欅坂46「1周年ライブ」レポート 残酷なループに立ち向かい、全身で叫ぶ少女たち

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欅坂46が、はじめて目を醒ました

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『不協和音』のパフォーマンスが始まったその瞬間、ただただ息を飲み、圧倒された。一斉に躍動するダンスを見せる欅坂46。ここまで3時間もパフォーマンスを続けていた少女たちとは思えないほど、メンバー全員がキレのある動きで舞い、歌う。

この日のライブは、この1曲を披露するためにあったといっても過言ではない」そう言い切れるほどの気迫に気圧された。1曲目にデビュー曲『サイレントマジョリティー』を、最終曲に『不協和音』を配するセットリストは、間違いなく本気だった。

「僕は嫌だ」平手友梨奈が叫ぶ
「僕は嫌だ」長濱ねるが叫ぶ

それは、音源とは何もかも違う、耳をつんざき、胸をえぐる、一切の検閲も自制もない「本当の叫び」だった。

この歌詞について、平手は、ライブ同日に放送されたNHKの番組『SONGS』の中でこう振り返っている。「『僕は嫌だ』はもう私の心の叫びかなって思ってますね」。

そう、彼女は同番組で、センターの重圧はもちろんながら、ファンからのディスに対して傷ついている旨を話していた。

「それには負けていられないので。だったらもう(ライブ等で思い切り)やってやるって思ってます」(NHK『SONGS』での平手友梨奈の発言より)

多人数グループゆえの「アンチ」と「ファン」が混在し、一部は同一であるという、AKB48が生み出した歪な構造。これが優れたパフォーマンスを生むという残酷な現実。それはひとつの悲劇でもある(『不協和音』の「仲間から撃たれるとは思わなかった」というラインは、そのことともシンクロする)。

「僕は嫌だ」…それはもちろん秋元康によって書かれた歌詞ではあるが、正真正銘、彼女たちの意志から出た言葉でもある。

先述のように『不協和音』が『サイレントマジョリティー』の「焼き直し」であることに間違いはないが、ひとつ大きく異なる点がある。

デビュー曲でいきなりセンターに抜擢された最年少の立場として、平手は当時「君は君らしく生きて行く自由があるんだ/大人たちに支配されるな」という歌詞に勇気づけられたと『SONGS』で話していた。

このことからも分かる通り、『サイレントマジョリティー』のリリックは「欅坂46と秋元康からリスナーへ向けた歌詞」である以前に「秋元康から欅坂46に向けてのメッセージ」なのだ。そうしたメッセージをリスナーに伝える媒介として平手は動いていた。

それは『世界には愛しかない』のパフォーマンスにあたり「『意思を持った男の子』を演じられるか」を大事にしたと同番組で話しているように、「憑依型」と呼ばれる平手の表現のベースとなっていく。

だが『不協和音』ではそれが違っていた。始終「君」に語りかけていた『サイレントマジョリティー』と違い、『不協和音』はほぼ全編において「僕」の意志を語る。むしろ「君」ですら、この曲においては「僕」と同義だろう。自らを奮い立たせるために、自分に問いかけているのだ。

平手友梨奈

「自分を変えたい」と望み、オーディションを受けてアイドルとなった彼女たち。しかしそこには想像以上の試練があり、過剰なまでのストレスがあった。

それは『千と千尋の神隠し』のカオナシのように、どこまでも求め続けなくてはならない、ファンと運営とメンバーの三すくみの構造が描く、無限の連鎖による必然だ。

仕組まれた試練に少女たちは傷つき、しかし立ち上がる。その姿にファンが熱狂し、さらに加速させていく。その構造がアイドルブームを巻き起こし、巨大化させ、欅坂46を生んだことは事実だ。しかしそのエネルギー源は過剰なまでの犠牲・新陳代謝だった。

そんな残酷なループを、卒業や解散以外の手法で、どこかで断ち切ることができるのか? 風穴を開けることができるのか? それが今後欅坂46の進むべき道ではないだろうか。あまりにも壮絶なこの日のパフォーマンス、そして「僕は嫌だ」は、その第一歩なのではないだろうか。

予測不可能な、欅坂46の2017年

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パフォーマンスが終わり、エンディングの挨拶でも平手の表情は『不協和音』の世界観から戻って来れていなかった。それは体力的な問題というよりも、それほどあの曲に全身全霊を込めた結果だったように見えた。

アンコールで演奏された正真正銘のラスト『W-KEYAKIZAKAの詩』でも、平手の表情は燃え尽きたままだった。

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アンコール後、トロッコで移動して会場中に手を振って周る挨拶タイムにおいても、どこか目線は虚空を漂っている。そんな彼女の様子を目で追っていると、汗で髪を濡らした平手が突然振り向いて、こちら側を見た。ほんの一瞬のできごとで、彼女はすぐに正面を向き直した。しかし、そのとき筆者はこれまで感じたことのない、恐怖にも似た感情を覚えずにいられなかった。

この15歳の少女は、一体どんな思いでここに立っているのか、これからどんな道を歩んでいくのか?

その底抜けのパフォーマンス力、表現力を持つ彼女の将来が楽しみであると同時に、ひたすらに胸が苦しくなったのも事実だ。どうか、その先にあるものが孤独ではないことを願いたい。

AKB48以降、アイドル、運営、ファンが三つ巴でつくった、新しくも歪な構造。その中を王道かつ異端として突き進む彼女たち欅坂46、そして平手と長濱という二人の中心的存在は、今後どこへ向かうのか。 正直、単純に「楽しみだ」「今後に期待したい」などとは無責任には言い難い。ただひとつ適当な表現があるとしたら、こうだ。

予断を許さない

アイドルのこと、もっと知りたい!という方に

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イベント情報

欅坂46 1stアニバーサリーライブ(開催終了)

日程
2017年4月6日(木)
開場
16:30/ 開演:18:00
会場
国立代々木競技場第一体育館

<セットリスト>
M1 サイレントマジョリティー/欅坂46
M2 手を繋いで帰ろうか/欅坂46
-MC-
M3 乗り遅れたバス/長濱 今泉 小林 鈴本 平手
M4 山手線/平手
M5 渋谷川/ゆいちゃんず(今泉 小林)
M6 キミガイナイ/欅坂46
M7 ひらがなけやき/けやき坂46
-MC-
M8 また会ってください/長濱
M9 青空が違う/青空とMARRY(志田 菅井 守屋 渡辺 渡邉)
M10 ボブディランは返さない/ゆいちゃんず(今泉 小林)
M11 渋谷からPARCOが消えた日/平手
-DANCE TRACK-
M12 語るなら未来を…/欅坂46
M13 世界には愛しかない/欅坂46
M14 僕たちの戦争/FIVE CARDS(上村 長沢 土生 渡辺 渡邊)
M15 夕陽1/3/今泉 小林 平手 長濱
M16 誰よりも高く跳べ!/けやき坂46
-制服ファッションショー-
-MC-
M17 制服と太陽/欅坂46
M18 大人は信じてくれない/欅坂46
M19 二人セゾン/欅坂46
M20 エキセントリック/欅坂46
-MC-
M21 微笑みが悲しい/てち&ねる(平手 長濱)
M22 チューニング/ゆいちゃんず(今泉 小林)
M23 割れたスマホ/青空とMARRY(志田 菅井 守屋 渡辺 渡邉)
M24 僕たちは付き合っている/けやき坂46
-MC-
M25 不協和音/欅坂46
-アンコール-
M26 W-KEYAKIZAKAの詩/欅坂46 けやき坂46

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照沼健太

Editor / Writer / Photographer

編集者/ライター/カメラマン。MTV Japan、Web制作会社を経て、独立。2014年よりユニバーサルミュージック運営による音楽メディア「AMP」の編集長を務め、現在は音楽・カルチャー・広告等の分野におけるコンテンツ制作全般において活動を行っている。ブログメディア「SATYOUTH.COM」を運営中。http://satyouth.com

2件のコメント

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gekkohstate

月夜見月夜

ひらてちと、ねる。 二人がいればそれでOK。 
他には何も要らない。 他には誰も知らない。

CKS

CKS

気圧される気迫

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