フォークと寓話、対極なボカロPの目指す先とは? sasakure.UK×ピノキオピー初対談

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「摩訶摩謌モノモノシー」と「しぼう」、それぞれに込められた意味

ピノキオピー『しぼう』通常盤ジャケット

ササクレ ピノさんのアルバムの、「しぼう」っていうタイトルがすごいですよね。やられた! と思いました。これ、「死亡」と「志望」ですよね。

ピノキオ ありがとうございます。そうですね、死生観における「死亡」と、先を見据えるという意味の「志望」。

それから、曲全体をポップなものにしようと思って、肉の美味しくてしつこい部分の「脂肪」という意味もあります。それに歳をとって自分のお腹にも最近肉がついてきましたし。

ササクレ アレンジも前作と比べて幅が広がりましたよね。使っている音とかもそう。今回のピノさんのアルバム、すごく好きなんです。一番聴いているのは「ラブ イズ オノマトペ」。あとは「たりないかぼちゃ」も好きだなぁ。

ピノキオ 嬉しいです!

ササクレ 今回のジャケットのセンスもすばらしいですが、これはイラストを担当されたおぐちさんのアイデアですか?

ピノキオ そうですね。ピンク色の爆発っていうのがおぐちさんのアイデアで、そこから話し合ってつくっていった感じです。キャラクターの"どうしてちゃん"や、"アイマイナ"などは、僕が描いたものをお渡しして、それを参考におぐちさんが描き直して現在の形になりました。色味なんかは完全におぐちさんの色ですね。

ササクレ なるほど。アルバムのコンセプトって何なんですか?

ピノキオ 今回、フォークの精神性をコンセプトにしたかったんです。フォークって、人生に踏み込んだことを歌いますよね。むしろ、フォークがギター一本で歌う理由は、それを歌詞で伝えやすくするためなんですよね。

だけどボカロってそもそも聞こえにくくても成立するものだし、動画サイトだと歌詞も出るじゃないですか(笑)。聞こえにくくても成立するなら、ボカロでフォークを表現することもできるんじゃないのかと思いまして。元々僕の作品は、全部フォークを意識しているんですが、特に今回は、アルバム全体として一貫性をもってそれを実践しています。 けど、重苦しいだけのものじゃなくて、コメディみたいな物語におけるある意味コミカルな「死」みたいなものも表現できればなと。

ササクレ フォークって言われて納得しましたよ。心情の変化を歌ったりするところは、たしかにフォークですよね。

ピノキオ ササクレさんの『摩訶摩謌モノモノシー』は、ひとつの話を風景やストーリーを通じて語るコンセプチュアルなアルバムですよね。作品としての強度がすごく高いなと思いました。

ササクレ 作品としての強度が高いって、初めて言われましたよ(笑)。

ピノキオ インスト曲とか、ゲーム音楽として流れていてもおかしくないですもん。「ネコソギマターバップ feat. 重音テト」のメロディーが特に好きです。この曲のコンセプトはどんな話なんですか?

ササクレ 猫又の女の子が人間界で暮らすとき、どうやって適応するのか、その大変さみたいなものをコンセプトにおいています。全体の世界観としては、中学生たちが住む町で起こる不思議なお話なんです。

今まで僕の楽曲は時系列に沿って動いていくことが多かったのですが、今回はひとつの大きな背景をつくって、それに登場する人物ごとの大きなコンセプトアルバムにしようと思ったんです。オムニバス的な形式ですね。今回はその1作目という位置付けです。最初に町の地図もつくったりして、大変だったんですよ(笑)。

ピノキオ その地図、ぜひ見たいです。

ササクレ 機会があればどこかで公開したいですね。

今回、新しい挑戦ではあるんですけど、「人と人にあらざるもの」というモチーフはこれまでと同じですね。それらの共存や、人にあらざるものとどう接するか、という。

ピノキオ 気になったのが「トドノツマリ様 feat. lasah」だったんですが、明らかに人間的な言葉ではない曲だけを人間が歌っているという。この言葉って何なんですか?

ササクレ 造語ですね。ブックレットに掲載している自作の人工言語に対応していて、特定の法則で翻訳するとちゃんと日本語になるんです。

ピノキオ あ、そうなんですね。どういうことだろうと思って気になってました(笑)! 他の日本語の曲はボカロが歌うのに、造語を歌うのは人間というところが面白いですね。

──『摩訶摩謌モノモノシー』のアートワークは、いつもササクレさんとコンビを組まれている茶ころさんではなく、佐藤おどりさんとにほへさんが手がけられていますよね。

ササクレ そうなんです。茶ころさんは絵画というよりはアート的な作風なんですが、今回はコミックよりなテイストにしたかったんです。そこで新しい方々とご一緒することになりました。佐藤おどりさんもにほへさんも、すばらしいイラストを描いていただけました。

ニコ動とボカロシーンは昔に戻りつつある

sasakure.UK『摩訶摩謌モノモノシー』ジャケット

──ササクレさんもピノキオピーさんご自身も、イラストを描かれますよね。

ササクレ 僕の場合は子どもの頃からイラストを描くのが好きだったので、ものづくりの延長という感じです。

ピノキオ 僕はマンガを描こうと思っていた時期があったんですよ。ボカロを投稿するのに動画だと絵が必要じゃないですか。そのときに誰かの絵を借りなくて済むのが楽だなと思って、自分で描いていました(笑)。ネット上の知らない誰かに関わるの、怖すぎますからね!

ササクレ それは自分も思いましたね(笑)。

──そういえば、ボカロ初期の頃は、初音ミクの公式イラストを一枚貼り付けただけの動画が多かったですよね。

ササクレ ああ、たしかにそうでした。懐かしい!

──その後、どんどんオリジナルのイラストやPVが付き始めて。

ササクレ やはり動画サイトですし、絵が動く方が人の目をひけますから、オリジナルかつクオリティの高いPVを付けるようになったという流れですよね。

ピノキオ CDのパッケージと同じですよね。動画のサムネイルも同じで、地味だとそれだけで見てもらえなかったりします。

ササクレ うん、サムネイルで変わりますよね。

ピノキオ 動画を見る時間って限られていますからね。全部を聴いてやろうっていうのは大半の人は無理ですし。見る動画を選ぶ基準になりますから、もちろん楽曲が主役ですが、サムネイルも大事です。 ──初期の頃から活躍されているお二人ですが、現在のニコ動におけるボカロシーンをどうご覧になっていますか?

ササクレ 昔と比べて、流れが変わってきた感じはありますね。全体の方向性も、視聴者も変わってきた気がします。前は見ていたけど、今は見てないという人もいるし、小学生や中学生も増えてきている気がします。コメントの内容やヒットする動画の傾向からそれを感じますね。

ピノキオ ボカロ曲も初期の頃はフラットな感じの曲が多かったのですが、どんどんユーザーが過激でメロディックなものを求めるようになっていきました。だけど、今はまた昔に戻りつつある気がしています。

それこそ、さっき一枚絵の話をしましたが、今はPVがついていない一枚絵の動画でも、曲が良ければユーザーは聴いてくれるんですよね。ああ、これ昔のニコ動っぽい! って思います。一時期はこうしたら目立てる! っていうセオリーがあったと思うのですが、今はぼやけてきてますね。そっちの方が楽しくて良い気がします。

──最後に、お二人の今後の展望について教えてください。

ササクレ 自分は今回のストーリーを他の形でもアウトプットできたらいいなと思っています。イラストを描いたり、文章を描いたり、またストーリーに付随する新たな曲もつくっていきたいですね。

ピノキオ 僕は、ネットで活動することって、殻に閉じこもったまま外に出られることだと思っているんですね。だけど、もう少し殻から出てもいいかなと思っています。具体的には、外でライブをやってみたいですね。

ササクレ セオリーがわからない時代になったという話もありましたが、自分らしい音や歌詞、作風は大切にしてきたいですね。

ピノキオ そうですね。自分らしさに嘘をつかないように活動していきたいです。

関連商品

しぼう(初回生産限定盤)(DVD付)

ピノキオピー

発売 : 2014年12月3日

価格 : 3,500円(税込み)

発売元 : U/M/A/A Inc.

関連商品

摩訶摩謌モノモノシー

sasakure.UK

発売 : 2014年12月17日

価格 : 2,160円(税込み)

発売元 : U/M/A/A Inc.

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ボーカロイドプロデューサー

作詞・作曲・編曲の全てをこなすサウンド・プロデューサー。

幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に、学生時代は男性合唱、文学作品に多大な影響を受け、その後、独学で音楽制作を始める。寓話のように物語の中に織り込められたメッセージ性を持つ歌詞と、緻密に構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。音楽のみならず映像やデザインも手掛けるマルチな才能が様々なクリエイターから高く評価されている。

アーティスト公式サイト:http://sasakuration.com/
Twitter:https://twitter.com/sasakure__UK
Facebook:http://www.facebook.com/sasakureUK.Official/

ピノキオピー

ボーカロイドプロデューサー

2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表をはじめ、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル曲をコンスタントに発表しつつ、コラボレーションや自身で行うニコニコ生放送なども積極的に行う。作風は、お祭りどんちゃん盆踊り型ダンスミュージックから、しっぽり都市近郊型ノスタルジックフォークトロニカ、屈折したセンセーショナル青色ロックまでと、幅広いサウンドを発信する。また、作曲活動のみならず 動画内のイラストや漫画の執筆、様々な商品プロデュース等のクリエイティブワークも手掛けるサウンドクリエイター。

公式サイト:http://pinocchiop.jimdo.com/
Twitter:https://twitter.com/pinocchiop
pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=1746464

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