連載 | #5 KAI-YOU ANIME REVIEW

ただの作画アニメじゃない! 『ユーリ!!! on ICE』徹底レビュー

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ただの作画アニメじゃない! 『ユーリ!!! on ICE』徹底レビュー
ただの作画アニメじゃない! 『ユーリ!!! on ICE』徹底レビュー

『ユーリ!!! on ICE』/Amazonより

フィギュアスケートのアニメが放送される」と最初に聞いたときは、「え? アニメにできるの!?」と思った。……いや、だって、“あの”フィギュアスケートですよ? 球技や陸上競技といった、スポ根マンガでもおなじみの「スポーツ」を映像化するのとはワケが違う。

というのも、スポーツを題材とした多くの作品では、およそ非現実的で無茶な動きをしても許されるどころか、むしろ推奨すらされているような印象がある。マンガのド派手な描写に代表されるように、そこではリアリティがあまり重視されない。──これってスポーツに限らず、広い意味での「創作物」に当てはまる話ではあるけれど。

なかでもフィギュアスケートに関して言えば、「派手」よりは「華麗」という言葉が似合う種目。現実でも演技それ自体の美しさが評価される競技となっているため、アニメとして表現するとなると、ちょっとした“無茶”でもギャグになりかねない危うさを持っているように見える。現実と虚構のバランスが難しそうなのだ。

そんな、他の人気スポーツとは趣の異なる、しかもフィクションの世界ではあまり目にしたことのない「フィギュアスケート」を題材としたアニメが放送されると聞けば、そりゃあワクワクしてこようというもの。氷上を舞い滑る美しい滑走を、いったいどのように表現するのだろう──? と、放送を楽しみにしていた。

というわけで本記事では、各所で注目を集めている秋アニメのひとつ『ユーリ!!! on ICE』の魅力についてざっくりとまとめていきます。

文:けいろー 編集:かまたあつし

山本沙代×久保ミツロウのタッグによる、完全オリジナルの男子フィギュアスケートアニメ

『ユーリ!!! on ICE』(以下『ユーリ!!!』)は、10月からテレビ朝日ほかで放送されているオリジナルアニメ。……そう、“オリジナル”なのよね。フィギュアスケートと聞いて、てっきり少女マンガあたりの原作でもあるのかと思ったら、まさかの完全オリジナルだった。

監督・シリーズ構成は、『ミチコとハッチン』『LUPIN the Third -峰不二子という女-』を手がけた山本沙代さん。また、『モテキ』や『アゲイン!!』でおなじみの漫画家・久保ミツロウさんとのタッグで「原案」の表記があり、このお二方が中心になってつくられた作品となっている。

『ENDLESS NIGHT』/「日本アニメ(ーター)見本市」より

山本監督は、「日本アニメ(ーター)見本市」で2015年に公開された作品『ENDLESS NIGHT』も手がけていた。実は、こちらも男子フィギュアスケートを題材にした映像となっており、振付師として元フィギュアスケート選手の宮本賢二さんが協力したことも話題に。宮本さんは、今回の『ユーリ!!!』でも振付を担当している。

思い返してみると、3月の制作発表会で「約4年前から企画を考えていた」という山本監督の話もあった『ユーリ!!!』(参考:アニメ!アニメ! イベント・レポート「新作アニメ「ユーリ!!! on ICE」はフィギュアスケートで高みを目指す」

題材も同じ、振付師も同じとくれば、もしかすると『ENDLESS NIGHT』が『ユーリ!!!』の原作──もとい、パイロット版のような立ち位置にあるのかもしれない。……もちろん、僕の勝手な想像に過ぎないけれど。

アニメならではの滑走表現

「History Maker」 DEAN FUJIOKA<TVアニメ「ユーリ!!! on ICE」オープニングテーマ>
さて、そんなアニメ『ユーリ!!!』を彩るのは、2人の“ユーリ”を中心とした男子フィギュアスケーターたちと、氷上を舞う彼らの演技だ。

かつてのグランプリファイナルで負けを喫した主人公・勝生勇利(声・豊永利行)の挫折に始まり、“もうひとりのユーリ”ことユーリ・プリセツキー(内山昂輝)との出会い、そして“王者”ヴィクトル・ニキフォロフ諏訪部順一)の華麗にして鮮烈なスケート演技と、テンポよく進んでいく第1話。

何度も見たくなるほどの魅力を持った約24分間となっており、その興奮は、ヴィクトルと彼の演技を真似する勇利を交互に映す滑走シーンで最高潮に達した。

第1話「なんのピロシキ!! 涙のグランプリファイナル」より/Amazonビデオのキャプチャ

滑走者の動きはリアルで見る演技のようですらあり、カメラワークもテレビ中継でなじみのある構図。かと思いきや、ジャンプのタイミングではスケート靴に焦点を当てたり、ステップシークエンスでは右へ左へ刻むような選手の動きをカメラがアップで捉えたりと、リアルの中継ではなかなか見ることのできない細かな表現がされているように感じた。

実写(テレビ中継)の場合、演技の邪魔になるため、スケーターの近くにカメラを置くことはできない。しかし、アニメであればそのように視点が制限されないため、よりダイナミックかつ細かな演出をすることができるのである。

というか、実際の中継でカメラがあんなにキレッキレで動いていたら……間違いなく、酔うはず。少なくとも、僕は酔う。けれどもアニメでは違和感なく(酔わずに)見られるのは、実写で見慣れた映像のようでありながら、流れるようなキャラクターの動きもカメラワークも自在に操れるからなのではないかしら。

このような映像表現は、やっぱりアニメならではの魅力だよなーと。同じフィギュアスケートを扱った作品として、僕は鈴木央さんのマンガ『ブリザードアクセル』が好きなのだけれど、映像とマンガとではやっぱり描き方も演出も違う。

コマ送りや集中線を存分に使った作画、迫力も勢いもあるマンガの表現に対して、『ユーリ!!!』におけるフィギュアスケート演技の魅力は、アニメならではの流れるような美しさとカメラワークにあるのではないかと感じたのだった。

実際、第3話時点ではヴィクトルの「華麗」で「艶やか」な演技が目立っている印象。でも個人的には、各国選手のなかに「パワフル」「男臭い」演技をする人がいてもいいと思うんだ……! まだまだこれから登場する人物も多いようだし、今後、選手各々に異なってくるだろう滑走表現を見るのが楽しみでならない。

「リアル」と「コミカル」のメリハリが好き

第2話「2人のユーリ!? ゆ〜とぴあの乱」より/Amazonビデオのキャプチャ

何よりも、滑走シーンがすばらしい──ネット上ではそのように『ユーリ!!!』の魅力が語られていた第1話から、1週間後。続く第2話では物語が進行しつつも、主要人物を掘り下げるべくキャラクター同士の絡みが多めの内容になっており、また1話とは違った印象となっていた。

そうした日常シーンにおいては、スケートリンクを舞う彼らの「リアル」さは鳴りを潜め、一転して「コミカル」さを強調する形で描写されているように見える。第3話までの毎話冒頭に入る「勝生勇利でっす☆(てへぺろ感)」なテンション高めのあらすじをはじめ、なんというか、ものすごくメリハリがあって楽しみやすい。

ともすればネガティブなイメージを抱く人もいるのではないかと想像される、ちょっと気弱で自虐的な主人公・勇利も、あるいは攻撃的かつ生意気でガラの悪いロシアンヤンキー・ユーリ(ユリオ)も、どちらもデフォルメ化することによって、程よく笑いに昇華できているような印象がある。男である自分から見ても、彼らは適度にキュートで魅力的だ。

そういえば、海外ではタイトルを見て勘違いし、「百合(yuri)だって聞いて飛んできたのに、やおい(yaoi)じゃないか!(参考:かいがいの「ユーリ!!! on ICE 1話 「なんのピロシキ!! 涙のグランプリファイナル」 海外の感想【簡易版】」と叫んだアニメファンがいらっしゃったそう。

──HAHAHA! 残念だったな! 僕もちょっとだけ残念だ! だが、男同士もいいぞ。ヴィクトルかわいいよヴィクトル──と彼に言いたくなるくらいには、メインの3人はみんな素敵だと思う。

第3話「僕がエロスでエロスが僕で!? 対決! 温泉 on ICE」より/Amazonビデオのキャプチャ

──そう、当初はクールな天才肌かと思われたヴィクトルの、1話ラスト以降のお茶目っぷりと艶やかさがヤバいのだ。

どれくらいヤバいのかと言えば、セーラームーンのコスプレで演技を披露したことでも有名なフィギュアスケート界の世界女王、エフゲニア・メドベージェワさんが興奮のあまり連続ツイートするほど。いいぞ、もっとやれ。 こうした反応を見ていると、フィギュアスケートが世界的に人気の種目であることが改めて実感できる。海外のアニメファンの感想も上々らしく、日本国内にとどまらず、ゆくゆくは世界的に人気のアニメ作品になる日がくる……かもしれない。

──そんなこんなで、いろいろな意味で見どころもたっぷりのアニメ『ユーリ!!! on ICE』。グランプリファイナルでの優勝を目指す2人のユーリと、これから続々登場するだろう各国の選手たちが、どのような演技を見せてくれるのか。毎週が楽しみな作品です。

カツ丼はエロス……覚えましたし。
TVアニメ「ユーリ!!! on ICE」PV
(C)はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
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番組情報

ユーリ!!! on ICE

キャスト
勝生勇利:豊永利行
ヴィクトル・ニキフォロフ:諏訪部順一
ユーリ・プリセツキー:内山昂輝
イ・スンギル:野島健児
エミル・ネコラ:日野 聡
オタベック・アルティン:細谷佳正
ギオルギー・ポポーヴィッチ:羽多野 渉
クリストフ・ジャコメッティ:安元洋貴
ジ・グァンホン:本城雄太郎
ジャン・ジャック・ルロワ:宮野真守
ピチット・チュラノン:小野賢章
ミケーレ・クリスピーノ:前野智昭
南 健次郎:村瀬 歩
レオ・デ・ラ・イグレシア:土岐隼一
西郡 豪:福山 潤
スタッフ
原案:久保ミツロウ×山本沙代
監督・シリーズ構成:山本沙代
ネーム(脚本原案)・キャラクター原案:久保ミツロウ
キャラクターデザイン:平松禎史
音楽:梅林太郎 松司馬拓
音楽プロデューサー:冨永恵介(PIANO)
フィギュアスケート振付:宮本賢二
アニメーション制作:MAPPA

【放送日時】
テレビ朝日 10月5日より毎週水曜 26:21〜
BS朝日 10月9日より毎週日曜 25:00〜
サガテレビ 10月7日より毎週金曜 25:55〜(※初回は26:05〜)
長崎文化放送 10月11日より毎週火曜 25:51〜

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けいろー

フリーライター/「ぐるりみち。」管理人

フリーライター。インターネット大好きゆとり世代。会社を辞めてブログを書いていたら、お仕事をもらえるようになったので独立。はやくにんげんになりたい。

ブログ : http://yamayoshi.hatenablog.com/
Twitter : https://twitter.com/Y_Yoshimune

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KAI-YOU ANIME REVIEW

クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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