『ブレードランナー2022』渡辺信一郎インタビュー 自己の渇望とアメリカ大統領選

『ブレードランナー』だからこそ実現した未曾有の豪華スタッフ

──わたしたちは渡辺監督の作品に参加されているBAHI.JDさん(※)へのインタビューしたことがあるんです。彼のような海外在住のアニメーターが、日本の最前線で活躍しているのはなぜなんでしょう。

渡辺 やっぱり作画のデジタル化とネットの普及で海外の人も参加しやすくなったし、そもそも手描きのアニメを作ってる国自体が少なくなってきてる。

世界にいる手描きアニメ志望の人が日本での仕事を求めてきてる場合が多いですね。 ※『ブレードランナー ブラックアウト 2022』でBAHI.JDさんが担当したカット

──手書きアニメの存在自体が貴重なんですね。今回の「2022」では、戦場を振り返るシーン(※)では、特にその特色を活かしているように感じました。

渡辺 今回、どういう方向でつくるかという時に、たとえば3Dをふんだんに使ってカメラを自由に動かす、って方向も考えられるわけですけど、自分としてはそっちに予算を使うよりは、手描きの凄いアニメーターを呼んでくるほうに使いたいなと。

すごいCGって言ってみれば世界のどこにでもあるけど、手描きのすごいアニメーションをつくれるのはもう希少な存在というか、重要文化財として保護したほうがいいんじゃないかという感じなんで(笑)。

戦場のシーンは、まるごと大平晋也くんというアニメーターが担当してくれてます。最初からああいうタッチを活かしたいと思ってつくったシーンですね。

あのシーンと、橋本普治くんが担当してくれた暴動のシーンの2箇所は、つくり方のプロセスも普通のアニメとは変えてるんです。スタッフがいろいろ試行錯誤しながら、すごく手間と枚数をかけてるんで、ぜひ注目して見てもらえればなと。

──大平さんは『アニマトリックス』(※)の「キッズ・ストーリー Kid's Story」へも参加されていて、そちらでも疾走感のあるシーンが印象に残っていました。

渡辺 こういう特殊な個性を活かしたつくり方ができる場合じゃないと、なかなか頼めない人だし、ほかのアニメーターも、なかなか普段は頼めないような人も入ってくれて。

デザイン関係は今回、ゲーム業界のデザイナーがやってくれたり、他にもギャラ度外視でやってくれたスタッフもいて、まあ『ブレードランナー』だからこそ集まってくれたんじゃないかなと思います(笑)

──監督といえば音楽面でのこだわりもうかがいたいのですが、今作ではフライング・ロータスさんが音楽を担当されています。

渡辺 いま「フューチャー・ロサンゼルス」のサウンドトラックを作れるとしたら彼だろう、そう思ってシナリオ段階から勝手に彼に決めてました(笑)

オファーしてみたら、彼も自分のアニメを見てくれていたようで、もじゃもじゃ頭を差しながら「これスパイクっぽくない?(※)とか言ってましたが(笑)。
Flying Lotus - Never Catch Me ft. Kendrick Lamar
──フライング・ロータスさんも日本のアニメ/ゲーム好きで有名ですよね。彼の音楽を大きくジャンルわけすると「エレクトロニカジャズ」だと思うのですが、それが今回描く未来感に合致しての依頼だったんでしょうか。

渡辺 いつもそうですが、オファーの時にジャンルとかは関係ないんです。その人個人が作品に合うかどうか、それだけ

ただ今回、オファーのときに「前作の音楽を意識した上で、自由につくってほしい」と話してるんで、いつものロータスの作風とは少し違うかもです。「ヴァンゲリスを聞きすぎたロータス」みたいな(笑)。

※Bahi JD……オーストリア在住のアニメーター。渡辺監督作品では『坂道のアポロン』『スペース☆ダンディー』のほか、今作「2022」にも参加している。
※戦場を振り返るシーン……『ブレードランナー 2022』26:45あたりから8:25まで。中心的キャラクター・イギーが自身の過去を振り返る。
※アニマトリックス……映画『マトリックス』をモチーフに2003年に製作された9つの短編からなるオムニバスアニメ。渡邊監督は「キッズ・ストーリー Kid's Story」「ディテクティブ・ストーリー A Detective Story」を手がけた。
※フライング・ロータス……アメリカの音楽プロデューサー。ジャズやエレクトロニカ、ヒップホップを中心に前衛的な音楽を手がけるほか、DJでは日本のゲーム作品からのサンプリングを披露することも多々。なお、叔父はサックスプレーヤーのジョン・コルトレーン。
※スパイク……『カウボーイビバップ』の主人公のスパイク・スピーゲル。賞金稼ぎを生業とするもじゃもじゃ頭で長身痩躯の男。余談だが、声優・山寺宏一が初めて演じた主人公キャラクターでもある。

「ミクスト・カルチャー」な時代が来るはずだった

──『ブレードランナー』は、ディストピア的側面をもった未来像の描写などで、日本のアニメに大きな影響を与えた作品です。逆に日本のアニメが海外に与えている影響については感じられますか?

渡辺 『ブレードランナー2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に会った時にも、けっこう前から日本のアニメを見てると言ってましたね。彼はあまりアニメっぽい作風じゃないから意外でしたけど。

──近年コンテンツが架け橋となって、国を超えてスピンオフがつくられているケースが増えているように感じています。『ブレードランナー』というアメリカ映画を日本でアニメ化する際、監督の立場でローカライズは意識されるのでしょうか?

渡辺 うーん、日本向けとか海外向けとか、年齢層とかのターゲットを想定してそれに向けてつくるようなことは一度もやったことがないですね。

やっぱりマーケティングにそって抽象的な、顔の見えない人々を対象にしてしまうと、つくる方も迷ってしまったりモチベーションも上がらなかったりするし。プロデューサーに言われたんでこうしました、って言うんじゃ本当にいい作品はできないと思うんですよね。

でもそれを実現するのは大変で、「作品づくりイコール戦い」になってしまって、今回もアメリカ側といろんなバトルがありましたけど(笑)。

自分が見て面白いと思うものをつくることと、それを他の人にも伝わるようにすること。それだけを考えて他のノイズが入らないようにといつも思ってます。

──やはり監督ご自身が『ブレードランナー』の大ファンであり、つくりたいという気持ちが強いからこそ?

渡辺 そうですね。自分としてはやれる限りやったので、あとは見た人に委ねたいと思います。

『カウボーイビバップ』

──ちなみに「カウボーイビバップ」も実写化の企画が進行中とのことですが……。

渡辺 アメリカでは初放送以来、10年以上もずっと再放送が繰り返されてたらしくて、その分日本よりもずっと人気があるらしいですね。

まあ、今までにも何度も企画があっては頓挫してたんで、今回も実現するのかどうかわかんないですけど。

ただアメリカで実写化を進めているスタッフも、SNSの評判がヒットを左右する時代だし、元のアニメのファンに納得してもらえるものじゃないと商業的にもうまくいかないとわかってるみたいです。

自分が関わることになるのかどうかは、まだ決まってないですけど。

──楽しみに待ちたいと思います。それでは最後に2022年という間近に迫った未来をアニメで描く意義について、聞かせてください。

渡辺 (現実世界の)2019年は2年後ですけれど、『ブレードランナー』で描かれたものとは全く違う未来になっちゃったじゃないですか。

僕自身も含め、80年代に持っていた未来感として、民族的、ジェンダー的にもっと「ミクスト・カルチャー」な時代が来ると思っていたんです。

──国籍のバラバラな登場人物や他言語が同時に使われているシーンは、原作映画の中でも象徴的ですね。

渡辺 今はむしろ逆じゃないか、という世界がきていて。異なるものを排斥するような流れが強くなってきていますよね

思っていた方向と違うのではないか、こんなはずだったっけ? という世界が、『2022』の中には含まれているんじゃないかと思います。

世界で活躍するクリエーターの最前線

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イベント情報

ブレードランナー 2049

公開
10月27日(金)全国ロードショー
配給
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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