「CUE」尾形凌 × 真田将太朗
「cue」とは、きっかけを表す単語である。合図でもあり、何かが始まる直前に差し出される微かな兆候でもある。まだ十分には姿を持たないものが、これから現れようとするとき、世界はただ“そこにあるもの”から、“こちらへ立ち上がってくるもの”へと変わる。二人の画家、真田将太朗と尾形凌による本展「CUE」は、その立ち上がりの瞬間をめぐる展示である。
真田が描く風景は、景色の輪郭を写し取るものではない。そこには、風景が風景として成立するまでの時間、その場に立つ身体、そして身体を地上へつなぎとめる重力が抽象的に織り込まれている。反復される垂直の筆致は、単なる形式ではなく、見ることの持続そのものの痕跡である。
一方、尾形が描く妖怪は、現実から遠い空想上の存在ではない。人の内側に沈んだ感情、都市に漂う違和感、社会の歪みや滑稽さが、ようやく像を持ちはじめた姿である。可視と不可視、人と異形の境界は彼の画面の中でゆるやかに混ざり合い、見えないものを描くことで、むしろ「人間」という存在の輪郭を揺さぶっていく。
この二人が並ぶとき、「CUE」は単なる展示タイトルを超えて、一つの態度を示す言葉になる。真田は目に見える風景を、無意識に成立させる時間と重力に焦点を置き、尾形は見えない存在を描くことを通して現実の輪郭を再発見する。方向は異なっていても、両者はともに、世界がこちらに姿を見せる“きっかけ”の層に触れている。
2020年に東京藝術大学へ入学し、コロナ禍のただ中で学び、2024年に卒業した同期である二人にとって、生業として獲得するべき表現の世界は、最初から確かなものとして開かれていたわけではなかったのかもしれない。距離、遮蔽、画面越しの知覚。そうした時代をくぐったからこそ、目の前のものの奥に潜む気配や、まだ像になりきらないものへの感受性が研ぎ澄まされたともいえる。本展「CUE」は、見えるものが見えないものを呼び起こし、見えないものが現実の輪郭を照らす、その最初に触れる試みである。
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イベント情報
尾形凌×真田将太朗「CUE」
- 日程
- 2026年4月15日(水)〜5月9日(土)
- 時間
- 18:00-24:00
- 会場
- WALL_alternative(東京都港区西麻布4-2-4 1F)
- 入場
- 無料・予約不要
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