連載 | #12 ポップなまとめ記事をつくってみた

若きラッパーたちのMCバトル名試合まとめ 晋平太、KEN THE 390、MC正社員が徹底解説

「U-22」大阪大会のベストセレクション

オリジナルスタイルの難しさ RACK vs 鉄ちゃん

KEN THE 390 これ今見直すと、「あ、鉄ちゃんすごくいいなぁ」って。でも2本目で最後まで沸かしきれなかった感じあるのかな。あ、俺RACKにあげてんじゃん。よかった、ははは(笑)。

RACK/「高校生RAP選手権」より

MC正社員 俺は会場で見た時から、圧倒的に鉄ちゃんいいなと思ったんですよね。

KEN THE 390 もちろんRACKくんもだし、どっちもすごくいいんだよ。鉄ちゃんは負けちゃったけど、聴き取りやすいし、大事なところでちゃんと言葉を置いてるし、パフォーマンスが最高。あと、アクションがこの大会では唯一かっこいいラッパーだった。

(ステージを)回りながらラップしたり、意外にみんなアクションしながらラップできる人があんまりいないからね。あと、RACKくんと話が噛み合ってるのもよかった。もっとなよなよしてるんのかなって思ったら、意外に歯切れのいいラップをシュパっとやってるし。

MC正社員 予想を裏切るタイプですよね。

晋平太 「小3の夏休みの思い出」って、そこしか覚えてないくらい強烈なパンチラインですよ。

MC正社員 「君の悪いところでてる」から、「ここは天下の台所」「センスのないところ」って、そこでもう一回ちゃんと韻踏むんだって。韻も踏める上で、トリッキーなこともできる。それで見た目も奇抜だから、俺は印象に残ってますね。

鉄ちゃん

KEN THE 390 やっぱり大阪って総じてスタイルの近いラッパーが多いから、鉄ちゃんみたいなちょっと浮いてるというか、他とは違うスタイルだと目立っちゃうんですよ。

みんなうまいんだけど、やっぱり同じようなスタイルのMCが続いて審査員も食傷気味になってるところで、鉄ちゃんがポンってくると、正直前のめりになっちゃう瞬間はあったかもしれない。

MC正社員 もうちょっと勝ってもよかったよね。

KEN THE 390 ね、そう思った。でもこの試合に関しては、RACKの方が数で沸かしてたよ。

スキルよりも大切な要素とは? 裂固 vs K-razy

MC正社員 今の裂固って「高校生RAP選手権」に出てるようなタイプのMCじゃないですよね。「やるぞ! やるぞ! やるぞ!」「はい、きたー!」みたい、わかりやすく韻を踏んでいく感じのスタイルじゃない。渋いですよね。

裂固/裂固 ドキュメント - 風音より

KEN THE 390 渋いね。「高校生RAP選手権」のたとえは別に悪い意味じゃなくて、要は「斬ります! ズバーン!」って言葉を吐いて、お客さんも「イエーイ!」って盛り上がる感じ。もちろん、そういうスタイルも大事です。

だけど裂固はガッツポーズもしないし、「シュパッシュパッ」って淡々とひたすらに切り続ける。本当はわかりやすくつないでケツで落とせばいいのに、思いついた瞬間にガンガン韻を踏んでいくっていうか。そこが他のMCと差別化されてて、やっぱり目立ってるなって思った。

MC正社員 この試合に関しては、K-razyが「やるぞやるぞ!」ってアツく迫ってくるのに対して、裂固は「じゃあ俺も返しますよ」「それも2、3発で返しますよ」って冷静に返していく。裂固、渋くてかっこいいなーって思いますよ。

K-razyは結構派手なスタイルで、改めて見るとすごいな……。どっちも完璧だと思うっすよ、この試合は

K-razy/「戦極MCBATTLE 第14章」出場の様子

晋平太 やっぱり最近のMCバトルは逆張りした方が印象に残りますよね。とはいえ、K-razyもRACKも普通にめっちゃうまいじゃないですか。

KEN THE 390 うまい。

晋平太 僕らの感覚が麻痺りすぎてるのかもしれない。

KEN THE 390 揺れ戻しがきてるんだと思う。だってK-razyもRACKもいいんだよ、うまいんだもん。ただ、すげぇうまいやつを俺らがずっと聴き続けてきちゃってるから、裂固とか鉄ちゃんとか、ちゃんと韻を踏んでいくスタイルよりも、思ったことをその場で言葉にして吐いてるようなMCにどうしてもスポットが当たりやすくなる

これは大会を続けている以上、絶対起きてしまう流れだと思う。お客さんも俺らと同じように感じてるし、ちょっと変わったMCが出てくると今までとは違う沸き方をする。中には、この流れをちゃんと見極めて戦略立てながらスタイルを変えていくうまいMCもいるくらいだから。

KEN THE 390

KEN THE 390 さっき同じスタイルって言ったけどみんなそれぞれ細かく見ると個性もあるし、悪い訳ではないんだけど、やっぱりみんな基本的にはケツで韻を踏んで落とすまでの前フリがある。

だけどケツで韻を踏むって言っても、そこに変な声とか、奇抜なファッションとか、他のMCとは違う軸が1個足されるだけでも個性が出てオリジナルになるんですよ。人より情熱があるとか、声が超デカいとか、別に難しい話じゃなくて、それがあるだけでもぜんぜん違う。

晋平太 プラスαで何を乗っけられるかどうかですよね。この大会を見ていてすごく思いますね。

KEN THE 390 これはまだU-22だからっていうのもある。今の若い子たちは、韻も踏めて体力もあるし基礎がすべて揃ってる。だから何か1つ、自分なりのやり方を見つけられたら急激に結果が出せると思います。

優勝しないと、ヒップホップの地図には載れない じょう vs adam

KEN THE 390 じょうの良さも出てるし、adamも真摯に攻撃しててよかった。

MC正社員 お互いが化学反応を起こしていて、お互いのいいところを吸収しあってる

晋平太 じょうくんのスキルフルなライムにadamが触発されて、後攻ではadamも韻踏むようになってたり。一個前の試合と全然違うくらい、adamがこの試合中にレベルアップしてるんじゃないかって感じる試合でしたね。adamの力を引き出してるのはじょうだし。

じょう/「第10回高校生RAP選手権」出場時の様子

晋平太 adamは純粋で素朴なところがいい。器用じゃないんだけどハートは伝わってくる。目の前にいる奴に勝ちたいって思い以外に、何か成し遂げたいことがあるんだろうなっていうのが伝わってきましたね。

KEN THE 390 独特の優しさがあるよね。「宮崎来たこともないのにそんなこと言うなよ」って。普通、「そんなこと言うんじゃねぇよ、ボケが!」みたいな感じになりがちなのに。

adam/「超ライブ×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」大阪大会の様子

晋平太 宮崎から出てきて大阪とか東京で勝つのって、やっぱり相当なことだと思うんです。今はSNSがあるからそこまで距離は感じないかもしれないけど、普段、宮崎にいるadamにとっては、それなりに大阪への距離感を感じながら生きてる。

やっぱり地方は東京や大阪と比べてプレイヤーが少ないし、東京や大阪で自分が優勝しない限り、ヒップホップの地図には載れない。誰にも振り向いてもらえない訳ですよ。実際にそれをラップする訳じゃないけど、adamにはその覚悟が滲み出てると思うし、見ている人にもなんとなく伝わって応援したくなっちゃうんだと思う。

MCバトルはブームじゃない、文化だ

──MCバトルブームが起きていると言われていますが、最後に「U-22」を踏まえて、改めて今のMCバトルについてどう感じていますか?

KEN THE 390 みんなが興味を持ってない状況でMCバトルやヒップホップの素晴らしさを伝えようとしても、なかなか難しいんですよ。でも、ちょっと興味を持ってる人に素晴らしさを伝えるのってめちゃくちゃやりやすいんです。だから、今は素晴らしさを伝えるやりがいがある。

みんなから「ラップってどんなもん?」って寄ってきてくれてるから、俺らは自分が好きな理由を伝えにいくだけでいい。

ただ、コンテンツ自体に力がないと何も伝わらないじゃないですか。それでも今こうして広がっているのは、正社員くんとか晋平太とかいろんな人たちが、どん底にいる時からずっとバトルを盛り上げ続けてくれてたから

コンテンツ力は日本独特の形でめっちゃ高まってたし、みんなが興味を持ってくれた時にいつでも素晴らしさを伝える準備はできてた。だから今、一気に雪崩式に広がっていって、世の中ではブームって呼ばれてるんだと思います。

晋平太 俺らはどん底だとは思ってなかってのがヤバイよね。

KEN THE 390 そう、思ってなかった(笑)。今思うとどん底だったんだろうなって。 MC正社員 俺が住んでる埼玉の田舎でサイファーしてる子とか見た時、マジでビックリしましたよ。こんな田舎まで広がってるんだって。

晋平太 俺たちは本当30人とかしかお客さんがいない時からずっとやっていて。今振り返ると、優勝しても大きな賛辞は受けられない、しょーもないことなのに、目の前にいる相手を倒すことにすべてを賭けて戦っていました

俺は今の状況がブームって言ってもらってすげぇうれしいんだけど、当初から流行る流行らないとかまったく考えてなかったんですよね。ブームというより、俺たちにとってMCバトルは完全に文化なんです。MCバトルはずっとあったもので、どっかで終わるもんじゃない。文化だから、これからもずっと続いていくんです。

「超ライブ×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」大阪大会の様子

晋平太 だけどせっかく盛り上がってるこの流れを続けるために、U-22みたいに若い世代からどんどんスターを増やしていくことも大事。特に今回、若い世代のレベルの高さを超感じたんで、彼らがスターになっていけるような大会を開いて、俺らも頑張っていかなきゃいけないです。

KEN THE 390 スターはどんどん出てきた方がいいよね。

MC正社員 MCじゃなくても、どんな形でもいいからMCバトルに関わる人が増えてほしい。俺だってラッパーとしては結果出せなかったけど、オーガナイザーとしては今でもやっていけてる。別にラップができなくても、DJになったり、ヒップホップについて書くライターになったり、全然関係ない企業でヒップホップを応援してくれてもいいし。

晋平太 MCバトルの一番いいところって、お客さんがジャッジして一緒につくりあげていくところだと思うんです。みんな主役で、みんなが広げて、みんなで守っていくもんなんだぜって。

MCバトルが好きな気持ちは一緒で、同じチームなんだから、みんなで広げていったらMCバトルは絶対なくならないです。 クリックして今すぐチェックする

サイン入り色紙プレゼントキャンペーン!

Twitterアカウント「@KAI_YOU_ed」をフォローしたうえで、この記事のURLをツイートした方の中から、抽選で3名様にKEN THE 390さん、晋平太さん、MC正社員さんのサイン入り色紙をプレゼント!

応募期限は12月14日(水)まで! 当選者には後日、TwitterのDMにて当選のお知らせをご連絡いたします!
1
2

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

連載

ポップなまとめ記事をつくってみた

日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

ストリートの週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ