一人ひとりが“主役”を体現 劇団「ザ・オカムラ座」が大阪万博で問うた理想の働き方

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須賀原みち
一人ひとりが“主役”を体現 劇団「ザ・オカムラ座」が大阪万博で問うた理想の働き方
一人ひとりが“主役”を体現 劇団「ザ・オカムラ座」が大阪万博で問うた理想の働き方

ザ・オカムラ座の演劇『12人のとびだす会社員』公演より/写真はKAI-YOU編集部撮影

現在開催中の2025年日本国際博覧会(EXPO 2025 大阪・関西万博)。

4月26日には、同万博内ポップアップステージにて、オフィス家具だけでなく店舗の企画から空間デザインまで多様な働く環境づくりを手がける株式会社オカムラによる劇団「ザ・オカムラ座」が上演されました。

「ザ・オカムラ座」は、オカムラ社員100名以上が応募した社内公募から選ばれた、全員がオカムラ社員の劇団で、大阪・関西万博に向けて結成。演目『12人のとびだす会社員』では、それぞれが自分役として舞台に立ちます。万博という場を踏まえ、セリフのないノンバーバル演劇に挑戦しました。

劇団「ザ・オカムラ座」

脚本/演出は、YouTubeショートアニメ『HELLO OSAKA』やテレビドラマ『あいつが上手で下手が僕で』(日本テレビ)などを手がけるヨーロッパ企画の左子光晴さんが担当しました。

上演直前、春にしては強い日差しの中、大屋根リングを降りてすぐ、アメリカやフランスのパビリオンの前に位置するポップアップステージの周囲には大勢の人だかりが。

関係者だけでなく、行き交う多くの人々も、これから何がはじまるのかと、万博の高揚感とともに期待と好奇心が入り混じった表情でステージを見つめます。イントロダクションを経て、いざ開演です。

取材・文:須賀原みち 編集:アシュトン

“十二人十二様”のオカムラ現役社員が出演する演目

『12人のとびだす会社員』は全3ステージ、各ステージ3幕構成となっており、第1幕はロボットのように仕事をする会社員の姿が表現されます。インダストリアルなサウンドに合わせて、モノクロトーンのスーツに身を包んだ社員たちは日々の業務を淡々とこなします。

それぞれの動きは異なるものの、硬質な音に合わせることで一種の管理社会を彷彿とさせます。印象的な劇中音楽を手がけるのは、豊田奈千甫さん。音楽家として、ボアダムスやROVOの山本精一さん、音楽プロデューサー・中尾憲太郎さんとも共演経験を持つ実力派です。

型にはまった労働に徐々に疲弊していく様子

終業時間を告げるチャイムが鳴り響くと、社員の振る舞いと音楽は一転してリラックスしたものに。自宅でくつろいだり、家族と共に過ごしたり、趣味に没頭したり.....。しかし、再びチャイムがなると皆は機械的に仕事をはじめ、一幕の中に緊張と緩和を織り込みながら、息苦しい(けれど、どこか心当たりがあるような)働き方を表現します。

こうした働き方を続けるうちに、社員たちの周りには赤い紙テープが張り巡らされ、がんじがらめとなっていきます。あわや身動きが取れなくなりそうなところで、社員たちは紙テープを引きちぎり、舞台は第2幕へ。

赤い紙テープで徐々に締め付けられていく社員たち

第2幕では、それまで無機質に働いていた社員がそれぞれに自分たちらしさや個性を爆発させます。1ステージにつき4人(全3ステージで12人)が自分の特性や趣味、生き方や理想を踏まえた“理想の働き方”へと変身します。

例えば、ラップ好きの営業・廣江建太朗さんは、ラッパーに扮してラップを披露。店舗デザインの角井彩奈さんは、アイドルに憧れるも表舞台を断念した経験をバネに、大勢の観客を前に堂々とアイドルの振る舞いを見せます。

ラップを披露する廣江さん

アイドル衣装に身を包みパフォーマンスする角井さん

「周囲をゆるく巻き込むもっふんロールな生き方を実践する」と、全身にもふもふをまとって観る者に笑いと少しの当惑を届けたのは、情報システム部につとめる大塚拓海さん。

全身にもふもふをまとった大塚さん

ほかにも、「日本の古い慣習を壊すような新しいスタイルを提示したい」「海外ドラマの主人公のように、自分を持った強い女性になりたい」「誰かの心の支えとなるヒーローになりたい」「ザクのように宇宙で仕事をしてみたい」など、それぞれの理想像が十二人十二様で表現されます。

そして第3幕では、自分なりの理想を体現した12人の社員が、揃って生き生きとしたダンスパフォーマンスで躍動。アッパーなサウンドも相まって、会場全体からは手拍子が沸き起こり、一体感の中で大きな盛り上がりを見せるのでした。

晴天の屋外会場で踊る12名の社員たち

上演直後、オカムラ社員が手応えを語る

こうして、約1時間の昼公演を盛況で終えた「ザ・オカムラ座」。上演直後、演者は次のように振り返ります。

コンテンポラリーダンスを披露する中山さん

オフィス環境事業本部 営業 中山裕士さん

「業務でパフォーマンスするなんてやったこともないし、何をやるのかもわからないところからのスタートでしたが、いろいろな人にアドバイスをもらって公演を実現できました。多くのお客さんがいるのを見て緊張もしましたが、全力で楽しくやれば伝わると思ってやり切りました。一つのものに向かっていろんな人が熱意を持って取り組む結果を身を持って感じられて、この企画に参加できて良かったです」

田村結さんは、第一言語が手話のろう者です。自身が登場する第2幕では、聞こえる人/聞こえない人の境目がない職場を提示したいと、全身で表現。音楽が聞こえずにリズムを取るのは難しいものの、舞台下スタッフがカウントする指に合わせて、他の演者と息の合ったパフォーマンスを見せました。

プラカードで意思疎通が叶い、喜ぶ田村さん

商環境事業本部 エンジニアリング部 業務担当 田村結さん

「カウントを見ながらも目線は前を向くよう、しっかりと自分の踊りを体に身につけて頑張りました。ダンス自体、まったくはじめての経験でしたが、体を動かすのは楽しく、皆さんが見てくれて嬉しかったです。今回の劇を成功させたことは、自信にもなります。これからも自分がろう者であることに誇りを持って、仕事に取り組んでいきたいです」

大阪・関西万博だからこそ伝えるべき「理想の働き方」

大手家具メーカーのオカムラが万博で演劇を披露した背景には、同社が掲げるパーパス(目標)「人が活きる社会の実現」を踏まえ、「オカムラの社員一人ひとりが"主役"として、ありたい自分を本気で演じてみること」を目指したそう。

練習期間は約3ヶ月、就業時間内に設けられた3回の全体練習に加え、演者同士の自主練習を通じて完成度を上げていき、ダンス経験のあるメンバーがほかの演者に教えるような形で部署や立場を超えて、「ザ・オカムラ座」を成功へと導きました。

企業が実現を目指す想いや社員個人の理想の働き方は、一見すると高尚であったり夢物語のように思えて、日常の業務をする上で具体化する機会が訪れることはめったにありません。

目の前の仕事に忙殺され、未来のことを考えられない人も多いはず。だからこそオカムラは、大阪・関西万博という場で、未来に向けた理想の働き方をエンターテインメントの形で伝えようとしたのでした。

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