K-POP練習生→現タイアイドル 少女が青春をかけた日韓泰アイドル事情

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立ちはだかる契約問題

ファニー もうすぐデビューっていうときに会社との契約にあまり良くない問題が生じて。精神的にも、文化の違う国での戸惑いやストレスもいっぱいあったし限界で……。

それを知ったお母さんがタイから迎えに来てくれて、住んでいた寮から逃げました。タイに戻って契約を終わらせてもらうことにしたんです。

ファニーさんの青春である3年間を費やして挑んだ韓国でのアイドルへの道は、こうして幕を閉じることとなりました。

ファニー 実際に韓国の練習生での問題は、大きな事務所でもいまは問題がいっぱい出てきていますね。

韓国芸能界での契約問題は、しばしば「奴隷契約」として日本のワイドショーをも賑わせることもあります。練習生だけではなく、デビューし成功を収めたアイドルでさえも契約問題により突然脱退や解散し、裁判を起こすケースも珍しくありません。

韓国の練習生を育成するシステム上、長期間のレッスン代や寮の初期費用を回収しなければならず、事務所との契約問題が生じやすいのです。

2回目のアイドルへの挑戦

タイに帰国したファニーさんですが、アイドルとして早くも第二の道を歩むこととなります。帰国したタイでは徐々に日本式アイドルグループのムーブメントが始まっていました。

ファニー いまや多くのタイ人がK-POPアイドルとして活躍していますが、それでもタイ人の元練習生は珍しいので、タイに帰国してから仕事やアイドルグループ、様々なところから声がかかりました。

韓国で練習生になれるだけでもやはりすごいことなのだと実感しました。でも韓国の事務所を辞めてからは慎重になっていました。契約問題の経験もありましたし、本当に自分のやりたいことはなんだろうって。

なので自分でここなら大丈夫と見極めたところに、自分の実力でチャレンジしてオーディションを受けたいと思って。いまの事務所には、プロデューサーさんも会社も「ここなら大丈夫! いける」って確信してから入りました(笑)。

彼女が選んだ道はサバイバルアイドルグループ・Black Forest

ファニー Black Forestはポップロックの曲調で、日本のアイドルのようなパフォーマンス、韓国のアイドルのような完璧なダンスを意識したアイドルです。

それでも歌はタイらしく。最近は日本語で歌うアイドルや英語で歌うバンドもいますが、私たちはタイ語でわかりやすく、歌詞の想いを伝えられるというコンセプトです。

Black Forestのプロデューサーさんはもともと自分でロックバンドをやっていたんです。なので夢を追いかける気持ちもわかってくれているし、歌を聞いてみて「いいな」って思って。

現在タイでは日本式アイドルの人気が上昇し、ファンの応援方法もそのまま日本語でのコールやMIXが使われています。
そうした流れもあるためか、Black Forestのデビュー曲「Home」は、前奏こそファンがMIXの打てる日本のアイドルソングのようですが、中身はタイの王道ポップロックです。

ファニー いまタイではJ-POPや日本のアイドルを意識したアイドルがすごく多いんです。

Black Forestは日本と韓国のアイドル両方の良さを知っている自分にはぴったりだと思いました。

もともと日本が好きだったので、すごく日本っぽいアイドルもいいなと思いましたが、韓国で練習生として頑張ってきた経験があるので、それを生かせるのもすごく面白いなって思っています。

選んだのはサバイバルの道

Black Forestは韓国の人気サバイバル・プログラムを取り入れたタイでは新しいアイドルグループで、オーディションに受かった18人から、2カ月で9人の正規メンバーになるまで生き残りをかけてサバイバルするという企画のアイドルです。

正規メンバーになるためにはプロデューサーの決定が70パーセントを占めますが、ファンからの投票も決定権の30パーセントを占め、その内訳はオフィシャルグッズの購入や握手会での人気、SNSのフォロワー数がポイントになります。

日本ではSUPER☆GiRLS(スパガ)が以前、同じくファンからのオフィシャルグッズやCD購入によるポイントの投票制度をとっていたことを話すと、ファニーさんは「スパガのデビューライブに行きましたよ! 一緒だったんですね(笑)」と喜んでいました。

ファニー 韓国式のアイドルサバイバル・プログラムはタイでもすごく人気です。「プロデュース101」や「プロデュース48」のProduceシリーズや「アイドル学校」とか。タイでもやるんじゃないかって話題になったこともあります。

もちろん2018年放送の「プロデュース48」も人気でした。私は日本のアイドルの中でAKB48などの48グループももちろん好きなので見ていたんです。

でもK-POPが好きなタイのファンから見たら日本のアイドルのことを知らないから、文化的なギャップをよく理解できないですよね。自分は韓国でも練習生をやっていましたし、日本のアイドルが好きで両方の文化をわかっていたから、共感しながらすごく楽しんで視聴していました。

そんな日本、韓国、タイ、それぞれのアイドル文化を知るだけに、悩むこともあるというファニーさん。

ファニー 韓国での練習生時代は朝7時から翌日の2時まで練習。韓国ではそういうスタイルが一般的です。

タイは練習やレッスンが2時間くらい。それでもメンバーたちはすぐ疲れたって言う人もいるので韓国とのギャップを感じました。タイ人にとっては2時間でもいっぱいですけど、韓国と比べると足りないですね。

タイ人メンバーと日本人メンバーのレッスンにおける文化的差異については以前、Siam☆Dreamも同じように語っていたので、より厳しい韓国でのレッスンを受けてきたファニーさんにとっては驚きが大きかったようです。

ファニー ステージでのパフォーマンスが控えていたとしたら、焦って緊張しちゃうと思います。タイのスタイルだと、練習が足りないんじゃないかなって。

プロデューサーさんたちに韓国での経験を踏まえて相談したこともあります。まだ足りないって、まだ物足りないって。

そんなファニーさんが物足りなく感じるレッスンスタイルには、タイの文化的背景が深く関わっていました。

ファニー タイのアイドルというか、タイ人は進学が重要なんです。勉強はしなければならないものと考えていますから。

日本人は職業としてのアイドルとして活動していますが、タイではまだそのように考えている人は少ないです。大学への進学や勉強をすごく大切に考えています。

アイドル文化としてもまだ未成熟なので、活動の優先順位はどうしても低くなりますね。デビューが決まっても、勉強のためにすぐ卒業してしまうメンバーもいます。

一方、韓国のアイドルは、練習生でもあまり勉強を優先しません。競争の激しいアイドル業界のなかで生きていくためには仕事優先ですね。

進学を重視する考え方もいまだ根強いですが、現在のアイドルブームの影響でタイでも職業としてのアイドルが浸透するかもしれません。

これからのタイ音楽界を支えたい

韓国から戻りアイドルに挑戦するとともに、ファニーさんは再び大学生活を送っています。

ファニー 大学では放送を専攻して、カメラや番組制作、演出、グラッフィックなどの美術を学んでいます。私はバックステージやエンジニアに興味があるので、ピアノやギターでの作曲も学んでいてます。実は将来、アイドルや演者を支える側になりたいと思っています。

演者側ではないのが意外に聞こえますが、いろいろなアイドル文化に触れ、実際に苦労を経験してきた彼女だからこその選択かもしれません。

ファニー 韓国や日本のようなアイドル文化が、タイの芸能事務所にも演者にも社会にもまだないんです。だから将来はそれを支える側になりたいなって。

Black Forestのプロデューサーさんも夢を持っている人の気持ちをわかってくれる人です。バンドとしてオーディションの経験もあるから、夢がある人にチャンスを与えたいと言う優しいプロデューサーさん。そういう考え方に憧れます。

タイのアイドルやバンドが抱える問題としては、日本のようにライブハウスなど小規模な興行ができる会場が少ないという点があります。

そのためバンドの場合は、ビアガーデンやパブでヒット曲のカバーを演奏する下積みからのスタートが一般的です。知名度のあるバンドや歌手もシーズンになると有名アルコールブランドのビアガーデンでライブを行うほど、お酒の提供される場でのライブが日本でのライブハウスでの興行のような役割を果たしています。

ファニー タイではパフォーマンスできるステージがあまりないんです。アイドルの場合は、ショッピングモールのステージがほとんどです。

韓国の「Mcountdown」や日本の「ミュージックステーション」など、ファンが参加できる音楽番組もありません。つまりテレビを通じたプロモーションの機会が少ない、エンターテインメントインダストリーの問題ですね。

そういった背景もあり、ステージがなくてもできる握手会やチェキ会といった日本のアイドルのようなコミュニケーションの場が、タイの音楽事情とあいまって急速に広がっていきました。

タイでも握手会やチェキ会はプロモーションの一環として考えられ、アイドルの活躍の場として認知されつつあります。

遠回りをし、そしてついに叶った夢

インタビュー中はサバイバル期間中だったというファニーさん。

ファニー もちろんいまはBlack Forestの正規メンバーになるのが夢です! 3年間ダンスと歌を韓国の練習生として学んできたので、それらを活かさないとだめですね。

「韓国であのとき全力で頑張ったのに」っていう気持ちがあるので、いまも同じように頑張りたいんです。歌やドラム、ピアノ、ダンスももっと勉強して完璧なステージができればいいなと思います。

そして、日本語と韓国語も勉強しなきゃ! 韓国でアイドルを目指していた頃から、日本のステージに立ちたいと思っているんです。タイに戻ってからは、Siam☆Dreamみたいに日本でもアイドル活動したいという目標もあります。

長くつらかった経験もバネに、ストイックに将来について語るファニーさんの目には、キラキラとこれからの希望が満ち溢れていました。

6月2日開催の「IDOL EXPO」のステージで、ファニーさんはファンからの投票数第1位の8612票を獲得し、見事正規メンバーとしてデビューすることが発表されました。

「MCが苦手で。アイドルのかわいさや愛嬌が下手なんです。実はタイ語も苦手で(笑)。伝えるのが苦手なんです」と語っていたファニーさんでしたが、涙ながらにファンや家族、スタッフ、メンバーへの感謝を述べ感動的なステージとなりました。

ファニーさんのアイドルとしての夢が、いまようやく始まろうとしています。
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