この先、本気で優勝を狙うことはあるのか?
ハハノシキュウ 今、僕が話してるのは松澤くん(Amaterasの本名)であり、Amaterasという存在は松澤くんにプロデュースされて生まれたわけね。Amateras バトルで殺すとか、長めの韻で、「心臓抉るぞコラ!」とか言ったりしますけど、実際にはできないじゃないですか?
ハハノシキュウ そうだね、「通り魔殺人」とか(笑)。
Amateras Amaterasも、ステージから「金をばら撒く!」とか言ってますけど、実際にばら撒くわけないじゃないですか? だから、さっきのラッパー=自分の話に戻っちゃいますけど、やっぱりラッパーは虚構なんですよ。
リアルなことであれば、僕はラグビーを9年間やってきて、花園(高校ラグビーの聖地)にも出場して、泥まみれで頑張ってきたので、ラグビーのことだったらリアルに言えるんですけど、Amaterasが泥まみれじゃダメだと思うんです。Amaterasはどんな時でも余裕をこいてないといけないんですよ絶対に。 ハハノシキュウ でもね、「Amaterasなら本当にやりそう!」って思わせるのがすごいとこなんだと思うんだよ。漢さんに近い感じ。漢さんが「その気になりゃ入手可能な手榴弾」(24 bars to kill)とか言ってたけど、本当に手に入りそうじゃん。
Amateras そこもだから、自己プロデュースというか、自分でそうなるように調整していったんですよ。Amaterasというキャラクターのために。
ハハノシキュウ Amaterasが白い服を着てるのはそれをいかに汚さないで勝つかって意味にもなってくるね。 今年11月に行われた慶應義塾大学の学園祭・三田祭でのMCバトル。「U-22」後のバトルということもあり、晋平太相手に臆することなく、金持ち自慢スタイルが炸裂している
ハハノシキュウ パブリックイメージは無視して、あくまで主観でAmaterasにとって、ラップとかMCバトルの優先順位は高いの?
Amateras いや、全然高くないです。僕は慶應で芸術を専攻していて、今度個展をやるんです。そのために今は蓮根にあるアトリエにこもりながら、絵を2つ描いていて。
あとは小説を書くのも好きで、中学の3年の間、毎年大賞を取っていたくらいです。僕にとってラップは、絵を描くことや、小説を書くのと並列なんです。カテゴライズもしてない。
瞬間的に何かを生み出す、創作するという行為ができれば僕は満足なので、絵を描くのも、小説を書くのも、ラップするのも、大学を卒業してからもずっと続けていくものだと思います。その中でラップだけ特別なのかと言われたら、そうではないですね。
ハハノシキュウ でも、世の中的にはMCバトルのAmaterasが一番有名というか、まぁ知ってもらう入り口になったよね?
Amateras それはとてもありがたいです。でも、この先、優勝を目指してとか、人生を賭けてやるとかそういうのはまったくないですね。僕は韻も踏めないしフロウすることもできないんで。ラップのスキルとまったく関係ないところでなら勝ちたいんですけど。
よくバトルで、「お前ネタ用意してんじゃねーよ」って話が出ることあるじゃないですか。僕はラップのネタは用意しないんですけど、セグウェイとかセコンドとか、そっちのネタは用意してます(笑)。
Amaterasとハハノシキュウの出会い
本当なら最初に話しておくべきことなのだけど、どうして僕がAmaterasのインタビューをしているのかという話を少しだけしたいと思う。彼がラップをはじめる前に、ファンメール的なものが僕(ハハノシキュウ)に届いたところから話がはじまる。最初は「8x8=49ロゴのキャップが欲しいです。どうしたら手に入りますか?」といった内容だった。
のちに渋谷VUENOSで行われたACE君の「渋谷ST MUSIC FES」ってイベントで、初めて話しかけられる。
「以前、メールをしたAmaterasと申します」
彼は高校の夏服のままでバトルに出ていた。
その時は、一緒に写真を撮ったくらいで大した話はしなかった。
その数ヶ月後、戦極の13章で僕の8×8=49ロゴの入ったTシャツが欲しいと言われたため、バトル前に彼に売った。
そしたら偶然にも二回戦で当たり、バトル自体は僕の勝利であっさり終わったのだけど、そこから僕とAmaterasの親交が始まった。
彼が、「EGO」という曲で映画や美術の固有名詞にまみれたラップを披露したMVを一時期YouTubeに上げていたことが僕の中でどうも引っかかっていて、変な話だけど自分の若い頃と重ねて変に恥ずかしくなったのを覚えている。
彼との距離感を少しだけ縮めて話してみると、彼は週に5、6回は必ず映画を観る筋金入りの映画オタクで、映画監督というもの強いが憧れがあるんだと言っていた。
僕は映画にそんなに詳しくはないのだけど、彼の熱狂的な映画好きに興味があったのと、僕自身が脚本を書いてみたいと思っていたのもあって、どちらかともなくショートムービーを一緒に撮らないか? という話になった。
「監督がAmateras、脚本がハハノシキュウで何かつくろうぜ」と。
最初はお互い、ラッパーのくせに不思議と曲を一緒につくろうとか、そういう話にはならなかった。
とりあえず、1本目のショートムービーを撮る日程が決まって、朝9時に上野駅に集合することになった。
この時、僕はAmaterasがスクリーンの向こう側、ダサい言い方だけどテレビの向こう側にいるべき人間なんだと痛感した。
眠そうな顔でやってきたAmaterasは開口一番こう言ったのだ。
「寝坊するといけないんで、昨日、御徒町のビジネスホテルに泊まったんですよ」
ここまでの話をKAI-YOUさんの編集に話したことがあった。酒の席だったからあんまり覚えていないけど。
ちなみに、僕はAmaterasをKAI-YOUという媒体にお願いして、フックアップしてあげようなんてまったく考えていなかった。
だから、KAI-YOUさんの方からインタビュアーをやってくれとお願いされた時には普通に驚いた。
そして、白金台の駅で今回のインタビュー収録の待ち合わせをした。
自分のインタビューだと言うのにどこか他人事のような顔でやってきたAmaterasは開口一番こう言った。
「あれ、今日ってハハノシキュウさんのインタビューじゃないんですか?」
いやいや、今日の主役は君だよ。
紙袋を頭にかぶっていた高校時代
ハハノシキュウ Amaterasはこうやって普通に喋ってるけど、はっきり言って頭がおかしいんですよ。それは本人も自覚してるだろうし。Amateras さすがに今はだいぶ矯正されたんでなんとか大丈夫なんですけど、高校生まではほんとに危なかったですね。
ハハノシキュウ 無期停学喰らったんだっけ?
Amateras そうです。1年生の時と2年生の時で1回ずつ、無期停学で授業に出ちゃダメってなって。「お前は慶應に必要ない」って言われました。
ハハノシキュウ なんでだっけ?
Amateras そもそも、僕は幼稚舎の頃からずっと問題起こしてて、先生たちからはかなり睨まれてたんですけど。懲りずに1年生の時、映画を撮ろうとしたんですよ。
自分はラグビー部なのに、映画部に乗り込んでいって「お前カメラやれとか、お前照明やれ」とか言って指図して。映画を撮るために、中等部のラグビー部の後輩たちを呼び出して全裸にしてケチャップ塗れにしてトマトジュースぶちまけたりして、校庭走らせたりして。 Amateras そしたら、学校側が当たり前ですけど気づくんですよ。「あいつらなんかやってんな?」って。それで「責任者誰だ?」って聞かれた時に「松澤(Amateras)です」って。
したら「また松澤か!」って。そこで「映画を撮るのやめろ!」って言われたんですけど、途中まで映画を撮ってたんで、最後まで撮らないわけにはいかないじゃないですか? それが何回か続いて無期停学になりました。
ハハノシキュウ 阿呆だよね。
Amateras もちろん、僕は映画の続きを撮らないといけないので学校に行くんですよ。無期停学なので授業には出られなくて、休み時間にちょっとクラスメイトと話ができるくらいなんですけど。
その時に先生たちに顔を見られるのが死ぬほど恥ずかしくなって、紙袋をかぶって学校に行きました。停学が解けてからも半年くらいずっと紙袋をかぶって生活してたことがあります。 Amateras 口にも穴あけてご飯食べる時も紙袋かぶったままで。紙袋をかぶることで個性をなくして、逆にそれが個性になるんじゃないかなぁなんて考えて。
僕、9年間ラグビーをやってて、全国大会にも毎年出てたんですけど、この写真でラグビーマガジンに載ろうとしたらさすがに怒られました(笑)。 ハハノシキュウ だからまあ、MCバトルのAmaterasは、言わばAmateras入門っていうか、Amaterasのほんの氷山の一角に過ぎないんだよね。
Amateras そうですね。だからラップをやってるAmaterasと、わけわかんないことしてるAmaterasがいずれどっちも有名になって、同化したらいいなって思うんです。
1年くらい渋谷とかで目立つ格好でホームレスの真似事をして、毎日スクランブル交差点で叫んだりして、それを全国ニュースとかに取り上げられてから、「あれはラッパーのAmaterasだったのか!」って感じになったらおもしろいなぁって目論んでます。
ハハノシキュウ 1人で東京ガガガ(園子温の路上パフォーマンス集団)みたいなね(笑)。
Amateras それヤバイっすね。
ハハノシキュウ んじゃあ、唐突だけど最後に人生のベスト映画を3作教えてください。
Amateras 順位は付けなくてもいいですか?
ハハノシキュウ いいよ。
『アンチクライスト』ラース・フォン・トリアー監督(2009年)
『メビウス』キム・ギドク監督(2013年)
『シャイニング』スタンリー・キューブリック監督(1980年) Amaterasが選ぶ人生のベスト映画3作
あとがき
アーティストと名乗る人間なら、インタビューを受けるという妄想を誰もが一度はしたことがあると思う。その時までに自分の芸術観だったり音楽観だったりを言語化出来るように固めておかなければとか、大袈裟に考えたりして。だから、まさか自分がインタビューする側になるとは思っていなかったし、自分が誰かにインタビューされるよりもそれが先になるとはもっと思っていなかった。加えて、仮に自分が二十歳の時にされたインタビュー記事を十年後くらいにまともに向き合って読めるのか? という疑問もあった。 人は変わる。
Amaterasのインタビューだと言うのに僕ばかりが出しゃばって申し訳ないが、彼のMCバトル観が僕がハハノシキュウをはじめた頃のそれにとても近かったことが、その疑問を払拭してくれそうだなと思えたのが、とても大きな収穫だった。
そして、それが彼自身の収穫であればありがたい。
彼が、MCバトルで「この試合は絶対に勝ちたいんだ!」と泥だらけになりながら、叫んでいる未来が絶対にないとは言い切れない。それと同時に、Amaterasがこの先、映画監督になってヨーロッパとかでスタンディングオベーションを受けている可能性だってある。
または、ろくでもない理由で島流しに遭っているなんてこともあるかもしれない。とりあえず、僕としてはこのAmaterasという株券がどんな風に化けるのかを換金しないで待ち続けないわけにはいかないのだ。
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関連リンク
Amateras
ラッパー
Contemporary Artist. Keio Univ. CEO by CreapeClassics. Directed : https://youtu.be/yhaa3WrOgD8 Contact→creapeclassics@gmail.com
今年12月下旬より、映画批評ラジオ「Amateras ~シネマの黙示録 ~」をYouTubeに定期配信予定。
Twitter:(@amateras_iam)
ハハノシキュウ
ラッパー
青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。
Twitter:(@8x8_49)
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:2266)
逮捕おめでとう