kz(livetune)× wowaka(ヒトリエ)対談 ロックスターの不在と音楽の行方

「ロックスター」の不在について

──先ほどの「ジャンルのフラット化」という話ともつながりますが、いわゆる「ロックスター」的存在がいなくなった現状について思うことはありますか?

kz 昔はロックスターってめっちゃいましたよね、ナンバーガールとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか。そういった圧倒的なカリスマ性を持つスターって、今もいるんですかね?

wowaka 最近だと……ONE OK ROCKとか[Alexandros]とか? でもやっぱり、とんでもない才能、とんでもないカッコよさでシーンを引っ張っていくような人たちは、そんなにいないかもしれないですね。

kz ロックというよりかは日本の音楽全体に言えることなんですが、昔はアーティストとかバンドとかに、これは圧倒的にカッコいい! みたいな憧れを持つことがあったと思うんですけど、今はどちらかというと、AKB48のように「私も(アイドルやスターに)なれるかもしれない」的な方向にシフトしていって。ロックシーンもたぶん、共感だったり身近だったりする存在の方がウケやすいのかもしれませんね。

wowaka その発端といえば、やっぱりBUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)なのかな。圧倒的なカリスマ性を持ってリスナーを扇動するというよりは、共感性というか、リスナーに寄り添うような……

kz あー、wowakaくんはバンプをそうとらえているんですね。僕にとってはカリスマなんですよ、藤原さんに相当強い憧れを持ち続けていて、だから「ray」でコラボできた時は感動でした。

BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」

wowaka もちろん、そういう側面もあるんですよ。あの人はたぶん、両方持っている。

kz 確かに! 「基央くん」って呼ぶ子もいるし、「藤原さん」とも言いたくなるし。

wowaka そういった生活に寄り添うタイプのバンドが、バンプ以降、2000年代になっていっぱい現れた。その影響が今も残っている気がするんですよね。

──そもそもリスナー自身、アーティストにスター性を求めなくなってきているということでしょうか?

kz それもすごくあると感じています。EDMが、海外と比べていまひとつ日本で流行らないのは、日本人がセレブカルチャーに対して憧れを持っていないからな気がするんですよ。

海外は、「セレブになりたい」っていう気持ちの人が多いんですよね。私たちも高いものを買いたいとか、ルブタンの靴を履きたいとか……だからあっちはスターが生まれやすいんですよね、Madonnaだったりとか。

wowakaくんの話にもつながってくるんですが、日本人は逆に、自分たちに寄りそってほしいという気持ちが強いというか、俺たちと同じ価値観でいてくれよ、みたいな。あえて悪い言い方をするなら「足の引っ張り合いの文化」だからスターが生まれにくい。

やっぱり圧倒的なスターがいて、そこに対して憧れを持つ、さらに言ってしまえば、引きずり下ろすのではなくて自分が高みに登ってあいつを倒してやる、みたいなバイタリティで駆け上がるものがないと、カルチャーとしても国としても、発展していかないと思いますね。

──kzさんはインタビューでよく「『殺気』を持っていないと上には登れない」とおっしゃっていますよね。wowakaさんはそれについてはいかがですか?

wowaka 僕も人気者に対してカウンター的なアプローチがしたいし、馴れ合いも嫌なので、切磋琢磨しあうモチベーションの中で戦っていますね。それは僕だけではなく、ロックシーン全体にあるような気がします。

だから発信する側のモチベーションは、現時点でスターが不在で、そもそも求められていない側面があったとしても、今めちゃくちゃ高いと思うんですよ。そういった状況は、さっき話したシーンの状況も含めてめちゃくちゃ健康的だなと思っていて……僕ら側としてはめっちゃ大変だけど。

個人的な話をすると、米津玄師というアーティストがいるんですが、彼とはボーカロイドで曲を発表しはじめた時期も、自分自身で歌いはじめた時期も近くて、不思議な縁を感じていて。尊敬しているし、世界の誰よりも意識しているし。自分にとって間違いなく戦友だし、敵なんですよね(笑)。

kz ですよね(笑)。一番意識せざるを得ない人みたいな、そういう人がやっぱり近くにひとりはいるべきだなと思いますよね。

ボカロ発という意味では、supercellryoさんとか、友達として仲良いけど世間的な知名度で先を行かれているSEKAI NO OWARIのFukaseくんとか。僕の周りにもそういう人がいっぱいいて、その人たちの音楽は死ぬほど好きなんですけど、本当は全部蹴落としていきたいんですよ(笑)。

でも、逆に、もし僕に憧れて音楽を志してくれる人がいるなら、僕に対しても同じように思ってほしい。「kzの曲は好きだけど、だからこそぶっ飛ばしたい」と。だから音楽って楽しいなと思うんですよね。

wowaka そういう存在が周りに増えていくと、絶対いいですよね。

kz そうですね。自分とリスナーだけでなく、その周りの人たちがいてこそシーンがつくられていくわけで。

「カッコいい音楽」と「楽しい音楽」

──最後に、今、具体的にやりたいことやビジョンなどはお持ちですか?

kz ちょっと前に「adding」っていう、ボカロではなくゲストボーカルを呼ぶ企画をやっていたんですが、それの進化版をやりたい。

ただ、日本は海外と違ってプロデューサー文化じゃないから、ボーカルがコロコロ変わると認識されにくいんです。

wowaka 歌っているボーカルの人にしか興味が向かないことが多いですよね。

kz そうそう。だから、たとえば僕とボーカルは固定したユニットで、あとは自由にメンバーを呼ぶような変則的な体制。その軸さえあれば、あとは何をやってもいいというのが打ち込みの自由度の高さですし。

もちろん、ボーカルだけじゃなくて、僕自身も矢面に立たなければいけないと思いますし……でも、僕だけだと、こういうインタビューでも真面目な話しかしないんですよね(笑)。「矢面に立たなければいけない」とか「殺気を持たなければいけない」とか延々と話してたら、小難しいやつだなって思われちゃいますよね。

だからもっと自分の楽しい部分を、アーティストとしても見せていかなければいけないなと。

wowaka それは楽しみだなー(笑)。

ヒトリエ

──wowakaさんはミニアルバムをリリースされたばかりですが、今後の目標は?

wowaka このアルバムもそうなんですが、さっき話したように享楽主義的な流れを経てマイノリティを救えるような地盤ができあがってきているし、最近はそこに対して自分や音楽を、すうっと当てはめることができるようになったんですよね。

その精度を上げていって、リスナーとの濃いコミュニケーションを取りたいと今は思っています。バンドとしての規模も上げたいけど、ちゃんとした「強さ」を持って規模を大きくしていきたいですね。

kz インディーズバンドのシーンが一時期縮小してしまったことがあったからこそ、すごく頑張ってほしいなと。

僕もロックが本当に好きなんで、僕らがナンバガとかに憧れていたような瞬間を、10代の子にも見せてあげてほしいんですよね。バンドの人たちには。

wowaka そうですね。音楽とバンドという概念と、全部をもって表現しなければいけないっていう使命感と自信みたいなものが、最近できてきたので。

kz 音楽は、色んなフックがあるけれど、カッコいいから聴く、楽しいから聴くという2種類が多いかなと思うんですよね。

wowakaくんにはカッコいい部分を見せてほしいし、僕はどちらかと言うと、ダンスミュージックというのはカッコいいというよりも、楽しい部分をシェアするということが大きいと思うので、僕はそっちのほうを頑張っていけたらいいなと。

真逆とまでは言わないけれど、そこでもとらえ方が違うというのはおもしろいと思いますね(笑)。
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kz(livetune)

音楽プロデューサー/DJ

作家kzとしてClariS、Tokyo 7th Sistersなど、数々のヒット曲を手がける一方で、複数の名義を使い分け、ZEDD、Afrojackなどの世界的なEDMアーティストを始め多数のダンスミュージックよりのRemixワークを手掛ける”テン年代”最重要クリエイターの一人である。
ソロプロジェクトlivetuneとしても活動しており、初音ミクを使用した作品を多数制作。
中でも2011年12月に “Google Chrome - 初音ミク篇 -” の為に書き下ろした「Tell Your World」は国内のみならず、全世界で話題騒然のCMとなり、現在その再生回数は1000万回を超えている。
また同名義において2014年9月にはSEKAI NO OWARIのFukase、ゴールデンボンバーの鬼龍院 翔など豪華リアルヴォーカリストを迎えたアルバム「と」をリリースし、その勢いは増すばかりである。
HP : http://livetune.jp/
twitter : https://twitter.com/#!/kz_lt

ヒトリエ

ロックバンド

ニコニコ動画で「裏表ラバーズ」、「ワールズエンド・ダンスホール」など数々のボーカロイド楽曲を生み出したwowakaを中心に結成されたロックバンド。
2015年1月には1stフルアルバム「WONDER and WONDER」を引き下げた全国ツアーを行い、ファイナルとなる赤坂BLITZはSOLD OUT。
同年7月1日ミニアルバム「モノクロノ・エントランス」をリリースし、東名阪クアトロと仙台追加公演を合わせたツアー「トーキーダンスと赤い靴」を行う。
聴く者を瞬間的に虜にするフレーズ、紡ぎ出される音と言葉は奇妙で独特な世界観を映し出す。
捻くれながらも純度の高い音楽を目指すロックバンド=ヒトリエ。よろしくどうぞ。

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