市場規模2兆円を突破したという日本のアニメーション産業。市場拡大に少なからず貢献しているのが、インターネット配信をはじめとする海外での売り上げだ。
AmazonやNetflix、Hulu、Crunchyrollといったアメリカの企業とともに、昨今はアイチーイー(愛奇芸)、ヨウクトゥードウ(優酷土豆)、ビリビリ(嗶哩嗶哩)など、中国企業の名前を聞く機会も増えている。
そしてそれは、国外配信に限った話ではない。ビリビリは複数のアニメ製作にも参加しており、日本でも人気のゲームアプリ『アズールレーン』もビリビリの子会社が運営している。アニメスタジオという意味でも、HAOLINERS ANIMATIONは日本法人・絵梦(えもん)を設立し、『銀の墓守り』や『セントールの悩み』を手がけている。
成長を続けるIT企業を中心に、その資本力から日本のアニメに影響力を持つようになった中国。一方で、その実態や現状の把握は難しい。
KAI-YOU.netでは、書籍『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』を刊行し、国内外のアニメーション業界から注目を集めるジャーナリスト・数土直志さんにインタビューを実施。
中国企業の日本アニメへの進出状況や、将来的な展望について話を聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。
取材:米村智水・恩田雄多 文:恩田雄多
現在はフリーランスとして『デジタルコンテンツ白書』のアニメーションパートや『アニメ産業レポート』などで執筆。変化の激しい2000年代のアニメを、ビジネスという視点から俯瞰している。
──近年、アニメを中心に、中国企業がオタクコンテンツに進出するケースが増えています。数土さんとしても、中国の勢いを感じていますか?
数土 正直、もう一段落ついてしまったというか、1〜2年前のようにどんどん日本のアニメにお金を使った結果、利益としてあまり芳しくなかったのではないか。
例えば11月、ビリビリの日本法人の大幅な減資が明らかになっています。だから中国側としても「(日本のアニメに対するお金の使い方について)もっと考えたほうがいい」という状況だと思います。
──つまり著作『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』で書かれた状況から、さらに変化しているということですか?
数土 変わっていると思います。中国側にしてみれば、日本と一緒にやることが必ずしも大儲けにつながるわけではない。日本側としても、過去1年で急激にメディア規制が強くなり、さらに厳しくなるといわれている中国に対して、少し及び腰になっているような気がします。 数土 実際、2015年には『進撃の巨人』などがネット配信禁止になりました。もちろん『NARUTO-ナルト-』や『ドラゴンボール』のような作品は残ると思います。
でも、ある程度の暴力や性的表現を含む日本の深夜アニメが生き残っていけるかどうか、それを判断するのは難しい状況だと感じています。
数土 北京や上海などの都市部に限定されますけど、日本のアニメや漫画は人気コンテンツなんです。だからシンプルに言うと、その人気をビジネスで活用しようと。
かといって、日本のアニメだけに興味を持っているかというとそうではなく、韓流ドラマやハリウッド作品と横並びのジャンルとして、つまりユーザーに受け入れられるコンテンツの1つとして、「アニメもあり」というスタンスだったと思います。
日本のアニメを特別視するわけではなく、世界的にメジャーなエンタテインメントコンテンツの1つとして見ていた、ということです。
──実感としては、もっと日本のアニメに熱視線を送っていたような印象ですが、実際はそうでもないと?
数土 もちろん日本のすごさは感じつつも、ビジネス面ではそこまでアニメに執着していないと思います。ただしマインドの面ではそうとも言えない。
『干物妹!うまるちゃんR』のビリビリや『セントールの悩み』の絵梦など、日本のアニメの制作に参加している中国企業につとめている若者は、日本のアニメや漫画で育った人が多いんです。 数土 2000年代初めくらいに、日本のアニメは急激に輸入され、人気を集めたんです。でも2006年には、中国側の規制によって輸入できない状態になります。
──1990年代後半には『ドラえもん』や『SLAM DUNK』などもTVで放送されていましたね。
数土 そうです。それ以降、2010年代初頭くらいまでネット上で海賊版がたくさん視聴されていた。それを見た中国側が正規の配信権を購入してみたら人気を獲得。日本への買い付けが進んで、価格が上がっていったのが2015年頃という感じです。
その中で日本のアニメに触れた人たちは、僕らがかつてハリウッド映画に抱いた憧れのようなものを感じているので、ビジネスとマインドという双方の視点が入り乱れているんじゃないでしょうか。
「子供の頃に見た日本のアニメが好きだったからつくってみたい、関わってみたい」──中国企業からこういった話はよく聞きます。
数土 決算を出していない企業が多いのではっきりとしたことはわかりません。もしかすると、配信だけでは儲かっていないかもしれない。でも、例えばビリビリは『Fate/Grand Order』の中国展開が好調らしい。
つまり、集客する装置として動画配信のプラットフォームがあって、そこから商品やデジタルコンテンツを売るというのが、今後は広がっていくのかなと思います。そういう意味では、中国企業が「高いお金で日本のコンテンツを買う、もしくは自ら投資するほど費用をかけなくてもいいんじゃないか」と思っても不思議ではないですね。
──製作委員会に入らずとも、配信権や海外展開の一部を担ったり、そういう部分的な契約で十分ということですか?
数土 そうです。アニメスタジオである絵梦も、日本で苦労しながら作品を制作するよりも、「日本風のものを中国でつくればいい」という結論に至るような気がします。Made in Japanというブランド力が、日本でも中国でもいつまで通じるかわからないですからね。
例えばビリビリの子会社が展開する『アズールレーン』は、非常に日本っぽいクリエイティブで人気を集めて、実際に登録ユーザー数400万人を突破しています。イラストという意味でも、pixivなどを見ていると日本と遜色のないクリエイターがたくさんいる印象です。
数土 ゲームアプリは、アニメや映画とはまったく別の文脈で進歩していったことで、支持を集めているんだと思います。「アズールレーン」ティザーPV
数土 1枚絵に関しても、日本であれ中国であれ、現状トップレベルのクリエイターに差はないと思いますね。ただし、アニメで企画やストーリーを考える段階で、中国には圧倒的な足枷が存在しているんです。
──と言うと?
数土 メディアの規制です。僕自身、2〜3年前までは、中国には才能のある人も多いので、近い将来、ひょっとしたら日本を追い抜くんじゃないかと思っていたんです。でも、さっきも言った通り、ここ1年くらいのメディア規制の厳しさを考えると、自由度の少ない中でどれだけクリエイティブが活性化できるのかと、疑問に感じてしまいます。
『Fate/Grand Order』や『アズールレーン』といったゲームアプリを展開しているビリビリも、メインである動画配信にリスクがあると思っている。原因は何かというと、おそらく弾幕……。
──ニコニコ動画同様、リアルタイムなコメント投稿機能はビリビリの特徴だと思いますが、それがなぜ警戒されるのでしょうか?
数土 リアルタイムで入力できる弾幕は、事前の検閲を受けることなく意見を表明できてしまう。作品に関係なく、「共産党反対」という政治的なコメントもできてしまうわけです。
──なるほど。「ビリビリがニューヨークで上場する」という報道もありますが、そういった検閲の存在が関係しているのかもしれませんね。
数土 本当に上場を検討しているのかは不明ですが、中国以外の国へのビジネス進出を考えても不思議はありません。アメリカに子会社のようなものを設立すれば、日本アニメ的、もしくは中国アニメ的な作品だってつくることができる。
ビリビリも日本のアニメだけを配信しているわけではなく、最近は他ジャンルの番組も増えているので、意外とアメリカでも成功するのではないでしょうか。
数土 僕の知る限り、アニメにおいてはまだ出てきていません。でもそれは歴史が浅いからであって、近い将来そういった人材が出てきてもおかしくないですね。
実際、中国は2000年代半ばくらいから、国策としていくつもの施策を講じて、自国のアニメ産業に力を入れています。エンタメコンテンツに対する様々な投資ファンドを設立したり、制作会社や研究機関へ助成したりしたとこで、中国の大きな都市にコンテンツの産業基地のようなものがいくつも立ち上がりました。
その頃は日本でも「10年経ったら中国に抜かれる」と言われてたんですけど、実際のところ抜かれてないですよね。そのとき中国で何が起きていたのか、一言で表すなら粗製濫造です。
──国のサポートがありながら、なぜ後退するんですか?
数土 簡単に言うと、政府や放送局がエンタテインメントとしての内容を吟味することなく作品を買い取ったことで、適当な作品が増えていったんです。中には、それまでアニメ制作に手を出してこなかった会社が、お金目当てに参入したケースもあったようです。
なおかつ、政府が買うので作品の内容としては冒険できないわけですよ。すると「西遊記」や「三国志」のようなアニメがいくつも生まれていく。過当競争が起きてしまったがために、中国アニメ産業の発展は、少なくとも10年は遅れたと思っています。
緊張感がなくなって産業が発展しなかった。その間違いに気づいたのがここ数年で、「日本につくらせてみるか」「ハリウッド的な作品をつくってみるか」と、試行錯誤しているという印象ですね。そういう意味では、中国アニメは今後10年で大きく変化するかもしれません。
──国のバックアップで衰退するというのは意外ですね。例えば韓国は、自国のエンタテインメント産業に力を入れて、音楽を中心に成功を収めています。
数土 ケースによりけりですね。例えばヨーロッパのアニメに対する補助金は、日本ではとても高く評価されています。
日本とフランスで共同制作するときは、フランス側は自国の政府から億単位の補助金を引っ張ってきて、補助金の少ない日本側からすると「対等な共同制作ができない」と声が上がったりする。もっと言うと、ヨーロッパの数カ国共同でアニメをつくると、補助金だけでリクープライン(採算分岐点)に近づいてしまうこともあるんです。
そうなると中国と同様で、国際的に強い作品が生まれにくくなる。アートやクリエイティブを重視しすぎて、ビジネス的な視点が弱くなる。
例えば、フランス・中国・アメリカ・アラブ首長国連邦・ドイツが合作した実写VFX『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の興行的な失敗も、そういった影響が大きかったんじゃないかと思います(日本では2018年3月公開)。
AmazonやNetflix、Hulu、Crunchyrollといったアメリカの企業とともに、昨今はアイチーイー(愛奇芸)、ヨウクトゥードウ(優酷土豆)、ビリビリ(嗶哩嗶哩)など、中国企業の名前を聞く機会も増えている。
そしてそれは、国外配信に限った話ではない。ビリビリは複数のアニメ製作にも参加しており、日本でも人気のゲームアプリ『アズールレーン』もビリビリの子会社が運営している。アニメスタジオという意味でも、HAOLINERS ANIMATIONは日本法人・絵梦(えもん)を設立し、『銀の墓守り』や『セントールの悩み』を手がけている。
成長を続けるIT企業を中心に、その資本力から日本のアニメに影響力を持つようになった中国。一方で、その実態や現状の把握は難しい。
KAI-YOU.netでは、書籍『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』を刊行し、国内外のアニメーション業界から注目を集めるジャーナリスト・数土直志さんにインタビューを実施。
中国企業の日本アニメへの進出状況や、将来的な展望について話を聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。
取材:米村智水・恩田雄多 文:恩田雄多
中国企業の勢いは一段落した
もともと物事の仕組みや裏側を解明するのが好きだったという数土さんは、アニメに対しても、そのビジネス構造に興味を抱き、2004年にアニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」を立ち上げた。現在はフリーランスとして『デジタルコンテンツ白書』のアニメーションパートや『アニメ産業レポート』などで執筆。変化の激しい2000年代のアニメを、ビジネスという視点から俯瞰している。
──近年、アニメを中心に、中国企業がオタクコンテンツに進出するケースが増えています。数土さんとしても、中国の勢いを感じていますか?
数土 正直、もう一段落ついてしまったというか、1〜2年前のようにどんどん日本のアニメにお金を使った結果、利益としてあまり芳しくなかったのではないか。
例えば11月、ビリビリの日本法人の大幅な減資が明らかになっています。だから中国側としても「(日本のアニメに対するお金の使い方について)もっと考えたほうがいい」という状況だと思います。
──つまり著作『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』で書かれた状況から、さらに変化しているということですか?
数土 変わっていると思います。中国側にしてみれば、日本と一緒にやることが必ずしも大儲けにつながるわけではない。日本側としても、過去1年で急激にメディア規制が強くなり、さらに厳しくなるといわれている中国に対して、少し及び腰になっているような気がします。 数土 実際、2015年には『進撃の巨人』などがネット配信禁止になりました。もちろん『NARUTO-ナルト-』や『ドラゴンボール』のような作品は残ると思います。
でも、ある程度の暴力や性的表現を含む日本の深夜アニメが生き残っていけるかどうか、それを判断するのは難しい状況だと感じています。
韓流ドラマ、ハリウッド映画と横並びという評価の日本アニメ
──そうすると、状況的には過去の話になりますが、中国側が日本のアニメに対して出資/投資していたのはなぜでしょう。出資して製作委員会に入ったり、単純に権利を買い取ったりとパターンはあると思いますが、それだけ日本のアニメに可能性を感じていたんでしょうか?数土 北京や上海などの都市部に限定されますけど、日本のアニメや漫画は人気コンテンツなんです。だからシンプルに言うと、その人気をビジネスで活用しようと。
かといって、日本のアニメだけに興味を持っているかというとそうではなく、韓流ドラマやハリウッド作品と横並びのジャンルとして、つまりユーザーに受け入れられるコンテンツの1つとして、「アニメもあり」というスタンスだったと思います。
日本のアニメを特別視するわけではなく、世界的にメジャーなエンタテインメントコンテンツの1つとして見ていた、ということです。
──実感としては、もっと日本のアニメに熱視線を送っていたような印象ですが、実際はそうでもないと?
数土 もちろん日本のすごさは感じつつも、ビジネス面ではそこまでアニメに執着していないと思います。ただしマインドの面ではそうとも言えない。
『干物妹!うまるちゃんR』のビリビリや『セントールの悩み』の絵梦など、日本のアニメの制作に参加している中国企業につとめている若者は、日本のアニメや漫画で育った人が多いんです。 数土 2000年代初めくらいに、日本のアニメは急激に輸入され、人気を集めたんです。でも2006年には、中国側の規制によって輸入できない状態になります。
──1990年代後半には『ドラえもん』や『SLAM DUNK』などもTVで放送されていましたね。
数土 そうです。それ以降、2010年代初頭くらいまでネット上で海賊版がたくさん視聴されていた。それを見た中国側が正規の配信権を購入してみたら人気を獲得。日本への買い付けが進んで、価格が上がっていったのが2015年頃という感じです。
その中で日本のアニメに触れた人たちは、僕らがかつてハリウッド映画に抱いた憧れのようなものを感じているので、ビジネスとマインドという双方の視点が入り乱れているんじゃないでしょうか。
「子供の頃に見た日本のアニメが好きだったからつくってみたい、関わってみたい」──中国企業からこういった話はよく聞きます。
ビリビリをはじめ中国企業の動画配信は儲かっているのか
──ビジネス的にはフラットな視点でありつつも、日本のアニメを見た世代にとっては精神面でどこか憧れがあると。その場合、出資/投資する段階で自分たちはどのように儲けようと考えているのでしょうか?数土 決算を出していない企業が多いのではっきりとしたことはわかりません。もしかすると、配信だけでは儲かっていないかもしれない。でも、例えばビリビリは『Fate/Grand Order』の中国展開が好調らしい。
つまり、集客する装置として動画配信のプラットフォームがあって、そこから商品やデジタルコンテンツを売るというのが、今後は広がっていくのかなと思います。そういう意味では、中国企業が「高いお金で日本のコンテンツを買う、もしくは自ら投資するほど費用をかけなくてもいいんじゃないか」と思っても不思議ではないですね。
──製作委員会に入らずとも、配信権や海外展開の一部を担ったり、そういう部分的な契約で十分ということですか?
数土 そうです。アニメスタジオである絵梦も、日本で苦労しながら作品を制作するよりも、「日本風のものを中国でつくればいい」という結論に至るような気がします。Made in Japanというブランド力が、日本でも中国でもいつまで通じるかわからないですからね。
メディアの規制が発展の芽を摘む中国
──中国側の日本に対する現状認識はわかりました。次に国単体として見た場合、アニメやゲームをつくる国としての中国は、今後どのような存在になっていくのでしょう?例えばビリビリの子会社が展開する『アズールレーン』は、非常に日本っぽいクリエイティブで人気を集めて、実際に登録ユーザー数400万人を突破しています。イラストという意味でも、pixivなどを見ていると日本と遜色のないクリエイターがたくさんいる印象です。
数土 ゲームアプリは、アニメや映画とはまったく別の文脈で進歩していったことで、支持を集めているんだと思います。
──と言うと?
数土 メディアの規制です。僕自身、2〜3年前までは、中国には才能のある人も多いので、近い将来、ひょっとしたら日本を追い抜くんじゃないかと思っていたんです。でも、さっきも言った通り、ここ1年くらいのメディア規制の厳しさを考えると、自由度の少ない中でどれだけクリエイティブが活性化できるのかと、疑問に感じてしまいます。
『Fate/Grand Order』や『アズールレーン』といったゲームアプリを展開しているビリビリも、メインである動画配信にリスクがあると思っている。原因は何かというと、おそらく弾幕……。
──ニコニコ動画同様、リアルタイムなコメント投稿機能はビリビリの特徴だと思いますが、それがなぜ警戒されるのでしょうか?
数土 リアルタイムで入力できる弾幕は、事前の検閲を受けることなく意見を表明できてしまう。作品に関係なく、「共産党反対」という政治的なコメントもできてしまうわけです。
──なるほど。「ビリビリがニューヨークで上場する」という報道もありますが、そういった検閲の存在が関係しているのかもしれませんね。
数土 本当に上場を検討しているのかは不明ですが、中国以外の国へのビジネス進出を考えても不思議はありません。アメリカに子会社のようなものを設立すれば、日本アニメ的、もしくは中国アニメ的な作品だってつくることができる。
ビリビリも日本のアニメだけを配信しているわけではなく、最近は他ジャンルの番組も増えているので、意外とアメリカでも成功するのではないでしょうか。
国のサポートがアニメ産業を衰退させる?
──規制による自由度の少なさが発展を阻害していると。とはいえ、資金はあって、ここ数年で日本のアニメにも積極的に関わってきた。その中で、例えば日本における宮崎駿さんのような存在は現れているんでしょうか?数土 僕の知る限り、アニメにおいてはまだ出てきていません。でもそれは歴史が浅いからであって、近い将来そういった人材が出てきてもおかしくないですね。
実際、中国は2000年代半ばくらいから、国策としていくつもの施策を講じて、自国のアニメ産業に力を入れています。エンタメコンテンツに対する様々な投資ファンドを設立したり、制作会社や研究機関へ助成したりしたとこで、中国の大きな都市にコンテンツの産業基地のようなものがいくつも立ち上がりました。
その頃は日本でも「10年経ったら中国に抜かれる」と言われてたんですけど、実際のところ抜かれてないですよね。そのとき中国で何が起きていたのか、一言で表すなら粗製濫造です。
──国のサポートがありながら、なぜ後退するんですか?
数土 簡単に言うと、政府や放送局がエンタテインメントとしての内容を吟味することなく作品を買い取ったことで、適当な作品が増えていったんです。中には、それまでアニメ制作に手を出してこなかった会社が、お金目当てに参入したケースもあったようです。
なおかつ、政府が買うので作品の内容としては冒険できないわけですよ。すると「西遊記」や「三国志」のようなアニメがいくつも生まれていく。過当競争が起きてしまったがために、中国アニメ産業の発展は、少なくとも10年は遅れたと思っています。
緊張感がなくなって産業が発展しなかった。その間違いに気づいたのがここ数年で、「日本につくらせてみるか」「ハリウッド的な作品をつくってみるか」と、試行錯誤しているという印象ですね。そういう意味では、中国アニメは今後10年で大きく変化するかもしれません。
──国のバックアップで衰退するというのは意外ですね。例えば韓国は、自国のエンタテインメント産業に力を入れて、音楽を中心に成功を収めています。
数土 ケースによりけりですね。例えばヨーロッパのアニメに対する補助金は、日本ではとても高く評価されています。
日本とフランスで共同制作するときは、フランス側は自国の政府から億単位の補助金を引っ張ってきて、補助金の少ない日本側からすると「対等な共同制作ができない」と声が上がったりする。もっと言うと、ヨーロッパの数カ国共同でアニメをつくると、補助金だけでリクープライン(採算分岐点)に近づいてしまうこともあるんです。
そうなると中国と同様で、国際的に強い作品が生まれにくくなる。アートやクリエイティブを重視しすぎて、ビジネス的な視点が弱くなる。
例えば、フランス・中国・アメリカ・アラブ首長国連邦・ドイツが合作した実写VFX『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の興行的な失敗も、そういった影響が大きかったんじゃないかと思います(日本では2018年3月公開)。
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数土直志
ジャーナリスト
メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメに関する取材・報道・執筆、またアニメビジネスの調査・研究を行う。証券会社を経て、2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、2009年にはビジネス情報に特化した「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ、編集長をつとめる。2012年、運営サイトをイードに譲渡、2016年7月に独立。代表的な仕事に『デジタルコンテンツ白書』(デジタルコンテンツ協会)アニメーションパート、『アニメ産業レポート』(日本動画協会)の執筆など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』(星海社新書)。
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