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  • 2023.07.21

「後悔も反省もしてない」逮捕・収監されたラッパーが放つ言葉の弾丸

『犯行声明』──NORIKIYOが逮捕された事件の顛末と最新アルバムについて、本人の口から初めて語られる。

実刑判決で収監される以前に収録された、ロングインタビューとなる。

「後悔も反省もしてない」逮捕・収監されたラッパーが放つ言葉の弾丸
膝を抱えて今うなだれる?
いや、こりゃそういう類の歌じゃねぇ
他人も運命も恨まねぇ
悲哀に浸る時間ってのはくだらねぇ
NORIKIYO「あの~」より

2022年8月、統計史上2番目の猛暑を記録した夏の日、ヘッズたちの間で「NORIKIYO逮捕」の話題が駆け巡った。かつてイリーガルなディールに手を染めていたことは知られているNORIKIYOだが、それらを過去形だと認識していたファンたちの間には困惑もあった。
 
NORIKIYOは営利目的での栽培容疑で逮捕され、乾燥大麻18.4キロ(末端価格1.1億円相当)と大麻草176本を押収されたと一部新聞社が報道した。

営利目的での栽培容疑──NORIKIYOは裁判まで、一貫して黙秘を貫いた

警察は、NORIKIYOが売買のために大量の大麻を栽培していたというストーリーをあらかじめ描き、取り調べ中も執拗に販売目的という供述を得ようとしていたという。

「ホリエモンの事件とかも国策捜査と言われましたけど、サイズは違えどこういうことがあり得るんだなって」

だが、警察は逮捕前から9ヶ月以上もの歳月をかけて内偵捜査をし、4ヶ月以上も逮捕・勾留。延べ1年を費やしたにもかかわらず、営利目的での起訴に足る証拠の一つ、NORIKIYOから大麻を購入したという人物の1人も見つけ出せなかった。

「いるわけない。売ってないんだもん(笑)」。NORIKIYOは鼻で笑う。結果として、検察は営利目的での起訴を断念。営利目的ではない栽培と所持での起訴となった。

「このままだとストーリー通りにベルトコンベアに乗せられて、何かをしゃべれば揚げ足をとられて、罪を着せられる。自分の身を守らなきゃいけないなと」

いまだに捜査機関による自白強要などによる冤罪や証拠捏造が取り沙汰される。フィクションでもしばしばモチーフとなるが、決して自分たちにも無縁なわけではない。

確かなことは、NORIKIYOが大量の大麻を栽培していたという事実だ

目次

  1. NORIKIYOを襲った病魔は、国の指定難病
  2. 治療法を探る中で、ラッパーとして出した結論
  3. 「あ、俺、ラッパーだった」極限の精神状態の獄中で思い出したこと
  4. 安倍晋三元首相銃殺事件が、NORIKIYOに筆をとらせた
  5. 不安だったのは、仲間がいなくなること
  6. 言いたいことを言う。だからせめて、ファニーに
  7. 正義とは? 自由とは? NORIKIYOが問いかけるもの
  8. 時代の犠牲になって国を呪うくらいなら──
  9. 許してくれとは思ってない。だけど
  10. ある報道について──後悔も反省もしてない。
  11. 不安はある。完璧でもない。
  12. NORIKIYOの口から出た、意外な話
  13. 「俺にはラップしかない」
  14. 6月7日追記:判決後

NORIKIYOを襲った病魔は、国の指定難病

はじめは目の違和感だった。 

「目の焦点が合わなくて。メガネが合ってないのかなと思って測りにいったら、今の検査と2分前の検査で視力が毎回違うんですよ。『さすがにおかしいよ』って言われて、そのうち瞼(まぶた)も上がらなくなってきて、あれ?って」
 
瞼が下がってくる「眼瞼下垂」かと思いネットで調べると、どうやら「重症筋無力症」であるとの見込みがついた。後になって、医師からも「重症筋無力症」と診断された。国の指定難病である。

全身の筋力低下、 易疲労性 が出現し、特に眼瞼下垂、 複視 などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型とよんでいます)。 嚥下 が上手く出来なくなる場合もあります。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともあります(重症筋無力症(指定難病11)難病情報センター) 

受容体の異常で神経と筋肉との伝達に障害が起こって筋肉がうまく動かせず、筋力の低下が起こる。遺伝性ではなく、発症原因は不明ながら患者数は年々増えている。わかっているだけで国内に2万人を超える患者が存在する。

「病気の話も、ほんとはしたくなかったんですよ。けど、もう報道もされてるし」NORIKIYOは重い口を開く。

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MV撮影に続く取材中も、NORIKIYOの左目の瞼は下がったままで、右目だけで物を見ているようだ

 
メスチノンという薬を処方された。だが量が増えるに連れ、副作用の腹痛が酷くなっていった。しかも1時間のうち半分をトイレで過ごすほどの症状だった。
 
「メスチノンを飲めば、ある程度瞼も開くんすよ。でも、トイレにほぼずっと篭らなきゃいけない。ステロイドを処方されるケースもあるけど医者から副作用でガンを誘発するリスクが高いと聞かされたので、ステロイドだけは飲みたくなくて」
 
片目が見えなくなるくらい、どうでもよかった」と悲壮な言葉も口をついて出る。
 
「片目が見えれば別にいい。けど舌の筋肉も弱ってきてて、ちょっとどもりやすくなってきたんですよ。このままラップできなくなったら、家族を養えないし、自分が楽しむ遊びもなくす。そうなると、自分がやれることってなんだろうって。ちょっと見当たらなかったんすよね」
 

治療法を探る中で、ラッパーとして出した結論

NORIKIYOは、副作用が軽く、ラップという武器を手放さないための治療法はないか調べ続けた。ある日、同じく受容体の異常で起きるパーキンソン病の患者に大麻成分を投与したところ、受容体が正常に動くようになったという論文を見つけた。
 
「俺にもいけるんじゃね?って思ったんすよ」。NORIKIYOは実に十数年か振りに、それを手にとった。
 
「昔はいくらでもあったから毎日吸って飽きちゃったんで、全然吸ってなかったんですよ。もう酒も一切飲むのをやめたし。だから久々のことで、すげえ効いて(笑)。逆に目の焦点がさらに合わなくなった」
 
むしろ逆効果だった。肩透かしを食らったNORIKIYOだったが、「でも、待てよ。論文には成分投与って書いてたな」と思い直し、大麻を直接食べたりクッキーを焼いて成分を摂取した。
 
「食べてみたら、2時間くらいゼツって。寝て起きたら瞼も上がるし、目の焦点もピシャリと合う。これでしょ!って」

昔とった杵柄──栽培とエディブルはお手のものだった。

さすがに今は少なからず俺のことを知ってる人がいるから、『すいませんNORIKIYOなんですけど、売ってください』なんていまさら言うわけにいかない。だから、自分でつくることにしたんです

こうして子供が成人するまでの約20年分の大麻を、NORIKIYOは栽培した。営利目的ではなく、あくまでも自分の健康を保つために。

「世界には、病気の進行を止めるために処方されて、普通に暮らせている人はたくさんいる。俺が栽培して、自分ために摂取しても──パクられて家族や仲間には申し訳ないけど──別に他の誰かに迷惑をかけるわけでもない」

アメリカ・イリノイ州では、重症筋無力症の患者への医療用大麻の処方が認められている。
 
日本では、大麻の所持・栽培はもちろん違法だ。だからこそ、NORIKIYOは逮捕されたのだ。

「あ、俺、ラッパーだった」極限の精神状態の獄中で思い出したこと

6月にリリースされた最新アルバム『犯行声明』。リリックの9割は留置場で、無音状態で書かれたものだ。
 

証明しようにも証拠の類なんてのは元々ねぇ
頑固すぎだよこの汚れ 全部俺だよモロそのせい
いい事などほぼほぼねぇ 蛇の道だよ今日もその上
カルマその諸々で直視できねぇ子供の目
やってきた散々 そりゃもう好き勝手ね
NORIKIYO『Prove One’s Case』より

決して綺麗な身の上ではなかった。しかし、自分がやっていないことまでやったことにされて罪を重くさせられてはたまらない。

「身に覚えのない(営利目的の栽培)容疑で起訴されそうになって。捜査機関は『お前売ってるだろ』と言ってくるわけですよ。でも、やってないことを証明するのは難しいじゃないですか。だから完全黙秘するしかなかった」

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NORIKIYOが打って出た反撃──『犯行声明』の真相