくするために、グー・チョキ・パーはそのまま。

その上で「それらと優劣関係を生み出す手とは何か?」と考えた結果、グーチョキパー全部を倒せるデコピンのような最強の手「ピン」と、全部に負ける弱々しい「ダラ」が誕生。

ただし、「ダラはデコピンを“柳に風”のようにかわすことができる」という世界観をつくるに至りました。

また、2人用なのか10人以上でも遊べるのかなど、ゲームのプレイヤー人数も、このタイミングで考えるべき重要な要素。

自分の一番のこだわりとして、『グーチョキパーダラピン』は2人で遊んで最高に面白いものにしたかった。僕が普段ゲームをやりたいと思っても、なかなか人が集まらないからです。

一方で、会社や学校などのちょっとした空き時間に、ワイワイガヤガヤと遊んでほしいという思いもありました。

そこで、人数に関わらず基本的に同じルールをベースに遊ぶことができ、さらにカードを2セット以上入手すると、その分だけ大人数で遊べるようにする、という方針を決めました。

【3. 転 ~どんでん返し(逆転)が起こるルールを作る】

ゲームづくりもいよいよ後半戦。面白いゲームをつくる上で重要なのは「まさかの一発逆転」があることです。これがないと、途中で劣勢になってしまい、もう逆転が難しいとわかった時点でつまらなくなってしまうからです。

『グーチョキパーダラピン』でもいろいろな案を考えました。途中までは、「ポイントが残り少なくなったら攻撃力がアップして大逆転しやすくなる」というルールを取り入れていましたが、結局やめました。

逆転要素を考える上で重要なのは「シンプルにすること」です。

ルールが1つ増えると、それだけゲームは複雑化し、説明も覚えることも大変になります。理想は少ないルールで大逆転要素を入れること。今回は「最弱の手・ダラで勝つことができたら、たった一発で相手は敗北する」というルールに決めました。

最終的に決まった『グーチョキパーダラピン』の勝敗早見表

これが最もシンプルであり、いかなる状況に追い込まれても勝てるチャンスを残す、一番シンプルな方法だったからです。

ルールをつくるときは、さまざまなルールの可能性を考えてふくらませ、最終的にはそぎ落とすのがベターです。

【4. 結 ~実力と運のバランスが7:3になるよう徹底的に調整】

ついに最終ステップです。ゲームづくりは、バランス調整が9割と言っても過言ではありません。

ここで僕がこだわるポイントは、上手い人とそうでない人の勝率を7:3にするためのバランス調整です。

仮に、上手い人が必ず勝つゲームになってしまうと、そうでない人は面白くなくなってしまい、遊びたくなくなります。

反対に、ほとんどの勝敗が運頼み、上手くなっても勝率が上がらなかったり、テクニックを出す余地がなくなったりするのも、やる気を削がれる要因です。

上手くなれば勝つ確率は上がる、でも上手くない人でも勝てる」というバランスが、多くの人が何度も遊びたくなるゲームの黄金比です。

黄金バランスが成立するかどうか、いろいろな人に協力してもらってテストプレイを重ねて調整していきます。同時に、いわゆる「バグ」が発生しないかどうかも時間をかけて検証します。

正直、最後の詰めは苦しい作業です。最初にアイデアを考えている段階は楽しいですが、最後にゲームに矛盾がないか、バランスよく面白さが発揮されるかを調整していく段階では、僕はいつも気が狂いそうになります。

『グーチョキパーダラピン』の場合は、各カードに割り当てられた得点を少しずつ変えるなど、カード枚数や勝利条件、複数で遊ぶときの細かい順番のルールなど、最後の最後まで調整しました。

完成した『グーチョキパーダラピン』の最終サンプル

取扱説明書の入稿1時間前までルールで迷って、友達が集まっている飲み会を探して飛び込み、その場でテストプレイをお願いしたほどです。

気になるならゲームマーケットに行ってみる?

こうしてゲームは完成し、生産されてお客さんの手元に渡るわけですが、全国の方々がどんな遊び方をして、どう楽しんでくれるか、ずっとドキドキしています。

結局、どこまで調整しても、遊び方はお客さんの手にゆだねられます。そういう意味では、自由にルールを変えて楽しく遊べる余地を残しておくことも、ゲームの設計においては重要だと考えています。

ちなみに、解説の例に出した『グーチョキパーダラピン』は5月5日(土)発売(1,666円/税別)です。公式ホームページからも買うことができます(外部リンク)。

同日に東京ビッグサイトで開催される「ゲームマーケット2018春」でも、会場特別価格で販売予定(ブース番号:D40)。

いろいろなゲームを体験してみたいという人は、ゲームマーケットに足を運んでいただきつつ、次回のイベントではオリジナルのゲームを出品してみてはいかがでしょうか?

アナログなゲームについてもっと知る

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高橋晋平

株式会社ウサギ代表取締役/おもちゃクリエーター

2004年に株式会社バンダイに入社し、第1回日本おもちゃ大賞を受賞した大ヒット玩具「∞プチプチ」や「瞬間決着ゲーム シンペイ」など、アイデア玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2013年にはTEDxTokyoに登壇し、アイデア発想に関するスピーチがTED.comを通して世界中に発信された。2014年より現職。各種企業の玩具雑貨・ゲーム開発に関するブレーンや、「民芸スタジアム」など自社開発ゲームを発売するなど広く活動。近著に『一生仕事で困らない 企画のメモ技』(あさ出版)。

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