『乱歩奇譚』監督×声優×ED座談会　ショッキングに描かれる美しき狂気の裏側

見ず知らずの人の顔なんて誰も覚えてない

白石　「人間椅子（前・後編）」（1・2話）を見て、新しくておもしろいと思ったのは、従来の推理モノってキャラクターが見えているなかで「誰が犯人だろう？」と探すのに、『乱歩奇譚』では、コバヤシがその人に興味を持つことで、はじめてその人の姿が見えるようになるところです。

岸　極端な話をすると、道を歩いていてすれ違った人の顔を覚えていますか？　ということです。昨日会った見ず知らずの誰かの顔なんて覚えてない、興味のないものには興味がない。コバヤシの根源はそういう部分からきていて、これを先天的な要素として組み込み、キャラクターをつくりました。

さユり　てっきり後天的なものだと思ってました。 岸　彼はそうなろうとしたのではなく、そうであったというところが非常に特殊。でも、みんな感じていることでもありますよね。興味のない人の顔なんて覚えてない。さっきさユりさんがコバヤシに共感すると言っていましたが、非常に素直な意見だと思います。

さユり　まだ第2話までしか見れていませんが、「今のまま生きてても、仕方ないですよ」というセリフが一番好きです。表情や言動に憂いがあるというか、暗いわけじゃないけど、どこかこらえている、儚げな雰囲気に惹かれます。

だから生のコバヤシの声でいろいろと聴きたいんですよ（笑）。

高橋　そんなこと言ってもらえるなんて、すごくうれしい！　では、あとで……（笑）。

岸　あれは本当に心の底から「仕方ない」と言っています。アニメ後半でも生きてくるセリフなので、そこに反応していただけるのはすばらしいですね。

誰かが殺されるのには、かならず意図がある

──本作は狂気というテーマの一方で、美しいという意見も見られますが、その点についてはいかがでしょうか？

岸　ありがとうございます。制作するうえでも意識している部分ですね。これは江戸川乱歩さんが表現する耽美に結びついてくると思います。彼の作品では、殺される人のほとんどが女性なんです。

でも、それをそのまま表現して、ただグロテスクな内容にするわけにはいきません。とはいえ、ショッキングな部分も弱めたくない。

今回はせっかく江戸川乱歩さんの作品を原案にさせていただいているので、逆にショッキングな部分を強くすることで、エンターテインメント性が発揮できるように意識しています。

同時に、誰かが殺されるのには、かならず意図があるということを徹底していて、死体になるキャラクターの見せ方も意味を持たせるように考慮しています。結果、ショッキングであり、美しくも見える。 高橋　第1話の場合、コバヤシは本編の冒頭から殺された先生の姿が見えてましたよね。頭はありませんでしたが（笑）。でも、先生の周囲に彼岸花が咲いていたのが美しかったです。

岸　あの場面では、アケチが教室に入って死体を見たときにはまだ何もない。コバヤシの視点になった瞬間に、ぶわっと咲いているんです。

──何か意味があるのでしょうか？

岸　実はこの作品では、事件の背景など、諸々の事情を鑑みて、それに合った花言葉を持つ花を選んでいます。「人間椅子」の彼岸花の場合は「悲しい思い出」ですね。エピソードごとに登場する花はすべて異なるので、そのあたりも注目するとおもしろいかもしれません。

高橋　「悲しい思い出」という花言葉自体、作品全体のテーマに通じている気がしますね。

岸　演出的なことを言うと、花＝血の表現みたいな側面もあるので、何かにつけて花がモチーフになっていたりします。