ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談

パーカッシブな歌が多いボカロ曲──なぜ音ゲーとボカロは交わったのか

──cosMoさんの楽曲をはじめ、ボカロ曲と音ゲーの曲には、テンポの速さなど共通点が多いように感じます。ボカロ曲と音ゲーの相性の良さについてはどう感じますか?

cosMo@暴走P ボカロ曲は、テンポが比較的早くてパーカッシブな歌詞も多いので、音ゲー向きだと思います。

光吉猛修 歌だけど、パーカッション的なアプローチができるから、音ゲーとの親和性が高いのかもしれません。ボーカロイドを楽器として見れば、その声に合わせてゲームの譜面上にノーツを設定できるじゃないですか

曲調だけでなく、ゲームの機能的な観点からみても、音ゲーとボカロ曲はかなり相性が良いと思います。

──光吉猛修さんは1990年にセガ・エンタープライゼス(現セガ)に入社以降、主にゲーム音楽の作曲家として活動されていますが、音ゲー文化の変遷は感じていますか?

光吉猛修 めちゃくちゃ感じています。ジャンルやメロディなどの主流も大きく変わっていると思います。例えば今の音ゲーには、ゆったりとしたヒップホップ調の楽曲は少ないんですよね。それから、曲の尺が短くなってきているのも顕著だと思います。

cosMo@暴走P 気がつけばボカロ曲でも2分台の曲が当たり前になりましたよね。

個人的には今から10年ぐらい前に、音ゲーにボカロ曲と「東方Project」の楽曲が収録されたとき、一番時代の変化を感じました。

音ゲーは、オリジナル曲で独自の文化を築いているイメージがあったので、ボカロ曲や東方曲が、版権曲として収録されるのはまだまだ先のことだろうと思っていたんです。

でも予想以上に収録されるタイミングが早くて。ニコニコ動画での盛り上がりも影響していたのかもしれません。

光吉猛修 cosMoさんの楽曲で初めて音ゲーに収録された曲って何ですか?

cosMo@暴走P それこそセガさんの『初音ミク -Project DIVA-』(2009年)に収録された「初音ミクの消失」が最初です。とても感動したのを覚えています。 cosMo@暴走P ボカロ曲や東方曲が音ゲーに収録される前の時代なんですが、初音ミク主体のゲームだったのでボカロ曲が収録されること自体に違和感はなかったですね。

──「初音ミクの消失」といえば、歌唱の難しさでも話題を呼んだ楽曲です。ボカロ曲と音ゲー、それぞれ高難度曲の制作時に、受け手への挑戦のような意識はあるのでしょうか?

cosMo@暴走P めちゃくちゃ速い曲をつくるときは、ほとんどの場合が音ゲーの曲なので、そういうときは「音ゲーにも収録されるので、ぜひ挑戦してみてください」というスタンスですね。

通常のボカロ曲では受け手への挑戦という意識はありません。でも、僕は歌については門外漢なので、自分の預かり知らぬところでうっかり歌うのが難しくなってしまうことはあります。人間はこれくらい歌えるだろうと思ったら、実は無理でした……みたいな。

「初音ミクの消失」も当時は、“歌えなさそう”と“歌えそう”の五分五分くらいのところを目指したつもりだったんですけど、結果的に歌うには大変な曲だったようです。打ち込みで制作しているとわからないんですよね。
光吉猛修さんら5人が制作した『チュウニズム』収録曲「祈 -我ら神祖と共に歩む者なり-」
光吉猛修 僕もそこまでプレイヤーに対する挑戦という意識はないです。とはいえ、プレイヤーの方々に「挑戦したい!」と感じてもらえるようにつくっているつもりです。

それこそ「怒槌」のときに“音ゲーにおける楽曲制作のセオリー”みたいなものが自分の中で確立できたんです。そこからは、メロディを速くするのかや、リズムを多く刻むのかなど、難易度としてのニーズを考えながら制作しています。

「初音ミクが居るだけで曲を聴いてくれる人がいる」

──たびたびお話に出てくるニコニコ動画ですが、初音ミクをはじめ、ボカロ文化が発展していったプラットフォームでもあります。改めてニコニコ動画の印象を聞いてもいいですか?

cosMo@暴走P いろんな人が安心して創作を楽しめるベースがつくられている印象です。何かの動画が盛り上がったときのお祭り感が見えやすいのも特徴ですよね。

個人的に良いなと思うのが、運営の方々の距離の近さ。例えば、「歌ってみた」や「踊ってみた」は、基本的に人の作品を使うことになるので、著作権的な面での不安もある。そういうときに、運営の人たちの距離が近いと安心してお祭りができるんです

光吉猛修 僕がニコニコ動画の影響力を初めて感じたのは、弊社のニンテンドーDS用ゲームソフト『赤ちゃんはどこからくるの?』(2005年)の関連動画が投稿されたときですね。

そもそもタイトルが刺激的だったのもあってか、ニコニコ動画の中でゲームの口コミが一瞬にして広まっていったんですよ。その現象を目の当たりにした瞬間は、今でも強烈に印象に残っています。

ニコニコ動画は、遊んでいる人や聴いている人が主体的に独自のコミュニティを広げていける場所。そういった意味では、ボカロ曲も自然発生的に育ちやすい環境にあったんだろうと思います。

──ニコニコ動画などを通じて存在感を大きくしていった初音ミクは、様々なクリエイターやファン、さらには世界をつなげるハブの役割を担ってきたと思います。お二人は初音ミクをどう見ていますか?

cosMo@暴走P 正直、初音ミクとはかなり長い付き合いなので、どう表現すべきなのかわからなくなっている部分もあります(笑)。

ただ、15年以上音楽をつくってきて感じるのは、「初音ミクがそこに居るだけで曲を聴いてくれる人がいる」ようになったこと。

たくさんの音声合成ソフトが誕生して、それらを使ったボカロ曲を聴く文化が続いている──その文化の根底において、初音ミクが果たした役割は大きかったと思います。

光吉猛修 2011年に、初音ミクがアメリカのトヨタのCMに起用されたとき、ものすごい衝撃を受けたんですよね。ボカロというカルチャーの力が、一段階増した印象でした。

cosMoさんが言ったように、これだけ音声合成ソフトが増えた中でも、積み上げてきた歴史や成し遂げてきたことによって、初音ミクは今でも唯一無二の存在感がありますね。
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光吉猛修

ゲームサウンドクリエイター/歌手

1967年12月25日、福岡県に生まれる。1990年4月株式会社セガ・エンタープライゼスに入社、ゲームミュージックバンド創成期からサウンド開発、声優、歌手として各方面に精力的に活動中のセガ社員。活力源はお客様からの「楽しかった」の一言。

代表作は「DAYTONA USA」、「シェンムー 一章 横須賀」、「WCCF」シリーズ。現在は「CHUNITHM」「maimai」「オンゲキ」の音ゲー3タイトルに携わり、楽曲提供や公式生放送、ライブイベントへの出演を通してプレイヤーからの認知度も高い。

現在、毎週金曜夜8時、X space にて#SEGASOUNDSTREETと銘打ったラジオ的コンテンツを絶賛配信中!また光吉の歌唱データをAI によるディープラーニングで生成した音声合成「ミツヨロイド」を社内開発、徐々にセガのゲームで流れる楽曲に第二の光吉の歌声として浸透中!

cosMo@暴走P

ボカロP/サウンドクリエイター

フリーランスサウンドクリエイター。2007年頃より動画サイト・SNS上で人気を博し、以降現在に至るまでゲームやアニメ、CDアルバムなど各種コンテンツへの楽曲制作を中心に作詞・作曲家として活動を行う。

音楽ゲームが好きで音楽制作を志したという自らのバックグラウンドを生かし、近年は音楽ゲームに多数楽曲を提供している。楽曲作りに付随しイラストや動画制作も手がける。

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