カッコいいヒップホップ／広く届けるためのヒップホップ
晋平太 どうなっていくんですかね、日本のラップは。かっこいい人はめちゃくちゃいっぱいいるので、かっこいい音楽がどんどん成立していくと思う。
同時に僕が日本で発展してほしいと思っているのが──MCバトルがこれだけ盛り上がってラップする人が増えて、小学生でもサラリーマンでもラップする時間がでてきて、「小学校のときやったよね」とか「ラップで夢を話す授業が中学の時にあったよね」とか、そんな状況になってほしいと思っている。それが既存の「ヒップホップ」かは分からないですけど、僕はいろんなやつのラップを聴きたいし、聴くと楽しいなって思うんですよ。かっこいいラップって制約が半端じゃないから。
──ルールにのっとりつつ、それを越えていくみたいなイメージがあります。トレンドに乗りながら、どう更新するか、みたいな。
晋平太 そうです。それの細分化と越えたり越えられたりのシーンは半端じゃないですからね。
僕は、かっこいいラップもそうだけど、はじめてラップした人のラップを聴くのも同じぐらい好きなんです。「やべえ爆笑だ、クソ熱いぞ」みたいな初期衝動の素晴らしさもある。
やっぱり自分がどういう奴か世の中に分かってもらうっていう、それがラップのいいところなんじゃないですかね。みんなそれぞれ面白い部分があるじゃないですか。
──フリースタイルがムーヴメントとして盛り上がってる一方で、コアなヒップホップファンは、「MCバトルださいよね」って言う人も目立ってきてますよね。
晋平太 そういう意見もありますが、あまり気にしてません。
──でも、MCバトルはラップを広げるための手段としてかなり有効だと。
晋平太 そうですね。実際、世の中にこうやって広まった。
『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』晋平太
晋平太 ありがとうございます（笑）。
──そうやって、本来コアな文化であるヒップホップを広げていくという過程で、今まで衝突してきたこともあると思うんです。
晋平太 そうですね。それこそだせえって思ってる奴もいっぱいいるだろうし、T-PABLOW戦も、その言い争いのような形になってしまった。T-PABLOW君の言う「大事なのは広めるとかじゃなくて広め方なんだよ」とか、彼の言いたいことはもっともだと思います。
価値観や信念の違いで──カッコいい奴がカッコいいことをやって、いろんな奴に理解させるヒップホップもあるし、例をあげたらNASとかね。くそカッコいいなぁって本当に思う。でも同時に僕は、こんな風にはなれんなって思います。
T-PABLOW君の思うヒップホップを、僕も好きだし、やれるもんならやりたいけど、ただ僕はNASじゃないし、ジブ（Zeebra）さんでもT-PABOLOW君でもない。それができる人はそれをやるべき。
だけど、残念ながらそうじゃない人の方が世の中には多い。じゃあそいつらはヒップホップをできないのか？ ださいって言われることもあるかもしれないけれど、洗練されたものしか出ていかない世の中になったら、誰も生きていけない。与えられる側だけになってしまうし、そんなことの為にみんな生まれてないと思うんです。
──それこそ、文化が盛り上がらない。
晋平太 広がらないでしょうし──僕たちが支えてるんだよって言ったら誤解があるけど、自分はそういう価値観の代表なのかなって思います。
MCバトルは、本当にめちゃくちゃ面白い
──晋平太さんは「UMB」の総合司会者や「フリースタイルダンジョン」の審査員として、MCバトルを客観的に見る機会が多くなったと思うんです。プレイヤーとして、その経験が反映された部分はあるんですか？晋平太 その経験が反映されたかは分からないけど、みんなの技とかみんなが勝ってる様をずっと見てたので、それは経験値になっていたと思います。
「ヨガフレーム ビヨーン」とかやってる奴で「すげー！ 超ウケる」とか思ってて。それを無意識でやってたから、いろんなラッパーの良い部分が反映されたんじゃないかなと。より強くなったかは分からないですけど吸収しているのかな。
MCバトルは、有名になる上でのヒップホップの一側面じゃないですか。でも司会や審査員という立場で関わるようになって、MCバトルって超熱い、これ好きだな俺って心から思えるようになった。MCバトルをやってる奴らを見て、こいつらは美しいなと思ったし、自分も戦うなら思いっきりそういう姿を見せたいと思うようになって──前より好きになりましたね。
──一周回って、好きなことに気づかされたんですね。
晋平太 みんなマジでやってますからね。そこが田舎だろうが、どれだけ上手だろうが関係なく、なにか可能性を感じてそれをやってる訳じゃないですか。そのエネルギー、凄いなって。カッコイイとかダサいとか、ヒップホップかそうじゃないかは置いといて、そいつらを否定することは絶対にできないと思った。
この文化にどっぷり浸かってる奴はすごく多いのに、それを堂々と愛してると言える人ってなかなか少ないと思うんですよ。
──確かに斜に構えてる人は多い気はします。
晋平太 僕は斜に構えてる歳でもないんで。これ（MCバトル）のおかげで良いこといっぱいあったじゃんって思いますね。そして、これからも良いことはいっぱいあるだろうし。
──話を蒸し返すようですが、その一方でT-PABLOWさんとの試合ではヒップホップの怖い部分も出てました。
晋平太 いや、そうっすね（笑）。やっぱり、そういう世界もありますからね。
──久々にこんな試合見たなと思って。あの後、仲直りとかされたんですか？
晋平太 まだ話してないです。でも会ったら「ゴメンね」と言おうと思っています。T-PABLOWくんがどう思ってるのかは分からないですけど、僕が「トーン」と押しちゃったのが悪かったですし。前から挨拶とかもしてくれて、礼儀正しい子だし、後からゴチャゴチャ言ってくるような子じゃないと思う。
──まあでも、怖かったですよね……
晋平太 いや、そうですよね（笑）。僕もいろんな人から「大丈夫なの？」って心配されてるんですけど。本気でヒップホップやってるわけだから色々あるし、僕自身も「それが嫌なら見るんじゃねーよ」みたいに思う部分もゼロではない。そのぐらい一生懸命にやってるんじゃないですか、みんな。
──晋平太さんが出てた「UMB」の2010年ごろ、僕の友達も予選に出ていて見に行ったんです。その時はマジ殴られるんじゃねーかって、喧嘩起きるんじゃないかって思いました。
晋平太 僕はMCバトルで殴られたってことはないですけど、あれだけ言葉の限りを尽くしてお互いの言いたいこと言い合うので、そういう部分もなくはない。
最近のMCバトルはだいぶライトになってきたけど、僕とT-PABLOW戦みたいなことも常に起きかねない。それは知っておいたほうが良いし、同時に、喧嘩をしないためにMCバトルはあるっていう考え方もあります。
楽曲「主人公」に込めた晋平太の人生
──これからプレイヤーとしては、どんな活動をしていくんですか？晋平太 音源も出すし、ライブもするし、バトルも出るし、それは当然やることなので、それを淡々と繰り返す中で人に届けられるメッセージを届けたいなぁと思います。
ヒップホップのおかげで自信を持てたり、ポジティブになれたりする。僕の音楽やヒップホップを通じて、そういう気持ちになれる人を増やしたいです。
──晋平太さんの楽曲「主人公」も7月11日に配信されますね。
晋平太 とにかく聴いてくれって感じですね。人生の役割は、皆それぞれあると思うんです。喋る人がいれば、まとめる人がいて、記事にしてくれる人がいて、読んでくれる人がいて──立場や見え方は違うけど、それぞれがいないと成り立たない。
友達もみんな、会社やってたり、働いてたり──言ったら自分しか自分はいないので、ヒップホップやる上でも自分を愛せる奴になって欲しいなぁと思うし、自分もそうありたいです。
「主人公」は、お前の人生だからお前の好きにやった方がいいよって楽曲。それが自分で出した答えで、一番伝えたいことなんです。
「主人公」ジャケット
──これまでヒップホップシーンで培ってきたものが、かなり反映された曲になってるんですね。
晋平太 全部の曲がそうですけど、特に思ってたことが上手く言えた曲だと思ってます。
役割じゃないけど、自分にできるのは、メッセージを与えたり、何かやる人の背中を押してあげたりすること。
MCバトルの大会ももっといっぱいあったらいいと思うし、例えば「M-1」みたいに「勝ったら一発で有名人になれます、1000万円でます！」みたいな人生が変わる大会もあっていい。
職業としてじゃなくても、いろんな人が生活しながらヒップホップに関わっていける世の中にしたい。例えば「ラップを教える」というのがもっと身近になれば、ラッパーの需要も自ずと増える。「ラップは教えるもんじゃない」って考えも根強いけど、今ではちゃんとスクールがあるダンスも最初はそうだったと思う。
地元のローカル局でラジオやテレビをやっててもいい。そうなったら、ラッパーの居場所が増えるんじゃないかって。
ラップを社会化させていく本当の理由
──晋平太さんのお話を聞いていると「ラップを社会化していく」という目的がわかりました。それは一見物凄くポジティブなんですけど、逆になんかつらい経験もされてきたのかなって思っちゃいます。晋平太 僕が不良で、アウトサイダーでヒップホップやってたら、それをやれば良いと思う。でも僕は不良じゃないけど、ヒップホップがどうしようもなく好きなんですよね。だからこそ、受け入れられない。普通の友達には、ラップをはじめたころに不良になっちゃったのかと心配されたり。そういうかっこよさもあるんですけど。
企業に行って、ラップに関する講演をやる機会もあるんですが「もっと怖い人が来るのかと思ってました」って言われたり。そういう側面はこれからもなくならないし、そういうヒップホップもすごく良いと思います。ただ、そうじゃないヒップホップもある──僕は一生懸命やっていく上でつらかったし認められたかったんです。
──普通のやつが、普通にヒップホップをやってもいい。
晋平太 たぶん、僕の方が現状のヒップホップシーンから見たら異質なんです。
KEN THE 390くんに「俺らも一生懸命にやってるのに……」って愚痴ったら、彼は、俺らの方がおかしいだけだよって。「元々サラリーマンやってたのに、ヒップホップを真面目に一生懸命やろうなんて狂ってるよ」って言われて。あ、確かにと思いました（笑）。
晋平太 そうですね。考えてることが全く違うと思うんです。敵だとは思ってないですけど、思想の違いというか……彼が考えてるヒップホップは正しいし、僕も自分のことを正しいと思ってるので、ぶつかり合うとああなりますよね。
R-指定、般若戦についての本音と裏側
──R-指定さんとの試合では、お互い楽しそうにやってた様に見えました。R-指定さんの持ち前である相手を煽るような感じも抑えて、今までの2人の戦いの歴史もあってか、スキルでやりあう土俵をつくってたように感じました。晋平太 いや、僕も思いっきり感じましたね（笑）。僕はもうボロッボロッだったので、踏み込まれたら絶対に負けると思ってた。でもR-指定は違う戦い方でやってくれた、と言ったら変ですけど──なんかものすごい目をしてましたねR-指定は。
──（笑）
晋平太 たぶん、僕も変な目してたんですけど、もうよく分からない状態になってた。3試合も戦ってヘトヘトの中、「お前かー！」って。分かってたけど、勘弁してくれよって（笑）。
R-指定は2010年UMBで戦った時の冒頭を引用してきたんです。これ、僕も当時の冒頭で返さなきゃって思ったんですけど、「なんだったけな？ 覚えてねえ」ってなって。覚えてないというか、咄嗟に出てこなくて、ケツの言葉からストーリーを繋げてとにかく即興しようと思いました。
フリースタイルの上手さでいったら、R-指定の方が絶対上手い。でもR-指定が僕に対して言うことってあんまりないかなって。その差で勝てたんじゃないですかね。R-指定は直球も超早いし、変化球も超多彩みたいなプレイヤー。僕は直球とフォークしかないから。
晋平太 むかし、「フリースタイルダンジョン」がはじまる前の出来事なんですけど、R-指定と打ち合わせをした帰りに、武蔵小杉でサイファーやってる奴らがいて。「晋平さん、サイファーやってますよ」ってR-指定が言ってきて、2人で乱入したんですよ。
そしたら「すげえ、R-指定と晋平太だ！」となって。僕もラップしてたんだけど、R-指定が一向に帰る気配を見せなくて。なんならそのサイファーでR-指定が一番ラップしてるし……最後なんてサイファーしてたキッズたちが「電車の時間なんで帰っていいですか？」って言ってきて。
──（笑）（笑）（笑）
晋平太 あれはやりすぎましたね……（笑）。本当、R-指定の周りの梅田サイファーの奴らとか、大阪に行くと飲んだりするんですけど、この間も飲んだ後に「サイファーしにいきましょうよ！」って言われて朝までやってましたからね。
しかも入る隙もないぐらい、とにかく延々とやるんですよ。そりゃR-指定は上手くなるよって（笑）。
──最後、般若さんに辿りついたとき、勝てるという自信はありましたか？
晋平太 勝つぞ。とは思ってました。
今までの「ダンジョン」って般若くんに辿りつくことがゴールみたいな状況だったと思うんです。だから、もし僕がはじめて般若くんに辿りついたラッパーだったら、きっと勝てなかった。これまでみんなが般若くんまで何度か辿りついたことが大きくて──お客さんも般若くんが負けるところを見てみたいというか、いい風が吹いてくれたと思ってます。
僕は、般若くんに憧れて続けてきたラッパーの一人です。けど、これからMCバトルを本気で般若くんとやれる機会って一生ないと思う。漢くんとかR-指定もそうですけど、本気で僕がぶつかっていけるチャンスは中々ないので。とにかく自分よりも強いであろう人にフルパワーでぶつかれるのは、嬉しかった。
晋平太 挨拶したときに「おう。おめでとう」って言って、そのまま車に乗って帰えられましたね（笑）。かっちょええなーって。
「ヒップホップを続けていれば、富も名声も美女も手に入る」
──「フリースタイルダンジョン」の賞金の使い道はどうされるんですか？晋平太 まだ振り込まれてないので分からないです（笑）。賞金の使い道は？ってよく聞かれるんですけど、正解がないですからね。崇勲が同じ質問されてた時に「セントバーナードを飼う」って言ってて爆笑しました。絶対嘘だろと。なんすかね、イベントなり、何かしらの形でヒップホップに還元できたらと思います。
──ラッパーの社会的な地位という話にも繋がってくるんですが、すでに晋平太さんはラッパーとしてかなり有名ですし、今まで「UMB」を2連覇されて、さらにここにきて「フリースタイルダンジョン」も制覇……。ぶっちゃけ、タイトルを獲った後は、女の子からモテるのでしょうか？
晋平太 。。。。。。
晋平太 …………ラップをやってれば、富も名声も美女も、手に入らないものはない。って書いといてください。人生が変わる魔法ですよって（笑）。
──でも実際、ヒップホップを続けるなかで、人生変わったなって思うタイミングってありましたか？
晋平太 うーん、何がキッカケでだったのかな。
──ラップを続けてなかったら、「ダンジョン」の制覇もしていないし、こうやって取材も受けられてないかもしれません。
晋平太 いないですね。パラレルワールドってやつですね。それはそれで意外と楽しそうにやってるとは思うんだけど、煮え切らない思いも確実に抱えてるでしょうね。
（ラップを）やめた方が楽だなって思ったことは何度もありますよ。今でも思うこともありますし、でもラクしたいから生きてるわけじゃないんだよなって。
大変だけど、ラップで仕事がもらえたら楽しい。今日も朝10時に事務所に来てって言われて「早えよ、ふざけんなよ」って思ったけど（笑）。だから、辛いこともあるけどラップが好きなんでしょうね。
──富と名声も手に入りますしね。
晋平太 富と名声と、美女も（笑）。
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