20〜30代を中心に、コミュニティからカルチャーへと広がる勢いの“サウナ熱”。2018年3月に開かれた、FSC(一般社団法人フィンランドサウナクラブ)による野外フェスティバル「日本サウナ祭り2018」のイベントレポートと合わせて考察します。
取材・文:飯寄雄麻
サウナイベントは申込み殺到、全国のサウナ好きが大集結
今年で4回目の開催となる「日本サウナ祭り2018」は、2015年にスタートしたイベントです。回を重ねるごとに参加者が増え続け、今回は定員200名の申し込み枠に1,000名以上の応募が殺到。
事前受付の開始からわずか数分で、メールサーバーがビジー状態になるほどの注目度でした。
その中から抽選で選ばれた参加者は男性に限らず女性の方も多く、親子連れや大阪からの参加など、日本全国幅広い層のサウナ好きが集まりました。 会場となったのは、標高約1,200mの場所に位置する長野県佐久郡小海町にあるフィンランド・ヴィレッジ。
普段は宿泊施設としてロッジを運営しており、施設内に本場のフィンランド式サウナが常設されています。フィンランド・ヴィレッジ前にある長湖は、ワカサギ釣りなどでも有名。
そんな大自然に包まれた中でのサウナ祭りは、全力で大人の休日を楽しむベストロケーションでした。
ビジュアルも可愛い特設サウナがズラリ
常設されているサウナ以外にも、仮設で組み立て可能な「テントサウナ」(外部リンク)や、フォルクスワーゲンを改造した自走式サウナカー「サウナワーゲン」(外部リンク)など個性的なサウナが並びます。 その他には、Roomette(外部リンク)を利用したモバイルサウナの「SAUNA TOASTER」(外部リンク)、人力で移動できるお一人様専用サウナ「CAMERA」など、可愛らしいビジュアルのサウナが印象的でした。普段の銭湯やスパなどでしかサウナに入っていない私からすると、こういった目で見て楽しい特別なサウナはイベントならではの醍醐味。 その他には古式スモークサウナが楽しめるピットサウナや、日光の反射熱を利用したドーム型テントサウナなど元来のサウナのイメージを払拭するポップなデザインのものが多種多様に用意されていました。
至極のパーソナル空間、大自然で「ととのう」形とは
たくさんあるサウナのなかでも、印象的だったものをいくつか紹介します。まずは、本館から少し離れた別館内に設けられた、電気ストーブサウナです。
別館ではアーティスト・とくさしけんご(外部リンク)さんが淹れるコーヒーが振る舞われており、その脇を通り抜けると2〜3名が入れる狭い空間のサウナがありました。
とくさしさんもイチオシだという電気ストーブサウナ。どのような体験が待っているのでしょうか。 サウナには「ロウリュ」と呼ばれる、入浴法があります。
熱された石に水をかけて水蒸気を発生させることで、体感温度を上げる入浴法です。都内ではこのロウリュを行えるサウナ施設自体が珍しく、マイスターと呼ばれる施設のスタッフが行うロウリュが基本となります。
しかし、この別館の電気ストーブサウナでは、セルフロウリュができるのです。
それはパーソナルロウリュと言えるくらい、自分の為だけの時間と空間を体験することができました。高温の石によって水が蒸発する音、漂う木の香り、そして熱気――。
これらが混ざって身体へと溶け込む感覚は、普段のサウナでは到底味わうことができない多幸感でした。
そして、サウナで火照った身体に必要なのは、なんといっても水風呂。ですが、この水風呂を苦手とする人も多いはず。私も最初は入ることを拒んでいた水風呂ですが、銭湯での温冷浴をきっかけに入れるようになりサウナへの道が開けました。 会場には澄みきった小川の水を利用した水風呂が用意されており、その水温はなんと3度。
サウナ好きにはたまらないほどキンキンに冷えたプールへとダイブします。
心臓の鼓動を感じ、身体を拭いたら、至るところに設置されているリクライニングチェアに腰掛け、「外気浴」と呼ばれる休憩を挟みましょう。 これを1セットとして3回ほど繰り返すと、血管と神経が刺激され、脳に酸素が駆け巡り、とても気持ちのよいディープリラックス状態へと辿り着きます。
これが、「ととのう」と呼ばれている境地です。
普段は体調によってもととのい方に差が出るのですが、大自然の中では、ととのい方を気にしている方がもったいないような感覚でした。
それぞれのタイミングで楽しみ、ととのい方に縛られず、最高の休日を過ごす。
そんな時間の流れを改め直してくれる空気感が、このサウナ祭り一体に広がっていたような気がします。
人との繋がり、参加者も一緒に作り上げるお祭り
もう一つ紹介したいサウナが、前述した「ワーゲンサウナ」です。車の中は意外と広く、5名が同時に入れる空間となっています。 満蒸(満員)状態となった車内でストイックにロウリュを行っていると、参加者同士の会話が自然と始まります。もちろんみんな、初対面。
「どちらから来たんですか?」「普段はどのサウナに行くんですか?」
普段通っているサウナや銭湯でも、見ず知らずの人と交流をする機会はあります。しかしお祭りともなると、そのハードルが格段に低くなるのです。
普段は一緒になることのない、女性と男性が水着でサウナのなかで語り合う――。
そういった出会い方で知り合った者同士は、2日目ともなれば、もう顔馴染みの関係に。
「あっちのサウナ空いてましたよ」とか「サウナの温度高過ぎないですか?」とか。一人ひとりの参加者が周りを気遣い、そして自分も楽しむ。
決して主催者や運営が一方的に参加者へと体験を与えるのではなく、参加者も一緒にお祭りを作り上げるという空気が全体を包み込んでいました。
銭湯とサウナの違い。古きを新しく、コミュニケーションをデザインする
銭湯は昔から地域のコミュニティとして人との繋がりを与えてくれる役割を担っていました。しかし、現代ではほぼ全ての家にはお風呂やシャワーがあり、SNSやスマートフォンなどがあればコミュニケーションには不自由なく生活ができます。
そんな現代における、銭湯やサウナの役割について、「サウナ祭り2018」にも参加していた小杉湯番頭・塩谷歩波(外部リンク)さんにお話を伺いました。
銭湯好き、サウナ好きそれぞれの観点からすると、似ているようで異なる2つのカルチャーがあるように思いがち。しかし、塩谷さんはその違いはないと主張します。塩谷さんはフィンランドでサウナを体験して以来、「サウナと銭湯の垣根は、あまりない」と感じるようになったそうです。「公衆浴場として捉えると、銭湯もサウナも違いはないですよ」 塩谷歩波さん
「公衆浴場としての魅力をレジャー、コミュニティ、健康と捉えると、サウナはレジャー要素を魅力に感じる人が多く、銭湯にはコミュニティや文化性を魅力に感じる人が多い。
そうした“評価する軸”が異なることによって別のカルチャーに見られることも多いが、サウナも文化的な側面はあるし、銭湯だってレジャー性はある」(塩谷)
それらを「大衆浴場という大きな観点から分析して、語る人が少なかったのではないか」と、塩谷さんは言います。
サウナには「ととのう」という形の、ある種、中毒性のある気持ち良さがあり、その虜になっている人も多くいます。しかし塩谷さんは、「多くの人はその中毒性の為だけに銭湯に行っている訳ではない」と語ります。「いつも同じ時間に会える常連のおばちゃんが好きで銭湯に通っています」塩谷歩波さん
「このコミュニケーションが、日々の入浴時間という短い時間で営まれているというところに、若い人から見た銭湯の魅力の一つがあると思う」と続けます。「銭湯やサウナで出会うおばちゃんは、毎日会って顔と裸は知ってるものの、名前や職業は知らない。これは、ある種の匿名性をもったリアルコミュニケーション。
一方で、SNSネイティブ世代の私たちは、匿名的なコミュニケーションを得意としています。時代や世代を超えた、『匿名コミュニケーション』という共通点が銭湯というオールドコンテンツにあること。それが、とてもおもしろいのです」塩谷歩波さん
「サウナや水風呂の気持ちよさ、その中毒性をきっかけに銭湯に通い始め、そこからコミュニティの魅力や銭湯空間自体のおもしろさに気づく。その一連の流れの中で、身体が健康になっていく楽しさを知っていけばいいのではないか」と、塩谷さんから教えていただきました。
リアルなコミュニティを形成することで、たどり着く多幸感
インターネットやSNSでの繋がりが当たり前になったからこそ、銭湯やサウナといったリアルな場でのコミュニケーションについて考える。いま一度振り返る、いい機会となりました。
塩谷さんは「サウナ祭り2018」をサウナ好きの人たちからのSNSで存在を知ったそうです。そして、運良くチケットに当選した今回、Sauna Camp.(外部リンク)の方と一緒に参加されたとのこと。
繋がりやすさを求めた現代では、少し希薄なコミュニケーションになりがちです。
しかし、より人生を豊かにしてくれる本質は、コミュニケーションの先にある密度の高いリアルなコミュニティが大切であり、それはきっと銭湯やサウナに限らず、音楽や映画、ゲーム、YouTube……。
夢中になるものは人それぞれでいいのかもしれません。
少し長くサウナに入りながら難しく考えてしまったので、火照った頭を水風呂で冷やして、ゆっくり外気浴でクールダウンしようかと思います。
夢中になれる何かがなくても、難しく考えずに、銭湯やサウナ、水風呂であれば気軽にトライできるのではないでしょうか?
※本稿は「東京銭湯 -TOKYO SENTO- 」によるサウナコラムの転載となる(元記事)
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飯寄雄麻
Director
87年生まれ、静岡出身。広告代理店を経てフリーランス転向後はLoftworkや2.5Dでディレクターとして携わる。
プロデューサーとしてデザインコンサルティングファーム・THINKRに2017年12月まで所属し、その後独立。LIVE CREATIONをテーマにインタラクティブな映像体験やテクノロジー、メディアなど多岐に渡る分野を得意とし、コンテンツ制作に携わる。個人でもカルチャーを発信するプロジェクトを多数主宰。
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