そもそもフリースタイルは練習しないもの
ハハノシキュウ 「フリースタイルダンジョン」からMCバトルを知った人は驚くかもしれないんですけど、もともとフリースタイルって練習しないもんっていう話をしたくて。ヒップホップって生き様なんですよ、だから練習しちゃダメなんです。ラッパーがアーティスト性だけでぶつかるのが本来のフリースタイルなんです。
DOTAMA MCバトルも本来アーティスト活動の一環で、その時その時のスキルを見せ合う程度の感覚だったんです。だけど晋平さん達が総力戦という概念を持ち込んできたことで、全員がそれに対抗する練習量を求められるようになってしまった。
ハハノシキュウ 殴り合いの喧嘩をするために練習とかしないじゃないですか。なのに、1人だけなんかお金払ってボクシングジム行って、プロボクサーから習ってきましたって。お前ズルいなーみたいな。
そしたら、俺も俺もって練習し始めたんですよね。ただ、そのおかげでバトルの精度があがって、よりおもしろくなったから一概に悪いってわけじゃないんですけど。
DOTAMA ですが逆に、今の若いラッパーの子にはとてもチャンスがあると思います。
練習を積み重ねれば誰でも優勝できるということは、極論、個性があまりないラッパーでも評価されるということです。とは言いつつも、バトルに優勝できるようなMCは、強烈な反骨精神だったり、唯一無二さを少なからず持っているものです。
ハハノシキュウ 悪い言い方をすると、ライブや音源が面白そうとかそういうのは抜きにしてとりあえず努力すればMCバトルで勝てるんです。
DOTAMA でも、寡黙に淡々と「努力をし続ける」ことも1つの強烈なアイデンティティですよね。
当たり前の話ですが、サイファーやクラブに連日通い、ひたすらラップの練習をするというモチベーションはそれだけで1つの武器。ただ、まったく練習しないラッパーでも最高にカッコいいラップをする人はいるので、最終的には自分だけのカッコいいラップができればOKなのです。
練習しないラッパーが1番カッコいい
ゆめの お二人はフリースタイルの練習しないんですか?ハハノシキュウ 僕はそんな練習しない方ですけど、今は正直、練習しないと勝てない。
はせおやさい 練習は具体的にどんなことをされるんでしょうか?
ハハノシキュウ 別に「レッスン1、韻を踏む。レッスン2、フロウする」みたいなことはしなくて。スタジオに入ってひたすらラップのキャッチボールしてる感じです。
DOTAMA 理想論として、いきなり適当に即興をやって、めちゃくちゃカッコいいのがベストなのですが、やはりそうもいかないので、ライブのリハーサルでスタジオに入った時やふらっとスタジオに入ってやったりします。
そもそもフリースタイルの練習というのは、ネタを用意するという意味ではなく、自分が理想とする「カッコいいフリースタイル」を常に出せるようにするためのものです。
「フリースタイルダンジョン」に出てくるラッパーは完成されたオリジナリティ、クオリティのフリースタイルができる人ばかりですが、多大な努力が影にあると勝手ながら思います。
ハハノシキュウ そういう前提を知らないで、いきなり「フリースタイルダンジョン」から入っちゃうと、「練習してないからこそ人間味のあふれるフリースタイル」がそんなに上手くないラップだって思われちゃう。でも僕からすると、練習してないって公言してた上野さんと※5生き様をフリースタイルにラップする漢さんみたいなラッパーがカッコいいんですよ。
※5:「フリースタイルダンジョン」のモンスターの1人、「ミスターフルボッコ」こと漢 a.k.a. GAMIのこと。鎖グループの代表であり、ヒップホップグループ・MSCのリーダー。
なんでラッパーは地元を代表するんですか?
ねりまちゃん ラッパーの人って地元を大事にするじゃないですか。「俺が川崎代表!」って聞いて、最初「え、何かのスポーツで優勝したすごい人なの?」って思っちゃったんですけど、なんで地元アピールするんだろうってめっちゃ疑問でした。DOTAMA 「フリースタイルダンジョン」のラッパー紹介のVTRでも地元愛を前面に出しますが、地方で活動しているラッパーにとっては、その土地で生まれたということがアイデンティティなんです。ヒップホップに限らず他の文化でもそうですよね。
さっきもお話した通り、ヒップホップは不良のカルチャーなので、「ここは俺らの縄張り」という形の地元愛があります。MCバトルでも、地元の大会を制すれば、それだけでそのコミュニティから絶大なリスペクトが得られる。しかし、負ければその土地でリスペクトを得られないという非常にシビアなものでもあります。だから地方のバトラーは全力でバトルに挑むのです。
ハハノシキュウ DOTAMAさんなんか、「UMB」の栃木予選で優勝した時、ステージで泣き出しちゃいましたからね。
DOTAMA (笑)。僕は第1回のUMBから10年以上出てて、2010年に栃木予選 ができてからも全然優勝できなかった。もちろん自分の力不足もありますが、生まれ育った街の大会で優勝できなかったのは本当に悔しかった。
でも翌年の2011年に東京予選で優勝できて。その次の2012年に「これなら行けるかな?」と思って再び地元の予選に挑戦したんですが勝てず。でも2013年はまた東京で優勝させてもらえたんです。
ハハノシキュウ その東京で勝った後に、今度は栃木で優勝するんですよ。で、その時僕にメールがきて「正直、東京で勝った以上に嬉しい」って言ってましたね。
はせおやさい おお、見返してやったんですね!
DOTAMA 大抵、優勝するとウイニングラップっていって、優勝者のフリースタイルがあるんですよ。そこではみんな「俺が今日のナンバーワン!」的なことを言うんですけど、地元で勝ったことがあまりにも嬉しくて、ステージ上で嗚咽を上げながら泣き出してしまって。あまりにも泣き過ぎてラップをやらないから、お客様にも「えっ」ってドン引きさせてしまいました(笑)。
ハハノシキュウ それまでのDOTAMAさんは「勝っても負けてもヘラヘラしてるキャラ」ってキャラで見られてたんです。そんなDOTAMAさんがいきなり泣くから、会場はパニックですよ。
DOTAMA 優勝したあと、昔から一緒に地元で活動していた同年代のアーティストや後輩の子が来て、そのとき「DOTAMAさんがそんなに賭けてると思わなかった」って言われて。自分も力不足だったし、好き好んでやっているのでまったく後悔はないですが、「ギャグラップ」的なイメージのハンデは少なからずあったと思います。
ハハノシキュウ なんで地元にこだわるかに明確な理由はなくて、こうなっちゃうもんなんだってDOTAMAさんのエピソードを聞いて伝わればいいですね。
僕は逆に逃げてますもん。地元の青森でライブしたことないです。でも地元は好きだから「UMB」の青森予選に出たときは、全部津軽弁でラップしたりしたんですよ(笑)。めっちゃ客盛り上がってたのに、判定の時に歓声があがらなくて、びっくりしましたけどね。
DOTAMA ハハノシキュウはさっき「明確な理由はない」って言いましたが、音楽やヒップホップも関係なく、自分が生まれ育った場所に自然と愛着って湧くじゃないですか。
はせおやさい それはあるんですけれど、どうして「川崎代表!」みたいなことをいきなり言い出すのかが不思議だったんです。なんで急に代表しだすんだろうって(笑)。ローカルコミュニティで認められて全国へ行くっていうストーリーがあるんですね。
DOTAMAさんが「UMB」でR-指定くんとの試合に負けちゃって「栃木背負ってきたのに勝てなくてすいませんでした」って客席に向かって謝ってましたよね。その時、「背負う」ってなんだろうと思ったんですよね。
DOTAMA たかがラップごときなんですけど、全国大会にその土地代表として 出たラッパーが負けるとその土地のヒップホップシーンも「こんなもんか」と下に見られる。特に「UMB」は、日本初のMCバトル全国大会で、規模も大きいので、みんな覚悟がちょっと違いますよね。
「フリースタイルダンジョン」に出ている地方のラッパーの皆さんも、プレッシャーを背負ってるんですよね。地上波でMCバトルが流れるって、良い試合をすればリターンも大きいですが、微妙だったときのリスクも大きいんですよ。即興だからなおさら、事前準備も出来ないし。
ねりまちゃん たしかに負けているのを見ると、「この人、弱いんだ」って思っちゃって、CD聞く気とか失せますね。
DOTAMA 厳しいご意見(笑)。バトルだけで判断するとそうなりますね。大きなメディアでMCバトルをすることは、そんな危険性があります。だからこそ面白いとも思うし、自ずと現場もピリピリした空気になる。
時に暴力に発展する言葉のリアル
ゆめの 「フリースタイルダンジョン」にハマって、R-指定さんのいるCreepyNutsのライブに行くようになったんです。MCバトルにも行ってみたいんんですけど、怖そうでなかなか行きづらい……。ハハノシキュウ 今はどこにも怖い人いないですよ。日本で一番武闘派で行きづらいと言われていた「罵倒」って大会でも、今となっては普通の人がほとんどです。そこはボディタッチありなんですよ。胸ぐら掴み合いの試合とかもありましたね。
DOTAMA 2012年の決勝大会では、ついさっきバトルに出場してたラッパーたちの取り巻き同士の喧嘩が目の前で起きたり。 ハハノシキュウ 僕は、2011年の「罵倒グランドチャンピオンシップ」でベスト4まで行ったんです。そこでZORN君と当たって、まじで本当に死ぬかと思ったもん。
地元のヤンキーたちが勢揃いしてるなかで、ZORN君をクッソミソに言ったら怒っちゃって、ステージの下から足引っ張られたり、バトル中なのに「お前ちょっと降りてこいよ」って観客から言われたり。
それで、そんなに悪いラップしてなかったと思うんだけど、判定のときにハハノシキュウに声あげたやつ、ボコるぞみたいな空気になってて……。
DOTAMA ZORN君は大会が開催された新小岩、葛飾のフッドスターなんですよ。スキルフルで、しかも男前。
僕はその日観に行ってないんですが、そんなZORN君のクルーが集まった場所でハハノシキュウがボロカスに言ってたら、 ZORN君が「殺されてえのか?」って返して来たらしくて。それを本気にしてフロアでも「ZORNがOK出したから俺らが後で殺しに行こうぜ」って。
ハハノシキュウ 仲間が本気で怒り出しちゃって、ほんとに空気悪くなっちゃったのがZORN君もわかって「ごめん、俺も言いすぎた。そんなつもりじゃないんだ、落ち着けマイメン」みたいな。
試合が終わったのが午前3時で電車がなかったから、速攻で歩いて帰りました。ステージからフロアに降りたらボコられるから出口に直行ですもん。
DOTAMA そういうのたまにあるよね。 はせおやさい でも、ハハノシキュウさんはカチンとさせようとして言っているわけですよね?
ハハノシキュウ 見ているお客さんもバトルの耐性がついて、「どうせプロレスでしょ? 予想の範囲内のこと言って、言われた方も怒ったふりしてるだけじゃん」って思っている気がして。だから、怖い人を本気で怒らせて、プロレスじゃねえんだよってお客さんにわからせたいんです。
DOTAMA 見ず知らずの人間を誹謗・中傷するので、本来、MCバトルは恐ろしいものなんです。僕も昔、地元のバトルで戦った後、そのまま裏に連れて行かれましたし(笑)。
ただ好き放題罵倒しまくれば良いのでは決してなく、言葉に責任が伴う。自分も言葉を操る人間として、突飛なことは言いながらも、言葉に説得力を持つべきだとは常々思ってます。
ハハノシキュウ スポーツとして言葉で潰し合うMCバトルっていうのも面白いけど、本来、MCバトルは暴力にも発展する危険なものなんです。
いまのMCバトルイベントは全然怖くない
DOTAMA 一般の方からすると、こんなこと言い合ってて野蛮なのって思わないんですか?ねりまちゃん 最初はお互いになんで罵り合ってるんだろう? と思ってびっくりしましたけど、だんだん慣れてきました。でも、生のバトル現場だと迫力が違うんですね……。
DOTAMA さっきは少し怖い話をしてしまいましたが(笑)、そんな場所ばかりじゃもちろんありません。
MCバトルはエンターテイメントとして非常に優れている上に、ラッパー達のアーティストライブもあるので、現場に来てもらえたら必ず楽しめるはずです。
ハハノシキュウ 一番最初に行くなら、「戦極MCバトル」がおすすめです。戦極はお客さんもバトルオタクが多いので、和やかですね(笑)。
ハハノシキュウ みなさんも、そろそろ生でバトルを見たくなってくるんじゃないですか?
この記事どう思う?
イベント情報
直近の主なヒップホップイベント一覧
- 開催期間
- 2016年6月〜9月
7月10日(日)「さんぴんCAMP 20」@東京・日比谷野外大音楽堂
8月2日(火)「超ライブ×UMB×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」@東京・TSUTAYA 0-EAST
8月12日(日)〜8月14日(日)「BBOYPARK2016」@東京・代々木公園
8月14日(日)「超ライブ×UMB×戦極 U-22 MC BATTLE presented by Dreamusic」@大阪・CLUB JOULE
8月20日(土)「908 FESTIVAL In OSAKA 2016」@大阪フェスティバルホール
8月21日(日)「908 FESTIVAL In OSAKA 2016」@大阪フェスティバルホール
8月30日(火)「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」@東京・日本武道館
9月3日(土)「908 FESTIVAL 2016」@東京・日本武道館
関連リンク
DOTAMA
ラッパー
ラッパー。栃木県出身。「ULTIMATE MC BATTLE」を筆頭に、MCバトルの大会へ多数出場。辛辣ながらユーモアのあるバトルを演出し、高いインパクトを残す。一方で音楽レーベル「術ノ穴」より過去4枚のアルバムを発表。2013年9月には、ラッパー・ハハノシキュウとのコラボアルバム『13月』をリリース。「りんご音楽祭」「ぐるぐる回るfes」など、各地の音楽フェスにも多数出演している。
ハハノシキュウ
ラッパー
青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。
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