自己表現とは違って、作品に身を委ねて表現できる
──具体的な制作についてお聞きしたいと思います。今回の『サクラクエスト』の場合、作品と一緒に制作するという意味で、いつ頃から音楽の制作は始まるんでしょうか?Miyazaki 10月くらいに監督や音響監督、P.A.WORKSさんなど、関係者が集まって、顔合わせを兼ねた最初の打ち合わせをしていたと思います。それが音楽打ち合わせでしたね。
齋藤 (K)NoW_NAMEが音楽を担当するということは、それ以前から決まっていました。監督がやりたい音楽性、イメージなどを、脚本打ち合わせの段階からコミュニケーションを取って、すり合わせていきます。
それをもとに、音楽コンセプトを固めて、クリエイターも交えて10月くらいからスタートした感じですね。
──作曲家にとっては他の作品の劇伴や主題歌に比べて、どのような違いがあるんでしょうか?
Miyazaki 今回の『サクラクエスト』の劇伴においては一般的な作り方と変わらないですね。
『サクラクエスト』でいうと、歌もの、いわゆる主題歌や挿入歌においては、(K)NoW_NAMEとして2作品目なので、ある程度ボーカリストのキーレンジもわかっているので、つくりやすいというか、つくっていて楽しかったですね。 ──やはり事前に脚本も読み込んだうえで、世界観を楽曲に落とし込んでいく?
Miyazaki 脚本は全部読みました。それ以外にも、最初にいただく資料は全部目を通しています。まずは自分が(『サクラクエスト』の)間野山の住人になったうえで、楽曲をつくりはじめました。
今作の場合、世界観はもちろん、キャラクターの性格や成長過程、そのときの心情とかも大事な要素なので、それらを読み解きつつ音に落とし込んでいく作業が多かったと思います。
──ボーカリストに対して、(K)NoW_NAMEならではのディレクションなどはあったんでしょうか?
Miyazaki 注文は全然ない……ですね。僕の場合、メロディで注文してあとでボーカリストから怒られる(笑)。
NIKIIE ガイドメロディが入っているデモと、仮歌が入っているデモの2種類があって、仮歌のほうでなんとなく雰囲気をつかんで、ガイドメロディのほうを聞いて、という順番でレコーディングに臨むんです。
すると、ガイドメロディを聞いた瞬間、よりはっきりと突きつけられてくるんですよ(笑)。
仮歌だと言葉が乗っているからマイルドになっている部分が見えてくるというか、より音楽的な表現の難しさが明確になりますね。
Miyazaki 難しさは多いよね。
NIKIIE 正直、歌っている側としては毎回難しい(笑)。
『サクラクエスト』は主要なキャラクターが女の子なので、レコーディングのときに「かわいく歌って」というオーダーがあったんです。自分なりに解釈して歌ってみたら「もうちょっとかわいく」「もうちょっと幼く」って。だから、自分の中で設定していた声の年齢をどんどん下げて、普段は絶対出さない声で歌いました。
今作に限らずですけど、曲の中でいろいろなチャレンジがあるので、自分の身体に落とし込むまでには手こずりますよね。
Tachibana 私も最初はどうしようと思った。「この曲は私でいいのかな?」って(笑)。
ディレクションでも、同じように「自分の中で最大級にかわいいやつ」というオーダーがきました。
そうすると、初めて使う声色も出てくるので、心配になることもあるんですけど、映像と一緒に流れて、見た人からの反応があると、自分では気がつけなかった面に気がつくというか、新しいレパートリーとして加わる感じがします。
──難しい一方で、ボーカリストとしては引き出されることも多いということですか?
NIKIIE いつもの自分だったら選択しない表現が求められるので、自分が知らなかった自分もいっぱいありますね。普段の自己表現とは違って、作品に身を委ねて表現できる、そういう面白さはあると思います。
初めて明かされる『灰と幻想のグリムガル』の秘密
──ちなみに、レコーディングの段階で曲が流れるシーンは把握されているんでしょうか?Tachibana 事前に情報をいただくんですけど、具体的なシーンがわかってるときと、もう少し大まかな状態、「このシーンのどこかで流れる」ときがありました。
いずれにしても、そのシーンの映像をがっつり見ているわけではないので、情報をもとに、その時の心情とかは自分たちで考えながらですね。
齋藤 『灰と幻想のグリムガル』では毎週のように挿入歌があったので、事前にそれぞれの曲が流れるシーンの概要はあったと思います。
Tachibana 「こういう心情の戦いのシーンです」とか。
NIKIIE 歌詞の横に(笑)。でも『灰と幻想のグリムガル』のときは、戦闘シーンの曲は立花さんが多かったような気がする。
齋藤 実は『灰と幻想のグリムガル』では、シーンに合わせて明確にボーカリストを分けてました。
NIKIIE えっ!?
そういえば、今初めて言ったんですけど。
Tachibana あぁぁ、確かに。「なんでNIKIIEさん全部こっち(癒やし)系なんだろう?」って思ってました(笑)。
──言われてみると、流れる曲によって感覚的にシーンがイメージできていたような気がします。
齋藤 でも、それをあえて語りたくないんですよね。映像で「あ、そうなのかな」というくらいに伝わってほしいのが(K)NoW_NAMEなので。
──そうなると、「『サクラクエスト』ではどうなんでしょうか?」という質問は、あまりしないほうがいいですかね……。 齋藤 日常のドタバタ劇が描かれる『サクラクエスト』は、シーンの切り替えや5人のセリフ量がめちゃくちゃ多いので、あまりシーンに合わせるフィルムスコア的な手法でつくってないんです。
むしろキャラクターの感情だったり、シチュエーションだったりに合わせる、いわゆるスタンダードな方法で劇伴をつくっています。
その中に、音楽的な遊びとして、劇中で椿由乃という昔のアイドルが歌った曲を(K)NoW_NAMEとして表現したり、7話では挿入歌が入っていたりしています。何か遊び心や挑戦みたいなものは今後もやっていきたいと思っています。
とはいえ、あくまでも作品に合わせて、無理せずに、ですね。
作品に寄り添うというのがぶれないコンセプトなので、作品に応じて、劇伴、主題歌のつくり方を考えていくのが(K)NoW_NAMEだと思っています。
音楽と本編を地続きでつなげる(K)NoW_NAME
──(K)NoW_NAMEが作品全体の音楽をトータルで手がけるということで、他にない“らしさ”が出てきますよね。齋藤 OPとEDと劇伴、すべてを担当すること自体、珍しいのはもちろん、それによって、OPから本編を挟んでEDまでのパッケージ感、地続き感はすごくあると思っています。
一方で、アニメソングの文法にアーティスト性を加える。そのバランス感覚が(K)NoW_NAMEの持ち味だと考えている面もあるんです。
詞の世界観がアニメの内容を反映していたり、劇伴で使っている楽器をそのままOPで使っていたり、それらは同じ作家だからできるわけで、だからこそひとつの作品としてつながって見えるんじゃないでしょうか。
──作曲家としては、作品に寄り添うという(K)NoW_NAMEならではのつくり方をどのように捉えていますか?
Miyazaki 一本の軸がある中で、作家やボーカリストが表現しているので、ある意味わかりやすいというか、ぶれないコンセプト内で、いろいろな表現を見出していく面白さはありますね。
たまたまかもしれないですけど、これまで個人で担当した劇伴は、基本的に任せてもらえてたんです。たとえ僕がつくったものが方向性として違っていても、「これならこれでいかせてもらいます」というのが多かったんですけど、(K)NoW_NAMEだとそうはいかない。
ひとりでやっているわけではないですし、コンセプトからぶれてはいけない。やりやすさも、やりづらさもあるんですけど、いずれにしてもつくりがいはすごく感じています。
──作品と音楽との関係性で迷われたときに、ほかのクリエイターに相談することは?
Miyazaki 今のところはないですね。たまたまスタジオで会ったときには、雑談程度に話したりします。やっぱり、みんな互いに気になっているんですよね。「あの曲のあのパート、何使ってるの?」とか。同じユニット内で生まれた音楽なので、耳にする機会も多い。良い刺激はもらえています。
いずれは共作もやってみたいですけど、どうしても時間がかかりますし、タイミングもあるので、将来的な夢として考えておきます。
──まだ次の話をするには時期尚早だとは思いますが、将来的なお話も出たところで、今後(K)NoW_NAMEとして、やってみたいことはありますか?
NIKIIE ボーカルがAIJさん含めて3人いるので……。
齋藤 うん、やってみたいね。でもまだ具体的には明言しないでおこう(笑)。
Tachibana 今は日本語と英語の曲があるので、ロシア語とかほかの言語の曲も歌ってみたいですね。
Miyazaki アニメの内容によってはあると思いますね。
齋藤 僕は、やっぱりライブですね。作詞家やイラストレーターもメンバーなので、全員出演というと難しいかもしれないですけど、パフォーマンスする姿をリスナーさんに見ていただきたいという思いは強いです。
「だんないよ」の意外な生みの親
──最後に『サクラクエスト』で印象に残っているシーンを教えてください。NIKIIE 私は、7話で家が燃えちゃうシーンがつらすぎて。自分のおばあちゃんの家と重ねてしまって……。
──というと……?
NIKIIE 今、シロアリに食べられていることがわかって。
一同 (笑)
NIKIIE 築100年以上で、結構古い家屋なんです。おばあちゃんが亡くなったら、そのあとどうなるんだろうって考えてたことが、アニメと重なってしまって、個人的な話ですみません(笑)。 Tachibana 私は最初のまんじゅうを売り切るというエピソードですね。地元が熊本なので、「やるぞ!」と思って東京に来ていて、でも実際に来てみると、なかなか思い通りにいかない現実を痛感してる。
自分が望んだステージに立っていてもできない難しさを、アニメが物語っていて、すごく印象的でした。
Miyazaki 僕も火事の話は脚本の段階からぐっときていて、正直、全部いいんですけど……“だんないよ”っていいですよね。 齋藤 あれ、実は僕のアイディアなんです。
Miyazaki えっ? そうなんですか!?
齋藤 考えたというか、もともと富山弁の方言で「大丈夫だよ、問題ない」を意味する言葉なんです。脚本の途中段階では「大丈夫だよ」とか、「どんまいだよ」とかだったんです。
それを「だんないよ」にしましょうと。最初は、めちゃくちゃ反対されました(笑)。
Miyazaki いや、正解ですよ。だんないよ!
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(K)NoW_NAME
クリエイティブ・ユニット
(K)NoW_NAME(ノウネイム)は、アニメーション作品の音楽(主題歌、挿入歌、BGMなど)を総合的に手掛けるクリエイティブ・ユニット。
Vocalists:
Ayaka Tachibana/NIKIIE/AIJ
Music Creators:
R・O・N/Makoto Miyazaki/Shuhei Mutsuki/Kohei by SIMONSAYZ/eNu/Genki Mizuno
Illustrator:
so-bin
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