ホラーはジャンルとして定着「みんなで健康にやっていきたい」
──たしかに昔から人間は恐怖に惹かれていますが、一方で、本来はかなりニッチな感情でもあると思います。しかし近年、展覧会「恐怖心展」が約13万人を動員し、書籍では雨穴さんや背筋さんの作品がベストセラーに。ここまでホラーというジャンルがブームとなっている現状を、どのように受け止めていらっしゃいますか?
大森時生 正直、ブーム自体は少し落ち着いた感じがするなとは思っていますが、一ジャンルとしての定着度は圧倒的に上がった感じがしています。それこそ考察文化やいわゆる謎解き、マーダーミステリーのようなものが流行る中で、ホラーの要素がさまざまなエンタメに合流していった印象があります。
では、なぜホラーというニッチなジャンルがここまで受容されるようになったのかを考えると──やっぱり日本全体の不景気というか、生きていることに不安を抱える時代になっていることが背景にはあるのかな、と思います。
コロナ禍にかけて、じりじりと日本が終わっていっているような不安な時期が、作品としてのホラーと一番マッチしていたというか。逆に、現実の不安が戦争のようなレベルまで大きくなると、コンテンツとしての不安やホラーは弱いものに見えてしまうとも思います。
とはいえ、ホラーブームが生まれたことについては、たぶんそんなに面白い理由ではないとも思っていて。雨穴さんや背筋さんのような方々の書籍が大ヒットして、企業がこぞって「ここにビジネスチャンスがあるぞ」となっただけ、というのが本当のところだと思います。つまり、ブームというより作品数が増えたということですね。
──大森さんや酒井さんは間違いなくブームの中心で活躍される方々ですが、かなりフラットに現状を俯瞰されている印象があります。つくり手の立場から、ホラージャンル全体を盛り上げようというような意識があまりないというか……。
大森時生 本当にまったくない……と言ってしまうとあれですけど、「ここから一時代をつくりましょう」とか、「ホラー第三世代でやっていきましょう」みたいなことは、全然思っていないですね。ただ、ホラージャンルに知り合いは多いので、みんなで健康にやっていきたいな、というくらいですかね。
酒井善三 僕もまったく同じ気持ちですね(笑)。正直に言うと、僕自身はあまり社会に接続している人間ではないので、ホラーブームという現象自体がよくわからない。一部の人が盛り上がっているだけ、というパターンもあると思うので。
ただ、いろいろと文献を読むと、Jホラーが流行る以前は、ホラージャンルそのものにある種の偏見が持たれていたという話もあります。そういう偏見のない時代でホラーをつくれることは、つくり手としては嬉しいことだと、呑気な気持ちで見ています。
『遺愛』は10人が観て全員が良いと言う作品ではないけど……
──今作は、ロッテルダム国際映画祭でのプレミア上映をはじめ、国際的な場でも広がっていく可能性があるようにも思います。今後、『遺愛』という作品がどう受け取られ、どのように広がってほしいと思いますか?
酒井善三 つくり手として、10人が観て10人が良いと言うものをつくったとは思っていないので、そのうち2人ぐらいに刺されば嬉しいですね。
ただ、観てくれた人が多ければ分母が大きくなって、その2人があたかも大多数のように見えてくる。それが呼び水になり、また多くの人が騙されて観てくれるんじゃないかと(笑)。
それが、僕の中では一番理想的な広がり方かなと思っています。とにかく20パーセントぐらいの人に刺さってほしい、嘘でも刺さったと言ってほしいですね。
大森時生 率直に、僕は観客として『遺愛』という作品を面白いと思っています。もちろん全員が全員、面白いと思うかどうかはわかりません。ホラー的な要素やストーリーの嫌さもそうですし、そもそも物語の構造や演出も結構変な映画ですし。
でも、そこが面白いとも思っています。不安さだったり、嫌さだったり、酒井さんの演出だったり、そういう要素に共感してくれる人、いいなと思ってくれる人がいて、「これは絶対に観たほうがいいよ」と言ってくれる声が、一つでも増えてほしいと願っています。
©︎2026「遺愛」製作委員会
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作品情報
遺愛
- 公開日
- 2026年6月19日(金)
- 監督
- 酒井善三
- 企画プロデュース
- 大森時生(テレビ東京)
- プロデューサー
- 藤山晃太郎(テレビ東京) 鈴木祐介(ライツキューブ) 百々保之(DrunkenBird)
- 主演
- 山下リオ
- 出演
- 小川あん 藤井京子 / マキタスポーツ
- 製作委員会
- 「遺愛」製作委員会(テレビ東京 ライツキューブ)
- 制作プロダクション
- DrunkenBird
- 配給
- ライツキューブ
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