細やかで複雑な内面と感情の動きを、アニメーションで表現
涙が出たら悲しい、怒りの漫符(漫画などに見られる記号表現)が出たら怒っている──これらはもちろん感情を表現するにあたって大切な要素ですが、あくまでそれは記号です。
『My Melody & Kuromi』では、そういう記号的な表現を使ってキャラクターを描き分けるのではなく、それぞれのキャラクター性の違いによって生じる、細やかで複雑な内面と感情の動きを、アニメーションとして意識的に盛り込むことで描き分けています。
マイメロののんびりとしたマイペースな動きと、クロミのテキパキしたコミカルな動きを比較してみるとわかりやすいでしょう。
記号による感情表現は、「おねがいマイメロディ」の時点で、ギャグアニメとしてすでに一つの到達点を迎えていました。
そうなってくると、マイメロとクロミを題材にした、新たな(一面を見せる)物語を紡ぐために、従来の作品では重視されてこなかったアニメーションに着目するのは、唯一であり最適な判断だったのではないでしょうか。
ギャグ/怖さ/かわいいの共存──森脇真琴監督と見里朝希監督の共鳴
また、見里監督が学生時代に手がけた『マイリトルゴート』の毒っ気が存分に活かされているのも大きなポイントです。
旧来の作品ではあまり見られなかったマイメロの不穏な心情を表すシーンの完成度の高さは、同作から来ていると思うとかなり納得できます。ストップモーションアニメ特有のセット組と撮影方法は、ダイナミックな感情表現に効果を発揮しています。
そしてなにより、「メルヘンの中にある恐怖を描く」という手法が森脇監督と見里監督で一致していたのも、この大胆な表現に疑問を持つことなく観ることのできた大きな要因の一つでしょう。
森脇監督は2019年の「第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」で開催された「おねがいマイメロディ」に関するトークショーで、以下のように発言していました(外部リンク)。
「メルヘンって割と怖い要素が入っているものですから、混ざりやすいんだと思います。でも今日観ていて、ギャグと怖さと『かわいい』が入っている作品は、そういえば当時はなかったのかなって思いました」
森脇監督の言う通り、「おねがいマイメロディ」の魅力は、メルヘンな世界がつくり出すギャグ/怖さ/かわいいの3つの共存でした。この共存があったからこそ「サンリオキャラクター大賞」で上位常連になるほど愛される、マイメロとクロミのキャラクター性が生まれたのではないでしょうか。
今までの説明を読めば『My Melody & Kuromi』にもギャグ/怖さ/かわいいの要素がしっかりと反映されているとわかるはずです。
「おねがいマイメロディ」や今までのサンリオが積み上げた要素を真正面から継承し、アニメーションの力で最大出力で表現する──だからこそ、『My Melody & Kuromi』で20年ぶりに描かれたマイメロとクロミの新たな物語や関係性は、多くの人々に感動を与えているのです。
『My Melody & Kuromi』場面画像
ⓒ SANRIO CO., LTD.

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