Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MVが公開停止 歴史や人種への無自覚さが問題に

Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MVが公開停止 歴史や人種への無自覚さが問題に
Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MVが公開停止 歴史や人種への無自覚さが問題に

「コロンブス」MV/出典:画像はYouTubeのスクリーンショット(現在は非公開)

ロックバンド・Mrs. GREEN APPLEが6月12日、最新曲「コロンブス」のMVを公開した。

この内容に、公開直後から批判が殺到。翌日13日には、「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた」として公開が停止する騒動となった。

なお、この楽曲はコカ・コーラCoke STUDIOのキャンペーンソング。TVCMソングにも採用されている楽曲MVの、何が問題だったのか。

ミセスのメンバーが扮装し、類人猿と交流する「コロンブス」のMV

「コロンブス」のMVでは、ボーカルギターの大森元貴さんがコロンブス、ギターの若井滉斗さんがナポレオン、キーボードの藤澤涼架さんがベートーヴェンとして登場。

「コロンブス」MVよりキャプチャ/出典:画像はYouTubeのキャプチャ(現在は非公開)

MVは、海に浮かぶ孤島の邸宅を訪れた3人が、そこで類人猿に出会うシーンからスタートする。

MVを通じて類人猿たちとの交流が描かれるという内容で、ユニバーサルミュージックからのプレスリリースでは以下のように説明されていた。

MVでは大森元貴 (Vo/Gt)がコロンブス、若井滉斗 (Gt)がナポレオン、そして藤澤涼架 (Key)がベートーヴェンといった時代ごとに名を馳せた偉人たちに成り切り、もしも生きた時代の異なる偉人たちが一緒に旅をしたら?という想像の物語が描かれていく。その道中で500万年以上もの時を越えて出くわした類人猿たちとのホームパーティーが始まるというもの。

時代とともに移り変わったコロンブスの評価

冒頭のこの描写からも、いくつかの問題点が指摘できる。

まず、楽曲タイトルにもなっているクリストファー・コロンブスは15世紀、大航海時代にアメリカ大陸を発見した探検家として知られていた人物だ。

一方で現在では、アメリカ大陸はコロンブスが発見するまでもなく先住民が居住しており、その発見をことさら開拓精神の象徴や美談として強調するのは、非常に偏った西欧中心的な歴史観であるという批判も強い。

アメリカ大陸での虐殺行為や奴隷商人としての側面に重点を置き、その後に続く植民地支配のきっかけでもあり、決して偉人とは呼べない人物との見方や評価も少なくない。

なお、このようなコロンブスの評価は、近年のポップカルチャー領域でも実際に作品に落とし込まれている。

例えば『Fate/Grand Order』に登場するコロンブスは、ステレオタイプな勇敢な探検家ではなく、残忍な奴隷商人としての側面を大きく取り入れたキャラクターデザインだと言えるだろう。

際立つ「ヨーロッパの偉人」とそれ以外という対比

MVに登場するコロンブス以外にも、ナポレオンやベートーヴェンも、ヨーロッパ出身の人物。こうした西洋の歴史的な人物たちが、類人猿に人力車を引かせ、楽器の演奏や馬の乗り方を指導する

音楽を指導する様子/出典:画像はYouTubeのキャプチャ(現在は非公開)

MVやプレスリリースからは、類人猿のモチーフ自体に未文明的な存在という以上の意味──例えば、それが実在した先住民たちを指すような歴史的な意図が込められている、と言い切るのは難しい。

しかし、そうした意図の薄さや屈託の無さこそが、「ヨーロッパの偉人」と、それ以外の未文明な存在という対比を際立たせている。

人力車を引かせる様子/出典:画像はYouTubeのキャプチャ(現在は非公開)

「コロンブス」のMVは、西欧がその他を支配するという西欧中心主義、植民地主義を無自覚に肯定する作品であると言っていい。

MVに合わせて(地理的に東洋であるはずの)日本のバンドメンバーが歌うポップなメロディーが流れる様子は、とても衝撃的ですらある。

ユニバーサルミュージックが声明を発表

YouTubeのクレジットでは、Planning Directorとして大森元貴さんの名前が表記されていた。

ユニバーサル ミュージックは6月13日午後、批判の高まりを受けてか、Mrs. GREEN APPLEの公式サイトで「コロンブス」のMVの公開停止を発表した。

発表ではEMI Recordsと所属事務所Project-MGAで制作されたと説明(外部リンク)。

「今後はこのような事態を招くことのないよう細心の注意を払い、皆様にお楽しみいただける作品をお届けしてまいります」と締めくくられている。

6月13日17時27分追記:ミセスのボーカルギター大森元貴も謝罪を発表

6月13日夕方頃、Mrs. GREEN APPLEの公式サイトが更新。ボーカルギター・大森元貴さんがMVに関して謝罪し、内容に関する当初の構想など経緯を説明した(外部リンク)。

それによると、当初は「年代別の歴史上の人物」「類人猿」「ホームパーティー」「楽しげなMV」といった主なキーワードを、MVの初期構想として提案したという。

その上で「類人猿が登場することに関しては、差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりましたが、類人猿を人に見立てたなどの意図は全く無く、ただただ年代の異なる生命がホームパーティーをするというイメージをしておりました」と釈明した。

意図とは異なる伝わり方への懸念はあったものの、「スタッフと確認し合い、事前に特殊メイクのニュアンス、衣装、演じ方のフォロー、監修をしていたつもり」だったとしつつ、「そもそもの大きな題材として不快な思いをされた方に深くお詫び申し上げます」と謝罪している。

Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 コメント全文

Mrs. GREEN APPLE 「コロンブス」ミュージックビデオについて

「コロンブス」のMusic Videoを制作するにあたり、
・年代別の歴史上の人物
・類人猿
・ホームパーティー
・楽しげなMV
という主なキーワードを、初期構想として提案しました。
類人猿が登場することに関しては、差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりましたが、類人猿を人に見立てたなどの意図は全く無く、ただただ年代の異なる生命がホームパーティーをするというイメージをしておりました。

しかしながら、意図とは異なる伝わり方もするかもしれないと思い、スタッフと確認し合い、事前に特殊メイクのニュアンス、衣装、演じ方のフォロー、監修をしていたつもりではおりましたが、そもそもの大きな題材として不快な思いをされた方に深くお詫び申し上げます。

決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでしたが、上記のキーワードが意図と異なる形で線で繋がった時に何を連想させるのか、あらゆる可能性を指摘して別軸の案まで至らなかった我々の配慮不足が何よりの原因です。

「コロンブスの卵」というキーワードから制作に取り掛かり、前向きにワクワクできる映像にしたいという気持ちが、リスクへの配慮をあやふやにし、影響を及ぼしてしまったと認識しております。

こちらの意図する物語の展開としては、歴史的時間軸は存在せず、類人猿も人の祖先として描きたかった。そして時間の垣根を越えてホームパーティーをする。
これはあり得ない話であり、あくまでフィクションとしての映像作品であると。
ただ、ある事象を、歴史を彷彿とさせてしまうMVであったというご指摘を真摯に受け止め猛省しております。

この度は本当に申し訳ございませんでした。
以後このようなことが無いよう、細心の注意を払い、表現することに対して誠実に、精進してまいりたいと存じます


Mrs. GREEN APPLE 大森元貴

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