イラストレーター「お久しぶり」インタビュー 女児向けアニメで覚醒した天才

ターニングポイントになった「目力」 今の画風にたどり着くまで

──pixivへの投稿だけを見ても初期(2015年)と比べて、イラストのテイストが変化しています。現在の作風に近づいてきたのはいつ頃でしょうか?

お久しぶり たぶん2018年の8月~9月くらいですね。それまでは版権絵が多かったんですけど、自分好みの女の子を描きたくなって、オリジナルの絵が増えていったんだと思います。

この頃は専門学校を卒業して、お仕事もまだまだ少なくてかなり時間がありました。だからなのかわからないんですけど、「絵を描かなきゃダメだ」という衝動に駆られて、もうお絵描きマシーンのように描きまくってました。徐々にpixivでランキングに入るようになったのもこの頃ですね。

──オリジナルキャラクターといえば、褐色ショートカットと白髪色白の女子高生ペアが生まれたのもこの頃でしょうか?

2人組のオリジナルキャラクター。イラスト左側が「海月(みつき)」、右側が「ナタリア」

お久しぶり この2人はかなり前から描いていて、最近また描きはじめています。きちんとしたプロフィールは公開していないんですけど、2人とも名前や身長などが決まってます。

中二病真っ最中のとき、脳内で考えていたことをキャラクターに落とし込んで生まれました。もともとは女子高生ではなかったんですけど、「この子たちを女子高生として生活させたらどんな感じなのかな」っていうところから漫画も描きはじめました。

──イラストレーターには、自分のキャラクターが二次創作される場合、エロ表現は絶対NGという人と平気な人がいますが、お久しぶりさんはご自身でも描いていらっしゃいますね。

お久しぶり 全然平気ですね。自分で描くのはもちろん、描かれるのも大丈夫です。自分でエロを描いていないキャラクターだったとしても、あくまで二次創作として割り切れているんだと思います。

海月とナタリアが登場する漫画

──作風の変遷を見ていると、ここ1~2年で絵の表現力が格段に高まっていると思いますが、専門学校以外に絵の勉強はされていたんですか?

お久しぶり 勉強というのが、何枚もクロッキーを描いたり教本で勉強したり、という意味であれば全然していなくて、本当に自由に描いていました。参考にするための資料として写真を集めることはありますけど、「画力を上げる、技術を磨くためにはこれが必要」といわれるようなことは何もしていないですね。

教本を参考にしても、結局私にはよくわからなかったんです。「書かれた通りに描いたのになんでこうなるの?」って思っちゃうんですよ(笑)。

──現在のお久しぶりさんの高い画力からすると、にわかには信じ難いお話ですね。例えば2018年頃からの投稿に見られるまつげに立体感を持たせる表現や、白目をまつげにくいこませるような表現は、非常に革新的だったと思います。ご自身としては何か意識的に描かれたものなんでしょうか?

お久しぶり 正直、自分がなぜそういった表現を用いたのか覚えていないので、当時としても発明といえるほどだったのかはわかりませんが……。ただその頃描いた『メルヘン・メドヘン』の二次創作が多くの人に見てもらえたときに「目力」って大切なんだなと感じた記憶はあります。

今見るとかなり瞳を印象的に描いていて、そういう意味では自分の表現にとってターニングポイントになった作品かもしれません。

独創的なまつげの表現

部分的に拡大したもの

──ちなみに絵の投稿ペースや作業時間で意識されていることはありますか?

お久しぶり 忙しくてできないときもありますけど、仕事以外で1週間に1枚ぐらいは、できる限り投稿したいなと思っています。ここ3年くらいは、仕事も含めると3日に1枚くらいのペースですね。

起きたらすぐパソコンの前に座って、毎日10時間くらい絵を描いてます。フリーランスなのでスケジュールを自分で立てられて、自分では計画的なつもりなんですけど、結構破綻しがちです。「この日は休みにしよう」と思っても、結局その日もずっと絵を描いてて、「だめだ、また休めなかった」と反省する毎日です。

線画はクリスタ、塗りはSAI お久しぶりの制作環境

──イラストを描くときに使われているツールをうかがえますか?

お久しぶり 線画はクリスタ(CLIP STUDIO PAINT)、ブラシはシャーペンで、塗りがSAIです。以前は全部SAIで描いてたんですけど、クリスタでいろいろ試していたときに、シャーペンがすごく使いやすかったんです。

下書きは、尖ったペンのほうが細部まで描きやすいので、Gペンも使っています。昔に比べると、最近はわりといろいろなブラシを使えるようになってきました。3Dが使えるのも便利です。

とはいえ動作が軽いSAIも手放せません。色を塗るときも全然固まらないのがありがたいです。あとこれは言語化が難しいんですけど、SAIにしかない描きやすさみたいなものがありますね。

──作業環境についても教えてください。

お久しぶり Wacom MobileStudio Proという液タブを使っています。そんなに大きくなくて、13インチで描いてます。PC関連にあんまり詳しくないのもあって、いわゆるデュアルモニターとかiPadとかは持っていないんですよね。あってもどう使えばいいのかわからない(笑)。

──『VISIONS 2022』のカバーイラストもその作業環境から生まれたわけですが、全体の制作時間としてはどれぐらいかかりましたか?

お久しぶりさんによる『VISIONS 2022』カバーイラスト

お久しぶり 時間は正確には覚えてないんですけど、今回は人と小物が多かったので、資料集めの時間も含めるとたぶん30時間ぐらいだったと思います。時間配分的には、クリスタの線画までの作業で半分、SAIでの塗り作業で半分くらいです。

──ラフの段階からあまり変更点がなく、早い段階で完成図が見えていたのかなと思うんですが、そのあたりはいかがですか?

お久しぶり 私の場合、完成した絵とラフを比べたときに、ラフのほうがうまいと感じてしまうんです。だからあんまり変えられないというか、ラフに忠実に描くように意識していました。

もちろん読者の方としては、線がきれいになってて色も塗ってあるので、完成した絵のほうが印象よく見えると思います。私の場合は、描きはじめから完成までを見ているからなのか、完成してる絵は逆に「あんまり描き込まれてない、あっさりしてるな」って感じてしまって。それよりは、線がいっぱいでごちゃごちゃしてるけど、下書きのほうが見やすいなって。

カバーイラスト制作工程の一部

カバーイラスト制作工程の一部

──今回のカバーイラストはファッション的に洗練されているだけでなく、小物のデザインにも強いこだわりを感じます。現物を参考にされたものも多いのでしょうか?

お久しぶり 普段からGoogleの画像検索で調べたり、自分でそろえられるものは買ってきたりすることが多いですね。今回だと化粧品やお菓子は実際に買いました。

写真だけで描くときもありますけど、基本的には現物を観察して描きたいタイプなんです。そのぶん絵としても結構こだわっているので、小物を描いているときが一番楽しいですね。

服や化粧品に限らず、特定のブランドが好きっていうのはありません。いろいろと眺めるなかで「いいデザインだな」って思ったものを手に取っています。最近だと透明な物はだいたいかわいく見えます。

新世代から見たシーンの展望「Twitterが使えなくなる日も」

──ここ10年ほどで、イラストレーターのレベルは格段に上がっていると感じます。ご自身としては最近のイラストシーンをどのように見ているのでしょうか?

お久しぶり 以前は美少女イラストを描こうとする人が多いなと思っていたんですけど、最近は同じ美少女イラストでもおしゃれな作風の人が多いと思います。駅の広告にありそうというか。描く側も、見る側も、そういったテイストに抵抗がある人が減ったのか、逆に受け入れられる人たちが増えたのか、実際に公の場に使われる機会も増えていますよね。

一方で、Twitterは成人向けに厳しい印象です。肌色が多いイラストは排除したいのかなって。個人的にいつかTwitterが使えなくなる日がくるかもしれないと思っています。

──pixivFANBOXを使われているのも、そういう背景があったりするのでしょうか?

お久しぶり FANBOXは見る人にお金を払ってもらっているので、「どんなことがあっても更新しなきゃいけない」という義務感に近いものがあります。お金が絡んでくると、仕事寄りの気持ちになるというか。更新頻度もそうだし、ちゃんとしたイラストを上げていないとだめだなと思うんですよね。

──最後にこれから挑戦したいことをうかがいたいと思います。

お久しぶり とりあえず目の前の課題としてあるのは、背景が全然描けないので、簡単なものでもいいからスラスラと描けるようになりたいですね。あとは絵から離れてしまうんですが……フィギュアをつくってみたいです。立体物にすごく興味があって、造形からやりたいなと思っています。

あとはドールの衣装もつくってみたいです。というのも、姉が最近ドールにハマっていて「ドールに着せる服がオークションでなかなか競り落とせない」と言っていたので、それなら自分が姉好みの洋服をつくってあげたいと思って。

──すごくお姉さん思いですね。

お久しぶり 学生時代までさかのぼっちゃうんですけど、縫い物は結構好きだったんですよ。上手くはないですけど、∞(ムゲン)プチプチみたいな感じで、無心でできるから。

──今後はお久しぶりさんの立体作品も楽しみにしています。今日は細かい内容までお答えいただき、ありがとうございました。

現代イラストレーターたちのインタビュー

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商品情報

VISIONS 2022 ILLUSTRATORS BOOK

監修
pixiv
定価
3,080円(本体2,800円+税)
発売日
2021年11月17日
判型
B5判
商品形態
単行本
ページ数
360
ISBN
9784046806734

【参加イラストレーター170人】
100年/Airi Pan/赤倉/雨故/Amei Zhao/Amir Zand/あおあそ/appi/あすぱら/宇木敦哉/AU/banishment/BerryVerrine/可/淵゛/congming/ダイスケリチャード/Diva/dolosse/EB十/烏帽子 眇眼/fabri/ギギギガガガ/GUWEIZ/henken/返事/ヘルミッペ/ひるね坊/Hiten/ヒトこもる/HxxG / ホン /斑鳩/illumi/石田/岩本ゼロゴ/Ixy/しまざきジョゼ/かふん/館田ダン/Kaneni/夏炉/かやはら/ケイゴイノウエ/ケイゴイノウエ/KU/小半みるく/コタチユウ/Kou/くっか/くにたろ/黒イ森/lack/LAL!ROLE/まんぷくアートスタジオ はち/もみじ真魚/maruti-bitamin/まったくモー助/meyoco/Miv4t/モグモ/MON/森倉 円/najuco/生川/七原しえ/さいとうなおき/NARUE/じゅん/neco/necomi/ねこ助/Nico-Tine/NIRA/西沢ミリ/ノザキ/荻pote/ohuton/omao/omao/PainDude/PAN:D/ポップ米/パンチ/Q/らすく/RC Yang0525/redjuice/リン☆ユウ/RING/六角堂DADA/ろるあ/Sainker/sakiyama/Sheng Lam/しきみ/玉川真吾/SUGAI/すずしろ/TAKOLEGS/TamoTaro/TAQRO/タヤマ碧/鯉/TERU/T5/Timbougami/トミイマサコ/tono/Toraji/TVCHANY/しぐれうい/浮雲宇一/うやまさき/vacuum/waneella/陽子/ゆきさめ/湯久田 風/ZQ など

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お久しぶり

イラストレーター

東北出身・在住。『comic アンスリウム』(GOT)、『承認欲求女子図 鑑 〜 SNS で出会ったヤバい女子たち〜』(三才ブックス)の表紙や、 インディーゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』(WSS playground)のキービジュアル・キャラクターデザインを担当。今後もっとも活躍が期待されるイラストレーターの1人。

・Twitter
・pixiv

虎硬

イラストレーター/プロデューサー

1986年生まれ。会社にディレクターとして勤務する傍ら、イラストレーター・デザイナーとしても活動している。担当した仕事に、バンド『神様、僕はきづいてしまった』メインイラスト、『株式会社アニメイト』ロゴデザイン、TOYOTAプリウスPRイラストなど。現在は育児に奮闘中。著書に『ネット絵学』(密林社)、『ネット絵史 インターネットはイラストの何を変えた?』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『はじめてでもわかる! イラストでお金を生み出す秘訣』(KADOKAWA)などがある。アートブック『VISIONS』では総監修を担当。

・Twitter
・公式サイト

2件のコメント

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onda

恩田雄多

コメントありがとうございます! 編集部の恩田です。
ご指摘の箇所、失礼いたしました。修正させていただきました。
感想も大変ありがたいです!

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4879)

お久しぶりさんの絵すごく好きなので本人のことをもっと知れて嬉しいです すごく面白い記事でした、知らなかった部分が出ててすごく新鮮でした
ずっと手の届かないほどの画力の絵師って感じでしたけど姉との関係や昔の話で同じく人間ってわかって、励みになりました!

ちなみに 『線画はSAI、塗りはクリスタ お久しぶりの制作環境』のところSAIとクリスタ逆になってます

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