「漫画村の有料化」で何が変わるのか?
ようやく、話を「漫画村」の有料版に戻す。利用にあたって無料だろうと有料だろうと、私的利用を超えて「漫画村」がサービスとして提供されている以上、著作権法上の扱いは基本的に変わらない。
「漫画村が違法であればそもそも有料化する以前に違法」である。ただ、有料化した場合、前述の「準拠法」の観点からは、日本法が適用される可能性がより高くなることはありそうだ。
なぜなら、日本のユーザーから収益を得るのであれば、実質日本で運営されているサービスだと判断しやすくなるし、「悪質性が高い」との見方は避けられないと考えられるからだ。
もう一つの争点であるダウンロード配信についてはどうか。
著作権にある程度詳しい方には明白だが、違法ダウンロードの処罰は、漫画や小説においては適用されない。
違法と知りながらダウンロードすると著作権侵害になるのは、日本では録音と録画、つまり音楽と映像のみに限られている。
そのため、「漫画村」有料版において、ユーザーが漫画をダウンロードしても現時点では罪に問われることはない。
“現時点では”としているのは、今後はどうなるかわからないからだ。
インターネットの歴史を振り返ってみると、「Napster」はじめ現行法の網の目をくぐり抜けてきた新規サービスが勃興した際、法整備が追いつくのは必ず後だ。そして、業界全体がそのサービスに突き上げられる形でより良い方向にシフトしていくのは、いつも、そのもっと後だ。
今回も、社会現象となっている「漫画村」流行を受けて、法律が見直されるかもしれない。
ダウンロード違法化にも反対意見が多く、立法時にその点が考慮されて「著作権を侵害していることを知ってダウンロードした場合にのみ違法」に留まったという経緯もある。
そのため、ユーザーが逮捕に至るケースはそうそうないだろうと思われるが、それもやはり今後法改正があった場合には分からない。
なぜ、漫画や小説は違法ダウンロードの対象ではないのか?
そもそも、なぜ違法ダウンロードは音楽と映像に限られているのか。「エンターテイメント表現の自由の会」(以下「AFEE」)編集長で、前参議院議員・山田太郎氏の秘書をつとめた坂井崇俊氏はこう答える。
「違法ダウンロード刑事罰化が議論・施行された2010年当時、日本では映画業界や音楽業界の被害がより深刻だと考えられたからだと思われます」
違法ダウンロード刑事罰化についての議論がなされていた2006年〜2008年当時から海賊版サイトなどは存在した。ただ、議論を進める中で、それ以上に被害が深刻化しロビー活動も盛んだった映画や音楽のみに絞っていったという経緯がある。その様子は、国会論議(外部リンク)や私的録音録画小委員会でのやりとり(外部リンク)からうかがい知ることができる。
また、小説や漫画を処罰対象とした場合、その対象は幅広く、ブログやSNSでのコラ画像なども刑事罰の対象となる可能性があるため慎重な判断がなされたという背景もあるようだ。
※記事初出時、映画や音楽以外には活発な議論がなされていなかったという発言を紹介しましたが、事実誤認があったため訂正いたしました。
サイトブロッキングについて議論されていること
しかし、現在は状況が全く異なる。有名・無名問わず多くの漫画の海賊版が出回り、被害を受けていない出版社は存在しない。そのため、ここまで大きく報道される以前から、出版社も海賊版対策を講じて様々な議論を進めてきた。「漫画村」についても、出版関係者を中心に、行政へのロビー活動が今も行われているという。
「赤松健さんら日本漫画家協会が声明を出していますが、漫画村については出版関係者がロビー活動を積極的に行っているようです。山田太郎の元にも、『漫画村をなんとかしてほしい』という要望は来ています。
(違法性を証明することが難しいという現状を受けて)行政の方では現在、漫画村についてはサイトブロッキングで対策するという話があがっています。国会ではなく、まだアンダーザテーブルの段階ですが」(坂井氏)
サイトブロッキングとは、特定サイトへのアクセスを遮断、ユーザーが閲覧できなくする措置のことだ(外部リンク)。
ただし、簡単なことではない。サイトブロッキングを導入している事例は存在するが、その導入にあたっては、常に「表現の自由」とセットで議論されている。
「インターネット上では自由な発言が許されているからこそ、さまざまな創作活動が闊達に行われているという現実があります。政府がその権力で、良い表現と悪い表現を切り分け、悪い表現をブロッキングするということに繋がる恐れがあり、慎重な議論が必要になります。それに、仮に漫画村を潰したところで、類似サイトはいくらでも存在する。結局はいたちごっごです」(坂井氏)
「漫画村」は現在、猛烈な勢いでアクセス・ユーザー数を増やしている(「SimilarWeb」で調べると、3月12日現在、「漫画村」ドメインは国内ランキングで24位に位置付けられている)。 しかし、類似サイトも多く、またこの仕組みやデザイン自体はいくらでも転用可能であるため、運営者にしても必ずしも「漫画村」に固執する必要がない。
サイトブロッキングは、ある意味“付け焼き刃”でしかないとも言える。
前述の永井弁護士も、坂井氏の話を裏付けてくれた。
「喫緊の状況もあり、サイトブロッキングを求める声はあります。いたちごっこという可能性も否定できませんが、ライトユーザーの利用などに対する一定程度の有効性は少なくともあるように思います。
サイトブロッキングの要望は以前からありましたが、通信の秘密や表現の自由を侵害する懸念があり、また費用負担の問題や名誉毀損といった他のケースとのバランスの問題もあり、反対する関係者も少なくなく、導入にまで至るかは分かりません」(永井幸輔弁護士)
現在、すでに児童ポルノについてはサイトブロッキングが導入されている。(外部リンク)
「漫画村」についての様々な議論
「漫画村」を巡る議論において、漫画家が積極的に発言し読者を諌める場面が増えている。「海賊版が横行し漫画の売り上げが下がり、このままでは漫画という文化自体の存続が危うい」という抗議は重く受け止められるべきだ。
一方で、例えば自由に使えるお金の少ない未成年に対して、業界の存在が危ぶまれている点をもってモラルに訴えかけても、どれほどの効果があるのだろうか。
誰にも咎められることなくいつでもどこでもアクセスできる無限の図書館が広がっていたとして、例えそれが作者や出版社の血涙の上に成り立っていたとしても、利用してしまう人は決して少なくないだろう。
そしてそもそも、「漫画村」がどの程度漫画の売り上げに打撃を与えているか、まだ数字としては明らかになっていない中で、海賊版だけが仮想敵とされている。
全国出版協会によると、2017年の紙のコミックス単行本は前年度比約13%減と大幅な減少。電子コミックは前年度比約17.2%増だが、伸び率は縮小傾向にあると発表されている(外部リンク)
「僕自身、『漫画村』は許せないと思っている。ただ、売り上げへの影響を議論するのは非常に難しい。音楽の場合も、音楽市場全体の売り上げの低迷に違法ダウンロードがどう影響したか、直接的な因果関係は最後までわからないままでした。単曲売りが一般的になった結果、市場が下がった可能性も否定はしきれません」(坂井氏)
「漫画村」の社会現象で表出した問題は、法整備の部分だけではない。やはり、サービスの魅力という部分で対抗しなければ、モラルに訴えかけるだけでは、納得しないユーザーもいるはずだ。
日本漫画家協会の理事をつとめる漫画家・赤松健さんのツイートの中で「モラル」&「技術」で対処するしかないという言葉が印象的だったと永井弁護士は語る。
そこにはむしろ、本来は真っ先に挙げられるべき「法律」という単語が入っていない。つまり、法には頼れないという意思表明でもある。漫画の海賊版“昨年から特にひどい” 人気漫画家が考えた対抗策とは? - 産経ニュース https://t.co/AG7cPs4FgY @Sankei_newsさんから ★海賊版サイトには「モラル&技術」の両面で対抗していくべき。どちらが欠けてもダメ。対策の余勢を駆って海外展開できればベスト。私が近々実行します。
— 赤松健 (@KenAkamatsu) 2018年3月5日
「法のみによる対処は、限界が見えてしまったのが現状なのではないかと思っています。ブロッキングの要望が高まっている背景として、権利者が発信者を特定して責任追及するという通常の手段が、コスト的にも時間的にも、また実効性的にも、見合わなくなってきていることがあります。
その意味で、『法』単体ではなく、『モラル』や『テクノロジー』と組み合わせる必要は確かにある。サイトブロッキングやフィルタリングのような技術的手段が検討されるのも流れとしては当然です。また、モラルに呼びかけて、違法な著作物に手を出さないという文化をつくることも一つ手段でしょう」(永井弁護士)
もし、権利者に還元されるように、健全化を図りたいと望むのであれば、法の整備とモラルの底上げ、技術の研鑽、それらすべてをやるしかない。
「『漫画村プロ』の報道を聞いたときは、ここまできたかという衝撃がありました。これまで、海賊版のような違法行為は、摘発のリスクもありアンダーグラウンドで細々とそれでも行われてきたように思いますが、最近はオーバーグラウンドで誰でも簡単にアクセス可能な状態で行われます。
社会問題と広く認識されてなお、有料化というアクセルを踏む。これは、賠償・処罰のリスクが低下し、かつ経済的利益の規模・スピードが拡大したという、インターネットが悪い方向にエンパワーメントした部分もあるのではないかと思ってしまう。
今後は更に激化するだろうし、これに対する法や技術による規制が増すと、待っているのはディストピアかも知れません。『終わりの始まり』にもなり得る状況にどう私達が向き合っていけるのか、熟議と実行が必要です」(永井弁護士)
同時に永井弁護士は、もう一つの解を提唱している。
「アメリカの法学者であるローレンス・レッシグは、規制手段として『法』『規範』『アーキテクチャ』『市場』を挙げています。『法』『モラル』『テクノロジー』が前三者に該当するとすれば、もう一つ「市場」による解があり得る。例えば、お金を出して正規版を使いたいと思わせる利便性の高いサービスを生み出すのが、もう一つの手段です」(永井弁護士)
坂井氏も、同様の指摘を行っている。
「楽観的だという批判もあるでしょうが、最近は音楽においても、海賊版を利用するという人は少なくなっている印象があります。一昔前は、海賊版が世界中で横行していたけれど、今は月額制サービスも充実し、健全な方向に進んでいるという認識です」(坂井氏)
検索エンジンの話を前半で例に出したが、実は、日本発の検索エンジンが出遅れたのも、著作権法が原因の一つだと言われている。坂井氏は「Web上の情報をキャッシュするのが著作権法上で違法になるのかを議論している間にGoogleに席巻されたというのが状況です」と説明する。
永井弁護士は「リスクテイクができないビジネスサイドにも理由があるのでは、という意見もありますが、フェアユースのない著作権法が、リスクをとり辛い状況をつくっています。大きな企業であるほど、コンプライアンス上、法的な説明がつかない手段をとることは難しいです」と説明する。
海賊版サイト「漫画村」の有料化。極論を承知で言うが、かつてと時代や手法は違えど、著作権法の抜け穴を突いたサービスが日本の企業を席巻しようとしているという点において、似た構造を感じてしまうのは筆者だけだろうか。
永井弁護士は最後に、「日本の漫画における権利関係やビジネスの状況などを考えると、ユーザーの利便性に振り切ったサービスをつくるにはハードルはあると思われます。ただ、このような状況だからこそ、作家や複数の出版社が協力して、海賊版を置き去りにできるようなサービスが生まれることを願ってやみません」とした。
電子書籍や海賊版を巡る議論が活発化
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5件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1841)
ようするに、漫画村自体は違法に問えるけど、まだ問われてないってことは出版社たちが無能ってことだろ?
そして使ってるやつらは違法ではないけど今後は知らんよってこと。
匿名ハッコウくん(ID:1838)
テーマがわからない文章。
起承転結がなんなのかわからんw
でも、勉強にはなりました。
匿名ハッコウくん(ID:1833)
分かりにくい。