「場」を楽しむというムーブメント
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014
wowaka たしかに、フェスの「場」の楽しさに気付きはじめて興味を持つ人が増えているな、というのはここ2年ほどですごく感じますね。フェス自体も数が増えてきてきましたし。
kz 小規模なものも含めたら結構ありますよね。
wowaka そういう意味では、先ほどkzさんがおっしゃっていたクラブ的な考え方といえば考え方なんですかね。ステージに立つと、ある意味でロックもクラブシーンに近付いているのかもしれないと思います。
kz 確かにお客さんの様子を見ていると、いつもと変わらないというか。僕のことを知らなくても、かかっている曲がわからなくても、「場」をしっかり楽しんでくれる人たちがいっぱいいるなって思いますね。
ロックのお客さんって、特定のアーティストを見に来るとか、あるいは好きなジャンルのアーティストを見に来るっていう感覚でフェスに来ているのかなって思っていたんですけど、「ロッキン」(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)に連続2回出てみて、そうでもないんだと思いました。
wowaka 僕はフェスは好きで見る側としても10年くらい前から行っているんですけれど、なんか、空気がバチッと変わったような感覚があって。というのもここ数年の話だと思いますけどね。
kz フェス自体も、ロックバンド以外のアーティストを出演させたりとかもありますしね。
wowaka 僕は、本当はワンマンライブみたいなものが一番好きなんですけど。個人的に音楽でやりたいのは、あるひとりに深く突き刺さるような、そういうコミュニケーションで。
でも、そういう「濃さ」みたいなものを、こうした自由な「場」でやるのも素敵なことだと思っていて。
ちょっと前までは、そういう享楽主義的な感じって嫌だったんですけど、そこを含めて認めてあげられるような音楽をみんなに突き刺したいなというのが、最近の僕の課題ですね。
kz なんていうか、ネット文化が進んで、音楽雑誌の衰退も合わさって、音楽のジャンルはもちろん、メジャーもインディーズも、商業CDもフリーダウンロードもごっちゃになって……
wowaka リスナーが聴く音楽をフラットに選べるような環境ができてきたなと。
kz ニコニコとかもすごく自由じゃないですか。もしそうじゃなかったら、僕もwowakaくんも出てこられなかったと思うんですよね。ぽっと出の、よくわからないけど曲はいいな、みたいな人たちが。
享楽主義から多様性へ
──一方、EDMも世界中で流行を見せている中で、音楽性としてはかなり偏ってきているという議論が内部から起こっています。そういったところでも、必然的に享楽主義への偏りが出てきているのではないか思っています。kz ライブに重きを置くっていうのは、たぶんEDMが流行る前からも音楽の傾向としてあったはず。
CDが売れなくなって、ライブでグッズを売ろうっていう現場主義的な流れは、昔Madonnaがライブでめっちゃ稼いだっていうニュースあたりから目立つようになった。
それを後押ししたのが、例えば「Tomorrowland」(2005年よりベルギーで毎年開催されている、世界最大級の野外EDMフェス)みたいなEDMの超すごいステージで。そこからEDMが「場」を楽しませる舞台装置に傾倒していったような気がしますね。
Tomorrowland 2014 | official aftermovie
その場で盛り上がりを共有する感覚。それがネットの場合は今はInstagramで共有できる。だからロックの流行り方もEDMの流行り方も、根本は一緒だなってすごく思いますね。
wowaka 僕はEDMに関してはあまりわからないのでバンドの文脈でしか語れませんが、確かにロックシーンでも、いわゆる四つ打ちダンスロックみたいな、フェスで盛り上がるような音楽はひとつのトレンドとしてありますね。
でもそれに対して、そういった流れへのカウンターとまではいかないけど、最近はもう少しマニアックというか、多様性といった部分が戻ってきたかなというのも感じますね。
ジャンルというより曲自体の力が強くなってきているなと思います。そういう意味では、今は場も曲も噛み合って、ちゃんと上に登っていける状況になっていて、音楽シーンとして豊かになってきているんじゃないかな。
kz 実は、今のEDMも割と同じような状況だと思うんですよ。“強すぎる”曲が多い。「ここで飛べっ!」みたいな、盛り上がりに対する強制力が高い曲がありすぎて、みんな疲れちゃって……(笑)
ロックでも本当に盛り上がるところで、「お前ら飛べ!」みたいなバンドもあるじゃないですか。
wowaka あります、あります。
kz 今のDavid GuettaとかPorter RobinsonとかZEDDの曲づくりには、そういった「強さ」が行きすぎた結果の反動が表れている気がする。みんなで盛り上がるよりも、感情に訴えかける叙情的な側面を盛り込んだ音楽が、海外でも増えているなと。
でも、その前の享楽的なムーブメントがなければその反動も生まれなかったわけで。さっきのwowakaくんの話にもつながりますが、ひとりでボカロをやっていた瞬間がないと今につながらなかったのと一緒で、そういったムーブメントやスタンスに対する揺り戻しはあると思う。
wowaka こうして聞いていると、ロックもEDMもシーンの動きとか今起きていることとか、本当に近いというか……すごくおもしろいですね。
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kz(livetune)
音楽プロデューサー/DJ
作家kzとしてClariS、Tokyo 7th Sistersなど、数々のヒット曲を手がける一方で、複数の名義を使い分け、ZEDD、Afrojackなどの世界的なEDMアーティストを始め多数のダンスミュージックよりのRemixワークを手掛ける”テン年代”最重要クリエイターの一人である。
ソロプロジェクトlivetuneとしても活動しており、初音ミクを使用した作品を多数制作。
中でも2011年12月に “Google Chrome - 初音ミク篇 -” の為に書き下ろした「Tell Your World」は国内のみならず、全世界で話題騒然のCMとなり、現在その再生回数は1000万回を超えている。
また同名義において2014年9月にはSEKAI NO OWARIのFukase、ゴールデンボンバーの鬼龍院 翔など豪華リアルヴォーカリストを迎えたアルバム「と」をリリースし、その勢いは増すばかりである。
HP : http://livetune.jp/
twitter : https://twitter.com/#!/kz_lt
ヒトリエ
ロックバンド
ニコニコ動画で「裏表ラバーズ」、「ワールズエンド・ダンスホール」など数々のボーカロイド楽曲を生み出したwowakaを中心に結成されたロックバンド。
2015年1月には1stフルアルバム「WONDER and WONDER」を引き下げた全国ツアーを行い、ファイナルとなる赤坂BLITZはSOLD OUT。
同年7月1日ミニアルバム「モノクロノ・エントランス」をリリースし、東名阪クアトロと仙台追加公演を合わせたツアー「トーキーダンスと赤い靴」を行う。
聴く者を瞬間的に虜にするフレーズ、紡ぎ出される音と言葉は奇妙で独特な世界観を映し出す。
捻くれながらも純度の高い音楽を目指すロックバンド=ヒトリエ。よろしくどうぞ。
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