「たぶんキレちゃう」音楽家のシェアハウスは成立せず?
烏屋茶房 僕は完成したあとにじっくり見させてもらったんですけど、劇中で「スパイのスパイス」のMV制作を担当することになった明希人が、なんでも1人でやっちゃおうとする感じはかなり共感できましたね。
昔のボカロP出身にありがちなんですけど、得意な人に任せればいいのにあれもこれも自分でやらなきゃって思うことって結構あるんですよ。なので昔の自分を見ているようで(笑)。それくらいよくある苦悩を捉えてると感じました。
ヒゲドライバー YouTubeのおかげでつくってる人の裏側を見せるのがひとつのエンタメになってるし、そういう意味でも今っぽい内容だよね。
ゆよゆっぺ 僕はしたことないからわかんないんですけど、クリエイター同士のシェアハウスって成立するんですか? 僕はたぶん逃げ出しちゃうと思うんですけど。 ヒゲドライバー 僕も無理だな(笑)。
烏屋茶房 僕も部屋散らかしちゃうんですよね(笑)。でも知り合いに作曲家3人で住んでたって人がいました。いつでも誰かが音を鳴らしてて、結構楽しくやってたみたいでしたけど。
ゆよゆっぺ そうなんだ。僕はめちゃくちゃエモいアルペジオとかつくってるときに、隣でEDM鳴らされたら……たぶんキレちゃうんだよな(笑)。
ヒゲドライバー ゆっぺさんは周りの音が一番ネックなんだね。
ゆよゆっぺ そうですね、めちゃくちゃノッて制作してるときにトイレの流す音とか聞こえたら、もう……!
ヒゲドライバー 僕は歌をつくるときに変な鼻歌とか謎の言語で歌うから、それを聞かれるのが恥ずかしいかな。
ゆよゆっぺ それもわかります。
烏屋茶房 2人はすごいクリエイティブな理由なのに、僕だけめっちゃ生活に由来した理由で恥ずかしくなってきました。 ヒゲドライバー じゃあ完全防音で、なおかつ個室がそれぞれ用意されていて、生活もそれぞれのスペースでって感じなら大丈夫なのかな?
ゆよゆっぺ でもそれはたぶんシェアハウスじゃないんですよね(笑)。いざこざが起きるかもしれないけど、生活や創作を共にやる空間があるからこそ生まれる交流みたいなのが、たぶん共同生活の醍醐味なんだろうと思いますし。
烏屋茶房 やってることが違えばそれぞれ刺激をもらえそうだし、違う領域で活動しているからこそ助け合えるみたいなこともありそうですよね。
ゆよゆっぺ 同じことはネットを介してもできるじゃんって思うけど、そうじゃないんだよね。やっぱり同じ空気を吸ってるときのグルーヴって全然違くて、ヒゲさんと一緒に制作していたときなんかは、まさに同じ空間にいるがゆえの爆発力があった。
ヒゲドライバー 確かにスゲェいい曲できたしな。
ゆよゆっぺ 同じ音を聞いて、同じ空気を吸ってる感覚ってやっぱり必要なんですよね。だからいつまでたっても音楽は1人でつくれるけど、みんなでつくるとより楽しいって感覚なんだと思う。
ヒゲドライバー 1人で閉じこもってつくった作品も好きだけどね。
ゆよゆっぺ・烏屋茶房 そうなんですよね~(笑)。
楽しんでもらえるなら消費上等
──リアルすぎるほどにリアルなクリエイターあるあるもうかがえたところで、みなさんが活躍する現代の音楽シーンについてもうかがえればと思います。ゆよゆっぺ 今のシーンって、いわゆるニコニコ動画世代よりさらに新しい世代がつくっていると思うんです。黙ってても情報やエンターテインメントが供給されてくるような世代だから、洗練されているんだろうなとは思います。
技術やツールも手に入りやすくなっていて、たとえば音楽制作に使う「WAVES」っていうプラグインを僕は十数万円で買ったんですけど、弟は同じものを8000円で手に入れている。
その使い方も、YouTubeでいくらでも知ることができる。そうやってスキルや知識を持った人たちがどんどん出てきているので、置いてかれないようにしないとなって思いますね。
ヒゲドライバー 一時期は僕もそうやって新しい波に置いてかれないようにしないとって思ってたんだけど、もうキリがないからあまり気にしなくなったんだよね。
結局、自分だからできる自分たる表現をやっていくしかないから、新しいものもチェックはするけど影響されないようにしようって思うくらいかな。
今流行ってる音楽といっても、その中で10年後、20年後も残るものがどれだけあるかというと、きっと数パーセントしかないだろうし、その波に乗ることで同じスピード感で消費されるようになってしまうのは危険なのかなとも思う。だから自分の中の「やりたい」「好き」って気持ちを大事にやっていくしかない。
烏屋茶房 僕は逆に消費上等だと思ってます。思い思いに楽しんでもらえたらそれでいい。
消費の速度に追いつこうと思えばこそ、今の人は何が聞きたいんだろうとすごく調べますし、じゃあこんなアプローチはどうかなと試したり、僕も真似してみようと思えるので、新しい表現に挑戦できたりもします。
一瞬で消費されてしまったとしても、誰かが楽しんでくれたらそれでいいですし、それが積み重なっていった先に自分があるのかもと思っています。 ゆよゆっぺ 取り入れたり真似したりしたところで、絶対烏屋くんの個性は楽曲の中に表れてくるもんね。僕も興味持ったら全部やりたくなっちゃうから感覚は近いかもしれない。
EDMにはEDMの、チルにはチルの楽しさがあるから、それを見つけてしまったらもう逃げられなくて、逆にひとつにこだわり続けるってことができない。だから全部経験してみて、目まぐるしく景色の変わるジェットコースターに乗って、どこに辿り着くのかを楽しみにしてるような感覚。
あまりのスピードと激しさに自分が削られることもあるけど、そうやって辿り着く先はいつだって楽しい場所だったからやめられない。
ヒゲドライバー 楽しいと思えたらなんでも挑戦していけるよね。
ゆよゆっぺ ヒゲさんもそうやって楽しいを突き詰めて、自分の核を確立してるじゃないですか。あくまで自分の好きを追い求めながらも、それで最高だと思わせ続けることができている。だからいつまでもかっこいいし、憧れなんですよ。 ヒゲドライバー (照)。
烏屋茶房 自分がいいと思ったものをとにかく突き詰めているけど、じゃあ同じ曲しかつくってないかというとそうじゃない。
どんどん自分をアップデートしていて、なんでもできるようになってる。あらゆる表現を自分のスタイルだって胸張って言えるのはめちゃくちゃかっこいいと思ってます。
ヒゲドライバー いやいや! 強がってるだけだから!! むしろまだ、なりたい自分にはなれてはいなくて、だからもっと頑張らないとって思う。
ゆよゆっぺ なにル●ネのキャッチコピーみたいなこと言ってんすか! ヒゲドライバー どうしたんだろう……? 恵比寿(編注:取材場所)という土地が、そうさせるのかもしれない……!!!
一方的でも音楽を聞く人の心に刺す
──まるで普段の3人の会話に混ぜてもらったような感覚で、楽しくお話をうかがうことができました。最後に、それぞれの核というか、音楽シーンで活動する上で譲れないクリエイターとしてのこだわりを教えてください。ヒゲドライバー どうしても消費はされていきますけど、その中で少しでも「誰かの心に引っかかれ!」みたいな思いはずっと持っていますし、誰の心にも刺さらない曲をつくり出したら終わりだなと思っています。 ──心に刺さるような曲とは、完成した瞬間に実感があるものなのでしょうか?
ヒゲドライバー 実感はないです。ただ刺されっていう一方的な僕の思いなので。だから刺さったかどうかは最悪わからなくてもよくて、結果はどうあれ自分がどれだけ思いを込められるかが重要だと思ってます。
実感みたいなものはないにせよ、それができているからこそ評価してもらえているのかなと思うので、そこにはこだわっていきたいですね。
ゆよゆっぺ 刺さった実感はなくても、刺すために鋭さを磨き続けるのをやめちゃダメですよね。
って言ってるのに僕は、もう誰に聞いてもらって、どう感じてもらうとかはいいかなって感覚になってきました。もちろん仕事としてやらなきゃいけないこともあるけど、なにより「自分が一番気持ちよくならなきゃダメっしょ」と思いはじめたんです。 ゆよゆっぺ だからやりたいようにやるし、やりたくないことはやらない。それで生活できなくなったらそれでいい。今はやりたいことが音楽だからやってますけど、そうじゃなくなる日が来るかもしれない。そうやって自分が一番楽しい状態でありたいというか、こだわりがないことをこだわりとしてやっていきたいと思ってます。
だから協調性が必要なシェアハウスはできません(笑)!
烏屋茶房 僕は、自分の音楽が人にいいなって思ってもらうのが好きなんだって、最近気づいたんですよ。
仮にそれが一瞬のことで、楽曲が関わるコンテンツの応援を辞めたあとに聞かれなくなったとしても、その一瞬、確かに聞いた人の心を動かせたならそれでいいし、そういう作品をつくっていきたいと思います。 烏屋茶房 音楽のすごいところは、久しぶりに聞いてもその曲を好きだったときの感情を思い出せること。僕がつくった音楽をきっかけに、何かを応援していたときの楽しい気持ちだったり、一緒にハマっていた友達のことだったりを思い出してもらえるなら、こんなに嬉しいことはないです。
そういうつながりを生み出せるような音楽をつくりたい……と思っているんですけど、つながりとか言ってるわりに協調性はないので、やっぱり僕もシェアハウスは難しそうです(笑)。 ©BANDAI NAMCO Arts Inc.
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