AKLO×大月壮 対談「ヒップホップゲーム」で勝ち続けるために

アメリカにおけるヒップホップゲーム

大月 AKLOくんはアメリカが先端にあって、ずっと追っかけてる訳ですよ。そういう見方の中で、ヒップホップをどう楽しむかっていうことも僕は教えられて。例えば「ヒップホップはひとつのゲームなんだ」ってよく言ってるよね。

──ゲームとしてのヒップホップとはどういうイメージで使っている言葉なんですか?

AKLO ヒップホップシーンのことを「ヒップホップゲーム」って呼ぶことによって、勝ち上がっていくことの楽しさを表してる。アートフォームとしてのヒップホップもあるんだけど、ゲームとしてどうやって勝ち上がっていくか。そもそも大月さんとKLOOZでビデオを出すっていうのも、「ゲーム」のなかで有効な手段だったわけよ。 大月 実際あの時期は一歩前に出る手段としてビデオは凄い有効だったね。あとは「文脈ゲーム」みたいなところもある。ミックステープっていうのもアメリカではじまった新しい遊びであり、勝ち上がり方であって。AKLOくんのミッションとも関わるけど、そこに早く追いついていこうみたいな。俺はそれまでアメリカ文脈みたいなものはどうでもよかったんだけど、AKLOくんたちに会って面白さがわかった。

──AKLOさんの中で、そんなにもアメリカは大きなものなんでしょうか?

AKLO まずラップやってる人口が多いからね、アメリカは。同じ「ゲーム」をしても、ヒットを出したときに貰える金額も全然違う。だからヒップホップにかける本気さも違って、フレッシュさとか色んなものがクオリティ高い。

機材も全部船便で送ってたから、ニューヨークの俺の家に近所にラッパーがレコーディングしに集まってきていて。そこにいた全員「※4HOT 97で曲がかかってほしい」ってのが目標だったりするわけ。メイクマネーしたい、そのストレートな示唆っていうか。

ここにいる優れたやつだってみんな、メインストリームに行きたいんだってわかった。メインストリームには素晴らしい才能がめちゃくちゃいて、そこにこそ本当の「ヒップホップゲーム」があることに気付いちゃった感じだった。

だから俺は日本でメインストリームのヒップホップをつくってやるっていう意気込みで帰ってきた、それなのに大月さんみたいな変なことをラッパーにやらせる人と出会っちゃって。俺の意気込みどうすんだよ、みたいな(笑)。

大月 「じめじめした空気出てんぞこいつ。サブカルくせー!」みたいな。でもアメリカの文脈を意識したバイリンガルのAKLOくんが、あえて日本語で「ヒップホップゲーム」をやってるのはなぜなのかなって。そこがAKLOくんの面白いとこだよね。純粋な日本人よりも言葉のボキャブラリーが多いから、オヤジギャグメーカーとして匠の域だもんね(笑)。

AKLO ヒップホップって常に生きてるリアルな言葉を使わなきゃいけないから。俺は自分の住んでる国のフレッシュな単語をヒップホップに昇華していくことがリリックのスタンスだから、日本語で書くし日本語でラップするっていうのが今はしっくりくる。

もし住んでもないアメリカのスラングを使うとしたら「この言葉まだイケてんのかな?」とかインターネットで調べないといけない。でもそれでその言葉がリアルかどうか、わかるわけないじゃん。日本に住んでるからこそ、日本語のセンスが磨かれる。

大月 日本語のほうが染み付いてるってこと? 「レベチ」って言葉おもしれーみたいな
AKLO / Outside the Frame
AKLO そうそうそう。「レベチ」って流行語大賞だけどさ、実際リアルな言葉では全然使われてないわけじゃん。そのなかであえて「レベチ」を使えるセンスがある。単語1つがどういう位置にあるのかってことを理解してリリックを書いたほうがしっくりくる。

大月 さっきギャグメーカーって言ったけど、AKLOくんの言葉と遊びは説明されたり、歌詞カードを見ないと気づかないことが多い。

今回のアルバムでいうと、旧世代のiPhoneのsiriに向かってAKLOくんが話しかける「3D Print Your Mind」がかなり秀逸。

「Hanging out with my レベチdogs」って言葉をsiriに話しかけるんだけど、siriが「なんとおっしゃったかわかりません」って返してくるの。時計の針が止まったままでいる人に対して伝えたい熱い想いがあるんだけど、なかなか伝わらない一方通行の言葉、というのを比喩表現してる部分なんだよ。

だけど、英語とレベチっていうギャル語を混ぜてsiriに話しかけて「わからない」と言われて、シリアスに「残念だ……」って言ってるAKLOくんがトンデモない馬鹿野郎って感じ。ギャグとしてもめちゃくちゃ面白い(笑)

※3世界的に有名なニューヨークのラジオ局

セルフボーストすることがライフハックになってる

大月 AKLOくんと遊んでると、普段から「俺はやばい」みたいなセルフボーストを言うのよ。日本人って謙虚であることが美徳とされるなかで、そういうキャラが逆に面白くて。

──AKLOさん、曲のなかでもセルフボースト多いですもんね。

AKLO 普段はもちろん、曲のなかでも基本セルフボースト。なんでかって言うと、セルフボーストってめっちゃポジティブで面白いじゃん。高さを表現するときはすぐ宇宙まで行っちゃうし(笑)。半分ギャグに聞こえるくらいわざと多めにとりあえず盛る。

アメリカでもセルフボーストはすごく重要な要素。そもそも黒人が認められてなかった社会から「俺ゴールドチェーン買えるようになったんだぜ」「俺高級な車載ってるぜ」みたいな。アメリカの歴史のなかで黒人がセルフボーストするっていうことには、すごく意味がある。

黒人のセルフボーストでわかりやすい例はJAY-Zの「I’m not a businessman I’m a busines, man」。「ビジネスマンだね」って言われてたJAY-Zが、「俺はビジネスマンじゃねえ、俺自体がビジネスなんだよ」って言う。 AKLO 「businessman」を「business」と「man」の間を空けるだけで「business」と「man」にできる。「分かるか?」って。スペースが空いただけでこんなにかっこいいこと言えるんだって。そこにラッパーのセンスがある

だから俺はがっつりセルフボーストをやる。日本のヒップホップの歴史や文化的に意味がなくても関係なくかっこいいからやるし、今やそれがヒップホップの美学のひとつだと思ってるから。ただ、大袈裟に言うことでギャグみたいにできるから、聴いてて本当の意味で「こいつ傲慢だな」とはなんないようにしてる。

あと傲慢なこと言えるときって、やっぱりめちゃくちゃポジティブなんだよね。「今日はいいの書けねーなー。まあ人はへこむこともあるさ」みたいなリリックも書けるんだけど、あんま書かない。むしろ「最強な俺」で書くわけ。

自分のライフスタイルとして、セルフボーストしていくことがライフハック。すると常にいいバイブスでいられるし、楽しくいられて自己啓発になる。

大月 そのズレた感覚が好きだしやりたくなるんだよね。AKLOくんはラッパーだから面白いけど、俺もそれで真似してセルフボーストしてたら「傲慢ですね」って言われて。「嘘! 俺も『ヒップホップゲーム』してたのに!」ってなった。気を付けなきゃな(笑)。

枠を外れていくのはポジティブなこと

大月 今回のアルバム『Outside the Frame』では、ラップのスタイルを「投球フォームごと変えた」と表現してたけど、それも多分ある種のゲームだよね。最先端のアメリカに対して、速く動いて文脈の先へ先へ先へ、みたいなゲーム性がある。

AKLO 「投球フォーム」を変えたっていうのは、ただ単に先端が変わったから真似しているわけじゃなくて。その先の未来を見たときに、技術的にできないとこの先に苦しむことになると思ったから。まだ変化してる途中だからこそ、映像もビートも、ラップも常にフレッシュじゃないといけない。今までの乗せ方のままだと古く感じちゃうのよ。

──これまでのスタイルを変えると批判も多くなりますが、チャレンジでしたね。

AKLO レーベルの人たちは「え? なにこれ。今までと違うんだけど。勘弁してくださいよ」みたいに思ったんだろうけど『Outside the Frame』では思ったより批判がなかった。むしろもっとあって良いんだけどね。

大月 そこは聞き手が「ゲーム」の変化を取り入れながら進んでいくっていうAKLOくんの一貫した役割を理解してるからじゃないかな。そのコンセプトさえわかってたら、投げ方が変わっても理解できるから。

『Outside the Frame』の意味、つまり「枠外」って、アメリカのメインストリームに追いついていくことなのか、日本語ラップという枠に対してなのかって自分は考えたんだけど。Kanye West(カニエ・ウエスト)の「Famous」のMVを観た後、AKLOくんに「カニエのMVが『Outside the Frame』過ぎワロタ」って連絡したじゃん。
Kanye West - Famous
大月 世にあるMVであんなの観たことないじゃん。かなりMVとして脱線してて、ああいったあらぬ方向へ独走する姿勢は『Outside the Frame』だと思う。あとは誰かがやってたことだとしても、自分がやってこなかったことに挑戦したり、ルーチンの一歩外に出ることも『Outside the Frame』なのかな、とか考えた。

AKLO 枠を外れていくって言うとネガティブに聞こえるけど、ポジティブな意味なんだよね。『Outside the Frame』とほぼ同じ意味なんだけど「Outside the box」って言葉がある。自分の脳のキャパシティや考えられる限界を超えていくみたいな意味なんだけど。

さっきの話だけど、俺よりももっと外側で考えてる人もいるし、もっと大きく、もっと広く考えていくことがアルバムのコンセプトにまずあった。それと社会っていうフレームと、ラッパーとして違う方向に行くってことがリンクした。

大月 つまりは生き方って話になってくるのかな。枠を外れて人と違う方向に独走していくってのは孤独でもあるけど、孤独に内向きに制作してる時に浮かんだ独創的なアイデアの閃きって「キターー!!」っていう最高の瞬間でもあるし。

AKLO その瞬間が本当に快感なんだよね。
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イベント情報

AKLO 「Outside the Frame Tour」

東京公演
日時
8 月 3 日(水)18:00 開場/19:00 開演
場所
赤坂 BLITZ
料金
前売り 4,500 円(ドリンク代別)
大阪公演
日時
8 月 6 日(土)18:30 開場/19:00 開演
場所
Shangri-La
料金
前売り 4,500 円(ドリンク代別)

【チケット情報】
チケットぴあ
http://bit.ly/20UDMgt(外部リンク)
ローソンチケット
http://bit.ly/1r3nHso(外部リンク)
e+(イープラス))
http://bit.ly/25C5zc4(外部リンク)

AbemaTVでAKLO初ワンマンツアー独占生放送!
8月3日(水)18:50 〜 21:15
番組概要
AKLOキャリア初となるツアー「Outside the Frame Tour」 8月3日に赤坂Blitz、バンドセットで行われるツアー初日を AbemaTVが独占生放送!
https://abema.tv/channels/special-plus-2/slots/Ph8Zc7A5izY(外部リンク)

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関連キーフレーズ

AKLO

ラッパー

東京生まれメキシコ育ち、日本人の母親とメキシコ人の父親を持つハーフ・メキシカン。
O.Y.W.M. (One Year War Music) 所属のラッパー。
2012年にリリースしたデビュー作"THE PACKAGE"はiTunes 総合チャートで初登場1位を獲得。その年のiTunes"ベスト・ニュー・アーティスト"への選出やシングル曲"Red Pill"がMTV VMAJにノミネートされるなど、各メディアで高い評価を集め、一躍、注目アーティストとなる。2013年にはNIKE "AIR FORCE" 30周年オフィシャル・アニバーサリー・ソング "Future One" を発表。また、同年には満員御礼となったSHIBUYA-AXでの東京公演を含む、レーベルメイトのSALUとのツーマン・ツアー [O.Y.W.M TOUR 2013] を東名阪にて実施し、大成功させる。
2014年、2年振りとなる待望の2nd ALBUM "The Arrival" をリリース。iTunes Best of 2014ではヒップホップ / ラップ部門で年間最優秀アルバムを受賞。2015年、自身2度目のワンマンを渋谷クアトロで開催しチケットは即完。また、シングル曲”RGTO”はMTV VMAJやSSTV MVAにノミネートされ、YouTubeでは200万回再生を突破するなどジャンルを問わず多くの音楽好きの間で話題となっている。

大月壮

映像作家

1977年神奈川県生まれ。独創的でぶっ飛んだ作風からマジメなクライアントワークまで柔軟にこなす映像クリエイター、ディレクター。2013年にはkinect等を用いた世界に類を見ないMC BATTLEイベントをANSWR、2.5Dと共に開発、主催。オリジナル作ではニコニコ動画から始まり文化庁メディア芸術祭入選まではたした「アホな走り集」が有名。

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editoreal

AOMORI SHOGO

ヒップホップって現代アートに通ずるものがあるのかもしれない