一緒に住むのは無理、同じマンションは許容範囲
──『メゾン ハンダース』には皆さんと同じく作曲家という立場の峰岸忍も登場します。彼や作品自体にクリエイターとして共感する部分はありましたか?yuxuki waga 忍が直面していたような、つくりたいものと求められてるものが違うってことはめちゃくちゃよくあるんですよ。
ただ作中ではそれをあまり暗い感じに描いていなくて、そういう見せ方の工夫もいいなと思いました。クリエイター同士が集まるとこうなるよねっていう空気感も、すごいリアルに表現されていると思います。
堀江晶太 ものをつくる人同士だから生まれる友情や、ライバルとしての悔しさは確かに上手に描かれているよね。そういう熱いものを持った人が集まって、同じ時間を過ごしているとヒリヒリする場面もあると思うけど、そうしないと生まれないものもあると思う。
僕らはクリエイターとして共感できるけど、作品を楽しんでいる人たちの中にも、クリエイター的な性質を持っている人は多いだろうし、そういう意味ではシンパシーを感じる瞬間はあるんじゃないかな。
yuxuki waga ……ひとつ屋根の下はちょっと難しそうだけど、同じマンションに住むとかだったらやりたいです!
堀江晶太 わかる!!!
まらしぃ 同じフロアに住んでて、会いたいときにフラッと会いにいけたら理想的だよね。「ちょっとピザ余ったんだけど」って持っていったり。
堀江晶太 毎日顔合わせるのはちょっとね。1人で集中したい日とかあるし。
まらしぃ だから逆にハンダースのみんなはどうやって折り合いつけてるんだろうとは思う。
──シェアハウスとまではいかなくとも、クリエイター同士である程度の近さに住むことには意欲的なんですね。
堀江晶太 最初に話した別荘は、まさにそういう思想に基づくものだったりするんです。トキワ荘みたいに、志が同じクリエイター同士が近いところで生活することに憧れがあって。
スタジオを中心とした“クリエイター村”みたいなものをつくりたいと思って、別荘づくりに精を出しているので、気持ちはわかるというか、楽しいだろうなとは思っています。
──制作に関わった上で感じる『メゾン ハンダース』の魅力はどのような部分にありますか?
yuxuki waga クリエイターならではのリアルに踏み込んでいる一方で、何気ないことで盛り上がるといったような日常的な面も描かれているのが面白いですよね。
なかなかそこにフォーカスした作品って珍しいですし、アニメだとドラマチックに描かないといけないがゆえに仰々しくなりがちな部分を、サウンドドラマという形式だからライトに表現できるのもいい部分かなと感じます。
ものづくりは華やかに見える一方で苦しい面もある世界だけど、そうしたクリエイターの日常を描くことで身近に感じてもらうきっかけにもなるでしょうし、そうして何かの創作に挑んでから見ると、また別の角度でも楽しんでもらえると思います。
堀江晶太 僕も昔は作曲家とか小説家って人間じゃないと思っていたので……
まらしぃ・yuxuki waga どゆこと?!
堀江晶太 いや変な意味じゃなくて、もう自分とは完全に違う存在だと思ってたってこと! だから『メゾン ハンダース』でクリエイターも普通の人間なんだよって描かれているのはかなり興味深いです。
外からは華やかな世界に見えがちなので、きっとクリエイターは特殊なインプットをしているんだろうなと僕も思っていたんです。でもいざ自分がなってみたら、ただ友達とゲームしたり話したりっていう日常の中に見つけた感覚を作品としてアウトプットするだけなので、何も特別じゃないんですよね。
そういうことを僕らが自発的に言う機会もないから、こうして作品で描いてくれるのは面白いですし、ということは自分にもできるんじゃないかと思ってもらえるきっかけになるんじゃないかと思います。
刺激を受けてから「やってみよう」までの流れが一瞬
──作中ではアニメーターの四ノ森明希人がバンドのMV制作に参加するなど現実の音楽シーンが反映されたような描写があります。実際に現在はアニメーションMVが流行したり、ボカロシーン出身のクリエイターがメジャーで活躍したりしていますが、そうした音楽シーンを皆さんはどのように捉えていますか?yuxuki waga 世代でくくるものでもないとも思いつつ、今クリエイターとしてバリバリやってる世代って、小中学生の頃からもうニコニコ動画とかが当然のように身近にあって、様々なエンタメを摂取してきた人たちだと思うんですけど、彼らって僕らとは比較にならないくらいインプットの質も量も違うんですよ。
クリエイティブに挑む上での下地が違うし、そうなると平均のレベルも上がっていて絵が上手い人や歌が上手い人なんてたくさんいる。その中で切磋琢磨するわけですから、必然的にレベルの高いものが生まれているんだと思います。
そう考えると、あの頃のニコニコ動画の盛り上がりが今のエンターテインメントに繋がっているようにも感じられますね。
まらしぃ 実際面白かったですからね。その頃から活動している僕としては、ただみんな面白いものをつくろうとしているっていう根底の思想は変わっていないと思っていて、それがより多くの人に共感されるようになって、今に繋がっているんじゃないかって。
とはいえ今の世代には僕らにはない視点もあるなとも感じています。今まで積み上がってきたものに新しい価値観が加わって、より洗練されたクリエイティブが生まれている。それにネガティブな感情は全然ないですし、むしろ今が一番熱い状態なんじゃないでしょうか。 堀江晶太 僕らが積み上げてきたものに若い感性を組み込んでいるわけですから、彼らと正面からやり合ったところで勝てるわけがないんですよ。でも全く勝ち目がないかというとそうではなく、僕らには僕らのやり方がある。
こうした状況にあって自分らしく、楽しく面白いことをやり続けるためにはどうすればいいかは考えがいがあると思っていて、ガッツリやり合うというよりは、肩の力を抜いて自分の面白いと思うことを突き詰める方にシフトしていきたいなと思っています。
──以前と比べてインプットの質も量も異なる現在のクリエイター。その特徴はどのような部分にあると思いますか?
yuxuki waga なんといってもトレンドを汲む感覚がすごすぎますね。たとえば今の曲ってめちゃくちゃ短い曲があったりするんですけど、ストリーミングで聞かれることを前提に考えるとそれって自然な変化なんです。
僕らは一曲4〜5分あって当たり前と思って生きてきたので、理由を聞かないとそこまで短くする意味を理解できないんですけど、今の子たちはそれを感覚で正解だと理解している。
そういったことも含めて、僕らが躊躇してしまうようなことでも平気で踏み込んでいくのが驚異的です。
ある程度流行りの曲調はあるけど、そもそもの音のクオリティが上がっていますし、トレンド感を狙わずに出せるのが本当にすごい。僕らがやるとどうしても狙いすぎ感が出ちゃう(笑)。
堀江晶太 たぶん10年前は僕らも自然にできていた側だったんだと思うよ。
その進化というか変化は、発信する敷居が下がったのが大きいんじゃないかと考えています。何事も発信すると上達のスピードが圧倒的に速くて、人に見せよう、見せなくちゃいけないと思うと上手くなるんですよ。 堀江晶太 今はスマホひとつあれば何かをつくって人に見せるという行為が簡単にできるし、それをやっている人が当たり前に存在している。そういう発信していいんだよって環境があるのはかなり大きいんじゃないでしょうか。
今の若い音楽クリエイターってデフォルトで歌も上手かったりするんですけど、それもやっぱり発信することが当たり前になっているから。僕らは上手い歌を聞いても「上手いなー」と思って終わっていたけど、今は発信していい空気があるから自分も歌ってみようとなる。
何か刺激を受けてから自分もやってみようまでの流れが一瞬なので、その結果、当たり前になんでもできるクリエイターが生まれている。
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