撮影:市村岬
海外も注目する最高のオリジナリティ
そもそも都築さんがラブホテルを取材しようとしたのは、そこで繰り広げられる性の営みよりも、回転ベッドや鏡張りの壁、透明なバスタブなど、本来の目的とは無関係な方向に進化したデザインに興味があったからだ。雑誌『ポパイ(POPEYE)』や『ブルータス(BRUTUS)』の編集を経て、現代美術・建築・写真・デザインの分野で執筆・編集活動を続けている都築さん。当時から交流があった海外の建築家やデザイナーの多くが、来日すると大抵「ラブホテルに行きたがる」という。
「建築、インテリアデザインとして、それだけの価値があるということです。“模倣が得意"といわれる日本人ですが、エロにおいては海外も注目する最高のオリジナリティを発揮します。実際、海外の建築家は、寝室を浴室の壁を透明にするとか、日本のラブホテルのエッセンスをデザイナーズマンションの建築に取り入れているんですよ。
それなのに、ラブホテルにスポットを当てた本が1冊もない。僕自身、昭和の香り漂うインテリアデザインに魅了されてから、どうにかこの価値を社会に発信したいと思っていました。
90年代後半に、おしゃれな建築雑誌の編集者から『何か一緒にやりませんか?』と話をもらったので、ここぞとばかりに『ラブホ特集にしよう!』と提案したんです。すると、以降、その編集者とは音信不通になってしまって(笑)。もう自分でやるしかありませんでした」 取材を始めたのは2000年前後。まだ、インターネットやデジタルカメラが普及する前の時代。事前のリサーチや撮影はすべてアナログだ。鏡張りの壁など、特徴的な室内の撮影には、写り込みを防ぐため、レンズ用の穴を開けた大きな黒い布を使用。当時ならではの工夫や苦労が垣間見える。
「アシスタントと2人でひたすらラブホテルに行って、各部屋が紹介されているエントランスのパネルを見て、面白そうだったら撮影を依頼する、というのを1軒ずつ繰り返してました。
印象的だったのは、ほとんど取材を断られなかったこと。どのホテルもオーナー個人が運営しているので、部屋のインテリア一つひとつに、尋常じゃない思い入れがあるんですよ。だからこそ、そのこだわりが表に出ることなく数を減らしている現状に、非常に悔しさを感じる人がたくさんいる。そういう人たちに、僕らの意図を説明すると、むしろ普通の施設などよりずっと協力的に撮影させてくれました」
苦労の末集められたラブホテル写真の数々は2001年、1冊の本『Satellite of LOVE―ラブホテル・消えゆく愛の空間学』(アスペクト刊)として発行された。ちなみにそちらは既に絶版となり復刊される予定もないため、現在ご自身の手で再編集・電子書籍化を進めているとのことだ。
変化し続けるラブホテル
足を使った撮影は、主に東京と大阪、それぞれの近郊で実施。複数のラブホテルを訪れる中で、インテリアデザインにとどまらない、その特徴を知ることができたという。「一般的に、東京のラブホテルで休憩といえば2時間ですが、大阪では1時間がほとんど。ラブホテルを通じて、そういった地域性が見えてきたのは楽しかったですね」
ほかにも、調査の過程で見えてきた、ラブホテル利用者の中心は、営業で外回りを担当するサラリーマンや、他言できない関係で情事に及ぶ主婦層。そのため、宿泊可能な施設でありながら、必然的に利用が集中する時間帯は昼間になるという。
一方で、長年運営されてきたラブホテルにも変化が起こり始めた。例えばサービス面だ。
「昔のラブホテルは時間制が主流でしたが、最近はフリータイムを導入している施設も多くなりました。以前はデートの最終目的地、いわゆる“うまくいけばラブホ”だったのに、今では最初からラブホテルに行って、ゲームしたり、カラオケしたり、セックスしたり。その利用形態も変わってきています」 加えて、最新の傾向としては、男性ではなく女性がホテルや部屋を選んでいるという。女性の主導権拡大に合わせて、多くの施設が女性受けのするポイント制を導入。たまったポイントに応じて、有名ブランドのバッグなどと交換できる。
「女性客に決定権があることは、ラブホ業界では常識。そのためのサービスも充実しています」
かつては、時間を限定した中で楽しむ特別な場所だったラブホテルだが、より日常の延長線上として利用されることが多くなっている。今では性行為だけでなく、パーティーの開催やコスプレの撮影など、その用途も多様化。ラブホ側も、様々なニーズに応じたサービスを提供している。
「言い換えると、ラブホテルのサービスは時代の先端を捉えているのかもしれません。それなのに、まったく注目されていない。メディアで取り上げられるのは、高級ホテルや老舗旅館など、ほとんどの人が行ったことのない、手の届かないような施設ばかり。
どちらが良い悪いじゃないですけど、僕たちはどちらにリアリティを感じるでしょうか。日本中にあるマジョリティであり、かつ一般的に楽しまれるようになっているラブホテルは、もっと注目されるべきだと思います」
絶滅危惧種、保護すらままならない現代のラブホテル
日本独自のエロクリティブが注ぎ込まれたラブホテル。海外からも注目を集める存在はしかし、いまや絶滅の危機に瀕している。利用者やニーズといった周囲を取り巻く環境の変化が背景にある中で、最大の要因は改正が続く風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の影響だと都築さんは語る。
「回転ベッドなど、宿泊に必須ではない設備をそなえたラブホテルは、宿泊業ではなく、風営法の管理下にある性風俗関連特殊営業に該当します。日本ではなぜか、ベッドが回転したり、ガラス張りの面積が1平方メートル以上になったりすると、“エロ”(風俗)になってしまうようで(笑)。
その場合、営業できるのは法律で許可された地域のみ。都内でも歌舞伎町や新宿2・3丁目の一部など、4箇所ほどしかありません。それ以外のエリアでは、営業はもちろん、新たな開業や改装も認められていないんです」 風俗営業になると、各都道府県の公安委員会への届け出が必要なだけでなく、定期的な保健所の検査や警察職員の立ち入りが拒否できないなど、厳しい規制を強いられることになるという。
「ラブホテル側は規制を逃れるために、ラブホテルとしては不要ながら宿泊業に必須なフロントやレストランを設けたり、回転ベッドを固定したり、ガラス張りをわざわざ壁紙で覆ったりして、純粋な宿泊施設として営業を続けている。施設としての存続に尽力する過程で、昔ながらのラブホテルの姿が消滅しています」
日本人が生み出し、自ら消し去ろうとしているラブホテル。法律が全面的に改正されない限り、かつてのようなラブホテルを新たにつくることは不可能だ。インテリア、デザインの面においても、バブリーだった80年代後半から90年代初頭のように、高額な資金を投入することができない。結果として、最近では、良くいえばシンプルでモダン、悪くいえば殺風景で面白みのないラブホテルが増えているという。
「おしゃれではない、性的な欲求とも関係ない、だけど遊び心にあふれている──そんなラブホテルは、もう生まれてこないと思います。“ラブホテル再発見”じゃないですけど、地元にそういうラブホがあるという噂を聞きつけたなら、ぜひ一刻も早く訪れてほしいですね」
今すぐ行ける! 都築響一オススメラブホ3選
今回は特別に、関東圏内のラブホテルの中で、都築さんオススメの現存するラブホテルを選んでもらった。インテリアデザインとしてのこだわりはもちろん、どれも唯一無二の特徴をもった人気・有名店だ。迎賓館(神奈川・川崎)
映画『ヘルタースケルター』のロケ地としても知られる迎賓館。洋館のようなメゾネットタイプの部屋など、どの部屋も内装にこだわっているので、コスプレの撮影で使われることも多い。外国人からの注目度も高く、「以前、『Time Out Tokyo』でこの施設を紹介したら、ものすごい反響だった」そうだ。HP: http://hotel-geihinkan.com/charge.html(外部リンク)
SK PLAZA ※旧P&A PLAZA(東京・渋谷)
道玄坂にあるSK PLAZAは、8人用の巨大な岩風呂がある部屋など、最大10人まで使えるパーティールームを用意しているのが特徴。みんなで飲んだり食べたり、風呂に入ったり、もちろんセックスしてもOK。「渋谷界隈の会社の方々には、ぜひここで社内の親睦を深めてもらいたいですね(笑)」。HP: http://www.hotel-guide.jp/shop/sk-plaza1/(外部リンク)
HOTEL ALPHA-IN(東京・東麻布)
ロシア大使館の裏手にある、国内唯一の完全SMホテル・アルファイン。すべての部屋に専用の器具を完備していて、最高級ルームでは、檻やオープントイレ、X十字架、馬などが揃っている。「SM界隈で知らない人はいない有名店なので、週末になると全国から愛好家が集まってきます」と嬉しそうに語る都築さん。HP: http://www.hotelalphain.com/(外部リンク)
ここで紹介したのはほんの一例。高級ホテルや老舗旅館にも負けない、なのに表舞台には出てこない──そんな日本が誇るエッジの効きすぎたクリエイティブが、貴方を待っている。
※記事初出時、タイトルが「都内」となっておりましたが、「関東」の誤りでした。お詫びして訂正いたします
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イベント情報
『神は局部に宿る』都築響一 presents エロトピア・ジャパン
- 会場
- アートスペース・アツコバルー arts drinks talk
- 住所
- 〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル5F
- 会期
- 2016年6月11日(土)〜 7月31日(日)
- 時間
- 水曜〜土曜 14時〜21時
- 日曜・月曜 11時〜18時
- 定休日
- 火曜日
- 入場料
- 1,000円
※性的な表現が含まれておりますので、予めご了承の上ご来場ください
【イベント詳細】
◉都築響一によるギャラリートーク 各回限定20名(要予約)
6月16日(木){定員となりましたので予約受付終了}
7月16日(土){定員となりましたので予約受付終了}
各回 19:00~21:00 参加無料
※入場料1000円はいただきます。
予約:ab@l-amusee.com / 03-6427-8048
お名前・人数・希望日・お電話番号をお知らせください。
◉スペシャルイベント
7月1日(金) 18:30 OPEN 19:30 START
『都築響一 presents エロトピアの夜』@ サラヴァ東京
前売¥3500(1drink+抽選券付)
当日¥4000(1drink+抽選券付)
一部:ギャラリートーク
二部:はぐれAV劇場「抜けないAV」トーク&上映
三部:お色気レーザーカラオケ大会 & 抽選会 (豪華エログッツが当たります!)
予約受付開始:6月11日(土) 14:00〜
メールと電話予約:mail:ab@l-amusee.com / tel:03-6427-8048(営業時間内のみ)
会場は、同ビル地下1階のサラヴァ東京です!
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