経験ゼロの素人が拓いてきた野外フェスの現在 「岩壁音楽祭」レポート

経験ゼロの素人が拓いてきた野外フェスの現在 「岩壁音楽祭」レポート
経験ゼロの素人が拓いてきた野外フェスの現在 「岩壁音楽祭」レポート

9月17日に開催された野外音楽フェス「岩壁音楽祭2022」photo by DAIKICHI KAWAZUMI/画像はすべて「岩壁音楽祭」の提供

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オープンソースなフェス”を標榜し、運営にかかる予算や準備の煩雑さなど、その舞台裏をSNSやnoteで赤裸々に公開してきた音楽フェス「岩壁音楽祭」の第2回が、9月17日に山形県の瓜割石庭公園で開催された。

当日は懸念された台風15号の影響もなく、夏の陽射しと秋の澄んだ青空が溶けあったような快晴。

かつて採石場として栄えた会場に集まった来場者の半数以上が25歳以下と、高齢化が囁かれる近年の音楽フェスの潮流とは真逆の装いだった。

photo by 柏倉琉生

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photo by Ryuki Takano

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近隣の東北芸術工科大学(以下、芸工大)を中心に集った約90人の学生スタッフも含めると、あの場の平均年齢はどれほどだったのか。

なお、そんな溌剌としたフェスをつくり上げたクルーは、第2回の開催直前に、「3年後の2025年に行う第3回でフェスを“完結”させる」と発表した。音楽好きの素人たちが手弁当でつくってきたこのフェスの役目は、そこで終わりになるのだという。

初開催にして盛況に終わった2019年から今まで、“オープンソースなフェス”として開かれてきた「岩壁音楽祭」が培ってきたものは何だったのか。当日の様子と共に振り返っていく。

【画像】「岩壁音楽祭2022」当日の会場と出演アーティスト

目次

自然発生した来場者とアーティストのコミュニケーション

photo by 柏倉琉生

2019年5月の初回以来、3年ぶり2回目となったフェスのステージは、誰もが思わず目線をいっぱいに上げる“岩壁”を背にした「WALL」と、“岩壁”にぽっかりと空いた長方形のハコ「CAVE」の2つ。

「WALL」にはさらささん、maco maretsさん、kZmさん、D.A.N.とThe Sacred Murmurs(小林うてなさんとermhoiさんによるユニット)が登場。

日本での初ライブをこれ以上ない形でやり遂げたena moriさんと、まさに熱狂の渦を巻き起こしたOmega Sapienさん、2人の海外勢も観客の心を掴んだ。

さらささん(photo by DAIKICHI KAWAZUMI)。23歳のシンガーソングライター。2021年のデビューシングル「ネイルの島」で無名ながらJ-WAVE「TOKIO HOT 100」で最高4位。2022年に1st EP『ネイルの島』をリリース。Spotify「Soul Music Japan」のカバーに抜擢。Apple Musicでは「Tokyo Highway Radio」に選出。「FUJI ROCK FESTIVAL'22」にも出演。

maco maretsさん(photo by 柏倉琉生)。1995年福岡生まれ。現在は東京を中心に活動するラッパー/MC。Eテレ『Zの選択』番組テーマソングや、藤原さくらさんやMaika Loubteさんなど様々なアーティストとのコラボレーションワークでも注目を集める。また詩文などの執筆業も積極的に行なっており、『Qetic』『HIDDEN CHAMPION Magazine』で連載を担当中。

ena moriさん(photo by 柏倉琉生)。2019年からフィリピン・マニラ拠点のレーベル・OFFSHORE MUSICに所属。2020年に台湾の音楽アワード「Golden Indie Music Awards」で「アジア・ソングライター賞」にRina Sawayamaさん、Rich Brianさんらと共にノミネート。今回の「岩壁音楽祭」が日本での初ライブとなった。

D.A.N.(photo by DAIKICHI KAWAZUMI)。櫻木大悟さん(Gt,Vo,Syn)、市川仁也さん(Ba)、川上輝さん(Dr)で活動中。2021年10月に約3年ぶりのフルアルバム『NO MOON』をリリース。ユニクロやNOVAのCM楽曲、Netflixで全世界配信された渡辺信一郎監督による『キャロル&チューズディ』の劇中楽曲の制作など外部の創作活動も積極的に行っている。

kZmさん(photo by DAIKICHI KAWAZUMI)。1994年渋谷生まれ、渋谷育ち。ヒップホップクルー・YENTOWN所属のラッパー。武器は若さを感じさせない意味深なリリックと今までの日本のヒップホップに無かった独特なフロウとライブスタイル。NIKE「エア・フォース1」のアンバサダーを務めるなどファッションアイコンとしても注目を集める。

Omega Sapienさん(photo by Hide Watanabe)。1998年生まれのラッパー。韓国のヒップホップコレクティヴ・Balming Tigerの中心人物として活動。2022年5月にソロEP『WUGA』をリリース。同作に収録されている楽曲「Plum(feat Sega Bodega)」がAppleのCMに起用され世界中から一層の注目を集めている。

蓮沼執太フィルのメンバーであり、D.A.N.やKID FRESINOさんのライブサポート等でも異才を放つ小林うてなさん。2019年からmillennium paradeに参加、2021年には映画『竜とそばかすの姫』ペギー・スー役の声優でも話題になったermhoiさん。両者によるユニット・The Sacred Murmursのライブは「岩壁音楽祭」が初(photo by Hide Watanabe)。

「CAVE」では山形をはじめ、宮城、秋田、福島などから7組のアーティストが集結。各々の地域を日夜盛り上げている面々が、入れ代わり立ち代わりDJブースに立った。

Webマガジン『NEUT Magazine』とのコラボで招かれたユニット・玉名ラーメンと、フェスの最後を飾ったDJコレクティブ・CYKもフロアを大いに沸かせた。

hatchさん(photo by 柏倉琉生)。1999年生まれ、仙台在住のDJ。「Domain」「FRAGILE」といった仙台・山形のレギュラーパーティー等で活動中。

2000年12月生まれ、山形出身のシンガー/MC・陽さんと、2002年生まれの宮城県仙台出身ラッパー・Luvitさん(photo by 柏倉琉生)。「岩壁音楽祭」ではコラボパフォーマンスを披露した。

chunkism(photo by Ryuki Takano)。2017年より仙台CLUB SHAFTを拠点に、数々のパーティーを開催。オーガナイザー/DJ・zendoさん、pararainyさん、MAGUIREさん、NEO Foxさん4人で活動。

SAITOさん(photo by Hide Watanabe)。2005年より活動する山形県在住のDJ。山形の老舗クラブ「SANDINISTA」で盟友・YAMAZAKIさんと共に全国各地のアーティストを招聘&交流するパーティ「WEEKENDER」を主宰。

KAPIさん(photo by Ryuki Takano)。DJ、オーガナイザー。宮城県仙台市を拠点に活動中。HI-HAT Sendaiの店長を勤めた後、現在はSHAFT Sendaiにてパーティー「∞」を主宰。

HISUIさん(photo by 大和田史苑)。福島県・會津若松市にあるDJバー「DJ BAR 翡翠」代表。自身が主宰するHouse Party「meet」その他東北各地~都内まで様々な現場で活動中。

玉名ラーメン(photo by 柏倉琉生)。姉・Hana(ビジュアルアーティスト)と妹・Hikam(シンガー/トラックメイカーアーティスト)によるオーディオビジュアルユニット。アブストラクトな音像とささやくような歌声、肌の質感や絶えない流れを独特の色彩で映し出すビジュアルの融合により、他にない独自の世界観を作り出す。

ONJIさん(photo by Hide Watanabe)。勤務先である「SHAFT」でパーティーの主宰、出演、企画を担当。DJのみならずフライヤーのアートワークやアパレルブランドへのデザイン提供など多肢にわたり活動中。

CYK(photo by Hide Watanabe)。Nariさん、Kotsuさん、Naoki Takebayashiさん、DNGさんによる東京拠点のハウスミュージック・コレクティブ。広義のハウスミュージックを軸に、国内外からカッティング・エッジなアーティストを招聘しパーティーを行うほか、ソウル・香港・タイでの海外ギグも行う。2022年は「Rainbow Disco Club 2022」や「FUJI ROCK FESTIVAL'22」などに出演。

「WALL」「CAVE」と並ぶメインエリア、「PIXEL」と名付けられたフリースペースでは歓談に花が咲き、タイダイ染めとキャンドルのワークショップを楽しむ人々も。

椅子にもなる立方体のオブジェに寝転がって、遠くから聞こえてくる音に耳をすませる姿も目立つ。

photo by 柏倉琉生

photo by 柏倉琉生

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この「WALL」「CAVE」「PIXEL」を中心にコンパクトにまとまった会場には、来場者とスタッフに加えて、ついさっきまでライブをしていたアーティストの姿もちらほらと見かけた。

彼・彼女たちと一緒に写真を撮る、物販で購入したグッズにサインを貰う、ライブの感想を身振り手振りも交えて伝える、東北地域の飲食店が提供していた自慢のフードを共に楽しむ──来場者とアーティストのコミュニケーションが、実に自然な形で生まれていたのが印象に残っている。
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