株式会社クボタが120年以上にわたり支え続けてきた日本の水インフラ。
そんな水インフラを支える方々への感謝を伝え、日本の水インフラの素晴らしさを再発見する機会をつくることを目的としたCMが、「もはやMVでは?」というクオリティーなのです。
というか、形式としてはMVそのもの。ポップかつトリッキーな歌詞と楽曲、そして衣装やセットまで作り込んだ映像、そしてダンスでメッセージを語るその内容は、ミュージックビデオそのものです。
文:照沼健太
トップクリエイター3組が集まった、エビ中「Sweet of Sweet ~君に届くまで~」
作曲はももいろクローバーZらに高品質な楽曲を提供し「楽曲派」と呼ばれるトライブを生み出したヒャダインさん、監督は欅坂46「サイレントマジョリティー」などスタイリッシュな作品の数々で知られる池田一真さん。
そして振り付けは、コミカルでありながらもメッセージを重視したダンス表現で、カンヌほか「世界三大広告賞」すべてでグランプリを獲得した世界的振付師ユニットである振付稼業air:man。
ヒャダインさん
しかし、この3組と私立恵比寿中学が一堂に会すのは、史上初。つまり、CMでありながらも、この「Sweet of Sweet ~君に届くまで~」は私立恵比寿中学のドリームプロジェクト的な側面もあるのです。
アイドルの個性によって、水道水の個性を表現するプロジェクト
「まず、蛇口をひねれば“あたりまえ”に使うことのできる水道水ですが、実は日本のように、水道水がそのまま飲める国は少ないといいます」
「しかしながら、普段生活している私たちにとって、このテーマはあまりにも“あたりまえ”に存在していることであったため、世の中に対する話法を工夫する必要があると考えました」
そこで注目したのは、“あたりまえ”の中にある“意外”なものでした。
そんな「水道水の個性」を広告するにあたり考えたのは「説教臭くならないように」ということ。そして「誰の言葉であれば、それが最も世の中に届くのか?」ということ。その結果、たどり着いた答えが「アイドル」だったのです。
「“個性”という切り口から、メンバーそれぞれがバラバラのキャラクターであるにもかかわらず、ステージでは同じように輝きを放つアイドルグループを起用することにしました。そして、数あるアイドルグループのなかでも私立恵比寿中学のみなさんにお願いするにあたっては、さわやかなイメージ、個性的なメンバー、そして毎年水をつかった演出で野外ライブを行なっているということが決め手となりました」
そして、そんなエビ中が歌う楽曲名は「Sweet of Sweet ~君に届くまで~」。「水道水」とかけた言葉だということはうかがえますが、どんな意味が込められているのでしょうか?
そう、楽曲としての「Sweet of Sweet ~君に届くまで~」の大きな特徴は、1番と2番がまったく同じ歌詞になっているということ。それによって「個性を持ったアイドルの成長ストーリー」と「個性を持った水道水が世の中に届くまでのストーリー」が多くの共通点持っていることが示唆されます。
ヒャダインらしいトリッキーさと、池田一真の洗練された演出
「アイドルソングとしての王道感、そして楽曲の構成や歌詞の持つねらいを実現できるプロフェッショナルとして、エビ中とも何度もタッグを組んでいるヒャダインさんにお願いすることになりました。水のイメージを音で表現すること、サビの空耳、ポップさや疾走感、台詞パートの展開など、たくさんの工夫を施していただきました」
そして視聴者を飽きさせない演出は、もちろん映像面でも。池田一真さんによる洗練された演出、そしてつくり込まれたディテールが効果的に視線や意識を誘導します。
1コーラス目
2コーラス目
「水」をイメージした水色の光沢のあるワンピースをまとった私立恵比寿中学
「雨」「湧き水」「川」「合流水」「美しい水」と、水道水がつくられるプロセスをイメージした水の精の衣装
「エビ中のメンバーには、『水』のイメージの衣装として水色の光沢のあるワンピースを着てもらいました。対して、水の精の衣装は、『雨』『湧き水』『川』『合流水』『美しい水』と、水道水がつくられるプロセスをイメージしたものになっています。そして美術セットですが、水道水と言えば、蛇口。蛇口といえば公園。ということで、『公園』を記号化した舞台をつくりました」
公園を記号化した舞台セット
「水道水」の象徴として登場する巨大な蛇口
水道水が持つ豊かな個性を表すように、素材の違いや照明を駆使することで、キーカラーである“水色”にもさまざまな表情が与えられているのはまさにプロの仕事。プリズムが効果的に使われているのも印象的です。
振付稼業air:manのキャッチーな振りをエビ中がパフォーマンスに昇華
振付稼業air:man
「振付稼業air:manさんにお願いした今回の振り付けは、『水道水』をイメージさせるために『流れる水の動き』をモチーフにしていたり、『水道水への愛』や『水道局で働く人々への感謝』を表現するために、ハートマークをつくったりと、全編にわたって今回のテーマを感じていただけるように、ひとつひとつの振りに意味を込めています」
「エビ中のみなさんには、歌詞の意味と連動して表情や動きをつけてもらいました。アイドルソングとしての1コーラス目は、エビ中メンバーの豊かな表情に注目していただきたいです。それに対して、2コーラス目に突然割って入ってきた水の精に対して戸惑うメンバーたちのリアクションも見どころです」
単純に驚くような情報があるだけでなく、それぞれのメンバーがコミカルに振る舞う様子はアイドルらしいポップさに満ち溢れています。
「各セリフのパート撮影において、全国各地の水道水の個性を知って驚くメンバーもいました。星名さんは『熊本の水が飲みたくなった』と言っていましたし、中山さんはツアー先の水を飲んでみたいと話していましたね」
企業とアイドル/アーティストのコラボは、コンテンツの新たなかたちか?
そして、一般企業とのコラボレーションは、アーティストサイド単体では生まれない、新しいコンテンツを生み出し、ファンの関心を呼ぶ可能性も感じます。今回の「Sweet of Sweet ~君に届くまで~」で日本を代表するトップクリエイター3組が一堂に会したことからも、その効果は見て取れるはず。
トップクリエイターが結集してつくられた楽曲・映像・振付といった作品の中身を楽しむことはもちろん、この企画そのものが、カルチャーコンテンツの新たな可能性を指し示す先行事例であるという点もまた、この「Sweet of Sweet~君に届くまで~」に注目するポイントなのかもしれません。
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照沼健太
Editor / Writer / Photographer
編集者/ライター/カメラマン。MTV Japan、Web制作会社を経て、独立。2014年よりユニバーサルミュージック運営による音楽メディア「AMP」の編集長を務め、現在は音楽・カルチャー・広告等の分野におけるコンテンツ制作全般において活動を行っている。ブログメディア「SATYOUTH.COM」を運営中。http://satyouth.com
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