Tom 基本的にタイアップをする時は、曲をつくる前に必ず原作を読みます。やっぱり作品の世界観がわからないとダメなので。「STYX HELIX」をつくったときは、原作は3〜4巻、ちょうどアニメ前期の終わりぐらいまでは読みましたね。
Mayu 私もお話をいただいたら、毎回作品を読んで内容を把握します。ですので、私たちは作品に対するこだわりや愛情がすごい強いチームだな、と思っています。
──『Re:ゼロ』アニメはどれくらい見ていますか?
Tom&Mayu 毎週、全部見てます。
──好きなキャラはいますか?
Tom 僕は“腸狩り”のエルザが好きです。映画だと『SAW』とか『セブン』といったサスペンスものが好きなので、キャラクターも狂気的なのが好きなんでしょうね(笑)。
エルザ(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
Mayu 私は最近だとベアトリスちゃんが好きです。自分のやるべきことをきちんとわかっていて、周りの反対があったとしても自分を通すことができる。そういう芯のある強さを持った女性に惹かれます。ベアトリスちゃんは見た目もすごく可愛らしくて、そのギャップもありますし。
ベアトリス(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
──アニメ『Re:ゼロ』は今月、後期も始まりましたが、前期で印象に残ったシーンはありますか?
Tom 『Re:ゼロ』はアニメの中でも特殊なつくり方をしていて。監督さんが一話一話に100%の山場を絶対につくる方なので、すべてが衝撃的でした。ただ、小説がこういう演出や絵でアニメになるんだっていうことで、特に第1話にはみんな引きこまれたと思います。
Mayu シーンではないんですが、『Re:ゼロ』では私たちの楽曲が作品のエンディングを“彩る”というよりも、すごく“溶け込んでいる”感覚があって、それがすごく新鮮でした。普通のアニメだとエンディング用の映像に楽曲がつくんですけど、2話ではピアノのイントロからエンディングに入ったりと、5話くらいまで毎回違う楽曲の使われ方をしていて、「今回はどんな終わり方をするんだろう」って楽しみにしていました。
Tom 「STRAIGHT BET」はMYTH & ROID史上一番アニメに寄った曲で、言うなれば劇伴的な位置づけなんです。普段は曲をつくる上で(アニメの)絵コンテまで見ることはあまり多くないんですけど、その時は全部見せていただいて、そのシーンに足りないであろう部分を音楽で補った感じですね。スバルが「誰かを救いたい」と思って、テンションが上がった状態を保つシーンだったので、オープニングやエンディング曲をつくるときとは全然違いました。
「アニメの世界観は最大でも5割」という挑戦
──やはりアニメの主題歌ということになると、作品の世界観をかなり反映されているのですね。
Tom MYTH & ROIDはKADOKAWAさんで全部やらせてもらっていて、同社の音楽プロデューサーの若林豪さんに結構こと細かく言われるんですよ。「こういう世界観にしたい」とか、それこそ当たり前ですけど「売れたい」とか。僕はMYTH & ROIDのプロデューサーなので、若林さんのやりたいことと全部を揉んで形にしています。それは、『オーバーロード』の「L.L.L.」や『ブブキブランキ』の「ANGER/ANGER」も同じです。
Tom 「STYX HELIX」の主メロディーは、いわゆるヒットを狙ってるメロディーで、日本人が好きなやつなんですよ。J-POPアーティストの常套句とまでは言わないですけど、そういうものを狙って、分析して書いている。でも、その裏で鳴ってるボーカルのハモリやウーハーは民族音楽の理論を使っています。民族音楽の部分は『Re:ゼロ』の世界観が少し反映されているかな。
──Mayuさんは歌う際にTomさんからどういった指示があるのでしょうか?
Mayu 「L.L.L.」の時から、「どうすればこのサウンドに、この世界観を載せられるか」というところに関しては、毎回かなり詰めています。自分の引き出しにないようなものを創り出したり、いろんなものを引っ張ってきて融合させたりしながら…そういった試行錯誤はありますけど、最終的には「自分がこの歌になる」という感覚で歌っています。
Tom ひとつ面白かったのが、「Oh, please don't let me die」のメロディーで、最後の「die」って落ちるところはちょうどアクセントになっているので、ボーカリストは強く歌いたいところなんですよね。でも、そこを「ものすごく弱く歌ってくれ」と言ったのを覚えています。強くいくべきところをわざと全部抜いて、全体的にバランスを失わずに浮遊感が出るよう、ボーカルディレクションをしました。
──それは、楽曲の世界観を表現するために?
Tom なぜかというと、前2作が強さや激しさ、狂気を表現するために、ものすごい張り上げる系のボーカルだった。でも、「STYX HELIX」に激しさや狂気は全然ない。激しさや狂気を伴った曲に負けない歌を表現するには、Mayuが持ってる優しい部分とかデリケートな歌声の部分を出さなくてはいけなかったんです。
Mayu 邦楽に関しては、むしろ90年代〜2000年前半ものをよく聴いていました。世代的には「自分はこれが好き!」っていうジャンルが固まる前の段階だったので、良い意味で幅広くとりあえず流行りの音楽を聴いていました。『ポケットモンスター』や『デジタルモンスター』のアニメの曲だったり、当時の邦楽は今でも好きですね。なので、今回の90年代っぽいメロディーというのは、自分の中ではストンと落ちた感じはありました。
Tom 時代がR&B全盛期でもありましたね。
──実際に、CDが売れていた時代ということですよね。
Tom そうですね。特に90年代はメロディーの強い楽曲が多いので、ボーカリストのMayuはそういうものが好きなのかもしれない。
Tom 考えていません。カラオケで歌われることは色々な意味で良いことが沢山あるのですが、それは他の人がやっているし。今のアニソンの市場って、少し嫌な言い方をすると、ちょっと俗っぽくてわかりやすい音楽が売れて、アーティストのビジュアルを全面に出していて、なおかつスタイリッシュな音楽になるとなかなか売れないんです。
Tom 「STYX HELIX」からハイセンスなものが得意なデザイナーさんに変わったので、楽曲のコンセプトとアニメの世界観を知っていただいた上でつくっていただいています。あとは、「iTunes Store」とかでランキング上位に上がってきた時に、「何これ、アニメの楽曲のジャケットなの!?」っていう衝撃を与えたい。だから、もう全体的にぎゃふんと言わせたい(笑)。
Tom どっちもでしょうね。それはアニソンだけじゃなくてJ-POP全体の話で、やっぱりすでに見えている市場があるから、つくる側はエンドユーザーに向けてつくらざるを得ない。では、それを広げるためにはどうすればいいのかというのは、クリエイターみんながものすごく長い間考えていて、例えば、海外の憧れのアーティストのエッセンスを少しずつ楽曲に入れていって、「これはすごい良い音楽なんだ」というのをユーザーに伝えていく。僕たちクリエイターは、ユーザーを置いてけぼりにしないよう、階段形式でちょっとずつすごい音楽をつくっていくということをやらなくちゃいけない。「全体を壊したい」というのは、そういう意識が強いかもしれないです。
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