登場人物は、駆け出しの声優・折川悠李(CV:仲村宗悟さん)、クールな作曲家・峰岸忍(CV:増田俊樹さん)、オラついた配信者・加賀谷晴輝(CV:古川慎さん)、気弱なアニメーター・四ノ森明希人(CV:西山宏太朗さん)、毒舌な脚本家・郡司薫(CV:斉藤壮馬さん)、ひとくせありそうなオーナー・佐山正宗(CV:江口拓也さん)の6人だ。
国内外で人気のピアニスト/作曲家として活躍するまらしぃさん、PENGUIN RESEARCHのベーシストでありボカロP・kemuとしても知られる音楽家・堀江晶太さん、fhánaのギターとして活躍するサウンドプロデューサー・yuxuki waga(ユウキワガ)さん。
若きクリエイターたちの苦悩や喜びに、3人はいかにして心を寄せたのか。2022年2月23日に発売されるCDに収録される第2弾主題歌、そして第14話挿入歌を担当した3人の座談会を通じて、普段はあまり言葉を交わさないという楽曲へのこだわりや、クリエイターとしての矜持を聞いた。 取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多 撮影:寺内暁
目次
『メゾン ハンダース』のようなログハウス構想
──今回は第2弾主題歌の「六色」と第14話挿入歌の「結晶」の作詞作曲を担当されたまらしぃさん、それぞれの編曲を担当された堀江晶太さんとyuxuki wagaさんに集まっていただきました。今までこうして集まることはあったのでしょうか?堀江晶太 僕とまらしぃくんはもう10年来の友人です。wagaさんはお互いバンドをやってるのでイベントとかで顔を合わせますし、レコーディングにお互いプレイヤーとして参加することもあります。でも3人で集まるのは初めてかな。それぞれに会うのも結構久しぶりです。
──取材の前から会話に花が咲いていたようですが、クリエイター同士が集まるとどういう会話になるのでしょう?
まらしぃ クリエイター同士だからといって特別なことはなく、普通に近況報告とかですよ(笑)。
yuxuki waga 堀江くんのマイブームの話。
堀江晶太 そう、最近ログハウスブームがきてる。
──ログハウスブーム?!
堀江晶太 一番インドアだった自分がまさかそうなるとは思ってなかったんですけど、最近家にいることが多くて何かできることはないかと考えた結果、「そうだ! 別荘だ!」と。
まらしぃ・yuxuki waga (笑)。
堀江晶太 クリエイターは家にひきこもりがちなんですよ。20代のうちはそれでもよかったんですけど、最近週の何回かは朝日と共に起きて、日没と共に仕事を終えるみたいな生活ができたら最高だなと考えるようになって。
最終的にはスタジオ機能を備えた別荘をつくって、クリエイター仲間で集まれるのが理想です。その実現のために、最近は週末とかにせかせか作業をしている……という話をしていました(笑)。 ──期せずしてクリエイター同士がシェアハウスをする『メゾン ハンダース』に繋がるお話ですね。早速楽曲についてもうかがっていければと思います。
まず第14話挿入歌「結晶」は、駆け出しの声優・折川悠李と作曲家・峰岸忍が高校時代に影響を受けたバンドの曲という、なかなか珍しい立ち位置の楽曲です。作詞作曲のまらしぃさんと編曲のyuxuki wagaさんは、それぞれどのようなイメージで制作されたのでしょうか?
まらしぃ 僕は作品の背景やそれぞれのキャラクターに寄り添って制作するのが好きなので、「結晶」においてもそれは意識しています。
悠李と忍が影響を受けた曲という意味では、厳密には本人たちの曲ではないので確かに特殊な立ち位置の曲ではある。でも、僕もそうやって特定の一曲に大きな影響を受けることがあるタイプの人間なので感情移入はしやすかったですし、楽しく制作できました。
yuxuki waga コンセプトを見た時点で青春感のある熱い楽曲にしたいというイメージは浮かんでいました。
でもまらしぃさんからいただいたピアノと歌のメロだけの音源が、もうアレンジの完成形が見えてしまうほどに素晴らしいものだったんです。僕としてはその完成形を目指してつくり上げていくだけでしたね。
──制作の時点で互いにイメージは共有するものなのでしょうか?
まらしぃ それぞれの分野で活躍するクリエイターが集う『メゾン ハンダース』のようにではないですけど、僕は僕の領域で力を発揮して、アレンジはもうwagaさんにお任せです。
それぞれが自分のフィールドで出せる色を出した方がいいなと思ったので、アレンジに関して僕から何かオーダーをすることはありませんでした。
yuxuki waga この曲は『メゾン ハンダース』の楽曲でありつつ、まらしぃさんのことが好きな人も聞く曲だとも思いました。なのでピアノを活かすアレンジにしつつ自分の色も重ねたくて、まずはそのテイストを盛り込んだ上でワンコーラスをお送りしたんです。
そしたら直接のやり取りはなかったんですけど、僕のほしかったフィードバックをどんどんくれたんですよ! なので言葉の上でなにかやりとりはなかったんですけど、音でコミュニケーションしている感じはすごく楽しかったです。 まらしぃ 僕の方こそこういうアレンジにしてほしいなって思っていたのがバッチリ反映されていたので、すごく嬉しかったです。
でもサビでギターのリフが鳴ってるフレーズとか僕の想像を越えてくる部分もあって、イメージ通りではあるけど、そこからさらにwagaさんの色や個性が見えるような感じに仕上げてくださったのが本当に感激でしたね。
yuxuki waga そもそもピアノ単品でもいけちゃうくらい素晴らしい楽曲だったので、アレンジするのはかなりプレッシャーだったんですよ。
素材の味をなくしてはいけないし、いい感じに仕上げなきゃって。でもバンドサウンドにしようとすると、入れざるを得ないギターの音って鍵盤の音を殺しがちなので、そこのバランスを考えるのはかなり苦労しました。
──その点は第2弾主題歌「六色」の編曲を担当された堀江さんも同じく苦労された部分なのでしょうか?
堀江晶太 ピアノってリズム的なアプローチもできるし和音も鳴らせるしで、ひとつでなんでもできる万能な楽器なんですよね。だからピアノを中心に据えてしまうと他の楽器を合わせるのが難しくなってしまう。
せっかくまらしぃくんがつくった曲なのでピアノを活かすのが正解だろうとは思うものの、それを活かしながら外堀をいかに埋めるかはアレンジャーの腕の見せどころだったりします。
ピアノを美味しく活かそうっていうマインドは僕も同じだったんですけど、wagaさんの場合はそこにギタリストとしての目線が加わっていて、ロックに仕上げたのが面白かったです。
まらしぃくんが弾いたピアノの旋律という素材を、どう活かすかに工夫を凝らすという点では同じなのに、出来上がりは全く異なっている。同じ素材で腕を競っている料理ショー的な感じで、アレンジの面白さを改めて感じましたね。
作家同士のバトンパスは楽曲で十分
──「六色」は作品における主題歌ということで6人全員が歌唱する楽曲です。美しいピアノの旋律が印象的で、透明感のあるポップソングですが、どのようなイメージで制作されたのでしょうか?まらしぃ 「六色」はみんなの曲というか、『メゾン ハンダース』の曲って色が強くなると感じていたので、作品のコンセプトであるモノづくりの苦悩や喜びを出せるように意識しました。
僕はずっと一人で部屋の中で創作してきた人間ですけど、ハンダースのみんなは仲間と分かち合ったり助け合ったりしてますよね、それを羨ましく思う気持ちがあって、その憧れにフィーチャーして楽曲に思いを込めていったんです。
人は誰しも「あのとき違う選択肢を選んでいたらどうなっていたのかな?」とか、別の世界線に思いを馳せることはありますよね。僕もずっと周りのみんなが仲間と一緒に住みながら活動する様子を、自分には真似できないと思いながら見てきました。
でも「もしかしたら東京に出て、仲間とシェアハウスをして楽しく音楽をやる道もあったのかもしれない」なんて想像しながら曲をつくり上げていきました。
──堀江さんもそうしたイメージは共有していたんですか?
堀江晶太 詞と曲からある程度そういったイメージは感じ取っていましたが、僕らもやっぱり直接何か言葉でやり取りしたということはありません。作家から作家へのバトンパスは曲をもらえれば十分なので。
加えて「六色」は主題歌として作品の真ん中に位置する曲になるだろうと思いましたし、そのために温かい雰囲気がほしいとは思ったので、そのポイントを意識しながらアレンジしてきました。
6人それぞれが個性を持ったクリエイターが集まっている作品なので、誰かの色に近づけ過ぎないようにとも意識していましたね。
なのでフラットに仕上がるようにしつつも、まらしぃくんのピアノを一番の特徴として活かす、様々なクリエイターがいてどんな創作でもできるっていう可能性の広がりを、ピアノの万能性で表現しようと考えたんです。なるべくまらしぃくんのフレーズが前に出てくるように心がけて、透明感を残した感じにできればいいと思いました。
つくり手が解釈の“正解”を説明しない理由
──作家同士のやり取りは楽曲で十分というお話は印象的ですが、詳細を共有しないことで不都合などはないのでしょうか?堀江晶太 話した方がいいこともあるとは思うんですけど、恥ずかしいですからね(笑)。ダジャレの意味を説明するようなもので、つくった曲についてネタを明かすのは結構恥ずかしいことなんです。
今回の座談会みたいに機会があるなら話せますけど、むしろ作品に込めた自分の奥底にあるものって自分だけがわかっていればいいって場合もあるんですよ。それを吐露してしまうことで「この曲はこういう曲だから絶対にそういう聞き方をしてね」と、楽しみ方を限定してしまうことはしたくない。
楽曲の楽しみ方は人それぞれでいいと思いますし、聞く人や演奏する人がそれぞれのアプローチで自分の心に響いたものを大切にしてくれた方がいいと思っているので、普段はそもそもあまり話さないようにしているんです。
まらしぃ もちろんいろんな考えや思いを曲に込めているんですけど、それを細かく伝えることって、実は僕らの間でもないんです。
堀江くんならきっと曲や詞から感じ取ってくれるだろうし、むしろ何をどう汲み取ってくれるかを楽しみにしている部分もありました。
堀江晶太 制作が全部終わった後なら話せることもありますけど、つくっている途中って半信半疑だったりするんですよ。
確実に良いものになるように頑張ってるけど、まだ完成してないから変わる可能性もあるし、あんまり詳細に語った後で出来上がりのイメージが違ったらアレ?ってなってしまうかもしれない。そういう配慮もあるのかもしれません(笑)。
──今回はそこをあえてお話していただいたわけですが、改めて互いに楽曲の感想を言葉にしてみて、いかがでしたか?
まらしぃ 2人には、それぞれこう仕上げてくれたらいいなってイメージを持っていたので、まさしくそれに合致したアレンジをしてくれたことがわかって良かったですね。
こういう立場で楽曲を聞くことって僕にしかできないことなので、ある意味一番いいポジションで2曲を味わえたのかもしれないと思うとすごく嬉しいです。 堀江晶太 曲の話ってあんまりしないからね。せいぜい「良かったよー」とかLINEで言い合うくらいで、「スタンプが送られてきたからこの話はここでおしまいかな」っていう普段の会話と変わらない(笑)。
──確かになんとなくスタンプが会話の切れ目って感覚はありますが、それくらい自然に行われる会話の一部程度なんですね。
堀江晶太 もちろん思うことはいっぱいあるけど、お互いあんまり掘り返さないんです。リリース後は自分のものじゃなくなる感覚というか、出荷してしまったらもうユーザーのものだから、皆さんで楽しんでもらえたらいいなと。リリースを見届けたら気持ちはもう次の仕事って感じですね。
まらしぃ もちろんあのキャラクターを思って書いてますって部分はあったりなかったりしますけど、つくっている側の僕らが言うと、それだけが正解のように聞こえてしまう。それよりは聞いてくれる皆さんが、それぞれの考え方をしてくれた方がいいと思っています。
堀江晶太 しかも僕らの想定以上の解釈をしてくれる人もいるじゃない? それってリスナーさんならではの愛情の強さゆえだと思うし、そうやってリスナーさん同士で楽しんでくれているのは嬉しい。
yuxuki waga 聞き手が好きに解釈してくれたらつくり手としてはそれでいいよね。頑固一徹なラーメン屋みたいに「高菜、先に食べちゃったんですかっ(激怒)?!」みたいなことは言いたくない(笑)。
堀江晶太 と言いつつも、知りたい人だけが知れるぶんにはいいから、ラーメン屋でメニューの裏にこだわりが書いてあったりするのはむしろ好き(笑)。だからこういう機会をつくって、曲について話すくらいが丁度いいのかもしれないよね。
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