milktubインタビュー 音楽がやりたくてエロゲ会社の社長になった男が1億を集めるまで

クラウドファンディングはドラマを提供するツール

──bambooさんはさまざまな企画を成立させて来ましたが、そもそも、クラウドファンディングをはじめた理由はなんだったのでしょう?

bamboo 一度2000万円の赤字になって、バンザイ(倒産)しようと思った時「お前はまだエロゲ業界に必要な民だから」って、立て替えてくれたメーカーさんがいるんです。そのメーカーさんには、1年半くらいかけてアパレルとかをちくちく売って返済しました。だけど、それでもう借金は嫌だな、と思った。

だからクラウドファンディングは画期的な仕組みだと思って、徹底的に研究しはじめたんです。数年前からKickstarter(アメリカのクラウドファンディング)をチェックしていて、「こういう仕組みがあるんだ。イノベーションだな」と思いながら見ていました。

いろんなプロジェクトを支援したり、海外の体験記を読んだり、「クラウドファンディングをやろうと思うけど、どう思うか?」っていうのを、ほぼ毎日ニコ生でお客さんと議論をしたり。

『キラ☆キラ』の第二文芸部バンド、『DEARDROPS』のDEARDROPS、『僕が天使になった理由』のCaSというOVERDRIVE作品に登場したバンドが一同に会するイベント「KICK START GENERATION」

bamboo その時、僕がプロデュースしていたライブイベント「KICK START GENERATION」(以下、KSG)をニコ生配信しようと思ってたんですけど、ニコ生サイドの人手が足りなくて、できなくなってしまった。

でも、遠方の人にも見てもらいたいし、行った人にとっても記念すべきライブだから、DVDに残して売りたいってなったんです。じゃあ、クラウドファンディングでDVD化の資金を募ろうってことになった。

それと、お客さんに「クラウドファンディングを使うと、こんなにハッピーなことになるんですよ」っていう成功体験を感じてほしかったんです。僕らとお客さんがつくる悪巧みみたいな感じですよね。

──企画にファンも巻き込んでいこうということですね。

bamboo 「クラウドファンディングが成功すると、面白いな」っていう。「KSG」は2013年当時のCAMPFIRE史上、最も多くの支援が集まったんですよね。CAMPFIREのサーバーを落としたし、達成スピードも一番早かったんじゃないかな。

オタク系コンテンツでクラウドファンディングを使うのもはじめての試みに近かった。普通のクラウドファンディングだと、期間中にゆるゆる集めるものなんですけど、オタク業界のコンテンツは初速でドバっと入ってくる。いろんな企画をやってきましたけど、だいたい高いリターンからなくなっていくんです。

──オタクの熱量、購買意識が高いということがわかりますね。

bamboo あとエロゲ業界の一部には、店舗によって違う特典をもらえるから、同じソフトをたくさん買ってもらうっていう悪い風潮があって。前からすごい嫌だな、と思ってたんですよ。ソフト10本分のお金を出してくれるんだったら、10本分のレアリティをつけるべきで、それが正しかろうと。 ──ファンはそれだけお金を払うほどの熱量がある。でもそれで同じソフトを何本も買って無駄になってしまうのであれば、その分それに相当するだけの価値のあるものをあげよう、と。

bamboo ファンの熱量を試すわけではないんですけど、制作側には制作費という逃れられない現実もある。

それをカバーするためのメリットとして、リターンが設定されるわけです。リターンはお金を出せば出すほど豪華になっていくし、特別なものにしなくてはならない。そのニーズがうまくマッチングする仕組みが、クラウドファンディングだと思うんです。

みんな、クラウドファンディングを金が集まるツールだと勘違いしている。でも違うんですよ! クラウドファンディングはドラマを提供するツールなんです。ファンとミュージシャンの間だけで、ほかの人は賛同しないかもしれないけど、俺らだけはこれをやったら面白いぜ! というものをつくるためのツールだと思うんです。

クリエイターがやりたいことっていうのは、絶対にお金がかかる。だって、人が動くんだから。クラウドファンディングはそのお金のつくり方。もし誰かが「ファンに呼びかけて、お金を集めるなんて格好悪い」って言うなら、「俺が格好良く使ってやるからよ!」って思う。

抱きまくら奇祭2015/撮影:松本塩梅

──メディアでも話題になった、ライブでサイリウムの代わりに抱き枕を振る「抱きまくら奇祭」も、ファンも巻き込んでいこうという企画ですね。

bamboo 元々ライブでのサイリウムがオタク業界で問題になったんです。ニコ生でその話をしたら、大きくて柔らかい抱き枕なら振ってもいいだろう、と(笑)。そのニコ生の中で、抱き枕カバー付き1万円のチケットを売り出したら即完だった。

それで当日、5種類の抱き枕をランダムに配布するから、開演前に「客同士で欲しい抱き枕カバーを交換しろ、スワッピングだ!」って言ったら、交換が成立するたびに「うおー!」って盛り上がっていて。「なんだ、この盛り上がり……」みたいな(笑)。

こっちのほうが面白いから、これをやればいいっていうスタンスなんです。お客さんと一緒に企んで、巻き込んでいくのが僕らのスタイルなので。

──クラウドファンディングや「抱きまくら奇祭」を手がけているのもロックスターになるためですか?

bamboo 全部音楽をやるためです。悪い言い方だと“寄り道”なんだけど、それが全部血となり肉となっているので、楽しみながらやってる感じ。50歳くらいには武道館できたらいいな、とは思います。

バンドの熱量があるなら、プロジェクトを立ち上げたほうが良い

──それこそ、ファンと一緒に企んでいくような形で、成立までの過程をドラマとして見せていくためのツールがクラウドファンディングということですね。企画やコンテンツ自体がつまらなかったらどうしようもないわけですし。

bamboo 金額が見えてしまうことで、コンテンツとしての価値まで見えてしまうところはデメリットですね。

ただ、お金が集まると思って、プロジェクトを立ち上げて終わりにしてしまうところが多すぎる。クラウドファンディングはプロジェクトを立ち上げてからが勝負なんですよ! そこから自分たちを看板にしてお金を集めなきゃいけないんです。それを何にもわかってないところが多いので、僕のところに何十件も相談が来るんですよ。クラウドファンディングは「信用の前借り」ですからね。

真摯に対応できる環境があって、一緒に頑張れそうだというプロジェクトだけは僕もキュレーターとして手伝うようにしています。鷲崎健のアルバム『What a Pastaful World』やニューロティカの映画『あっちゃん』だったり。そして、関わったなら必ず成功させる。
映画「あっちゃん~ディレクターズカット版~」DVD予告編
──アーティストとして、クラウドファンディングはもっと活用されたほうが良いと感じますか?

bamboo インディペンデントのインディーズでやってる連中は、もっとバンバン使ったほうがいいと思います。もちろん、乱発はよくないんですけど、お金があればできることの幅が全然違いますからね。無駄にお金に苦労してるんで余計そう思うんですよ(笑)

この間、ニューロティカがニコ生をやってる時に、ロティカのファンの方から「クラウドファンディングをするのはもうやめてほしい」とも言われていました。だけど、バンド側の「どうしてもこれをやりたい」っていう熱量が上回っているなら、やったほうが良いと思う。

僕が声を大にして言いたいのは、好きだったバンドが解散する時に「なんで解散しちゃうの? もっとできるじゃん」って言う人がいるんですけど、お前らがCD買わなかったり、ライブに来ないから解散するんだろ!っていう。

バンドで25年とか30年を超えたら、もう毎年辞めるかどうかのチキンレースなわけです。それをどう長続きさせるのか、っていうのは究極のところ「意地」と「金」だと個人的には思ってます。それで、博打を張るところに使う道具の一環として、クラウドファンディングがある。

──失礼な話、ニューロティカが普通に活動を続けていても映画化されることはなかったかもしれない。でも、長年活動してファンもいっぱいいる中で、クラウドファンディングで映画をつくることができれば、今を残すことができる。それはお金があるからだということですね。ただ、イメージですが、多くのクリエイターはお金を集めるのがあまりうまくなさそうですよね……。

bamboo 僕から言わせてもらうと「やりたいことやらずに、かっこつけて餓死するの?」って話ですけどね。それも生き様だから別に否定はしないけど、フリーランスなんてみんな自分で戦わないと続けていけない。それが嫌なら、学べよって。

あなたの才能を応援したいって人が500人いて月に1000円カンパしてくれたら、月50万円で生きていける。創作活動をしていく上で必要なのは、あなたのやることを好きになってくれるファンだから。

2016年9月から僕はCAMPFIREで音楽、アニメ、ゲームカテゴリの顧問キュレーターとして頑張ってます! ノウハウを秘密にするつもりはまったくないですし、CAMPFIREには音楽をわかる人がたくさんいて相談に乗れますので、ぜひお気軽に。

ファンとアーティストで未来をつくるのがエンターテイメント

──これまで多くのプロジェクトを成功させてきたbambooさんですが、成功の秘訣はありますか?

bamboo 僕がクラウドファンディングに関して、一番感謝してるのはうちのお客さんなんです。

話をちゃんと聞いてくれて、「それはどうなの?」って鋭いツッコミをバンバンしてくれる。僕はそれをちゃんとニコ生とかで議論して、返答するんです。それで、今からクラウドファンディングをやろう! ってなったら、「今度はいくら払えばいいんだ!? 早く3万円を払わせろ!」っていう謎の“払わせろ”勢までいる(笑)。

もちろんエンターテイナーだったら「これだったら3万円払うわ!」ってお客さんに言わせるくらいのリターンを用意できる。ファンとアーティスト、お互いで楽しい未来をつくるのがエンターテイメントじゃなかったら、なんなのか?

「ミュージシャンがクラウドファンディングでお金を集めるなんて……」っていう悲観的な考え方をもう少し変えていきたいとは思います。要は、出した値段に関して価値がちゃんと追いついているかどうか。価値を認めてくれる人がいれば、成立するわけです。それがきちんとできるように頑張りたいと思うし、そうあるべきだと思っています。
milktub結成25周年記念ライブDVD「M25-TOKYO」製作プロジェクト紹介動画
──milktubがライブで大道具を使ったりするのも、そういうエンターテインメントの哲学があるからなんでしょうね。

bamboo それも全部ニューロティカ先輩の受け売りですけどね。僕らの曲を聴いてた人の中で旬が過ぎちゃって離れたとしても、何年か経った後に「この人たち、まだやってるんだ! すげーな!!」って思ってもらえるようなことをやりたいです。

僕らも25年たって、毎年チキンレースですから。……なんか、ますますミュージシャンから遠のくインタビューですよね、これって(笑)。

──お話を聞いていて、プロデュース的な目線がすごく強いと感じました。

bamboo ゲームのプロデューサーをやってますから。milktubとしてずっと活動している間もずっと裏方をやっていたので。だから自分で「資本主義の豚バンド」って言ってます。

milktubでアニメ『有頂天家族』の主題歌を担当した時も、製作委員会に自分で電話して「すいません。主題歌を歌ってるbambooですけど、商品化したいんでグッズの窓口はどちらでしょうか? ロイヤリティは何%ですか? 主題歌歌ってるんで、ロイヤリティ下がりませんか?」って交渉しましたし(笑)。

──もう何がなんだかな交渉ですね(笑)。ただ、アーティストとしての目線とプロデューサーとしての目線が共存しているというのは、今後のクリエイターに求められる姿のようにも思えました。

bamboo それはわかんない。ただ、僕は人よりやりたいことが多いのと、それに対する禁忌感があまりない。「有頂天人生」という曲でも「面白くない世の中 面白くすればいいさ」って歌ってるんだから、それを自分たちでやらないでどうするのって話。

これからmilktubの活動でもクラウドファンディングを絡めていろいろはじまるので、賛同していただける方はぜひ参加してもらいたいです。

──25周年を迎えたmilktubとbambooさんの活躍を期待しております! 本日はありがとうございました。
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