ダズビー『orbit』レビュー 感情を学ぶ少女の星、めぐりめぐる恋の軌道

物語の在り処──『orbit』における寄りから引きへの転換

アルバムに一貫したストーリーやナラティブ(語り)が必須なわけではない。しかし同時に、楽曲たちがアルバムという形で集う際、私たちはそれを全体的に読み解く必要がある

声の在り処」はダズビーさんのメジャーデビュー曲であるものの、『orbit』においては異質な曲でもある。「恋愛のネガティブな一面」というアルバムのテーマと、「打ち込み音楽」という形式的なテーマから離れるからだ。
DAZBEE(ダズビー) | ‘声の在り処 (Koeno Arika)’ M/V
リアルセッションで華やかなジャムを奏でるスウィングなジャズ・ポップが用いられて、舞台はとある星のパレードに変わる。詩のごとく簡潔に整った歌詞の「hikari」も、少女の星を牧歌的に描写し、舞台を静かに宇宙へぐんと広げる。この転換はなんだろう。

(デビュー曲である)「声の在り処」は旅路の始まりを知らせる曲です。作詞にも直接参加して、今まで言いたかったことや、これからの抱負を入れました。

ここではダズビーさんの作品群が、星・少女・図書館を媒介にした、同じ世界観を共有していることに注目しなければならない。

『orbit』通常盤イラスト

「声の在り処」は、彼女が披露する物語の始まりとなる、いわば“世界観”のベース(base)である。今まで積み上げてきて、そしてこれから繰り広げていくだろう物語の核心を思い切り詰めている。

ダズビーさんの“世界観”は、YouTubeでカバー曲をメインに活動していた頃からも確立されてきた。元の曲をダズビーさんなりに解釈し、それをビジュアルワークなどで示してきた。

ビジュアルワークで物語を繋いできた法則を踏まえると、「声の在り処」のミュージックビデオを含め、『orbit』のカバーイラストまで、図書館という空間が提示されていることは重要だ。

全ての曲は、人間の感情が書かれた図書館の本であって、少女はそれを読みながら人間のいろんな感情を学んでいくのです。

「声の在り処」は、アルバムの後半部から物語たちを眺めるように配置されている。すると『orbit』は、これまで記された物語が、一冊一冊の本に収束する構造として捉えられる。とある少女の、孤独で不思議な星にポツンと建てられた、図書館の中に所蔵された物語たち。

とある孤独な星に、森羅万象が記された図書館をかけまわる、少女の名前はダズビー。孤独な星の住人は、書架の間にうずくまって、人間の感情を学んでいく──。

それは底に落ちそうで満たされない渇いた感情かもしれない。しかし、その感情を、本を通して学ぶ少女にとっては、新たに生まれる感情を最後の曲の通り「イビツナコトバ」であったとしても伝えられるように、成長する糧となっていく

悲しい恋の歌に自己を投影していただろうリスナーは、いつの間にかそれらをストーリーとして読む側の立場に変わっている。本の登場人物の視点から、本の読者である自分視点に変わる、つまり星の住人たちを眺める星の立場に変わるのである。

感情の細かな揺れを通して、若く年相応の恋愛に歩み寄り、それを構図ごと引くことで、リスナーの立ち位置を鮮やかに切り替え、一連のオムニバスを束ねる効果を持つ。

曲ごとに共感させる感動と、アルバム全体における重みのある感動を同時にもたらせるのだ。

アルバムタイトルの通り、軌道をめぐれば、夏も冬もやってくるように。

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